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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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感知範囲と上位登録

 朝起きてシオの状態をチェックすると、特に問題もなくスヤスヤと寝ているようだった。

 最近脱皮も終わったが、目に見えて成長してきているように思える。

 前は掌にすっぽりと収まるサイズだったのに、いまは一回り以上大きくなっていた。


 殻の色も脱皮前よりはっきりと澄んでいて、光の当たり方によって内部がより透けて見える。

 本体は薄い青灰色で少し半透明、小型のヤドカリに似た形で、背中に青緑の結晶殻を背負っているのが特徴だ。


 動きもかなり機敏になっており、この保管ケースの大きさでは色々と物足りない感がある。

 

 じっと見ているとシオが気付いたのか、眠そうに目をしばしばとさせてこちらを見ていた。


 「シオ、おはよう」


 すぐに嬉しそうな、そういう感情が伝わってくる。

 前と比べてはっきりと感情を向けてくることが多くなり、これも成長か、と思うことが多くなってきていた。


 栄養液に調整用の鉱物成分を混ぜて滴下器で注ぐと、待ってましたとばかりにシオが寄ってくる。


 液を飲み終えてから、いつもだと容器の中を動き回ったりすることが多いのだが、今日は俺の手元に寄ったままこちらを見ていた。


 「まだいるか?」


 シオに問いかけると、『要らない』という感情が伝わってくる。

 最近飲む量が脱皮前の倍近くになっており、それに伴い目に見えた成長を見せてきていた。

 月次記録を提出した際に、管理局の担当者に確認したところ、成長に伴う摂取量の増加は想定の範囲内だということで、順調に育っていてうれしく思う。


 最近はこんな感じでシオと意思疎通を行っている。

 今朝は全般的に落ち着きに近いものが薄く伝わってきていて、それは言葉ではなく、自分の感覚や感情に混じって伝わってくる。


 これがテイマー的な繋がりなのかはまだ分からなかったが、受け取れる感情として機能し始めているのは確かだった。


 月次記録に「脱皮後の状態安定。殻の光量維持。感応反応は継続中」と書き込んで、スマホを閉じた。


 容器を元の位置に戻しながら、サイズのことを考えた。

 今使っている保管容器も携行ケースも、発見時のサイズを基準に選んだものだ。

 今の体長に対してまだ余裕はあるが、このペースで育つなら近いうちに替える必要が出てくる。


 机の端に、昨日届いた管理局からの封書が置いてある。

 汚染側の照合結果かと思っていたが浅田からの連絡ではなく、管理局の別の窓口からの発送になっていた。

 ちなみにまだ開けていない。



 ◇



 そして夜になり配信機材をもって自宅を出る。

 配信予定を入れていた俺は品川へ向かった。

 品川第七ふ頭ダンジョン入口で証明書を提示し、いつものように配信を始めた。


 「お疲れ様です。今日も配信を行いたいと思います。これで31回目ですかね。今日はB4Fに入ります」


 そして腰の携行ケースを取り出すと、シオのサイズからしてケースに余裕がないように見えた。

 これはそろそろ連れて行き方を本格的に考えないといけないレベルになってしまった。

 

 狭そうにしているシオをケースから取り出し、手のひらに乗せてカメラに向けた。

 狭いとこに入れてちょっと怒っているかな? と思っていたが、殻の青緑がきらりと光り、この光り方からして案外と機嫌は良さそうである。 


 『シオ今日もいる』

 『脱皮してから前より動いてない?』

 『なんかでかくなってない?』

 『もう普通に相棒枠だな』


 「最近目に見えて大きくなりました。成長期突入ですかね」


 適当にコメントに対応しつつ、通路の奥へ進んだ。


 いつもの、と言ってもいい程によく来ているB4Fは、特に変わった様子はない。

 魔力の残滓が溜まりやすい場所や、見落とされやすい壁際のくぼみを順に確認しながら進む。

 魔物と戦い灰になった跡がいくつかあったが、ドロップは落ちてなかった。

 そりゃ、回収するよな、そう思いつつ探索を続ける。


 一帯をひと回りしてから折り返しに入ると、通路の奥に別の探索者グループが入ってきた。

 すれ違いながら軽く会釈して、今度は逆方向へ進んだ。



 ◇



 そんな感じで緩い配信を続けていると、通路の行き止まり近くの壁際に古い布きれが折りたたまれて置かれていた。

 他の残骸と混じっていて、見た目はただの廃材だった。


 その手前で、携行ケースが軽く揺れた。

 同時に『気になる』に近い感覚がぼんやりと伝わってきた。

 不快ではないが、何かを示している動きだった。


 手を止めて布きれに【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 術式残渣付布片(魔力封入残存型)

