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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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病室で、あの後の話をしました③

 俺は事件が終わった直後のことを思い出していた。


 アンデッドグランドドラゴンの雄叫びが止み、それと入れ替わるかのように人々のうめき声や、泣き叫ぶ声が遠くから聞こえていた。


 そして俺の前にはストレッチャーに乗せられた顔色の悪い桐野が、いま運ばれようとしている。

 

 蘇生直後は起きていたが、医療班が到着した時には軽い昏睡状態に陥っていた。

 俺は半ば反射的に、関係者としてその後を追おうとした。


 だが、管理局の隊員は即座に俺を制止する。


 「真壁さんは残ってください」


 最初、意味が分からなかった。


 「いや、桐野さんの搬送に…」


 「真壁さんは残ってください」


 もう一度、同じことを隊員は言った。


 「ダンジョンコアを見られる人間が、現時点においてあなたしかいません」


 その一言で、俺は動けなくなった。


 「……俺しか?」


 「現時点では、です。これから調査後、封印処置に入ります。再起動リスクと外部干渉残滓の確認が必要なんです」


 桐野を乗せたストレッチャーが、ここから離れていく。

 俺はそれを見ていた。


 追いたかった。

 でも、追えなかった。


 一方でダンジョンコアは、まだ目の前にあった。

 正常化したとはいえ、完全にこれは安全なのだと誰も断言できない。


 外部干渉ラインは切った。

 暴走状態も止めた。


 でも、それで全部が終わりではなかった。



 「……それで、朝まで?」


 俺はうなずく。


 「俺があの時やったことは、ダンジョンコアを一度再起動して真っ新な状態に戻しただけです。その状態のままだと、自動的にダンジョンコアが稼働を始める可能性が残ってました」


 「……それはまずいわね」


 「ええ。ただ、状況が状況なだけに、すぐにはダンジョンコアを封印することができる方が来れなくて。それまではどうやったらダンジョンコアを、非活性化までもっていけるのかを調べてました」


 「改めて真壁さんの鑑定スキルって桁違いね」


 「自分でも驚いています。それで数時間後に、ダンジョン庁の部隊と自衛隊、有力クランの人たちが来ました。そこから、現場が一気に分かれました」


 「救助とか?」


 「救助、封鎖、遺体回収、魔獣の残党処理、情報統制。あと、リングと中央フレームの保全。米国館のドラゴンの残骸も」


 言葉にすると、やけに整理されて聞こえた。

 でも実際は、もっと混ざっていた。


 叫び声。

 無線。

 搬送の指示。

 立ち入り禁止のテープ。

 灯光器の白い光。

 隊員の靴音。

 焦げたような匂い。

 濡れた床。


 そして、その全ての中心には、ダンジョンコアがあった。


 「俺は、結局ですがコアの封印処置に最後まで付き合いました」


 「何をしたの?」


 「当初はダンジョン庁から専門家が送られてくる予定で、その方が来るまでのつなぎのつもりだったんです。ですが…その、いざ来てみたら…ダンジョンコアのことはまるでわかっていなくて…」


 「あぁ。なんとなくわかるわ」


 「色々と努力はされていたんですが、埒が明かない、ということで再度出番が回ってきて、って感じでした」


 「そりゃあダンジョンコアは、超一級の世界的に超レアな魔道具だしね。最初見た時は日本にあったこと自体驚いたし。そんな超レアなものをまさかこの目で見るとはおもわなかったけど」


 お互いに苦笑いを浮かべる。


 「日本中探せば対応できる人もいるんでしょうけど、あの時は時間が無かったですし、ダンジョンコアの内部術式はあの場では俺しか見れないので、封印術式をかけるにあたってのガイド的な役割をやってました」


 「……ガイド?」


 「そうです。これは残していいか。これは封印材を噛ませていいか。この補助構造は外していいか。再起動の可能性はあるか。外部干渉の残りがあるか、などダンジョンコアから情報を常にモニタリングできないと難しいですから」


 そう言うと俺は無意識に目の方へ手を当てた。

 

