光と加護の開会式④
作者よりお知らせです。
カクヨムの方でサポーター専用のSSS第8話目『榊健司は見逃さない②(前編)』を近況ノート更新しました!今回のSSは没エピソードを編集し直した結果、長くなりすぎてしまったので3部作構成となっています。(※三日間連続で更新します)
カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)
「俺に案があります」
ホテルの会議室でそう言った瞬間、ノートパソコンに手を伸ばしていた職員まで動きを止めた。
支援チームの人たちも、内閣府特命チームの人たちも、すぐには頷かなかった。
なぜなら会長に化けている相手が、ダン博で八咫烏とやり合って逃げた神父かもしれない、そんな超危険人物をのさばらせているこの1秒が惜しい状況だ。
だからこそ普通に考えれば、即時拘束が正しい。
俺も、それは分かっている。
それでも、言わなければならなかった。
「八咫烏に、至急連絡を取ってください」
内閣府特命チームの一人が、すぐにスマホへ手を伸ばした。
隣の支援チーム統括が、確認するように俺を見る。
「八咫烏を、拘束担当として呼ぶということですか」
「はい。ただ、すぐに会長を押さえるのは待ってほしいです」
その場にいた何人かが、一斉に顔を上げた。
「真壁さん、それは流石に危険です」
「分かっています」
「相手はあの神父の可能性が高い。ダン博で八咫烏を相手に逃げた人物です。接触を続ける理由がありません」
「危険な相手だというのは分かります。ですが一番知りたいことが聞けるチャンスでもあります」
「それは…一番知りたいことって何なんです? 今はあいつらを拘束することよりも、優先すべきことがあると?」
俺はその言葉に頷いた。
「たぶん、あの人は会長に化けて、わざわざ俺に挨拶に来ただけじゃありません。開会式に何か仕込んでいます」
会議室が静かになる。
「……根拠は」
「今のところは…勘です」
自分で言っていて、ひどい返答だと思った。
だが、絶対に何かあると俺の中のサイレンが、けたたましく鳴り響いていた。
「ダン博の時とは違って今回は色んな所に仕掛けてきました。放送機材だけではなく、リンクプリズム、中継核、潜入者。入念に手をかけ過ぎています。だから今回も、会長に化けているだけで終わるとは到底思えません」
内閣府特命チームの人が、難しい顔を見せつつ周囲を伺う。
「…では、どうするつもりですか」
「今から、有明スタジアム全体と搬入物に鑑定をかけます」
支援チームの職員が「ん?」と呟き、そしてこちらを見る。
「真壁さん、何を言っているかわかってますか? この会場内に搬入されているものだけでも、相当な量になります」
「それは分かっています」
「実物確認まで含めれば、今日中に終わる保証はありません」
「それでもやります」
物品以外にも会場も8万人も収容できるとあって、とてつもない大きい。
8万人収容の大型スタジアムには、フィールド、観客席、照明、音響、演出装置、選手導線、スタッフ通路、地下搬入口、VIPラウンジまである。
そこに運び込まれる荷物まで含めれば、鑑定対象は1枚の用紙に収まる量ではなかった。
「さすがに、それは真壁さんでも無理では」
支援チームの職員が言った。
明らかに心配している声だった。
俺は少しだけ考えるも、即座に首を横に振った。
「大丈夫です。必ず見つけます」
シオが肩の上で、殻の奥から顔を出してこちらを見上げた。
『みる』
「ああ。見よう」
支援チームや特命チームがお互いに視線を合わせた。
「しょうがない。我らがボスがそう言うんだったら、腹くくるしかないでしょう」
「……はぁ。真壁さんは普段はおとなしいのに、こういう時は随分と勇ましくなるんですよね」
「英雄というのはそういうもんだ。ここぞ、と言うときに最大限の力を発揮するから英雄なんだよ」
そしてお互い見合って苦笑した。
「まずはWEG東京の上層部に話を極秘で通しに行きます。そっちは会場内の作業記録、搬入記録、最終演出プログラム、警備区画図などをまとめてください。集め次第、真壁さんには見られる順に見てもらいます」
内閣府特命チームの人も頷いた。
「こちらは即、官邸へ上げます。特務隊の精鋭を集結させます。八咫烏にも即時連絡。会場側へ圧力も官邸からかけさせます。名目作りは任せてください」
そこからは、急に部屋が動き始めた。
誰かが通話をつなぎ、誰かが資料を取りに走る。
ホテルの会議室のテーブルに、会場図と搬入リストが並び始めた。
同じ頃、ホテル内の別室では、内閣府特命チームの連絡担当が官邸回線を開いていた。
『あの神父本人の可能性が高いなら、即時拘束を優先すべきだ。真壁氏を近づけるなど無謀だ』
