古い袋の中には、ロマンが詰まっている
翌朝、馴染みの買取業者に魔力共鳴石を持ち込んだ。
担当者がペアで置かれた2つの石を見て、しばらく動かなかった。
「これ、どちらも同じ石ですか」
「同一個体から割れたものです」
「一緒に持ち込まれるのは初めてです。バラけると価値がないので、たいていどちらか片方しか来ない」
慎重に光に当てながら確認して、155,000円の提示が出た。
「もし今後もペアのものが出たら、ぜひ持ってきてください」
「また見つけたら必ず」
帰り際、修復業者から着信が入っていた。
『封印部屋から見つけてこられた2点、仕上がりました。時間があるときにどうぞ』
留守電メッセージになっており、結構かかったな、と思いつつもそのまま受け取りに向かった。
◇
修復業者で受け取った2点は、どちらも見違えるようだった。
旧式魔力増幅器は外側の破損が補修されて、内部の術式が可視化できるほど安定している。
「現代品より術式の組み方が丁寧です」とのことだった。
修復費用を支払い、俺はその足で魔道具専門の業者を回った。
旧式魔力増幅器が190,000円、魔力蓄積型護符が52,000円の値が付いた。
改めて封印部屋の5点合計を計算してみると、今日までに手元に入った分だけで、合計35万円を超えている。
修復費用を差し引いても、十分に黒字になっていた。
地図に載っていなかった部屋から、これだけのものが出てきたことになる。
「鑑定スキル様々、だな」
◇
昼すぎ、管理局から指定された住所に向かった。
民間登録士としての最初の正式依頼だ。
相手は30代の男性探索者で、個人で活動しているらしい。
事務所代わりに借りているらしい小さなワークスペースで待っていた。
「真壁さんですか。先日登録されたばかりだと聞きましたが」
「そうです」
「大丈夫ですか」
「登録は最近ですが、鑑定そのものは慣れています」
大丈夫ですか、か。
たしかに登録したてだし、その不安は当然だろう。
その分、仕事の結果をもって証明していかないと行けない、そんな立場に俺は望んでなった。
「はぁ。わかりました。本日依頼したい物はこれです」
テーブルに装備が8点並んでいた。
剣2本、護符3枚、魔石2点、腕輪1本。
最近1年で買い集めたものらしい。
1点ずつ鑑定していった。
7点は問題なかった。相場に見合った品質で、汚染も偽造もない。
8点目の腕輪に【鑑定】を向けたとき、少し引っかかった。
――――――――――――――――――――
魔力循環腕輪(封印状態)
希少度:B
現在価値:低(封印のため)
封印解除後推定価値:18万〜25万円
備考:外見は劣化した普通の腕輪に見えるが、内部に術式が封じられている
封印は意図的なものであり、専門業者による解除が可能
封印解除前に鑑定できる者がいなければ、そのまま安値で手放される可能性が高い品
推奨:魔道具封印解除の専門業者への持ち込み
――――――――――――――――――――
「この腕輪、封印がかかっています」
男が眉を上げた。
「封印、ですか。壊れてるんじゃなくて」
「意図的に術式を封じた状態です。解除すれば、18万〜25万円の価値になります」
しばらく沈黙があった。
「いくらで買いましたか」
「8,000円です。中古品の市場で」
「封印状態だから安値がついていたんだと思います。専門業者に持ち込んでください」
男が腕輪をしばらく見つめた。
それから深く息をついた。
「鑑定士に頼んでよかった。ありがとうございます!」
「他の7点は問題ありませんでした。きちんと見て買われていると思います」
鑑定した詳細を書類に記載して依頼者へと渡す。
この用紙は管理局が定めている書式で、登録した時に浅田さんからもらったものだ。
記載後に、誰が鑑定したかを示す鑑定士番号と名前を署名する欄があり、俺は緊張気味にそこに署名した。
それから報酬を受け取って帰路につく。
最初の正式依頼は、思ったより静かに終わった。
◇
夜、18回目の配信を始めた。
登録者は11,250人になっていた。
「今日はB3Fを回ります。上層は細かいものが残りやすいので、丁寧に見ていきます」
入口で中年スタッフと目が合った。
「今日も来たか」
「はい」
「昨日、見慣れない奴が何人か入口のあたりをうろついてた。配信目当てかもしれん」
「そうですか」
「気をつけろよとは言わないが、まあ、気にしておけ」
それだけ言って立ち去った。
正体特定スレの話が現場にまで届いているのかもしれない。
気持ちを切り替えてB3Fに入った。
今夜はいつも以上に丁寧に動く。
壁際から通路の隅、段差の下など。
普通なら視線が向かない場所を一つずつ確認していく。
コメントがゆっくり流れていた。
『地味に好きなやつ』
