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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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光と加護の開会式⑦

 中央演出塔の外装を外した瞬間、俺とシオはほとんど同時に声を出していた。


 「これだ」


 『これだ』


 剥き出しになった中心部には、演出用の魔道具とは別に、黒ずんだ芯のようなものが食い込んでいた。

 太さは手首ほどで、表面には細い術式線が絡んでいる。

 見た目だけなら、補助触媒か内部フレームの一部に見える。


 だが、鑑定を通すと違う。


 ――――――――――――――――――――

 対象:中央演出塔中心部

 分類:演出用大型魔道具/内部封入型呪物核

 表層:開会式演出用増幅装置

 内部:呪術汚染系統の核反応あり

 接続:正規配線へ寄生。起動時、演出光と同時に呪物反応を拡散する構造。

 危険度:極高

 推奨処理:正規配線を切断せず、呪物核のみ浄化。聖系統による局所除去を推奨。

 備考:外装状態では補助触媒に偽装され、通常検査では演出用部材として通過する可能性が高い。

 ――――――――――――――――――――


 演出魔道具の光を増幅する配線の奥に、まったく別の術式が重ねられている。

 しかも、ただ隠しているだけではない。

 正規の配線に少しずつ浸食させて、起動時に同じタイミングで反応するように組まれていた。


 これを開会式本番で動かしたら、中央演出塔そのものが巨大な呪物拡散魔道具へと早変わりになる。


 「真壁さん、八咫烏が到着します」


 支援チーム職員の声が、ウォーミングアップエリアに響いた。

 その数秒後、天井側の仮設足場から3人が降りてくる。


 先頭にいた服部が、着地してすぐにこちらへ歩いてきた。

 東雲は周囲の警備配置を見て、久遠ことねは中央演出塔のむき出しになった中心部を覗き込む。


 「私を呼びつけるなんて、随分と偉くなったな、小僧」


 ことねが、あの時の感じのままに俺に投げかけてくる。

 両手にはミスリル製の小手がついたままで、軽い口調のわりに周囲を警戒していた。


 「あ、すいません。でも戦闘力という意味で頼れる人たちは、あなたたちしかいないんです」


 服部が、演出塔の中心部と俺を交互に見る。


 「俺らにしか頼れないって、どんだけコネ強いんだよ」


 東雲が一歩近づき、むき出しになった中心部を見下ろした。

 指先が、部品の手前で止まる。


 「これはまた、随分と厄介な呪物ですね」


 東雲の指先に、薄い魔力光が灯る。

 触れない距離で止めたまま、術式を確認していた。

 そして東雲は俺の方に向いた。


 「この処理のために呼んだんですか?」


 「いえ。どちらかというと、明日の相談です」


 「明日?」


 「はい。ただ、まずはこれを何とかしないと」


 俺はシオを見た。

 シオは殻の奥から顔を出し、中央演出塔の芯へ頭を向けている。


 「シオ、この呪物を祓えるか?」


 『やってみる』


 シオは光聖の指揮棒を出現させる。


 『せいじょうの はどう』


 指揮棒の先から、白い光が薄い波になって広がる。

 その光が黒ずんだ芯へ触れた瞬間、呪物の表面が激しく抵抗を始めた。


 「かなり強い呪物ですね。シオの聖なる波動に抵抗している」


 鑑定表示の中で、呪物反応の濃度が下がりつつあるが、シオの聖系スキルにここまで抵抗できる呪物はここ最近記憶にない。


 呪物は徐々に祓われていくものの、黒い芯の奥だけがしつこく残った。


 「シオ、ここからは注意が必要だ。呪物が色んな所に飛び散っていて、そのまま当て続けると飛散するかもしれない」


 『わかった』


 強力な呪物を中心に添えているため、周辺にも影響を及ぼしている状況の中であった。

 無理に偏った呪いの除染を進めてしまうと飛散する可能性もあることから、ここからは慎重に進めていく。


 「シオ、もう少し中心部を強めでもいい」


 『ぐぬぬ』


 シオが、聞いたことのない声を出した。

 殻の光が一段強くなり、指揮棒の先から出る波が細く絞られる。


 それが黒い芯の根元へ器用に入り込んでいく。

 呪物反応もそれに応じてゆっくり削れていった。

 

