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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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20/80

1万人と、業界記事と、封印された小部屋

 翌朝、魔素結石を精製業者に持ち込んだ。


 受付で3点をまとめて袋から出すと、担当者が少し目を細めた。


 「同一鉱脈のものですか」


 「鑑定でそう出ました」


 「珍しいですね。セットで持ち込まれるのはほぼないので。仕上がりは3日から5日いただきます」


 「お願いします」


 預かり証と精製料の見積もりを受け取って外に出た。

 

 単体では価値のなかった石が、揃えることで変わる。

 そういう仕組みを知っているのと知らないのとでは、ダンジョンの見え方が全然違う。

 これぞ鑑定スキルの真骨頂だな、そう感じつつ所用を済ませていった。



 ◇



 昼ごろ、榊からメッセージが来た。


 『回収屋さん、業界メディアに記事出てるの知ってます?』


 URLが貼られていた。


 開くと、ダンジョン関連の専門メディアのサイトだった。

 記事のタイトルは『在野の鑑定師・回収屋が業界に波紋——無名チャンネルが1万人に迫る理由』。


 読み進めると、自分の配信のことが書いてあった。

 呪詛護符の発見、偽造品の見抜き、折れた大剣の修復提案。

 配信のアーカイブから引用する形で、『通常の探索者では不可能な精度の鑑定を持つ人物』という切り口で書かれている。


 顔も名前も出ていない。

 『フードの回収屋』という表記だけだ。


 榊から追加のメッセージが来た。


 『SNSでかなり回ってます。ダンジョン業界の人が何人かシェアしてて。管理局の中の人も見てるらしいですよ』


 『そうですか』


 『嬉しくないですか』


 『複雑です』


 注目が増えるのは配信にとってはいい。

 でも正体特定スレが動いているのも事実で、記事が出ればそちらも加速する。


 しばらく考えてから、『見てくれてありがとう』と返す。

 

 『次の配信、楽しみにしてます』と榊は返してやり取りは終了した。



 ◇



 夜、15回目の配信を始めた。


 登録者は8,940人になっていた。

 昼の記事の拡散効果が出ている。


 「今日はB4Fの南側の続きを回ります。先週と別のルートで」


 『今日も来た』

 『記事見て来ました』

 『はじめて見ます』


 「記事、見てくれた方もいるみたいですね。ありがとうございます。とは言え、やることも変わらずいつも通りやります」


 B4Fに降りると、巡回中らしい中年スタッフが通路の脇に立っていた。


 「記事出てたな」


 「見てたんですか」


 「管理局の朝のミーティングで話題になってた」


 それは思ったより広まっている。


 「何か問題ありますか」


 「別に。ただ、目立つと面倒が増えるぞ」


 「分かってます」


 スタッフが缶コーヒーを一口飲んで、別の方向に歩いていった。


 配信を続けながら南側のルートを進んだ。

 先週と別の通路に入ると、壁の質が変わった。


 整備された区画から外れたような、古い石造りの壁だ。


 「なんか雰囲気が変わりましたね。このルート、最近の改修が入ってないのかもしれない」


 『雰囲気ちょっと違う』

 『怖くない?』

 『進んで』


 進むと通路の突き当たりに扉があった。

 金属製で表面に古い術式の刻印があり、施錠されているが取っ手が付いている。


 「……扉がある。地図に載ってない」


 【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 封印扉(施錠解除済み)

 状態:封印は現在無効化されている

 備考:かつて何らかの理由で封印されていたが、封印の術式が経年劣化で失効している

 扉の向こうに物品の反応あり

 危険度:低(魔物の気配なし)

 推奨:入室可能。ただし管理局への事後報告を推奨

 ――――――――――――――――――――


 「封印が切れてて、開けられます。中に何かあるみたいですが、危険はないと出ました」


 コメントが一気に動いた。


 『開けて』

 『やばいやつじゃないの』

 『入れるなら入ってほしい』


 取っ手を引くと結構な重みを感じる。

 想像以上に重い扉だったが、力を入れるとゆっくり開いていく。


 扉をあけると、すぐ埃っぽい匂いを感じる。

 慎重に中を伺うと小部屋が一つの作りになっていた。

 約6畳ほどの広さで棚が壁際に並んでおり、埃の積もり方からして相当な年月が経ってそうだ。


 棚の上を丁寧に見て回ると、古い魔道具が5点置いてあった。

 埃をかぶってはいるが、しっかりと形は保っている。


 「これ……かなり古そうですね。全部鑑定してみます」


 1点ずつ【鑑定】を向けた。


 ――――――――――――――――――――

 旧式魔力増幅器(損傷あり)

