When You Wish Upon a Star?①
『なにがでるかな なにがでるかな』
俺だけが聞こえるシオの声に、俺は思わずシオを二度見した。
声をかけようか悩む間もなく、次の異変がここにいる全員に姿を現す。
宙に浮かんだ白いサイコロは、サッカーボールをひと回り大きくしたくらいのサイズで止まっている。
6つの面には、それぞれ大きな丸が1つだけ浮かんでいた。
しかも、その丸は全部金色だ。
「え? サイコロなのに出目が1のみ??」
思わず突っ込んでしまう。
(これ運命視だよな…運命視だよね??)
俺はダン博で見た久遠ことねの、あのスキルとは大分違った結果に動揺を隠せない。
「借りて来たスキルが違ってる?」
明らかにサイコロとしては1のみで成立していない。
でも、運命視の出目としては、たぶん最初から答えが決まっている。
突如として床から嫌な音が鳴り響いた。
そしてすぐに俺の足元から、土の匂いがした。
「…は?」
特別ラウンジの床が、ほんの数メートル四方だけ、土と草に変わっていた。
高級ラウンジの厚いカーペットでも、磨かれた床材でもない。
湿った土と短い草。
その真ん中から、古ぼけた大きな石板がせり上がってくる。
石板は、俺の膝くらいの高さまでせり上がって止まった。
表面には土がこびりついていて、文字は見えない。
古代遺跡の展示品みたいな見た目で、周囲を取り囲む特務隊は明らかに困惑の色を隠し切れていなかった。
俺は恐る恐る石板の端に手をかけた。
かなり重い。
だが、引き抜けない重さではない。
「……いきます」
誰に言ったのか自分でも曖昧なまま、俺は石板を引き上げた。
次の瞬間、石板の表面がぼろぼろと崩れた。
土と苔と石の外郭が剥がれ、その奥から黄金の光が広がる。
「……SSR確定演出?」
周囲からそんな言葉が漏れる。
俺はその声がした方向に視線を向けると、「あ、やべ」という声が返ってくる。
石の外殻が全部崩れると、手元には薄い金属板のようなものが残っていた。
そこに文字が浮かび上がる。
――――――――――――――――――――
運命表
出目:1
効果:When You Wish Upon a Star?
備考:願いを言葉にせよ
――――――――――――――――――――
「……願いを言葉にせよ?」
書かれていた言葉はそれだけだった。
「どういう…意味だ?」
この運命表にかかれているのは効果と備考を見て思わず呟くも、誰もこの問いには答えられない。
少なくとも、今すぐに理解が及ぶ説明ではなかった。
鑑定を通しても、何故だか表示の奥が霞んでいる。
運命表そのものが、鑑定を阻害する構造になっており、初めての経験だった。
『はやく さいころ ふる』
「これ、触っていいものか?」
『だいじょぶ ふる』
俺は浮かんでいる巨大サイコロへ手を伸ばした。
触れた瞬間、サイコロの表面は見た目より柔らかく、温かかった。
ゴムでも石でもない不思議な感触だ。
手のひらに、淡い熱だけが残る。
『なにがでるかな なにがでるかな』
何故かシオはご機嫌だ。
そして俺はサイコロを宙に投げ出した。
回転して、そして床に落ちる
【 1 】
当然のように、金色の1が上を向いて止まる。
その瞬間、どこからかファンファーレが鳴った。
緊迫した特別ラウンジに、まったく合っていない。
『ほぇんゆー…… りゃくして ほしにねがいをー!』
「えっ? それ昔あった昼のTV番組だろ? どこからそんな知識を…」
周囲に配置している特務隊はファンファーレの方が気になっているようだ。
「どこから聞こえているんだ?」
「明らかに外の開会式の音ではありません」
「この部屋のスピーカーじゃないのか?」
「本部に確認してみます」
特務隊と護衛チームの会話が、短く飛び交う。
誰も答えを持っていない。
ただ、シオだけがやけにノリノリだった。
『じゅんび おっけー いくぞ』
「……いくぞ??」
シオの本体から、細い触手が伸びる。
それは俺の肩から割れた窓ガラスの方へ一直線に走り、外へ抜けていく。
「………おい、ちょっと待て。とても嫌な予感がする」
触手はさらに伸びて、アリーナの屋根部分へ向かった。
夜の照明を受け、白い線が空中に伸びていく。