 途中で一度、呪物が抵抗するように震えた。

 支援チーム職員が後ろへ下がり、服部が自然に前へ出る。


 「シオ、周囲に波動を強めにかけてくれ」


 『ぬぬぬぬ』


 数分間続いた攻防の最後に、芯の奥から黒い煤のようなものが浮いた。

 シオの光がそれを包み込み、細かい光の粒に変える。

 同時に鑑定表示から、呪物反応が消えた。


 「シオすごいぞ。まるで頑固な油汚れがスッキリ落ちたみたいだ」


 服部が顔をしかめる。


 「例えが生活感ありすぎんだよ」


 「いや、すいません。なんか、落ち方が…」


 「真壁さん、今のは洗剤のCMではありません」


 俺は何も言えずに、浄化後の中心部をもう一度鑑定した。


 呪物反応はない。

 演出魔道具側の正規配線にも特に損傷は見られない。

 本当に、きれいに呪いだけが剥がれている。


 「あの呪いを、こうもあっさり浄化させるんですか」


 東雲が短く息を吐いた。

 ことねは、シオへ指を向ける。


 「こいつ、なんでもアリじゃね? 強キャラじゃん。ずるい」


 『ずるくない』


 「ずるくない、だそうです」


 「言い返すなよ。かわいいな」


 シオが本体を少しだけ膨らましてドヤ顔ポーズをとる。

 ここ最近よく見かけるポーズで、シオの好きなポーズらしい。

 こういうのどこで覚えてくるのだろうか。


 そして服部は中央演出塔から離れ、俺の前に寄ってくる。


 「しかし、こんなもの仕込むなんて、お前、随分と厄介な相手に絡まれてるな」


 「その件で相談です」


 俺は、会長の姿で現れた人物について話した。


 ダン博で出会った神父と同一人物の可能性。

 前日に、わざわざ俺の前へ姿を現したこと。

 挨拶の短い時間だけで、俺とシオに違和感を残していったこと。


 話している途中で、服部の表情が硬くなっていく。


 「即時拘束しよう」


 服部はそう言って、すぐに通信端末へ手を伸ばした。


 「待ってください」


 「なぜだ」


 「これだけじゃないような気がしているんです」


 服部につられて動きそうになっていた周囲も即座に止まった。

 支援チーム職員も、後からやって来た八咫烏の後続班も、中央演出塔を囲む護衛たちも、そこでこちらを見る。


 「ここまで仕込んで、更に何かを仕掛けてくる。そう言っているんですか?」


 「恐らく。多分、勘ですけど」


 「だが、あんな特級の手配犯を勘で拘束を止めるのは、なぁ」


 正直、言っている自分でも無茶、いや、無謀だと思う。

 相手は、ダン博で八咫烏とやり合って逃げきった神父だ。

 見つけたなら拘束する、それが普通だ。


 でも、同時にずっと引っかかっていた。


 「なんで俺の前に、それも前日に姿を現したんでしょう」


 俺は周囲に視線を向ける。


 「会長に偽装していたなら、俺に会うリスクはかなり大きいはずです。更にはシオもいる。俺の鑑定のことなんて、向こうの方がよく分かっていると思います。避けるだけなら、いくらでも理由を作れたはずです」


 中央演出塔の奥で、作業用ライトが一瞬瞬いた。

 

