榊とフードの回収屋
朝一番に魔石専門店に向かった。
担当者がカウンターに魔力自然結晶を置いて、少し時間をかけて確認した。
途中で奥に引っ込み、別のスタッフと何か話している声が聞こえた。
「368,000円になります。うちでもここまでの完全体は年に1、2度しか来ない」
「ありがとうございます」
「また出たら真っ先に持ってきてください」
「はい。次出たら必ず」
その言葉は売却のたびに聞いているが、次がいつ出るかは誰にも読めない。
昨夜の結晶も、何年も踏まれ続けた末にようやく拾われた品だ。
歩いて、見て、拾い上げる。
俺のやることは今後も変わらない。
◇
榊の事務所があるビルは、ダンジョン最寄り駅から電車で30分ほどの場所だった。
エントランスを入って待っていると、榊が降りてきた。
「来てくれてよかった。ずっと待ってたんで」
「約束しましたから」
「フードのままでいいですよ。カメラの設定は後で一緒に確認しましょう。顔が映らないようにするだけなんで、難しくないです」
エレベーターで上の階に上がった。
事務所の中は思ったより広かった。
撮影用のデスクがあって、照明機材が並んでいる。
机の上に布をかけた箱が置いてあった。
「今日の企画用のアイテムです。俺がネットの競売とかダンジョン近くの市場で集めてきた10点です。回収屋さんに鑑定してもらいながら価値を確認するコーナーにしようと思ってます」
「偽造品や汚染品が混じってる場合はその場で言いますが、大丈夫ですか?」
「もちろんです。それが面白いところなんで」
カメラの角度を調整して、俺の手元だけが映るように設定した。
フードをかぶったまま後ろ向きで座ると、画面には手と袖の部分しか映らない。
「これでいきますか」と榊が確認した。
「問題ありません」
「じゃあ、始めましょう」
◇
榊の配信が始まった。
画面の隅で視聴者数のカウントが動き始めた。
告知済みだったのか、開始から数秒で1,000、2,000と数字が伸びていく。
「今日はスペシャルゲストを呼んでます。フードの回収屋さんです」
コメントが一気に流れた。
『え、本物?』
『声聞けるの初めて』
『うそやろ』
「本物です。今日は俺が用意した10点のアイテムを、回収屋さんに鑑定してもらいます」
軽く息を吸ってから、口を開いた。
「よろしくお願いします」
コメントの流れがまた速くなった。
『コラボ実現したのか』
『この組み合わせ待ってた』
『回収屋チャンネルからきました』
「ルールは簡単です。俺が出したアイテムを順番に鑑定してもらって、希少度と相場の値段を出してもらいます。汚染や偽造があればその場で指摘してもらいます。あと、俺がそれをいくらで買ったかも一緒に出すんで、得したか損したかもずばり指摘してもらいます!」
榊がテーブルの布を整えて、箱の蓋を開けた。
「じゃあ、いきましょうか」
最初の1点を布からテーブルに出した。
小ぶりな魔石だ。
青みがかった半透明で、見た目は悪くない。
「これからいきましょうか」
手を伸ばして【鑑定】を向けた。
「希少度C、2万〜3万円程度です。品質は普通ですね。ただ状態はいい」
榊が身を乗り出した。
「俺が買ったの12,000円ですよ、これ。倍以上じゃないですか! 1点目からいきなりプラス鑑定ですよ!! 皆さん、見てましたよね今の鑑定」
コメントが動いた。
『1点目から倍以上!』
『+18,000円スタートおめでとう』
『この企画もう当たりじゃん』
『次々お願いしますー』
2点目。古びた革製の腕輪だ。
「これは……修復が必要ですね。このままだと値段がつかないですが、専門業者に出せば4万〜6万円になります」
「マジですか?! これ、本気で捨てようか迷ってたやつなんですよ。それが4〜6万に化けるって、皆さん聞きました? 1点目に続いて2連続当たりです!!」
3点目は、一目で高価そうな護符だった。
細かい装飾が施されていて、封が丁寧にしてある。
【鑑定】を向けた。
「……これ、偽造品です」