次の瞬間、俺の胴体へ別の触手が巻きついた。
胸、腰、腹とかなりがっちり巻かれている。
「ちょちょちょ、シオっ! これはダン博の時のアレだよな?! 俺、心の準備が……」
『あーい きゃーん ふらーい!』
シオは割れた窓ガラス目掛けて飛び出した。
俺も強制的に窓ガラスの外へと飛び出す。
足元から床が消えた。
そしていつの間にか眼下には客席が見えていた。
「ぎゃああああああああ!!!!」
俺とシオは、割れた窓を抜けて特別ラウンジの外へ飛び出した。
そして元々いたあのラウンジへと視線を少しだけ向けると、特務隊が割れた窓ガラス周辺に集まっていた。
「緊急事態です!! 真壁さんが外へ出ました!」
「追跡班へ連絡! アリーナ上空!」
「どうする、拘束対象は」
「神父は厳重に見張れ!」
神父は両手を上げたまま、窓の向こうでこちらを見ていた。
その顔に、笑みは戻っていない。
ただ、妙に冷たい視線だけがこちらに向かっていた。
◇
「……これ死ぬ…マジで死ぬ…普通に死ぬ」
アリーナの上空を、俺はシオの触手に吊られて移動していた。
下には、開会式のフィールドが広がっている。
観客席はほぼ埋まっていて、照明が波のように動き、音楽が周囲に鳴り響く。
上から見ると、会場の広さが嫌でも実感できるくらいによく見える。
「……怖い……高い……高すぎる」
前回以上の速度でアリーナ上空を、シオの触手頼みで移動している。
シオは器用に触手を伸ばして、まるでブランコのように空を移動していく。
『あーあーあー』
「し、し、し、し、…シオ、速度……速度を少し」
『たーげっと はっけん』
シオはまったく聞いていない。
そして触手が屋根側の梁のような部分へ一度巻きつき、そこを支点にして俺たちの向きを変えた。
それに伴い視界が大きく揺れる。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
自分でもわかるほどに情けない声が出た。
一方のシオは気にしていない。
今は俺の胸元にぺたっと張りつき、このターザンごっこを楽しんでいる節さえある。
「しししし…シオ…どこまで行くんだ…」
『した』
ちょうど遥か真下に、パフォーマーたちがいた。
白と銀の衣装を着た集団が、中央フィールドの外周から内側へ進んでいる。
隊列は崩れていなく、振り付けも乱れていない。
観客には、ただの開会式の演目に見えているはずだ。
だが、鑑定を通すと違う。
前話で見た黒が、魂魄の近くに絡みついている。
薄い偽装層の奥で、闇の加護が反応していた。
――――――――――――――――――――
対象:開会式パフォーマー複数名
分類:演出参加者/闇属性加護反応保持者
表層:演出参加者登録/異常なし
深層:魂魄偽装層あり
最下層:闇属性加護反応あり
進行状況:開会式演出の進行に合わせ、感情増幅・集団同期により出力上昇中
推奨:魂魄接触を避け、外部加護による上書きまたは隔離を推奨
備考:通常浄化を直接当てた場合、本人の魂魄反応を巻き込む危険あり。
――――――――――――――――――――
「しししし、シオ。あ、あああああれの加護を……解くことは…ででできるかか?」
『むり』
即答だった。
「むむむ無理なの??」
『あれ ひとに くっつきすぎてる』
「……直接剥がすと…ま、まずい?」
『まずい』
普通の呪物なら、シオの光で祓える。
呪詛なら、付着している部分を払える。
だが今回は、人の魂魄に近いところへ、それも加護の形で侵食されている。
無理に剥がせば、魂魄ごと傷つける。
それは駄目だ。
「……じゃあ、どうする?」
『まつ』
「…な、何を…」
その問いは、最後まで口から出なかった。
急に音が消えた。
開会式の音楽も、観客の歓声も、風を切る音も、全部消える。
そして視界から色が抜けていく。
全部が白と黒の濃淡だけになった。
俺とシオだけが、色を失っていない。
そして俺らは宙で止まった。
「……なにごと?」
『**からの おくりもの』
「え? こ……なんて??」
『おくりもの』
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