 「でも、あの人は出てきた」


 俺は浄化された中心部を見る。


 「どうも、見抜いてほしいという気すらしています」


 「うーん。どう考えても嫌なタイプ」


 「はい。間違いなく嫌なタイプです」


 東雲が小さく頷く。


 「ここまで見抜くことを想定していた場合、ここで拘束すると最後のピースを取り漏らす恐れがある、ということですね」


 「そうです」


 「そうはいっても、何が仕掛けられているのか分からんのだろう?」


 「その鍵は、たぶん明日にあります。あいつはもう一度、必ず接触してくるはずです」


 「…その根拠は?」


 「俺に見抜かせたいなら、最後は俺がその場にいないと成立しません」


 服部は返事をしなかった。

 東雲も、ことねも黙っている。


 俺はそのまま続ける。


 「俺が必ずこの目で暴いてみせます。だから、その後のサポートや処理をお願いします」


 ことねが、盛大に息を吐いた。


 「はぁ。私らがお前の尻拭いさせられるとは」


 服部が端末から手を離す。


 「まぁ、こいつには借りあるしな」


 「私たちがあいつを取り逃がしたのも、半分は私たちに責任がありますしね」


 東雲はそう言って、何もない空間へ手を出した。

 淡い光が集まり、分厚い魔導書が現れる。


 「まずは備えから始めましょう」


 服部とことねが、ほぼ同時に頷いた。


 「だな」


 「うむ」


 俺は、その魔導書を見てなんか見たことあるな、そう思ったのか思わず声が出てしまう。


 「あれ?」


 東雲がこちらを見る。


 「どうしました」


 「あ、いや。…それ、なんですか」


 「魔導士のスキルです。これに魔法を登録しておくことで、魔法が使えるようになります」


 服部が、呆れた顔で俺を見た。


 「そんなことも知らんのか。めちゃくちゃ有名じゃねえか」


 「すいません。戦闘職のスキルは、正直そこまで」


 「お前、鑑定士としては化け物なのに、知識の穴が変なところに大きくぽっかりとあるよな」


 否定できない、と思いつつも俺は東雲の魔導書を見て、今度はシオを見る。


 シオの光聖の魔導書。

 あれも本の形をしていて、ページに光の文字が出る。

 俺はとある考えが頭の中に浮かんだ。


 「久遠さん」


 「ん?」


 ことねがこちらを向く。


 「お願いがあります。ことねさんのスキルをコピーさせてくれませんか」


 「……はぁ? 小僧のスキルは鑑定だろうが」


 「いや、俺じゃないです。シオにです」


 その場にいる全員の視線が、シオへ集まった。

 シオは俺のやりたいことを察したのか光の指揮棒が消え、代わりに小さな光の本が現れた。


 《光聖の魔導書》


 白い表紙が開き、何も書かれていないページが淡く光る。

 そしてシオは、たぶんシオ生で一番得意げな姿勢を取った。


 『ことね すきる だせ』


 「えと、ことねさん、スキルを出せ、と」


 「出せ? 命令かよ!?」


 ことねの声が、ウォーミングアップエリアに響いた。



 ◇



 「シオ」


 特別ラウンジの割れた窓から、アリーナの歓声と音楽が入ってくる。


 下のフィールドでは、闇の加護を仕込まれたパフォーマーたちが予定位置へ進み続けている。

 神父は拘束班に囲まれたまま、こちらを見ていた。


 「あのスキルを」


 『がってん!』


 シオの殻の奥に光が灯り、光聖の指揮棒が現れる。

 続けて、白い光の魔導書が現れる。

 さらに小さな宝珠が、シオの周りに浮かぶ。


 光聖の魔導書のページが、ぱらぱらとめくれる。

 そこに、金色の文字が浮かび上がった。


 ――――――――――――――――――――

 登録スキル:久遠ことね/運命視

 分類:特殊系補助スキル

 登録状態:一時登録

 発動補助:光聖の指揮棒/光聖の宝珠

 備考:発動結果は場の条件に依存する。

 ――――――――――――――――――――


 シオは指揮棒を持ち上げた。

 魔導書のページが開いたまま止まり、宝珠が数回瞬いた。


 『すきるはつどう うんめいし』


 「?!」

 「なんだっ?!」


 この場にいる全員の視界が一瞬だがぶれた。

 ふらつきにもにた感じだったが、強制的にこの空間自体がズレたような気もする。

 

 その直後、空中に、白い立方体が現れる。


 最初は一般的なあのダイスの大きさだった。

 だが、それはすぐに膨れ上がり、サッカーボールをひと廻り大きくしたサイズまで大きくなっていく。


 『なにがでるかな なにがでるかな』


 6つの面に、淡い金色の目が浮かんでいる。

 そしてサイコロの目は全て『1』で統一されていた。

 

 神父の笑みが、そこで初めて止まった。

読んでいただきありがとうございます。

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