『くまなく探してる感じが落ち着く』
『今日はどんなの出るかな』
40分ほど進んだところで、通路の脇に古い革袋が落ちていた。
ひとこぶし大で、くたびれた茶色の皮製だ。口が紐で縛ってある。
汚れていて、見た目はただのゴミだ。
「これ、袋ですね。拾えそうですが」
『それ完全にゴミじゃない』
『何入ってると思う』
『鑑定して』
拾い上げると、思ったより重かった。
袋の大きさに合わない重量がある。
「……重い。見た目のわりに」
【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
次元収納袋(旧式・内容物あり)
希少度:B(収納機能込み)
現在価値:中(内容物による)
備考:魔力で編まれた旧式の収納具。外見より大きな空間が内部に展開されている
現在、内部に複数の物品が収納された状態
袋自体の素材が劣化しているため、収納機能は間もなく失効する可能性あり
推奨:速やかに内容物を取り出すこと
――――――――――――――――――――
コメントが止まった。
「……中に何か入ってます。外見より大きな空間が内側にあって、複数の物品が収納されてる」
『は?』
『袋の中に空間が?』
『開けて開けて』
『なんで誰も気づかなかったの』
「見た目が完全にくたびれていて、誰もがゴミだと思うからですかね。俺だって鑑定スキルが無ければこれは拾わない。どうも劣化してきてるみたいなので、今取り出しましょうか」
紐を解いた。口を広げると、外側の大きさではありえない深さがあった。
手を差し込んだ。
最初に出てきたのは、小さな布包みだった。
開くと、深い赤色の魔石が入っていた。
【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
紅魔石・上位種
希少度:A
推定価値:22万〜28万円
備考:魔力の密度が高く、触媒・素材として幅広い用途がある
保存状態が良好で、品質の劣化なし
――――――――――――――――――――
「……22万〜28万円の魔石です」
コメントが一気に流れた。
『いきなり??』
『袋から22万が出た』
『最初からこれ??』
「まだ中にあります。続けます」
2点目を引き出した。細い金属製の腕輪だ。
――――――――――――――――――――
銀魔合金製腕輪
希少度:B
推定価値:5万〜7万円
備考:銀と魔鋼の合金製。軽量で耐久性が高い
装備品として、または素材として価値がある
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「腕輪です。5万〜7万円」
3点目。丸められた紙のようなものだ。
――――――――――――――――――――
旧式術式書(一部解読可能)
希少度:C
推定価値:15,000円〜2万円
備考:古い術式の記録書。専門家であれば部分的に解読可能
希少性は高くないが、研究・資料目的での需要がある
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「術式書ですね。2万円前後」
4点目を引き出した。護符だ。3枚まとめて束ねてある。
――――――――――――――――――――
封護符・旧式(劣化)×3
希少度:D
現在価値:ほぼなし
備考:術式が経年劣化で失効している。素材としての価値も低い
――――――――――――――――――――
「これは価値なしです。護符なんですが、術式が切れてます」
『4点中3点は価値があった』
『22万の魔石が入ってたのが全部持っていった』
『誰が何でここに置いたんだろ』
「分かりません。かなり昔に落とされたのか、誰かが隠したのか。袋自体が劣化してたので、長い時間が経ってると思います」
袋の中をもう一度確認した。空だった。
「以上です。袋自体もいずれ使えなくなるみたいなので、今夜取り出せてよかった」
『完璧なタイミングだった』
『これが回収屋の目か』
『普通に踏んで通り過ぎてたと思う』
「踏んでた人は何人もいると思います」
◇
配信を閉じると視聴者は12,500人を超えていた。
帰り道、久しぶりに正体特定スレを開いた。
『先週の深夜、品川第七ふ頭のダンジョン入り口付近でフードの男を見た。身長は170〜175センチくらい。一人で入口から入っていった。あの人じゃないですか』
目撃談だ。
ネット上の推測ではなく、実際に現地で見た人間の書き込みのようだ。
気味が悪くなり、スマホを閉じる。
中年スタッフが言っていた「見慣れない奴がうろついていた」という話と繋がる。
意識している人間が、現地に来るようになっていた。
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