特命チームの人が、会議室から送られてきた資料を見ながら返す。
『ですが、ここで鑑定対象を洗い直さずに拘束した場合、奴らの仕込みが残る可能性があります。真壁さんでないとそれは判別つかないことです』
『英雄扱いと作戦判断は別です』
『英雄でなければ、そもそもこんな役はできません』
別室では、即時拘束を求める官邸側の声と、WB側が仕込んだと予想される何かの見落としを恐れる特命チームの声が何度も交わされた。
そのやり取りが会議室へ戻ってきたのは、数分後だった。
支援チーム統括のスマホに、『真壁氏の鑑定を優先する余地を残す』、という結論だけが届いていた。
俺はその報告を聞きながら、会場図を見ていた。
「それと」
俺は顔を上げた。
「敵の仕込みが判明したあとであっても会長の捕縛は待ってください」
「真壁さんっ」
支援チーム統括が、席から立ってこちらを見る。
「危険なのは分かってます。でも、俺はあの人ともう一度話したいです」
「話すって…。それは神父に猶予を与えるに等しいってことわかってますか?」
俺は頷いた。
「それでも…俺はどういう奴らなのか、この目で見極めたい」
会議室の端で資料をめくっていた人まで、そこで手を止めた。
普段の俺なら、たぶんここまで言わない。
危険だと言われれば、そうですねと頷いて、あとは専門家に任せていた。
それでも、あの神父は会長の姿で俺の前に来た。
俺はそれがずっと頭の中に強烈な違和感として残っていた。
そして席を立ち、頭を下げる。
「お願いします」
支援チーム統括は、長く息を吐いた。
「……条件を付けます」
「はい」
「護衛チームをすぐ近くに伏せます。真壁さんとシオに危険が及ぶ、または会場全体に被害が及ぶ兆候が出た場合、あなたの同意を待たずにこちらの判断で動きます」
「分かりました」
「ラウンジ内の通信は常時開けてください。シオの反応もこちらで確認します」
「…はい」
「そして八咫烏が到着次第、現場判断は八咫烏の作戦管制と合同で進めます。あまり言いたくない表現ですが、真壁さんは今回、囮になるに等しい決断をされました。ですが、我々はあなたを失いたくありません」
「俺だって死にたくはありません。……その条件でお願いします」
口ではそう答えたが、囮という言葉だけが頭の片隅に残る。
◇
そして開会式前日の夜から、俺は有明スタジアムの鑑定を始めた。
最初は資料から目を通していく。
開会式の進行表、演出装置の搬入リスト、フィールド中央の大型展示物、音響卓、照明卓、選手入場門、公式配信用の中継魔道具、VIP導線、各国代表団の待機室まで、確認できるものは順に見ていった。
もちろん、実物を見なければ分からないものもある。
それでも、資料に残った術式記録、購入履歴、整備履歴、魔力検査ログを読み、少しでも違和感があれば現場確認へ回した。
リストを一つずつ潰しても、俺の鑑定スキルは呪物や汚染術式につながる反応を示すことはなかった。
夜が更ける頃には、目の奥が若干の熱を帯びていた。
支援チームの人が休憩を勧めてくれたが、俺は首を振った。
シオも、肩の上で眠らずにいた。
『まだ』
「そうだな。まだだ」
建物そのものにも鑑定をかけた。
観客席、入退場ゲート、選手通路、照明、音響設備、大型スクリーン、フィールド中央の床まで、順に鑑定していった。
それでも、決定的なものは見つからない。
自分の勘違いかもしれない。
そう思いかけた時だった。
地下搬入口の映像に映った白いカバーの構造物は、開会式後半にフィールド中央で使われるセレモニー用の塔だった。
搬入時刻は予定通りで、いま運び込まれてきたようだった。
それを見た直後、シオが身を乗り出してその映像を見る。
「シオ…なんか匂うな」
『におう』
俺はすぐ傍にいた支援チーム職員に指示を出す。
「これ、いますぐ鑑定かけます!」
「分かりました! 中央演出塔ですね。護衛チームに連絡します」
「お願いします」
支援チーム職員がすぐに現場へ連絡を入れる。
搬入作業が一時停止され、一時的にアリーナに通じるウォーミングアップエリアまで、中央演出塔は移動された。
そしてチーム真壁を引き連れて俺はその場に向かった。
近づくほど、銀色の支柱の奥にだけ、強烈な違和感を鑑定スキルが拾った。
『なんか いやなかんじ する』
「シオ、俺の鑑定も違和感を捉えている」
この中央演出塔の図面を受け取り、中身がどうなっているのか一通り確認する。
「一旦外側を外してください」
俺の指示に護衛チームが即座に動き、慎重に外側を剝いでいく。
そして中央にある演出魔道具が剝き出しとなった。
「これだ」
『これだ』
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