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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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142/149

光と加護と、そして願いの開会式

 黒い銃口が、光の奥を捉えた。


 神父の指が、引き金を押し込もうとする。

 その直前だった。


 神父の足が、反射的に一歩だけ後ろへ下がった。

 表情は変わらず、だが、体が本能的に動いていた。


 殺意。


 そう呼ぶしかないものが、特別ラウンジの中へ強引に割り込んでくる。


 銃声は鳴らなかった。


 代わりに、何かが神父の目の前を通り過ぎた。


 音はなく、魔力反応もない。

 光の屑が揺れたわけでもなかった。


 そこに何かがある、と目で確認できるものは何もなかった。


 僅かに遅れて、神父の右腕がごく自然に床へと落ちた。

 肘から先が、黒いリボルバーを握ったまま割れたガラスの近くへ転がる。


 止まっていた特務隊員たちは、まだ動かない。

 支援チーム職員も、端末へ手を伸ばした姿勢のまま固まっている。


 完成された静寂の中に、黒い影が入ってくる。


 「よお。随分と物騒なモン、持ってんじゃねぇか」


 服部玄之丞だった。

 片手に長刀を持ち、もう片方の手で窓枠を軽くつかんでいる。


 「この部屋ごと叩き切るのは骨が折れたぞ」


 服部は、床に落ちた腕を見ても眉ひとつ動かさなかった。


 神父は自分の右腕があった場所を見た。

 血は出ているが、その量は少ない。


 切断面の周囲で、黒い呪詛と時間操作の残滓が絡み合っている。


 「また…あなたですか」


 「おう。また俺だ」


 服部が長刀を肩に担ぐ。


 「撃とうとしてただろ。危ねぇじゃねぇか」


 神父は床に落ちた腕へ視線を向けた。

 黒いリボルバーの表面で、光の屑が白い火花を散らしている。


 「スキルごと断ち切るとは、あなたも大概ですね」


 「お前もこの部屋ごと時を止めるなんて、随分と大概じゃねぇか」


 服部は長刀の切っ先を神父へ向けた。


 「面倒だからおとなしく捕まれよ」


 神父は左手だけで祭服の袖口を押さえた。

 腕を落とされた直後とは思えないほど、声は落ち着いている。


 「ふふふ、お断りさせていただきます」


 「だろうな」


 服部の足元で、止まっていた光の屑が少しだけ動いた。

 切られた時間が、元ある姿へと戻り始めていた。



 ◇



 アメリカ東海岸のニューススタジオでは、女性キャスターが手元の原稿を読んでいた。


 画面の端には、WEG東京の開会式映像が小さく流れている。

 司会の声はいつもの調子だった。

 深夜から開会式の生中継を行っていたが、光の屑演出が話題となり、それを早朝のニュースで取り上げることになってからは、中継とは別にニューススタジオではこの話題を取り上げていた。