 「鑑定で、ひとつずつ確認しました」


 「……真壁さん、寝た?」


 「少し」


 「どれくらい」


 「椅子で十五分くらい…かな」


 「それは寝たうちに入らない」


 桐野の声に、少しだけ力が戻った。


 でも、そのあとすぐに眉根を寄せる。

 痛みが走ったのかもしれない。


 「無理に話さなくても」


 「聞いたのは、私」


 「そうですけど」


 「続けて」


 俺は一息ついて話し始めた。


 「服部さんたちは、途中で管理局に連れて行かれました」


 「連れて行かれた?」


 「事情聴取です。戦闘当事者なので。犯罪者扱いじゃなくて、重要参考人としての隔離と保護だと思います」


 「久遠さんも?」


 「要記録対象です。自動蘇生なんて、前例がないそうなので」


 桐野はその言葉に思わず天井を見上げた。


 「私、だいぶ大ごとになってる?」


 「だいぶ」


 「真壁さんも?」


 「たぶん」


 「たぶんじゃないでしょ」


 返事に困った。


 俺自身の扱いがどうなっているのか、正直まだよく分かっていない。

 ただ、病院の入口からここまでの確認の多さだけでも、昨日までとは違っていた。


 民間鑑定士。

 上位鑑定士。

 回収屋。


 そのどれでもある。

 でも、昨日の夜から、そこに別の扱いが足されてしまった気がする。


 ダンジョンコアを止めた人間。


 そう呼ばれるのかは分からない。

 でも、少なくとも現場では、そういう目で見られていた。


 俺は、あまりそれを思い出したくなかった。


 「……被害は?」


 桐野が一番気になっていることを聞いた。

 その一言で、病室の音が遠くなった。


 医療機械の小さな駆動音。

 廊下の足音。

 空調の風。


 全部が、少しだけ遠くなる。


 「……まだ、第一報です」


 「うん」


 「正直言って、正確な数字じゃないと思います」


 「…うん」


 「…死者が、5万人を超えたそうです」


 桐野は何も言わなかった。

 俺も、すぐには続けられなかった。


 数字というのは、とても便利だ。

 短い言葉で伝えたい意味を、しっかりと伝えることができる。

 報告にも載せられるし、ニュースにだって分かりやすく伝えることができる。


 でも、5万人という数字の中に、ひとりひとりの顔は見えない。

 あの会場にいた人たち。

 家族連れ。

 海外から来た観光客。

 スタッフ。

 探索者。

 パビリオンを楽しみに来ていた人。

 ただ、噴水ショーを見ていた人。


 それが、5万人。


 「……負傷者を含めると、8万人を超えるって」


 桐野は目を閉じた。


 「そっか」


 それだけだった。

 そして俺は膝の上で手を握り直す。


 「俺が、もう少し早く見つけていれば」


 「違う」


 すぐに返ってきた。


 「それは違う」


 「でも」


 「真壁さんが止めたんでしょ」


 「……止めるのが、遅かった」


 「あの時止めなかったら、もっと…もっともっと増えてた」


 桐野は目を開けた。

 まっすぐ、俺を見る。


 「私、これでも探索者の中で上の方だし、何よりも現場にいたから分かる。あれは普通は止められない。八咫烏のメンバーがいたけど、止められない」


 俺は答えられなかった。


 普通は止められない。

 だから止められてよかった。


 そう思えれば、楽だったのかもしれない。


 でも、現場の音がまだ残っている。

 サイレン。

 叫び声。

 崩れる音。

 搬送の声。


 そして、ストレッチャーで運ばれていく桐野の姿。


 俺は、あの時、ダンジョンコアを止めた。

 色んな物を犠牲にしてでも、止めた。


 それが客観的に見て正しかったのは分かる。

 でも、正しいことと、納得できることは別だった。


 肩の上で、シオが小さく動いた。


 昨日みたいに頬をつつくわけではない。

 ただ、殻の縁を俺の首元に軽く寄せるだけだった。


 桐野がそれを見て、少しだけ表情を緩めた。


 「シオ、ちゃんと見張ってて」


 シオが殻の光を小さく揺らした。


 「真壁さん、たぶん放っておくと自分のせいにするから」


 「……もうしてます」


 「でしょうね。だから、何回でも言う。止めたのは真壁さん」


 俺は視線を落とした。


 「……はい」


 返事はした。

 でも、たぶんまともに受け取れてはいなかった。

 桐野も、それをわかっている上で、これ以上は言わなかった。


 病室にまた医療機械の小さな音が戻ってくる。


 そのとき、扉の外から声が聞こえてきた

 

 『お話し中のところ、失礼します。いま連絡がありまして、管理局から本日中に追加確認があるとのことです。桐野シエル氏面会後、一度ダンジョン管理局まで向かいます』


 俺はドアを見たまま、少しだけ息を吐く。

 そして桐野がこちらを見る。


 「また?」


 「はい」


 「事情聴取?」


 「どうなんでしょうか」


 「真壁さん、本当に寝て」


 「…努力します」


 「努力じゃなくて、寝て」


 「それは、管理局に言ってください」


 桐野が少しだけ笑った。

 笑って、すぐに痛そうな顔をする。


 「笑わせないで」


 「俺のせいですか」


 「半分くらい」


 面会時間は、もうあまり残っていない。

 だけど話したいことはまだまだあった。

 聞きたいことも山のようにある。


 でも、扉の向こうには管理局特務部隊の隊員が立っていて、そろそろ面会を切り上げろと圧をかけてくる。


 ダンジョンコア災害という事件は終わっても、事件が引き起こした余波はまだ続いている。


 俺はドアをもう一度だけ見て、桐野に向き直った。


 「まだ、何も……終わってないですね」


 桐野は静かにうなずいた。


 「うん」


 シオが小さく身じろぎした。

 病室の白い光の中で、その殻がほんの少しだけ揺れた。

読んでいただきありがとうございます。

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