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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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新宿大入口

 朝、月次記録を開いた。


 シオの状態欄に「感応継続。肩上定位置。体重・飲む量に変化なし」と書き込んで送信した。

 月次報告の義務はまだ続いている。


 シオが肩口でわずかに動いて、向きを変えてからまた落ち着いた。


 端末を置くと、榊からメッセージが届いていた。


 内容は短かった。

 『今週末に新宿大入口から入って中層まで案内するコラボをやりたい』、という主旨だった。

 『中層の鑑定場面が撮れる、真壁さんと一緒なら危険判断がリアルタイムで出る。視聴者に価値がある』、と続いていた。


 『行けます』と返した。



 ◇



 新宿に来たのは久しぶりだった。


 駅を出ると、最初に目に入ったのは看板の密度だった。

 装備店、買い取り業者、鑑定所、配信機材の専門店。

 入口に近い区画はほとんどそれで埋まっていて、搬送業者の受付窓口と許可申請の案内板も通りに面していた。


 人の数も品川とは違った。

 平日の午前中なのに、ダンジョン関係の用事で動いている人間が絶えず流れている。


 俺は歩きながら周囲を見た。


 東京迷宮には出入口が無数にあるが、一般の探索者が正規に入る入口は新宿大入口が中心になっている。

 地下5階までの公開浅層は魔物ランクがE相当で、初心者でも入れる。

 東京迷宮全体の格はS級だが、探索者が集中して管理も行き届いているから浅層は整っている。

 その分、浅層から中層前半にかけての回収品は常に取り尽くされていて、目利きが必要な物は長く残らない。


 品川とは役割が違う。

 品川はゴミ処理、危険物の一次仕分け、除去対象の搬出を扱う導線だ。

 公的機関や処理業者が出入りする裏側の区画で、一般の探索者が普通に入ってくる場所ではない。


 俺がダンジョンでの仕事を始めてから、拠点は品川だった。

 新宿側から入るのは今日が初めてになる。


 シオが肩口で少し動いた。



 ◇



 新宿大入口は、大型施設の地下に接続されていた。


 エントランスに入ると、まず広さがあった。

 天井が高く、入口から奥まで大きな空間が続いている。

 許可窓口が横に並んでいて、情報掲示板の前に何人かが立って画面を確認していた。

 クラン事務所の受付と搬送業者の問い合わせ窓口が同じフロアにある。


 人の構成が品川とは別だった。

 装備を固めた上級者、軽装の初心者、配信用の機材を担いだグループが同じ空間にいて、受付に向かう列が2本できていた。

 入口に近い位置の壁に、初心者向けの案内図が貼られている。

 品川の入口に案内図はなかった。


 エントランスに入った瞬間から、視線があった。


 通り過ぎる探索者が俺の肩口を一度見て、そのまま歩いていく。

 受付に並んでいた組が2人で小声で何かを言い合ってから、またこちらを見た。

 配信機材を担いだグループの一人が仲間の腕を軽く叩いて、顎でシオのいる方向を示した。


 テイマーは少ない職種で、大型の魔物をテイムして別の入口から運用するのが一般的だ。

 小型をテイムしている者はその中でもさらに数が少なく、また、新宿大入口をそのまま通るケースはほぼない。


 シオは肩口に乗ったまま動かなかった。

 視線が集まっていることを気にする様子もなく、いつもと同じ位置にいた。


 榊は先に来ていた。

 エントランスの奥に立っていて、俺の姿を見て手を挙げた。

 クランメンバーが一人同行している。


 「上位鑑定士登録、本当にやったんですね」と榊が言いながら近づいてきた。


 「今なら中層側を見せやすい。真壁さんの目が欲しかった」


 「ありがとうございます」


 榊が段取りの確認を始めた。

 配信の流れ、撮影の範囲、入場前の確認事項をまとめて話した。

 俺は聞きながら手元の荷物を確認した。



 ◇



 「始めます」と榊が言って、カメラが回った。


 俺はエントランスを背にして画角に入った。

 榊とのコラボは今回で3回目になる。


 エントランスの奥に、基幹大エレベーターの入口が並んでいた。

 上層接続と中層接続で入口が分かれていて、中層側には一定のランク確認があると表示されている。

 下層接続はさらに奥で、この位置からは見えなかった。


 「これから中層へ向かいます」と榊が言った。


 シオが肩口で静かに姿勢を変えた。



 ◇



 中層接続の待機列は、浅層接続より短かった。


 並んでいる者の装備が違った。

 浅層側には軽装の多い初心者が混じっているが、中層側に並んでいるのは胸当てや脚部装備を固めた探索者がほとんどだった。

 一人で並んでいる者は少なく、2人以上の組が多い。

 クランマークの入った装備を着けている者もいた。


 受付での確認を終えてエレベーターに乗った。

 扉が閉まると、箱の中は静かになった。


 他に3名が同乗していて、全員が正面を向いたまま言葉を交わさなかった。

 装備を固めた組が2名と、荷物を多く持った単独の人物が1名。


 階数表示が下に進んでいくのを俺は見ていた。

 シオが肩口で向きを変えてから、また元の位置に戻った。


 品川は入口から既に「仕分け後」の独特の空気感がある。

 除去されて持ち込まれたもの、処理待ちのもの、廃棄扱いになったものが集まる場所だ。

 こちらは、その前の段階になる。

 品川に流れてくるより前に、まだ誰かに選別されていない状態で何かが残っているはずだった。


 扉が開いた。



 ◇



 中層接続の出口から出ると、空気が一段重くなった。


 天井が低く、照明も新宿側のエントランスより落ちている。

 搬送用のラックが壁沿いに続いていて、回収品らしきものが積まれていた。

 案内表示は少なく、区画の構造が分かっていない者には動きにくい造りをしていた。


 榊の端末に配信のコメントが流れた。


 『品川の人が表口から来た』

 『新宿側で回収屋珍しい』

 『中層コラボ、絵が違う』


 「コメント来てますね」


 「品川とは違いますね」


 通路を歩きながら、壁際と床の物を見た。

 回収待ちのラック、番号札つきの袋、仕分け用のボックス。

 形は品川で見るものと変わらないが、状態が違った。

 品川に届く物は一度選別されて弾かれた後のものが多い。

 ここにあるものは選別の前に近い段階のものが混じっていた。

 それが、品川では見かけない種類のものが棚に並んでいる理由だった。


 シオが肩口で少し動いた。

 首元に向けて姿勢を変えてから、また戻った。



 ◇



 壁際のラックの前を通り過ぎようとしたとき、シオがもう一度動いた。


 今度は向きが変わる感じだった。

 ある一点に向かって少し向きを変えて、止まった。


 俺は歩を緩めた。


 ラックに立てかけられた板が1枚、他の回収品に混じっていた。

 表面がひびで覆われていて、角が欠けている。

 見た目は廃材で、番号札もついていなかった。


 【鑑定】を向けた。


 廃材ではなかった。

 術式の補助部材として使われた痕跡が残っている。

 圧を分散させる構造を持っていて、封じか封入に関わる機構の一部だったと判断できた。

 現在は機能していないが、術式の残滓が内部に残っている。


 品川に搬入される前なら、誰かが確認する種類の物だった。

 ここでは番号札もなく、他の回収品に紛れていた。

 品川では見ない形の見落とされ方だった。


 「どうしました?」


 「いや、ちょっと気になるものがあります」


 ラックから目を離さなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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