 希少度:C

 状態:劣化あり(術式は残存)

 危険度:なし

 推定価値:38,000〜52,000円

 術式内容:防護系の術式が劣化しながら封じ込められた状態で残存。

 布自体は廃材だが、残存する術式が素材として機能する

 備考:外見では廃棄対象と判断されやすいが、術式素材として加工業者に価値が出る

 ――――――――――――――――――――


 「見た目はちょっと古い布切れですが、術式素材で38,000〜52,000円位の価値があります。これはちょっと見た感じ分からないですね」


 『廃棄ゴミが5万』

 『どこで気づいた』

 『こういうの見つけるのが回収屋の仕事か』

 『路上に落ちてても違和感がないな』

 『これに術式がのこってんの??』

 『さすがにゴミだと思ってたけどなぁ』


 シオの反応がなければ、間違いなくここは素通りしていた。

 もう疑うことはしていないが、シオの感知能力は間違いなく一級品だと思う。


 

 ◇



 そして時間もすぎ、切りの良いところで配信を終わることにした。 


 「皆さん配信見てくださりありがとうございました。今日はここまでです」


 書き込まれたコメントに対して対応し、配信を閉じた。


 視聴者ピークは9,400人だった。

 登録者は24,000人を超えており、2万人を超えてからも少しずつ増えている。


 機材を片付けてから通路を戻り、地上へ上がると外は真っ暗で深夜を迎えていた。

 

 術式残渣付布片と今日の他の回収物を確認すると、合計で9万円前後の成果で、シオの感知で拾った布片がそのうち半分以上を占めていた。



 ◇



 帰宅してから、机の端に置いたままの封書を手に取った。


 差出人は管理局の資格管理部門だった。


 封を切って中を開くと『鑑定士上位登録候補者への案内』という表題の文書が入っており、そのまま内容を確認した。


 民間鑑定士としての登録実績と評価点が一定基準を超えたこと、特例審査制度による上位登録候補として案内を行うこと、現場での鑑定実績も評価対象に含まれること、受否は本人判断であること。

 一枚にまとめられた、事務的な文書だった。


 会社員のころで言えば、昇格審査の候補通知に近い。

 受けるかどうかを選べる形になっているが、社内的には受けて当然という空気がある種類のものだ。


 「まだ決めなくてもいいか」


 内容だけ一度目に通して、文書を封筒に戻しておいた。

 封筒を机の端に戻したところで、スマホが短く振動した。

 浅田からの連絡だった。


 『上位登録の案内が届いているかと思います。資格管理部門から出ている通知で、私の担当ではないのですが、真壁さんの現場での実績が評価対象に含まれていると聞いています。受けるかどうかはご自身の判断で構いません』


 『ありがとうございます。確認しました』


 返信すると少し間があって、浅田から続きが届いた。


 『別件ですが、保守区画の搬入記録の照合はまだ続いています。次に確認してほしい物が出た時点で連絡します』


 『了解です』と送ってスマホを置いた。



 ◇



 「上位登録、か」


 もう一度封筒を手に取り、中の文書を数秒だけ見てから机の端に戻す。


 その時、ケースの中でシオが少し動いた。

 ただ位置を変えただけで俺の方へ向いてから、殻の中に頭を隠す。


 今日の仕事で確認したことは、シオの感知は危険区画だけではなく、通常の回収でも使える。

 これは一時的な変化ではなく、新しい通常として定着している。


 そして上位登録の案内は、まだ考えなくてもいい。

 とりあえずどうするかは、また明日以降に考える。


 ふと視線を窓に向けると月が隠れていて、更に闇は深まっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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