榊が少し固まった。
「偽造?」
「見た目は本物そっくりですが、術式が飾りです。機能していない」
コメントが止まった。
『偽造!?』
『榊さん見事に掴まされてるじゃん』
『高そうに見えたのに中身ゼロはひどい』
『いくらで買ったか正直に言って!』
『この展開最高すぎる』
「8,000円で……」
「露店か競売でしたら業者に言えます。まだ接触できるなら返品できると思います」
『鑑定の精度が怖いくらい』
『偽造品流してる業者を潰す案件』
『8,000円で済んだの不幸中の幸い』
『俺も家にあるやつ見てほしくなってきた』
『回収屋さんに鑑定頼みたい人増えそう』
榊が小さく咳払いをして、3点目を脇によけた。
「皆さんすみません、後で業者には連絡します。気を取り直して4点目いきましょう」
箱から次のアイテムを取り出してテーブルに置いた。
砂のついた丸い石で、見た目はほぼゴミだった。
だが最近似たものを見ており、何となく違和感がある。
「どこで拾ったんですか、これ」
「ダンジョン近くの廃棄物の山です。面白そうだったんで」
【鑑定】を向けると、少し間があった。
「……希少度A。魔力蓄積型の原石です。精製すれば25万〜35万円になります」
スタジオが静かになった。
コメントが遅れて流れてきた。
『え?』
『ゴミが35万?』
『廃棄物置き場に35万が落ちてたってこと?』
「そうなりますね」
榊が両手でテーブルを叩いた。
「35万!? 35万ですよ皆さん!! 俺、あの廃棄物の山の前を何回通ったと思ってますか! 今すぐ走って戻って拾い直したい衝動が止まらないんですけど!」
『榊さん落ち着いてwww』
『気持ちは分かる』
『でも気づける目がないと意味ないぱたーん』
『回収屋さんの隣で叫ぶの面白すぎる』
榊が一度大きく息を吐いて、椅子に座り直した。
「……いや、すみません取り乱しました。回収屋さんがやってることの意味が、本当の意味で初めてリアルに分かった気がします」
残りの6点は普通の品が多く、相場通りの価値だったり修復案件だったりだった。
最後の10点目、大きめの護符が汚染はないが術式の構成が特殊で、専門家向けの希少品と出た。
「10点やってみて、偽造1点、廃棄物の山から35万の原石1点、修復案件2点、買値より上の掘り出しが2点、残りは相場通りってところです」
「いやあ……」
榊が椅子に座り直した。
「俺が今まで素通りしてきたものが、どれだけあるか考えたくなくなってきた」
コメントが流れた。
『全員そう思ってる』
『回収屋さんがダンジョン歩いてる意味がやっと分かった』
『もっとやってほしい』
『定期的にコラボしてください』
◇
配信を閉じると、榊がコーヒーを2つ持って戻ってきた。
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
「企画がよかったです。アイテムの選び方が上手い」
「一応バリエーション意識しました。……ピーク、2万超えてましたよ」
スマホを見ると、自分のチャンネルの通知も来ていた。
登録者が15,000人を超えていた。コラボ経由で流入している。
「回収屋さん」
榊が少し声のトーンを変えた。
「正体の件なんですけど、そろそろ限界が来ると思います。今日の配信で声が出ましたから。声と体格と活動場所が揃ってきてる。本人が動く前に、誰かが特定する可能性があります」
「分かってます」
「どうするか、考えておいた方がいいと思います。俺の方から何か漏らすことは絶対にないですけど、外で勝手に進んでる話なんで。いざ情報が出始めたとき、回収屋さんがすぐ動けるようにしておいた方がいいかなと」
「ありがとうございます。考えておきます」
コーヒーを一口飲んだ。特に何も言わなかった。
答えを持っていないわけではない。
ただ、答えを出すタイミングがまだ来ていない気がしていた。
ひとはこれを『ふくせんかいしゅう』とよぶっ!
作者が忘れてた伏線などありましたらツッコミください(汗




