ダンジョンコア解除戦②
無精髭男の顔から笑いが消えた。
視線が俺とダンジョンコアとの間を往復する。
そして俺の足元ではさっき壊したはずの配信端末が、割れた画面をかすかに光らせていた。
画面の端ではコメント欄が途切れ途切れに流れ、配信ランプが小さく点いたり消えたりしている。
けれど無精髭男は、それに気づいていない。
『音拾えてる?』
『映像が途中でノイズ混じるけど見えるぞ』
『真壁さんと桐野さん、戦ってる』
『誰か運営に連絡しろ』
『その運営がもう生き…』
俺は視界の端から何となく配信機材の点滅に気付いてはいたが、そっちに気を向ける余力はなかった。
一方で、手動制御パネルには外部干渉切断画面が開いている。
この後の手順をもっと深く、精度を高めるために俺は鑑定スキルを更に深く通した。
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ダンジョンコア内部術式網
術式ライン:推定38,000以上
通常解析条件:魔導工学師系上位スキル/専用解析設備
現在解析:鑑定による直接読解
外部干渉候補:検出中
切断対象:3本
注意:順序違反時、封印強度低下
備考:外部干渉ラインの特定には継続接触が必要
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思わず二度見してしまう。
「……術式のラインが多すぎる」
「ライン?」
桐野は無精髭男から目を離さないまま聞いた。
「コアの中に術式のラインが何万本もあります。外から干渉してる線を、その中から3本探して切る必要があるみたいです」
「つまり、時間がいると」
「……はい」
「じゃあ、時間を稼ぐのは私の役目」
無精髭男がゆっくりと金属ケースに手を伸ばした。
今度は細いワイヤーが、まとめて4本出てくる。
黒に近い色の糸で視認性がとても悪い。
鑑定が一瞬だけ引っかかる。
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術式導線
用途:対象拘束/遠隔起動/結界杭の再配置
危険度:高
備考:切断困難。魔力干渉より物理張力が主
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ワイヤーが俺の手首へ走った。
桐野の魔弾が横からそれを弾くも完全には止まらない。
ほんの少しだけずれた軌道が勢いよく俺の袖をかすめた。
袖の下から赤い線が、たらりと落ちる。
「真壁さん、絶対にあなたを守るからっ!!」
桐野の声が飛ぶ。
「だから、信じて!!」
俺は大きく息を吸い、パネルに意識を沈めた。
視界の中で、無数の光の筋が重なって見える。
どれも同じような術式ラインに見えて、この中から目当ての外部干渉しているラインを探し当てるのか、と半ば絶望を覚えてしまう。
だが、俺の鑑定スキルはまるで『俺に任せておけ』と言わんばかりに、1本だけ他とは違って青白く、明らかに違いがある術式ラインを示していた。
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外部干渉ライン:1本目特定
役割:アンデッド属性付与
処理:切断推奨
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(これだっ!!)
俺はその青白い術式ラインに鑑定スキルを集中させると、手動制御パネルが反応し、【切断しますか】という画面が現れる。
【はい】の部分に触れると、鑑定スキルは《切断完了》という結果を示していた。
(時間はかかるけど、これならいける!)
俺は手応えを感じ、桐野の方へ少しだけ視線を向けた。
2人はまだ向き合ったままで、お互いに牽制し合っているように見えた。
(早く切断すすめないとっ!)
焦る心を従えながら、俺は再びダンジョンコアへと没頭していった。
◇
一方、桐野と無精髭男は向き合ったままだった。
ふと無精髭男が桐野の方へ向き直る。
軽薄そうな笑みを僅かに浮かべ、そして手を叩いた。
「守る…っすか。俺っち相手によくもまぁ…そんな大言を吐いたっすね。そこはまぁ褒めてもいいっす」
手を止めると、ワイヤーを手元に引き寄せた。
「でもまぁ、そんな軽装で俺っちを止めるっすか。随分と舐められっすね。そもそもですけど、対人戦やる前から勝負になってないっす」
「………だからなに?」
「射手の魔弾スキルはそもそも軽いっす。数は出るけど、それだけじゃ決め手にはならないっす」
「そうね」
桐野が笑った。
それと同時に魔弾が放たれ、低い弾道で足元を狙う。
無精髭男の脛を狙う軌道だが、当然の如く結界が前に張られる。
当たった直後、音が複数重なって聞こえ、被さるようにして結界の破砕音が生じた。
「っ!!」
無精髭男は驚異的な反応を見せてギリギリかわす。
同時に結界を複数張り、次の魔弾に備える。
そして無精髭男の脛には1本の赤い線が走っていた。
「なかなか面白いことするっすね。魔弾をギリギリの間隔で連射して、一つに見せるテクっすか。威力の無さを弾数でカバーするってのは王道っすけど……属性弾…わき腹から染み出る血でも使ったっすか?」
桐野は答えない。
床に片膝をつきそうになりながら、指先をもう一度構えた。
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