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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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24/87

みんなが踏んで通り過ぎた石が、40万円だった

 翌朝から業者回りを始めた。


 最初に馴染みの魔石専門店に紅魔石を持ち込んだ。

 担当者が受け取るなりルーペを取り出して、しばらく無言で見ていた。


 「どこで手に入れましたか」


 「ダンジョンで拾った袋の中に入っていました」


 「……袋の中に」


 少し間があった。


 「268,000円でいかがでしょうか。純度と保存状態が揃っている上位種は滅多に出ないので」


 「お願いします」


 続いて銀魔合金製の腕輪を装備買取の業者へ、旧式術式書を古物商へ持ち込んだ。

 腕輪が65,000円、術式書が18,000円だった。


 3点合わせて351,000円になった。


 ボロ袋の中身が35万円を超えた。

 次元収納袋そのものは劣化が進んでいて売却は難しかったが、入っていたものだけでこの数字である。



 ◇



 近所のコンビニに寄って、缶コーヒーを1本買うと外のベンチに座って、特に何もせずに飲んだ。


 最近、動き続けていた気がする。

 管理局の手続き、依頼の初仕事、配信、業者回り。

 立ち止まる間がなかった。


 缶が空になるまでの五分くらい、何も考えない。

 それだけでいい時間だった。



 ◇



 夜、19回目の配信を始めた。


 登録者は11,430人になっていた。


 入口に近づいたとき、入口の外に人が数人いるのに気がついた。

 探索者の装備をしていない。

 スマホを出して、こちらに向けているような動きがある。


 フードを深めに被り直して、入口に入った。


 受付で手続きを済ませていると、中年スタッフが通り過ぎるさいに小声で語りかける。


 「さっきから2、3人うろついてる。配信ファンか正体特定かは分からんが」


 「見えてました」


 「まあ、今のところ中には入れてない」


 それだけで足を止めずに立ち去った。


 そして俺は配信準備を済まし、配信を開始する。


 「お疲れ様です。今日はB4Fを丁寧に回ります」


 『いつもありがとう』

 『今日も楽しみにしてた』

 『外に人いた?』


 「少しいましたね。配信見てくれてる人かもしれないので、問題ないと思います」


 B4Fに入った。

 今夜は確認ペースを落として、一区画ずつ丁寧に見ていく。


 照明の届きにくい壁際、通路の折れ曲がり、段差の下。

 探索者の多い上層では、こういう場所に素通りされたものが残っている。


 40分ほど進んだとき、通路の真ん中に石が落ちていた。


 拳よりひとまわり大きい、灰色の石だ。

 つるっとしていて、表面に凹凸がない。

 一見すると何の変哲もなく、実際に何人かが踏んで通り過ぎた跡がついている。

 だがほんの少しだけ違和感があり立ち止まった。

 これまでの経験上、こういうものが意外と化けたりすることが多い。


 「拾ってみます」


 手に取ると、ずしりとした重みがあった。

 見た目のわりに密度が高い。


 【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 魔力自然結晶(完全体)

 希少度:A

 推定価値:32万〜40万円

 備考:ダンジョン内の魔力環境が長期間かけて自然に結晶化したもの

 人工的な精製や加工の工程を経ておらず、完全体に達した状態

 外見から価値を判断することは困難で、発見されずに踏まれ続けるケースが多い

 完全体は数年に一度の発生頻度とされる希少素材

 推奨:魔石専門業者または高額取引可能な買取業者への持ち込み

 ――――――――――――――――――――


 「……32万〜40万円です」


 コメントが止まった。


 「見た目はただの石ですが、ダンジョンの魔力が何年もかけて固まったものらしいです。人工で作れないので、自然に出てくるのを待つしかない素材みたいです」


 『踏んでた石が40万?』

 『何年もかけて?』

 『それ全員踏んで通り過ぎてた』


 「足跡がついてますね。何人かに踏まれてます」


 『普通の人間にはぜったいに分からないぞそれ』

 『回収屋の目がないと一生発見されなかった』

 『拾ってくれてありがとうって石が思ってる』


 最後のコメントで笑いそうになった。

 こらえながら袋にしまう。



 ◇



 配信を閉じると視聴者は12,900人を超えていた。

 登録者も配信中に300人近く増えていた。最近のどの回よりも伸びが大きい。


 ダンジョンの外に出ると、さっきの人影はいなくなっていた。

 深夜になって引き上げたのか、別の目的だったのか。


 帰り道、榊からメッセージが届いていた。


 『ずっと前から言ってたコラボの件なんですが、そろそろどうでしょうか。条件は何でもいいです。顔出しなし、音声だけ、フードのまま、テーマも自由です。一緒に配信するというより、俺の配信にゲストで来てもらうイメージで』


 少し考えた。


 今まで断り続けていたのは、注目が広がるほど正体特定が早まると思っていたからだ。

 ただ、業界メディアに記事が出て民間鑑定士の登録もした今、注目はもう勝手に動き出している。

 顔を出さず声だけ、内容も事前に確認できるなら、これ以上崩れる範囲は限られる。

 俺は榊にスマホで返信した。


 『声だけ、フードのまま、事前に内容を確認できるなら』


 少し待つと、返信が来た。


 『もちろんです。日程調整しましょう』

次回、あの榊さんと初コラボ!(作者注:決して忘れていたわけではない。決して…)

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