 「東京で行われている世界探索者競技大会の開会式では、予定外と見られる光の演出が確認され……」


 そこまで読んだところで、スタジオの照明とは違う光が、彼女の指先に落ちた。


 白い粒だった。


 紙吹雪ではない。

 埃でもない。


 女性キャスターが言葉を止め、急に上から降ってきた何かに少しだけ驚いた。

 それを見た隣の男性キャスターが、続々と降ってくる光の屑を見てスタジオ内を見上げた。


 「これは……何ですか?」


 男性キャスターの言葉にスタッフの声が入る。


 「スタジオ内に光が入っています」

 「外からですか?」

 「……ここは閉鎖空間ですから、外からではありません。どこから来ているんだコレ?」


 光の屑は目に見えるレベルで次々にスタジオ内へと侵入してくる。

 見た目がキラキラと輝いており、それを見て不安に感じる要素は何も感じられない。

 思わず手で掬い取ろうとすると、すぐに体内に染み込むかのように消えていき、改めてこれはなに、とスタジオ内にいる全員が軽いパニックになりかけていた。


 その時、女性キャスターの胸元に薄い紋章が浮かんだ。

 本人がそれに気づく前に、スタジオ内のスタッフが息を止める。


 「あなたの胸に、何か出ています」


 「私の、ですか?」


 彼女は自分の胸元を見下ろした。

 白い紋章は、数秒だけ光ってから薄くなる。


 画面の右上では、東京のスタジアムに光の屑が降り続けていた。


 同じ頃、欧州のスポーツニュース番組でも、アジアの屋外中継でも、中東のホテルロビーでも、南米の配信者の部屋でも、似たような光が確認されていた。


 誰も、その紋章が何を示すのか知らない。

 ただ、映像だけは一斉に広がっていく。


 SNSには短い投稿が流れ続けた。


 『東京の開会式を見ていたら部屋に光が出た』

 『触っても熱くない。少し温かい』

 『胸の前に白いマークが出た』

 『WEG東京、世界規模の演出なのか?』

 『いや演出で家の中に光は来ないだろ』

 『今年の開会式、もう伝説でいい』


 世界中が、理由の分からないまま騒いでいた。



 ◇



 有明スタジアムの開会式は、終わりへ向かっていた。


 運営本部は、光の屑を予定演出の扱いにして、進行台本を止めなかった。

 実況席も、放送席も、細かい説明を避けながら映像をつないでいた。


 そして、グランドフィナーレ。


 フィールド中央の塔から、天へ向かって閃光が放たれた。


 白い光が空へ伸びる。

 その周囲を舞っていた光の屑が、閃光に触れて色を変えた。


 赤、青、金、緑、紫。


 光の屑が色を帯びて、アリーナへ舞い落ちる。


 流れ星みたいだった。


 観客席のあちこちで、誰かが声を上げる。


 「願い事しようぜ!」

 「え、今?」

 「今しかないだろ、こんなの!」

 「叶いそう!」


 笑い声が広がる。

 けれど、手を合わせる人は思ったより多かった。


 選手も、スタッフも、観客も、子どもも、大人も。

 色のついた光を見上げながら、少しだけ黙る。

 

 観客席は不思議な光景が広がっていった。

 皆、流れ星に見立てた光の屑に願いを込める。

 

 スタジアム内の喧騒が徐々に収まっていく。

 そしてたくさんの願いが、光の屑を介して天に昇って行くのだった。



 ◇



 一方俺はまだ上空にいた。


 謎の力によって空中に浮いていた俺は、「これ、いきなり落ちないよな?」とビビりながらも空から光の屑をまき散らしつつ、ふわふわと徘徊していた。


 『りょう』


 シオが胸元で小さく揺れる。


 「どうした」


 その声が聞こえたのは、その時だった。


 『星に願いは届き、そして願いは果たされた』


 周囲の音が消えたわけではない。

 色も消えていない。


 だが、その声だけが、歓声や音楽とは別の場所から届いた。


 「……今の」


 『きこえた』


 シオの殻が、薄く光る。

 次の瞬間、空に残っていた光の屑が一斉に散った。


 降っていた光が、上へ弾ける。

 アリーナへ落ちかけていた粒も、屋根の外へ流れていた粒も、空の高い場所で細かく砕けていく。


 夜空が、満天の星のように盛大に煌めいた。

 まるで天の川のように大きな流れを見せていて、それは宇宙の大河を思わせる程に雄大な光景であった。

 手を伸ばせば指先に触れそうな高さに、星の粒がある。


 「星の海を泳いでいるみたいだ」


 『あまのがわ』


 「最近のシオは変に物知りだな。確かに川だな。天の川」


 『おりひめさん ひこぼしさん』


 「そうだな。今の俺らは織姫に会いに行くために、必死に天の川を泳いでいる彦星みたいだな」


 『すいすい すーだらだった すらすら すいすいすー』


 「………夜のスマホ視聴はほどほどにしとけよ…」


 『あいあいさー』


 シオはご機嫌で指揮棒を振り回していた。

 俺はそのご機嫌な姿がなぜか妙に嬉しかった。


 最後に、花火が上がった。

 音が、少し遅れて空に届く。


 有明スタジアムの開会式は、その光の中で幕を閉じた。



 ◇



 ちなみに後から聞いた話だが、この時配信ログには、妙なコメントが1つだけ残っていたらしい。


 『なんか空に真壁さんとシオが浮いてないか』


 そのコメントはすぐに流れ、いつの間にかコメント自体が消し去られていた。

 他のコメントは、ほとんど開会式のフィナーレを褒めるものばかりだった。

皆さま、世界探索者競技大会編を最後までご覧いただきありがとうございます。

この142話を持ちましてこの章は終了となります。

この後はいつもの閑話が入って、次章へと移っていく運びとなります。


95話から始まったこの章も気付けば40話を超えて、50話越えないよな…とまたいつものエピソード圧縮に四苦八苦した章でした。毎回これやってますね苦笑


今回の章ではカクヨムでサポーター専用SSと連動した話も公開しております。

こういう試みも今後試していきたいので、引き続きよろしくお願いいたします。



さて、次章ですが、これだけ名前を世界に売ってしまった真壁とシオに、とある一通の招待状が舞い込んできます。


それは『世界鑑定士連盟から、世界鑑定学会への招待状』でした。


毎年世界で持ちまわって開かれる『世界鑑定学会』の開催地は<アメリカ・モニュメントバレー>で開催されることが決まっており、そこへの招待でした。

ですが、真壁は例の如く「めんどくさいな…後回しにするか」と後ろ向きの反応を見せてしまい、また周囲に大変な苦労をかけてしまいつつも…というお話です。


真壁の初の世界遠征ですが、ダラダラとした進行にならないようまとめていきますので、引き続き応援よろしくお願いいたします。



七夕の夜に、皆様の願いが叶うことを祈って。


2026年7月7日19時10分 小狐

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