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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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はじめての遠征(横浜みなとみらい)

 とある日の昼、浅田から連絡が来た。


 「一つお願いがあって。横浜に新しくダンジョンが開放されるんですが、事前調査の同行をお願いできますか。管理局のスタッフも同行しますが、鑑定の目が欲しくて」


 「新しいダンジョンが出来てたんですね。横浜ですか」


 「みなとみらいのエリアです。品川から電車で三十分ほどで、報酬は正規の出張調査料になります。配信していただいて構いません」


 「分かりました。いつですか」


 「明後日の夜でよければ」


 「問題ありません」


 電話を切って、少し考えた。


 「横浜にダンジョンか…」


 品川以外のダンジョンに入るのは初めてだ。



 ◇



 当日の夕方、俺は横浜に向かうべく電車に乗った。


 窓の外を流れる風景が品川から離れていく。

 乗り換えを一度挟んで、みなとみらいの駅で降りた。


 港の方から潮の匂いがしてくる。

 そういえば品川のダンジョンは一切潮の匂いがしないな、とふと思った。


 ダンジョンの入口は海岸に近い工業地帯の一角にあった。

 品川の入口と比べると規模が小さく、設備もまだ整いきっていない様子で、仮設の照明がいくつか並んでいるだけだった。


 浅田と、もう一人の管理局スタッフが待っていた。


 「来ていただいてありがとうございます。こちらは同僚の田村です」


 30代の男で、装備のベルトを締めながらこちらを見た。


 「よろしくお願いします。噂はよく聞いてます」


 「噂、ですか。あまりあてにしないでください。よろしくお願いします」


 自己紹介を終え、入口前で進む順番と役割を簡単に打ち合わせ、三人で中に入った。

 魔物は先行隊がすでに討伐済みで、今日は地形と落下物の確認が中心だと聞いていた。



 ◇



 ダンジョンの内部は品川とは明らかに違った。


 壁の岩盤が灰色ではなく、青みがかった緑色をしている。

 湿り気があって、足元が少し滑る。

 天井から水滴が落ちる音が響いていた。


 「海に近いせいで環境が品川と違いますね」

 

 「事前調査でも、湿気と塩気が品川より強いって出てたらしいです」


 「魔力の流れも少し重い気がします。湿気と混ざって、品川より動きが鈍い感じです」


 田村が記録用タブレットに何かを書きながら歩いている。


 「汚染品の確認もお願いできますか。一応、この段階でチェックしておきたいので」


 「はい」


 進みながら、目立つものがあれば【鑑定】を向けた。

 最初の一時間で特に不審なものは出なかった。

 設置物も少なく、落下物もほとんどなく、新しいダンジョンというのはこういうものかもしれない。


 ここで浅田が声をかける。

 

 「配信、始めていただいて構いませんよ。記録として残しておいてもらえると助かります」


 「ありがとうございます。では始めます」



 ◇



 20回目の配信を始めた。


 「今日は品川じゃなくて、横浜の新しいダンジョンに来ています。管理局の依頼で事前調査の同行です」


 コメントが一気に流れた。


 『横浜!?』

 『品川以外初めて見た』

 『雰囲気全然違う』

 『海の近くのダンジョンなんだ』


 「内部の環境が品川とだいぶ違います。壁が青緑色で、湿度が高い。海に近い影響だと思います」


 管理局のスタッフ2人と並んで進む場面は、カメラに映さないよう気をつけながら進んだ。


 30分ほど進んだところで、通路の壁に何かが張り付いていた。


 灰白色の塊で、表面に細かい結晶が光っている。

 海岸の岩に付着した貝殻のような見た目だ。


 「これ、見たことない形ですね」


 手を伸ばして剥がせるか確認すると、比較的簡単に外れた。


 【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 潮魔石(生成中)

 希少度:B

 現在価値:4万〜6万円

 備考:海水と魔力が長期間反応して生成される沿岸ダンジョン特有の素材

 内部に塩魔力が凝縮されており、魔法具の耐水・耐湿コーティング材として需要がある

 生成中の状態だが、すでに十分な密度がある

 沿岸部以外では入手不可能な素材

 ――――――――――――――――――――


 「品川には絶対ない素材です。海水と魔力が長い時間反応してできたもので、防水加工の材料として使われるみたいですね。1個あたり4万〜6万円です」


 コメントが動いた。


 『その発想はなかった』

 『ダンジョンによって出るものが全然違うのか』

 『横浜ならではって感じある』


 「場所が変わると出るものも変わるんだと思います。やることは変わらないですけど」


 同じ場所にもう2つ張り付いているのを見つけて、3点まとめて外した。


 さらに進むと、通路の隅に錆びた缶のようなものが落ちていた。

 探索者の忘れ物か、施設の廃棄物か分からないが、念のため【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 金属廃材(非魔力素材)

 希少度:なし

 現在価値:なし

 備考:ダンジョン外から持ち込まれた一般廃棄物

 ――――――――――――――――――――


 「これはただのゴミですね。持ち出して外で捨てます」


 『それも回収するんだ』

 『几帳面』

 『本当の意味での回収屋だ』


 ゴミ袋に入れてしまった。


 そのあと一時間ほど調査を続けた。

 汚染品の反応は一切なかった。



 ◇



 調査を終えたところで配信を一度閉じて、三人で外に出た。


 「汚染品の反応なし、でよかった」


 「はい。少なくとも今日確認した範囲では、ですけど」


 「十分です。ありがとうございました。正式な開放前にもう一度調査があれば、またお願いしてもいいですか」


 「正式な依頼として来れば、また伺います」


 浅田と田村が軽く頭を下げて、管理局の車に乗り込んだ。


 駅に向かいながら、チャンネルのコメント欄を開いた。

 配信のアーカイブにはすでに反応が並んでいた。


 『お疲れ様でした』

 『また遠征してほしい』

 『潮魔石、売ったらいくらになるか報告して』

 『汚染品なしで何よりです』


 『売れたらまた報告します』と短く返しておいた。



 ◇



 駅に向かいながらスマホを開くと、正体特定スレに動きがあった。


 『品川以外にフードの男の目撃情報。みなとみらいエリアのダンジョン付近で見たという書き込みあり。同一人物?』


 スレッドの中では意見が割れていた。

 『品川の人間がわざわざ横浜に来るか』『遠征できる人間なら行動範囲は広い』『別の配信者じゃないか』


 特定の動きが拡散する前に、情報の方が勝手に混乱し始めていた。

 意図したわけではないが、品川を離れたことが結果的にかく乱になっている。


 スマホをしまって電車に乗ると、窓の外にまた海が見えた。

 品川の見慣れた夜景とは少し違う、青みがかった港の景色だった。


 一方で横浜の配信のアーカイブが、品川の倍のペースで伸びていた。

読んでいただきありがとうございます。

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