 希少度:B

 現在価値:低(損傷のため)

 修復可否:可能

 修復後推定価値:15万〜22万円

 備考:現行品より旧式だが基礎術式の精度が高い

 修復には魔道具専門の業者が必要

 ――――――――――――――――――――


 「これは修復できます。しかも修復後15万〜22万円」


 『また修復案件』

 『回収屋の得意パターンだ』


 続けて2点目。


 ――――――――――――――――――――

 魔力蓄積型護符・旧式(機能停止)

 希少度:C

 現在価値:低(機能停止)

 修復可否:可能(術式の再刻印で復活)

 修復後推定価値:4万〜6万円

 備考:旧式の術式構造だが素材は良質

 ――――――――――――――――――――


 3点目。


 ――――――――――――――――――――

 古式魔鋼製小刀(刃こぼれあり)

 希少度:B

 現在価値:素材価値として7万〜10万円

 修復可否:不可(刃の構造が再鍛造に不向き)

 備考:刃の修復は困難だが素材の魔鋼自体に価値がある

 買取業者への直接持ち込みを推奨

 ――――――――――――――――――――


 4点目。


 ――――――――――――――――――――

 魔力石製小瓶(中身あり)

 希少度:C

 現在価値:内容物込みで3万〜4万円

 備考:保存状態が良好な魔力液が封入されている

 専門の薬品業者への持ち込みを推奨

 ――――――――――――――――――――


 5点目。


 ――――――――――――――――――――

 旧式術式板(劣化)

 希少度:D

 現在価値:ほぼなし

 備考:術式が完全に失効しており、素材としての価値も低い

 ――――――――――――――――――――


 「5点全部鑑定しました。修復できるものが2点、素材として使えるものが2点、価値がないのが1点です」


 コメントが止まった。


 『部屋ごと宝の山じゃん』

 『封印されてた理由は』

 『管理局に報告するの?』


 「管理局には帰りに報告します。そもそもこの部屋、地図に載ってないということは、廃棄区画なんだと思います。放置されてた物品は回収品の扱いになると思うので、持ち出して大丈夫なはずです」


 5点を袋に入れると重みを感じる。


 「けっこうずっしりきますね」


 部屋を出るとき、コメント欄の数字が目に入った。

 登録者が9,700人になっていた。


 配信を続けながら他にも何かないかと周囲を探索しつつ、出口方向へ向かっていた。

 今回は一つの山場もきっちりと配信できたし、中身の濃い回だったと思う。


 そんなことを思いつつも出入口のゲートを抜けると、スマホの通知が来た。


 ダンジョンTubeからの自動通知だった。


 『おめでとうございます。チャンネル登録者が10,000人を超えました』


 そのメッセージに思わず立ち止まる。


 「……10,000人になりました」


 コメントが一気に流れた。


 『おめでとうーー!!』

 『ついに!』

 『記念すべき瞬間が配信中に来た』

 『ここにいてよかった』


 「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 言葉が少し詰まった。

 0人から始めたこの配信が、最初の配信で38人が見てくれて、今夜1万人になった。

 コメント欄に祝福が次々と流れていく。読み切る前に、新しい行が上に重なっていく。

 画面を一度伏せて、もう一度開いた。数字は変わっていなかった。

 

 「これからもよろしくお願いします」



 ◇



 管理局に封印部屋の件を報告してから、修復業者に2点を預けた。

 残りの2点は翌日に別の業者に持ち込む予定にした。


 「1万人かぁ」


 帰路につく最中、これまでのことを考えていた。

 配信を始めてからまだ1か月も経っていない。

 にもかかわらず、もう登録者数が1万人を突破した。


 「会社をクビになってからのほうが人生順調過ぎだろ」


 人生、何が転機になるかよく分からないものだ。

 生暖かい夜風が優しく頬を撫で春の到来を感じる、そんな日の夜の1コマだった。

読んでいただきありがとうございます。

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