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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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感知範囲と上位登録

 朝、月次記録を開いた。


 シオの状態欄に書き込む。

 脱皮後数日が経過した。

 殻の色は昨日から変わっていない。

 脱皮前よりはっきりと澄んでいて、光の当たり方によって内部がより透けて見える。

 本体は薄い青灰色で少し半透明、小型のヤドカリに似た形で、背中に青緑の結晶殻を背負っている。容器の壁にぺたりと張りついて移動する動きが、前より滑らかになった。

 全体の大きさが脱皮前の倍近くになっており、発見時は縦4センチほどだったが、今は7〜8センチほどある。


 管理局支給の栄養液に調整用の鉱物成分を混ぜて滴下器で注ぐと、シオが容器の中で手元の方へ動いた。


 液を飲み終えてから、真壁に近い壁側で止まった。

 以前は飲み終えると奥の壁へ戻ることが多かった。

 今はそのまま近い側にいることが増えた。

 飲む量が脱皮前の倍近くになっている。

 管理局の担当者に確認したところ、成長に伴う摂取量の増加は想定の範囲内だという返答だった。


 『感情の向き』が伝わる感覚は今日もある。

 今朝は落ち着きに近いものが薄く伝わってくる。

 言葉ではなく、自分の感覚に混じって来る形で。

 テイマー的な繋がりとして位置づけるのが正確かどうかはまだ分からなかったが、受け取れる感覚として機能し始めているのは確かだった。


 月次記録に「脱皮後の状態安定。殻の光量維持。感応反応は継続中。近側定位が増えた」と書き込んで、スマホを閉じた。


 容器を元の位置に戻しながら、サイズのことを考えた。

 今使っている保管容器も携行ケースも、発見時のサイズを基準に選んだものだ。

 今の体長に対してまだ余裕はあるが、このペースで育つなら近いうちに替える必要が出てくる。メモに一行加えておいた。


 机の端に、昨日届いた管理局からの封書が置いてある。

 汚染側の照合結果か、別の件か。

 浅田からの連絡ではなく、管理局の別の窓口からの発送になっていた。

 今日はまだ開けていない。



 ◇



 品川ダンジョンの入口で証明書を提示し、配信を始めた。


 「31回目です。今日はB4Fに入ります」と言ってから歩き始めた。

 腰のケースがいつもより少しきつく感じる。

 シオのサイズに対してケースの余裕が前ほどない。

 ケースを開けてシオを手のひらに乗せ、カメラに向けた。

 殻の青緑がはっきりと映った。コメントが流れた。


 『シオ今日もいる』

 『脱皮してから前より動いてない?』

 『なんかでかくなってない?』

 『もう普通に相棒枠だな』


 「大きくなりました」と返して、通路の奥へ進んだ。


 B4Fは慣れた場所だった。

 魔力の残滓が溜まりやすい角や、見落とされやすい壁際のくぼみを順に確認しながら進む。

 魔物と戦い灰になった跡がいくつかあったが、ドロップはなかった。通常の探索だった。


 一帯をひと回りしてから折り返しに入ると、通路の奥に別の探索者グループが入ってきた。

 すれ違いながら軽く会釈して、また内側へ進んだ。



 ◇



 通路の行き止まり近く、壁際の床に古い布きれが折りたたまれて置かれていた。

 他の残骸と混じっていて、見た目はただの廃材だった。


 その手前で、携行ケースが軽く揺れた。

 シオが頭を床際に向けて、ケースの中で位置を変えた。

 『気になる』に近い感覚がぼんやりと伝わってきた。

 不快ではない。何かを示している動きだった。


 手を止めて布きれに【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 術式残渣付布片(魔力封入残存型)

 希少度:C

 状態:劣化あり(術式は残存)

 危険度:なし

 推定価値:38,000〜52,000円

 術式内容:防護系の術式が劣化しながら封じ込められた状態で残存。

 布自体は廃材だが、残存する術式が素材として機能する

 備考:外見では廃棄対象と判断されやすいが、術式素材として加工業者に価値が出る

 ――――――――――――――――――――


 「C、術式素材として38,000〜52,000円」と配信に向けて言いながら、専用ケースに収めた。


 コメントが流れた。


 『廃棄ゴミが5万』

 『どこで気づいた』

 『こういうの見つけるのが回収屋の仕事か』


 シオの反応がなければ、ここは素通りしていた。


 危険区画で止めた呪い品と、今回の術式残渣。

 種類は違うが、シオが示した動きがどちらも確認できる情報だった。

 危険区画だけで機能するわけではない。

 通常の仕事の中でもシオはしっかりと仕事をしていた。



 ◇



 「今日はここまでです」と言って配信を閉じた。


 視聴者ピークは9,400人だった。登録者は24,000人を超えていた。2万人を超えてからも少しずつ増えている。


 機材を片付けてから通路を戻り、入口で証明書を返して地上へ上がった。

 外はもう日が傾きかけていた。


 ケースの中でシオがゆっくりと動いて、真壁の手首に近い側で止まった。

 感応の後はしばらく落ち着きのない動きが続くことがあったが、今日は反応が来てから静まるまでの時間が短かった。

 回数を重ねるたびに少しずつ慣れてきている。


 収めた術式残渣付布片と今日の他の回収物を確認して記録した。

 今日の合計は9万円前後。

 シオの感応で拾った布片が半分以上を占めていた。



 ◇



 帰宅してから、机の端に置いたままの封書を手に取った。


 差出人は管理局の資格管理部門だった。


 封を切って中を開いた。

 『鑑定士上位登録候補者への案内』という表題の文書が入っていた。


 内容を読んだ。民間鑑定士としての登録実績と評価点が一定基準を超えたこと、特例審査制度による上位登録候補として案内を行うこと、現場での鑑定実績も評価対象に含まれること、受否は本人判断であること。一枚にまとめられた、事務的な文書だった。


 会社員のころで言えば、昇格審査の候補通知に近い。

 受けるかどうかを選べる形になっているが、社内的には受けて当然という空気がある種類のものだ。


 まだ決めるほどではない。内容だけ一度目に通して、文書を封筒に戻しておいた。


 封筒を机の端に戻したところで、スマホが短く振動した。浅田からの連絡だった。


 『上位登録の案内が届いているかと思います。資格管理部門から出ている通知で、私の担当ではないのですが、真壁さんの現場での実績が評価対象に含まれていると聞いています。受けるかどうかはご自身の判断で構いません』


 『確認しました』と返した。


 少し間があって、浅田から続きが届いた。


 『別件ですが、保守区画の搬入記録の照合はまだ続いています。次に確認してほしい物が出た時点で連絡します』


 『了解です』と送ってスマホを置いた。



 ◇



 もう一度封筒を手に取り、中の文書を数秒だけ見てから机の端に戻した。


 ケースの中でシオが少し動いた。

 感応の余韻ではなく、ただ位置を変えた感じだった。

 真壁の方へ向いてから、また壁側で落ち着いた。


 今日の仕事で確認したこと。

 シオの感応は危険区画だけではなく、通常の回収でも使える。

 回数が増えるたびに静まりが早くなっている。

 これは一時的な変化ではなく、新しい通常として定着している。


 上位登録の案内は、机の端に置いたままでいい。

 返事はまた明日以降に考える。


 ふと視線を窓に向けると外はもう暗くなっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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