民間鑑定士、登録してみませんか?
翌朝、封印部屋から回収した残り2点を業者に持ち込んだ。
古式魔鋼製小刀は刃こぼれがあって修復不可だったが、素材の魔鋼に価値がある。
買取業者に見せると、担当者が刃の断面をルーペで確認した。
「古い製法ですね。現代の魔鋼より不純物が多いですが、この時代のものは配合が独特で、コレクター需要があります。8万円でどうでしょう」
「お願いします」
魔力石製小瓶は薬品専門の業者に持ち込んだ。
小瓶の中の魔力液が劣化していないか確認してもらう必要があった。
「保存状態いいですね。封が完全だったんでしょう。35,000円になります」
「ありがとうございます」
2点合わせて115,000円になった。
封印部屋から出てきた5点の合計がどうなるか、修復品の仕上がりを待ってから計算する楽しみが残っている。
◇
3日後、精製を頼んでいた業者から『魔素結石の仕上がりができました』と連絡が来た。
店頭で受け取った魔素結石は、3点とも小さな瓶に分けて入っていた。
どれも透明度が高く、内側に緑がかった光が揺れている。
「同一鉱脈のセット精製は初めてやりましたが、やはり単体より効率がいいですね。純度が揃いました」
仕上がりを確認したあと、そのまま買取査定もお願いした。
「この3点だと、買取額はいくらになりますか」
「精製料を引いて、168,000円で買い取らせていただきます」
単体なら数千円だったものが、3点揃えて168,000円になった。
B4Fの通路の段差の下に転がっていた石だ。
帰り道に電卓を開いた。
今月だけで封印部屋の5点と魔素結石を合わせると、まだ修復中の2点を除いても相当な額になっている。
ダンジョンに行くたびに、何かが見つかる。
鑑定スキルの力なのか、ありがたいことにそれが続いていた。
◇
3日後、浅田から着信があった。
「真壁さん、少しお時間いいですか。直接お話ししたいことがあって」
「今日の午後でよければ」
「ありがとうございます。品川の管理局の事務所に来ていただけますか」
管理局の建物に入るのは書面を交わしたとき以来だった。
約束の時間に到着すると浅田が窓口で待っていて、そのまま小さな会議室に通された。
「単刀直入に言います。真壁さんに、民間鑑定士として正式に登録していただけないかと思っています」
「民間鑑定士、ですか?」
「管理局が認定する資格です。正式に登録されると、管理局経由での鑑定依頼が公式に入るようになり、証明書も発行されます。個人や業者が依頼したいとき、あなたの名前で正式に動けるようになります」
今の『鑑定提供者』という立場との違いを聞いた。
「今は非公式の協力者という位置づけです。民間鑑定士になると、依頼ごとに正式な報酬体系が適用されます。管理局の調査に同行を求められる場合もありますが、断る権利は保持できます」
「配信は続けられますか」
「問題ありません。むしろ、登録鑑定士が配信しているという事実は業界全体への啓発になります」
浅田が資料を1枚テーブルに置いた。登録の条件と手続きが書いてある。
「今すぐ決めていただかなくて大丈夫です。ただ、業界メディアの記事もあって、あなたへの問い合わせが管理局にも来るようになっています。正式な立場があった方が、双方にとって動きやすいと思います」
「少しだけ考えさせてください」
「もちろんです」
会議室を出るとき、浅田が付け加えた。
「これはあなたの活動を縛るものではなく、正式に認める話です。誤解なく伝わればと思います」
外に出て、少し歩いた。
正式な立場を持つということが、どういう意味を持つのか。
今まで「在野の回収屋」として動いてきたし、それで十分だと思っていた。
でも業界記事が出て、1万人が見るようになって、状況が変わってきている。
「回収屋を始めてこんな短期間で、ここまで状況が変わるものなのか」
答えはまだ出なかった。
◇
夜、16回目の配信を始めた。
登録者は10,340人になっていた。
「今日はB3Fを一周してみます。最近はB4FやB5Fばかりだったので、浅い区画は久しぶりですね」
『また来た』
『おかえり』
『1万人おめでとう!今さらだけど』
「ありがとうございます。今日は落ち着いてB3Fを回ります」
B3Fは整備が行き届いていて探索しやすい。
ただ、人が多い分、目立つものは先に拾われていることが多い。
「上層の面白いところは、見落とされやすいものが残ってること。みんな大きなものを探すので、小さいものが残りやすい」
『確かに』
『そういう視点で見たことなかった』
一時間ほど回ったところで、通路の排水溝の脇にかけらが散らばっているのが見えた。
濃い紫色の石だ。
1センチにも満たない破片が、5、6個まとまって落ちている。
「これ、誰かが割ったのかな。意図的に散らかした感じじゃない」
1つ拾い上げて【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
魔封石・破砕片
希少度:C(単体)
現在価値:ほぼなし(破砕のため)
備考:魔封石が何らかの衝撃で破砕したもの
単体では用途がないが、同一個体の破砕片を一定量集めると融合精製が可能
融合精製後は元の魔封石に近い品質で再生できる場合がある
現在地付近に同一個体由来の破砕片が散在している可能性が高い
推奨:周辺の破砕片を収集してから精製業者へ
――――――――――――――――――――
「壊れた魔封石のかけらです。単体では価値ないんですが、同じ石の破片を集めると融合精製できるらしい」
『また集める系だ』
『回収屋の新パターン』
『周辺全部確認して』
「やります」
排水溝の周辺を丁寧に確認した。
壁の隅や段差の溝、そして通路の端。
そこら中に散らばっており、全部で8片集まった。
「8片ありました。これ全部同じ石の破片なら、融合精製できるかもしれない」
8片まとめて【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
魔封石・破砕片×8(同一個体由来:確認)
融合精製可否:可能(8片揃いのため)
精製後推定価値:5万〜8万円
備考:同一個体の破砕片が揃ったことで融合精製の条件を満たす
精製後は希少度Bの魔封石として再生される見込み
――――――――――――――――――――
「全部同じ石の破片でした。精製すると5万〜8万円になります」
コメントが止まった。
『ゴミが5万円に』
『B3Fにそんなものが落ちてるの?』
『拾い方を知ってるかどうかの差すぎる』
「この欠片はさすがに全員素通りしていったと思います。どう見ても価値あるものには見えないですから」
袋に8片をまとめてしまった。
◇
配信を閉じると視聴者は10,800人を超えていた。
昨日の達成からそのまま伸び続けている。状況は確実に変わってきていた。
そして帰り道にスマホで管理局のサイトを開いて、民間鑑定士の登録要綱を読み返した。
「正式な立場、か」
悪い話ではない。それは分かっている。
ただ、これがきっかけで何かが変わる気がした。
変わることが正解かどうか、まだ判断がついていなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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