中層入口<選別前>
「どうしました?」
「ちょっと確認します」
ラックの前でシオが向いていた方向に、板が1枚立てかけられていた。
番号札がなく、他の回収品に混じって立てかけられているだけだった。
【鑑定】を向けた。
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術式補助部材(残骸・非機能)
希少度:D
状態:術式機能停止・残滓残存
危険度:低
推定価値:要判断
備考:封印または封入に使用された圧分散機構の一部。
術式としての機能は消失しているが内部に残滓が残存している。
本来は除去担当が先に確認して搬出処理に回す対象
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板を手に取らず、結果を確認した。
品川で見るとしたら、除去対象として搬出処理に回った後の物だった。
除去担当が先に確認して、処理済みの状態で品川の仕分けに届く。
ここにあるのはその前の段階で、処理が入る前のまま他の回収品に混じっていた。
それが、番号札がついていない理由だった。
シオが肩口に戻った。
「ちょっと確認させてください」と俺は榊に言った。
「さっき気になってたやつですよね。これ、品川だと先に処理入るやつですか」
「そうです。ここはまだ選別前なので、混じっていることがある」
榊がカメラを板に向けた。
少し考えてから、配信向けに整理して言った。
「中層って、品川に来る前の段階があるんですよね。処理される前のものが、まだここにある。それを今見てる感じです」
コメントが数件流れた。
『中層ってこういうの混ざるのか』
『品川側と役割違うんだな』
『回収屋が拾う前の段階って感じある』
◇
板はその場に置いたままにした。
処理対象の物を無断で動かす理由はない。
場所と状態は頭に入れた。担当者への連絡は後でいい。
通路を進んだ。
壁際の棚を見ながら歩いた。
積まれ方が品川と違うものが、何か所か目に入った。
品川に届く物は、一度選別と処理を経た後のものが多い。
状態が整っていて、番号札がついていて、仕分けの手順が分かるように置かれている。
ここにあるものはその前の段階で、整頓されていない積まれ方をしているものが混じっていた。
「回収屋さん、歩き方が品川と違いますね」
「見ているものが違うので」
「品川は処理後だから整ってる。こっちはまだ前だから、混ざってる。そういう違いですか」
「そうです」
榊がその言葉を受けて続けた。
「品川に来るのは、ここを通り過ぎてきた後。中層に来ると、選別の前が見えるんですね」
コメントが少し増えた。
『こう聞くと品川の仕事の意味がわかる』
『選別前の物がここにあるってことか』
『品川は後工程だったんだ』
『回収屋普段からこっち側見てたのか』
◇
30メートルほど進んだところで、棚の端に布の小袋が置かれていた。
シオが肩口で首元に向けて少し動いた。
俺は足を緩めた。
袋の形は普通の保管袋に見えたが、口のひもの結び方が処理担当の手順とは違っていた。
品川で見る回収品の括り方ではない。
「これも確認していいですか」
布の小袋に【鑑定】を向けた。
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薬液残滓入り保管袋
希少度:C
状態:保存処理前・残滓活性
危険度:中
推定価値:要確認
備考:封入前の薬液残滓が内部に残存。
素手での長時間接触は避けること。
品川では除去扱いで先に回収される種別
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袋を手に取らなかった。
「素手で触れない方がいいものです。表には出ていないですが、内側に薬液の残りがあります」
「危険なやつですか」
「扱い注意の種別です。品川だと先に除去担当が拾います。ここにあるのは処理が入る前だから」
榊がカメラを袋の周辺に向けた。
「中層って、品川で言う『先に処理されるもの』がまだ残ってる。今日ずっとそれを見てる感じですね」
◇
通路をさらに進んだ。
棚の低い段に、金属の金具が数点まとめて置かれていた。
形が崩れていて、2点は半分から折れている。
番号札がついていたが、評価は「廃材・低価値」になっていた。
俺は足を緩めなかった。
通り過ぎる直前に、端の一点に目が止まった。
折れた金具の片方だけ、断面の形が他と違っていた。
【鑑定】を向けた。
術式固定具の片割れだった。
封印保持容器の蓋部分を固定する用途で使われる部材で、対になるもう一方と合わせると機能する。
単体では廃材扱いだが、対になる部品と照合すれば再利用の余地がある。
希少度はDだが、合致品があればCまで上がる。
「これ、単体だと低価値ですけど、対になる部品と合わせると使えます」
「対のやつが別のとこにあるってこと?」
「同じ棚か近くに放置されているケースがあります。バラで評価されて両方廃材になってることが多いかもです」
榊が軽く笑った。
「バラにしたら価値が消える、か」
金具を回収した。
対になる部品が近くにあれば価値が出るが、ない場合でも素材としての価値が残る。
品川なら処理前に誰かが照合するが、ここでは単体のまま低価値として置かれていた。
◇
その先の棚を確認しながら進んだ。
砕けた小片が数点、まとめて置かれた袋の中に入っていた。
タグがついていて「破損品・回収不要」と書いてある。
シオが肩口で小さく動いた。
袋を開けて鑑定した。封印棚の管理用補助片だった。
本来は一組で機能する部材で、揃えば補修用として需要がある。
バラで砕けた状態でも、素材自体に価値がある種別だった。
品川には状態が整った後で届くか、そもそも届かない種別だった。
3点を袋ごと回収した。
通路をさらに進んだ。
壁際のラックが途切れて、区画の構造が少し変わった。
積まれ方のまとまりが崩れていて、管理の手が入った形跡が薄い。
品川では見ない置かれ方をしたものが、ここから先の棚に増えていた。
「まだ続きそうですね」
「中層は入口でこれですか。品川と違って規模も何もかもが違いますね」
シオが肩口で向きを変えた。
今度は少し前の方向を向いていた。
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