回収屋が、公認になった日
配信の翌朝、魔封石の破砕片を精製業者に預けた。
そして3日後、『仕上がりました』と連絡が来た。
受け取りに行くと、8片が1つの石に戻っていた。
濃い紫色で、表面に細かい光の筋が走っている。
拾ったときの散らばったかけらとは別物のように見える。
「融合精製、うまくいきました。純度は少し落ちますが、希少度Bの魔封石として問題ない品質です」
「ありがとうございます。買い取りもお願いできますか」
「精製料を差し引いて、62,000円になります」
排水溝の脇に落ちていたかけらが62,000円になった。
素通りしていった人間の数を考えると、少し不思議な気持ちになる。
◇
昼に管理局へ向かった。
浅田が同じ会議室に通してくれた。
「お返事をいただけますか」
「登録します。ただ、確認させてください」
前回渡された資料を開いた。
「配信は今後も続けられる。断る権利は保持できる。個人情報の管理は管理局内に限定される。この3点は変わりませんか」
「変わりません。書面に明記することもできます」
「わかりました。では、登録お願いします」
「ありがとうございます」
浅田が少し安堵したような顔をした。
手続きは三十分ほどで終わり、書類に署名して、証明書を受け取る。
『民間鑑定士 真壁遼』と印字されていた。
ラミネート加工された薄いカードだ。
そこら中にあるありふれた加工だが、これが何かを変える気がした。
「今後は管理局経由で正式な依頼が入るようになります。最初の依頼はおそらく今週中に届きます」
「内容によっては断ります」
「もちろんです」
会議室を出るとき、浅田が一言付け加えた。
「真壁さんの発見がなければ、この登録制度を活用しようという話にもなっていませんでした。本当にありがとうございます」
「結果的にそうなった、というだけです」と返して、軽く頭を下げた。
外に出て、証明書をポケットにしまう。
ラミネート加工された薄っぺらい、ただの証明書だ。
それでも少し、立っている場所が変わった気がした。
◇
夜、17回目の配信を始めた。
登録者は11,050人になっていた。
「今日はB4Fを一周します。封印部屋の近くをまだ確認できていないので」
『また何かありそう』
『封印部屋のゾーン』
『楽しみ』
封印部屋のあった通路の手前から別のルートに入った。
照明が少し暗い区画だ。最近改修が入っていないのか、壁が古い。
三十分ほど進んだとき、通路の中央に石が転がっていた。
握りこぶし大の、乳白色の石だ。
表面がなめらかで、内側から微かに脈打つような光がある。
「これ、なんだろう」
拾い上げると、思ったより軽い。
【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
魔力共鳴石(片割れ)
希少度:B(ペア状態)
現在価値:低(片割れのため)
ペア時推定価値:12万〜16万円
備考:同一個体から割れた2つで対をなす石
片方だけでは価値が低いが、もう片方と合わせることで魔力が共鳴し希少素材となる
もう片方の反応が現在地から50メートル以内に存在する
推奨:周辺探索・ペアの回収
――――――――――――――――――――
「ペアになってる石の片割れです。もう半分が50メートル以内にあると出ました」
コメントが一気に流れた。
『探して』
『50メートル以内ならある』
『宝探しだ』
「やってみます」
石を持ったまま、周辺を確認し始めた。
鑑定を繰り返すと、『反応あり』『近い』『さらに近い』という表示が出てくる。
「反応が強くなってきてる。この方向です」
通路を折れて、別の区画に入った。
壁際に荷物が積んであるというより、放置されたまま忘れられた感じの段ボールが重なっている。
その一番下に、白い石が挟まっていた。
「あった」
段ボールをどかして引き出すと、最初に拾った石と同じ乳白色の石が出てきた。
2つ並べると、光の脈動が合わさるように強くなる。
『きれい』
『つながった感じがする』
『なんか感動する』
「2つで対になってます。鑑定してみます」
2点まとめて【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
魔力共鳴石(ペア・完全体)
希少度:A
現在価値:14万〜17万円
備考:2つが揃い、互いの魔力が共鳴している状態
分離すると再び価値が落ちる。ペアのまま保管・売却を推奨
工芸品の素材、または魔術触媒として需要がある
――――――――――――――――――――
「ペアになったら希少度Aになりました。14万〜17万円です」
コメントが止まった。
『片方だけ拾っても意味なかった』
『両方見つけたの回収屋だけだろ』
『鑑定ないと気づかない案件すぎる』
「片方だけだと価値の出ない石なので、残った方も気づかれないまま埋もれていったかもしれない。揃って回収できてよかった」
2つを布で包んで、鞄にしまった。
◇
配信を閉じると視聴者は11,200人を超えていた。
帰り道に管理局からのメッセージが届いていた。
浅田からだ。
『本日付で登録が完了しました。早速ですが、明日以降のご都合でお受けいただける依頼があります。個人の探索者の方から、保有している装備の一括査定を希望するご要望です。報酬は査定点数に応じた正規料金になります。ご検討ください』
最初の正式依頼だし、断る理由はない。
『受けます』と返信した。
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