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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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シオの成長とダンジョンコラボ配信

 朝、月次記録を開いた。


 容器を引き寄せようとして、殻の様子が昨日と違うことに気づいた。


 シオの本体は薄い青灰色で、光の当たり方によっては内部がうっすら透けて見える。

 形は小型のかたつむりに似ているが、もっと柔らかく、移動するたびに輪郭がわずかに揺らぐ。

 背中には青緑の結晶殻があり、潮魔石に近い光を帯びていた。

 普段は容器の壁にぺたりと張りついたまま移動し、殻の縁の近くに小さな目と感覚突起が並んでいる。


 その結晶殻の外側に、薄い膜のようなものが浮いていた。

 昨日まではなかった。光を当てると白く曇って見える。

 膜の端が一部ごく薄く浮き上がり、殻との間に細い隙間が入っていた。


 管理局の担当者から渡された調整用の微量鉱物成分を栄養液に少量混ぜ、細口の滴下器で注いだ。

 カルシウム系の鉱物で、殻の健全な成長を補助するものだと説明を受けていた。


 滴下器を手に取ると、シオがいつもより明確な動きで向かってくる。

 以前は液に気づいてから寄ってくるまでに間があった。

 今は滴下器を持ったときにはもう容器の端を離れていた。


 飲み終えると、壁には戻らなかった。

 体表の一部が前週より少し弾力を失ったように見える。

 動きが落ち着かない。ただ弱っている感じではなかった。

 うまく収まらないものがある、という動き方だった。


 管理局の資料に、回復傾向の個体が殻の表面に変化を出すことがあるという記述があった。

 成長段階が変わるときに出やすいと書かれてある。


 しばらく容器を見ていると、ぼんやりとした感覚があった。

 自分のものではない。

 落ち着かなさと、外へ向かいたいような向き。何かを探したいような感じ。

 シオの容器を見ていた時間に重なって来た。

 確かめようがないが、そう感じた。


 月次記録に「殻表面に薄膜あり。膜端部が浮いている。体表に部分的な変化。成長段階の変化の可能性、要観察」と書き込み、スマホを閉じた。

 汚染側の件は今日も別で動いている。

 連絡待ちの状態だった。



 ◇



 昼前に榊から連絡が来た。


 『B5Fより先の、魔物が濃い区画で配信を兼ねた確認をしたいんですよね。戦闘が目的じゃなくて、その場に出てくる呪い品とか術式付きの危険物をその場で鑑定できる人間が欲しくて。真壁さんが来てくれるなら視聴者的にも筋が通ると思うんですが、どうですか』


 『1点だけ聞いていいですか』と返すと、すぐに応答が来た。


 『どうぞ』


 『鑑定の対象は事前に決まっていますか』


 『決まってないです。現場で出たものをその場で。それが画として欲しいんです』


 少し間があってから、榊が続きを送ってきた。


 『深い区画だとドロップの頻度が上がるんですけど、汚染や呪われている物が結構増えるんですよ。魔物って倒すと灰みたいに消えるじゃないですか。あの瞬間にドロップするやつが、見た目じゃ素材なのか危険物なのか分からないことが多くて。うちにアイテムボックス持ちがいるんで保管はできるんですが、そもそも触っていいかどうかの判断が先に要る。除染師に回す前に現場でそれをできる人間がいると全然違うんです』


