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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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58/81

俺のホームは品川第七ふ頭ダンジョンです

東京編最終話です。

当初の予定を大幅に超過してしまいましたが、皆さまお付き合いいただきありがとうございました。

引き続き本作をよろしくお願いいたします。

 朝、机の充電器から連絡用のスマホを外した。

 立会いから3日が経っていた。


 「そろそろ1回、戻しておくか」


 声に出して言うほどでもなかったが、自分の中ではそのつもりだった。

 別管理対象の件は、こちらでできることはもう終わっている。

 配信を止め続ける理由もなかった。

 品川なら、配信に出せる内容はいくらでもある。いつもの動きを見せればいい。

 そう判断して、配信用の機材を鞄に入れた。


 シオが肩に乗ってくる。

 殻の中の光が、いつものリズムで弱く流れた。

 今日は品川だ、と短く声をかけて、部屋を出た。



 ◇



 品川第七ふ頭。第七ゲートをくぐって、いつもの動線でB5Fまで降りる。

 通路の幅、照明の落ち方、足元の素材まで、ここの空気は身体に馴染んでいた。

 ここほど自分の鑑定士として落ち着いて働く場所は、他になかった。

 壁際には小型の機構部品が転がり、岩棚の上には加工片が残っている。

 奥まった通路には、以前来たときに見かけた保管袋がそのまま残っていた。

 どこに何があるかは、ほとんど頭に入っている。


 通路の途中で配信を立ち上げた。


 「えー、お久しぶりです。回収屋です」


 短く挨拶を入れて、視聴者リストに目を走らせる。

 立ち上げて数十秒で、画面の右下の数字が、いつもより1桁多く回っていた。

 登録者カウンターも、画面の隅で時折1段ずつ上がっている。

 配信中にこれだけ動くのは初めて見る気がした。

 コメント欄の流速が、明らかに違う。読み切れない。


 『待ってた!』

 『品川ホーム回ありがたい』

 『フードないのまだ慣れない』

 『もう回収屋っていうより鑑定士真壁だろ』

 『今週の探索者ニュース、真壁とシオしか出てこないんだが』


 そのあたりを目で拾って再度カメラに視線を戻す。


 「品川にいるときは、回収屋でやってます」


 強く言うつもりもなく、いつも通りの調子で短く返す。

 コメント欄に『それな』『使い分けてて草』『シオ今日もかわいい』と短い反応が流れて、端末をホルダーにかけた。



 ◇



 B5Fの中区画は、以前より人が増えていた。

 通路の角に2人組の探索者、奥の岩棚の手前に単独の男、そのさらに先に軽装の3人組。

 いつもの品川にしては、少し多いほうだ。

 こちらに気づいた1人が、隣の連れに何か耳打ちした。


 「……あの、すいません」


 声をかけてきたのは、2人組の若いほうだった。

 通路をふさがない位置に立ち止まっている。


 「真壁さんですよね。回収屋の」

 「はい」

 「本物だ」


 連れのほうが、小さく呟いた。


 「上位鑑定士になられたって聞いたんですけど」

 「登録は、しました」


 正面から否定する話でもなかったので、そのまま頷いた。


 「あの、握手だけ、いいですか」


 差し出された手を、軽く握って返す。


 「どうも」


 肩のシオに、もう1人のほうが目を留めた。


 「シオちゃん、本当にいるんだ」


 シオは殻の中の光をごく弱く1度揺らして、それ以上は反応しなかった。

 奥の単独の男が、こちらに歩いて来かけて、途中で足を止めた。

 手だけを短く挙げて、そこから動かなかった。

 こちらも少しだけ手を上げ、そして軽く頷き返した。


 コメント欄が、一気に流れた。


 『握手求められてるの草』

 『シオいる』

 『この温度差が回収屋っぽい』


 コメントを目の端で追いながら、小さく息を吐いた。

 別に偉くなったつもりはなかった。

 名前が広がっているのは分かっているし、見られ方が変わっているのも身体で感じている。

 品川でやる仕事は、自分が拾いに来る限り、昨日までと同じ中身のままだ。

 肩のシオが、殻の位置を小さく直した。


 軽く頭を下げて、2人組から半歩下がった。


 「仕事中なので、少しだけで」

 「はい、すいません」


 2人組は丁寧に道を空けた。

 奥の単独の男も、邪魔にならない位置までさがる。

 通路の空気が、少しだけ落ち着いた。

 視線は時々こちらに戻ってくる気配がある。

 軽く息を吐いてから肩のシオの位置を指先で直し、そのまま岩棚のほうへ身体ごと向き直った。