 真壁は少し考えた。

 B5Fより先には自分ではまだ足を向けていない。

 しかし、ドロップ品の汚染判定をその場でやる仕事は、これまでの依頼とは少し形が違う。


 ただ、深い区画でのその場鑑定という依頼として見れば確かに筋が通っている。

 シオの変化を見るなら、深い現地の刺激が何か材料になるかもしれなかった。


 『行きます』と返した。


 『助かります。明日の午前で、入口で合流でどうですか』


 『問題ないです』と送ってスマホを置いた。



 ◇



 出発の準備をしながら、シオを携行ケースに移した。


 容器の中でシオが動いた。

 殻の外側の薄膜が、ケースの明かりを受けてほんの少し白く浮き上がった。

 体表のごく一部が薄く剥けかけているのが見えた。昨日より変化が進んでいる。


 落ち着きのない動きが続いていたが、さっきより少しだけ向きが定まってきた感じがした。


 今日、何かが変わるかもしれない。



 ◇



 翌朝、入口で榊と合流した。


 「来てくれましたね」と榊が言い、後ろに控えた2人のメンバーに目配せした。


 「前の3人で処理しながら進みます。真壁さんは後ろで気になったものを見てもらえれば」


 「分かりました」


 榊が機材を出してカメラを起動した。


 「今日はゲストを呼びました。フードの回収屋さんです」と言いながら、カメラを真壁に向けた。


 真壁は腰のケースを軽くカメラに向けた。コメントが流れる。


 『回収屋さんじゃないか』

 『またコラボか、前回よかったからな』

 『シオ連れてきてる?』

 『今日は深いとこで鑑定やるのか』


 ケースの中でシオが少し動いた。



 ◇



 B5F手前の区画から進んだ。

 天井が低く、空気に魔力の密度がある。

 上の層とは明確に違う。

 榊たちが前を歩き、真壁は3歩ほど後ろから確認しながら進んだ。


 榊たちが魔物と戦うたびに、灰のように消えた後にドロップが落ちる。

 真壁はその都度【鑑定】を向けた。


 推定価格はその場で出せる。

 危険なものは声を掛けて分けて置いてもらう。

 戦闘と鑑定が別の役割として動いていた。


 区画を半分ほど進んだところで、携行ケースが揺れた。


 ケースの合わせ目から光が薄く漏れ、シオが殻の外側に張りついていた薄膜を内側からわずかに押し上げた。

 膜は端からゆっくり浮き上がり、乾いた殻の表面を音もなく離れていく。

 下から現れた結晶殻は、くすんでいた青緑が澄んだ色合いへと変わり、光の乗り方もこれまでよりずっと鮮明だった。

 シオ本体の動きも軽くなり、ケースの底を以前より滑らかに進んでいる。

 殻の縁の感覚突起が小さく震えていた。


 脱皮が終わった。


 真壁は一瞬だけ立ち止まってケースを確認した。

 ダンジョン内で長く止まるわけにいかない。

 異常がないことだけ見て、また歩き始めた。



 ◇



 しばらく経ってから、シオの向きがひとつの方向に定まった。


 不快に近い感覚が、ぼんやりと伝わってきた。


 その方向に、素材袋がひとつ落ちていた。

 戦闘で出た残骸の中に混じっている。

 見た目は他の袋と変わらない。


 「それ、触らないでください」と後ろから声を掛け、袋を手元に引いて【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 封入素材袋(呪い残滓汚染)

 希少度:D

 状態:汚染(呪い残滓・接触型)

 危険度:中

 推定価値:廃棄

 術式痕:呪い系の残滓が内容物に浸透している。触れ続けると徐々に干渉される

 備考:外見は通常の素材袋と区別がつかない。呪い残滓が閉じ込められたまま流通する事例が近年増えている

 ――――――――――――――――――――


 「中身ごと廃棄案件です。密封して処理ルートへ回してください」


 メンバーの1人が密封袋を出しながら言った。


 「外見で判断できないやつをノーダメで処理するとか無理だろ。持って帰って後で気づいて大騒ぎのパターンが目に浮かぶ…まぁ動画的には美味しいけど」と作業しながら続けた。


 「というか、その場でここまで切り分けられるの、もう普通の民間鑑定士の仕事じゃないですよ。登録鑑定士の上位案件みたいだ」


 「スキルがそう出るので」と真壁は返した。



 ◇



 配信を閉じてから榊と少し話した。


 「今日は助かりました」と榊が言い、スマホにメモを入れながら続けた。


 「こういう現場に同行できる鑑定士、通常の民間登録ではなかなか出てこないんですよね。管理局側でも現場対応できる鑑定士を特例で評価する枠があるらしくて。今日みたいな案件が続くなら、上位登録の打診が来てもおかしくない話だと思います」


 「来たら考えます」


 榊が少し笑った。


 「相変わらずですね」



 ◇



 外に出てから、携行ケースの様子を確認した。


 シオは殻の色が澄んで、本体の動きが明らかに変わっていた。

 容器の中を自分で移動し、向きを前より明確に示せている。

 感情の向きが伝わる感覚は、今日だけで数回あった。


 テイマー系のスキル持ちが使役する魔物と感覚を共有する、という話は聞いたことがある。

 ただし正確には『共有』ではなく、『感情』が分かる程度のものだと聞いていた。


 だがシオから来る感覚は多岐に渡っていた。

 危険・安全・こちらが気になる、そういった大まかな方向性が感情と共に伝わってくる感じ。

 言葉ではなく、自分の感覚に混じって来るような形といえばいいのか。


 実際にそれに近いことが起きているとすれば、シオとの関係がテイマー的な何かになりつつあるのかもしれない。


 仮同行の魔物にそういう繋がりが生まれるケースがあるのかどうか、俺には分からなかった。

 ただ、今日の『不快』の感覚が先に来て呪い品を止められたのは事実だった。


 脱皮を仕事の中で終えた。

 深い区画での配信探索が今後も続くなら、シオの感応性はそこでも機能する。

 そのことが今日の現場で確認できた。

読んでいただきありがとうございます。

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