 「じゃあ、見ていきます」


 視聴者にひと言挟んでから、頭の中を仕事のほうへ切り替えた。



 ◇



 岩棚の手前には、雑多な小片が散らばっていた。

 どれも破損識別片で、形だけ見れば全部同じに見えるが、回収対象として上に上げる価値があるかは、表面に残る刻印を読み取って判定する仕事になる。


 端のほうから順に手に取って、ひとつずつ目を通していく。

 1つ目、2つ目は通常の処理ラインで問題なく流せるもので、3つ目を手のひらで返したところで視線が止まった。

 表面の隅に、処理前記号がまだ薄く残っている。

 本来ならもう1段前の工程で抜かれるはずのものだが、何かの拍子に分類前のままここまで降りてきたらしい。

 これを枝番付きで上に上げれば、参考標本として扱われる種類だった。


 「これ、確保で」


 短く呟いて、専用の小袋に入れた。


 「えっ、それ、さっき俺が捨てたやつ」


 横の通路から声が上がった。

 先ほどの3人組のうちの1人だった。

 歩み寄ってきて、手元を覗き込んでくる。


 「処理前の記号が残ってるんで、今のうちなら標本扱いに回せると思います」

 「処理前……ああ、なるほど」


 男は自分の手元を見直して、軽く息を吐いた。


 岩棚の奥へ進む。

 除去対象としてまとめて束ねられた廃材があった。

 だいたいは砕けた装備の残骸で、そのまま廃棄ラインに乗る種類だ。

 ただ、束の上のほうに1つだけ、まだ素材として生きている部材が混じっていた。

 内側の繊維がまだ抜けていない。

 ここだけ抜き出せば、別ルートに回せる。


 「これ1本だけ、別で」


 紐を解いて、慎重に引き抜いた。


 コメント欄が、また流れた。


 『そんなのまで拾うのか』

 『え、あの束にまだ使えるのあったの』

 『だから配信になるんだよ』


 別の角から、軽装の3人組がじっと見ていた。

 どの目も、こちらの手元を注目している。


 通路の行き止まりに近い場所で、手のひらサイズの小片を拾い上げた。

 表面はかなり劣化していて、ぱっと見はただの欠片だ。

 だが、目を通すと、消えかけの術式痕が1筋だけ残っていた。

 このまま通常の廃棄に回すと、処理工程で予期しない反応が出る可能性がある。


 「これは、危ないほうです」


 声に出して、近くの探索者にも聞こえるように伝えた。


 「触らないでください。別ラインに回しておきます」


 「え、危ない方だったのか」


 さっきの男が1歩下がった。

 肩のシオの殻の中で、光がほんの1度だけ、はっきり揺れた。

 近くにいた探索者の1人が、シオに目をやって、わずかに距離を取る。

 シオは襟元に身を寄せ直して、すぐにいつもの姿勢に戻った。


 ふと、配信の数値に目を落とした。

 同接の数字は、配信を始めた頃よりさらに1段上がっていた。

 登録者カウンターは、止まる気配がない。


 「…登録者増えてる」


 短く言って、視線を作業に戻す。

 コメントの流速はさらに上がっていた。


 『切り抜きから来ました』

 『今日の配信で登録しました!』

 『有名になってもやってること変わらないのがいい』


 切り抜きやニュースから入ってきた人間が、こうして配信に流れてきているらしい。

 品川にはまだ拾えるものが残っていて、自分の鑑定スキルもここが一番ぶれない。

 

 予定していた区画を1周し終えて、配信に向かって短く息を吐いた。


 「今日はこんなものです。今後の配信ですが、前ほどのペースでは配信できないかもしれません。ただ、品川は自分のホームなので、戻ってきたときはまた回します」


 淡々と告げると、コメント欄が一気に流れた。


 『ホーム配信続くなら十分ですよー』

 『回収屋!!ホーム待ってます!!』

 『ペース落ちてもいいから続けてほしい』

 『ニュースで見るより配信で見たい』


 目の端でそれを拾って、配信を切った。


 通路の空気が、少しずつ品川のいつもの調子に戻っていく。

 さっきまでこちらを気にしていた探索者たちも、それぞれ自分の作業へ戻り始めていた。

 誰かがふと頭を下げてきて、こちらも軽く返す。


 肩のシオが、姿勢を落ち着けた。

 殻の中の光が、ゆっくりと1度だけ流れて、また静かになる。


 少しだけ静かになった通路を、奥から手前へ1度だけ見渡した。

 さっきまでのざわつきが嘘のように、品川のいつもの空気がゆっくり戻ってきている。

 名前の広まり方や周りの温度はこの数週間でずいぶん変わったが、自分がここで何をするかは、結局のところ昨日と変わらない。

 

 鞄の肩紐をかけ直して、出口のゲートのほうへゆっくり歩き出した。

次回新章突入です!

乞うご期待!!

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