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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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光と加護の開会式①

 WEG東京開会式当日。


 有明の大型スタジアムは、昼の時点でほとんど別の国みたいになっていた。

 外周には各国の旗が並び、入場ゲートの前では代表チームのユニフォームを着た観客が写真を撮っている。

 警備員の数も、俺が今まで見てきたどのイベントより多かった。


 8万人収容の超大型スタジアム。


 数字としてもそうだが、実際に目の前でその規模を見ると、その数字の大きさを実感してしまう。


 スタジアムの外階段には人の列が何本もできていた。

 ボランティアや誘導のスタッフが準備をしているみたいで、関わる人の多さにも凄さを感じる。

 そして競技場内からは開会式のリハーサル音が低く響いている。

 音楽と開会式セレモニーに関する確認の声が、ここまで伝わっていた。

 

 空を見上げると雲一つない晴天がそこにあった。

 

 「夕方から開会式始まるけど、今日は暑さ残りそうだなぁ」


 「真壁さーん、まもなくですのでこちらに来てください!」


 「あ、今行きます」


 配信スタッフに呼ばれて、俺は裏動線にあたるスタッフ用通路に戻る。


 今日の昼から、WEG東京公式配信で「開場直前・有明スタジアム紹介」という生中継枠が組まれていた。

 この配信は会場の導線、警備体制、中央演出装置、各国代表の入場口を軽く紹介するという内容で、本来なら公式アナウンサーと大会広報の人だけで進める予定だったらしい。


 ただ、俺は今回、公式鑑定解説員であり、合同鑑定アドバイザーでもある。

 さらにここ1週間で、装備監査やDOP関連の確認に何度も顔を出していた。


 そのせいで、公式側から「安全面の見どころを、真壁さんにも少しだけ話してほしい」と言われた。


 この『少しだけ』、という言葉は最近曲者のように思えている。

 俺の中でこの言葉は大暴落中で、聞いた瞬間、よし、断ろうと思うのだが。

 思うのだが、断れない。

 俺も最近かなりやらかしているので、それを償う意味も込めて内心、嫌々ながら引き受けている。

 

 「開会式本番の解説ではなく、開場前の会場紹介だけですから」と言われたので、俺は一応納得したのだが…。


 その結果が、これである。

 俺は公式スタッフ用の通路で、カメラに向かって軽く頭を下げた。


 「どうも。真壁遼です。今日はWEG東京開会式の公式中継に、少しだけお邪魔しています」


 そう言った直後、コメントが流れた。


 『少しだけ(事故配信)』

 『公式事故配信は新鮮』

 『シオちゃん映して』

 『シオちゃん殻になにかカードぶら下げているぞ』

 『ここは裏動線?』

 『このために出来たスタジアムだっけ』

 『真壁さん、今日は検査しないで』


 最後のコメントを拾うのはやめた。


 肩の上では、シオがスタジアムの方を向いている。

 あのシオ大暴走の一件があって、シオの殻には首輪みたいな輪にそこから本人身分証を兼ねたアクレディテーションカードがぶら下げられていた。

 もちろん俺もおなじADカードを首からぶら下げているのだが、シオは専用の識別票みたいになっており、大きさも半分以下となっている。

 

 「シオ、今日は人が多いからな。勝手にカメラに飛びつくなよ」


 『いく』


 「行くのはだめだ。見るだけな」


 『みるだけ』


 コメントが一気に速くなる。


 『真壁さんの翻訳草』

 『シオ、行っちゃだめだろww』

 『シオちゃん返事した?』

 『みるだけかわいい』

 『シオちゃんまじで今日も尊い。。。』

 『真壁さんの通訳が自然すぎる』

 『またカメラ行こうとしてる?』

 『公式シオカメラ常設しろ』


 俺は軽く咳払いした。


 「ええと、今日は本当に開会式の雰囲気をお届けする配信です。今いる場所は関係者しか入れない場所でして、主に探索者の方々が開会式セレモニーに出るための待機場所として、本日は利用されます」


 隣にいた公式配信スタッフが、なぜか小さくうなずいた。

 まるでそこが一番大事だと言わんばかりだった。


 「では、一足先にスタジアム内に向かいたいと思います」

 

 配信スタッフが配信からは見切れた場所で「こちらです」と分かるようなジェスチャーで先導してくれる。


 「この扉を抜けると…おっ! これが観客席ですね!!」


 関係者用の扉からスタジアム内の1F観客席に出ると、開かれた視界の先には本日の最終チェックを行うスタッフがアリーナ内に多くいた。

 

 フィールド中央には、巨大な展示物が置かれている。


 白銀の骨組みで作られた塔のようなものだ。

 根元は円形で、上へ向かって枝のように広がっている。

 開会式のクライマックスで開き、各国の紋章と光の演出が出る予定らしい。


 公式資料には、世界樹をイメージした中央演出装置、と書かれていた。

 俺はその装置を一度だけ見て、すぐにカメラへ視線を戻した。


 「フィールド中央にあるのが、今日の演出装置ですね。今は安全確認済みで、開会式中に光の演出が入る予定です」


 安全確認済み。

 シオが、肩の上でほんの少しだけ身じろぎした。

 俺は指先で殻を一度撫でる。


 「大丈夫」


 『だいじょうぶ』


 シオの返事は短かった。

 そこから先の昼配信は、思ったより普通に進んだ。


 各国代表が出てくるアリーナ入場口を遠くから映し、観客エリアの飲食ブースを紹介し、公式グッズ売り場の列を見た。

 途中で司会の人から、注目競技について振られた。


 「真壁さん、今回のWEG東京で注目している競技はありますか?」


 「個人的には災害区画救助ですね。装備、判断、連携、全部が出る競技だと思います」


 「鑑定士目線だと、どこを見ますか?」


 「装備の派手さより、想定外が起きた時の動きです。予定通りに進む競技は見やすいですが、崩れた時に誰が何を確認するかは、かなり差が出ると思います」


 司会の人がうなずく。


 「なるほど」


 コメントも流れる。


 『急にちゃんと解説』

 『真壁さん、普通に有能』

 『普段も有能だろ』

 『あれ?遠くに久遠ことねっぽいのいたような』

 『予定が崩れた時の動き、もう経験談じゃん』

 『ダン博のこと?』



 配信は、開場前の会場紹介を終えたところでいったん区切られた。

 気付くと既に13時を過ぎている。


 開場は14時。

 つまり、観客が本格的に入ってくるまで、あと1時間ほどある。


 スタジアムの客席は、当然だがまだほとんど空だった。


 上段には警備員と案内スタッフが点在し、客席の通路では最後の表示確認が行われている。

 照明は明るいままで、フィールド中央の塔も、演出用というより点検中の大型機材に見えた。


 俺は公式関係者用の待機室へ戻った。


 水を飲み、スマホの通知を確認する。

 公式配信の連絡グループには、進行表の更新と、次に呼ばれる可能性のある時間帯だけが送られてきていた。


 『13:30以降は待機』

 『追加コメントの可能性あり』

 『本番中の移動はスタッフ誘導に従ってください』


 普通の連絡のはずなのに、俺がこのグループに入っている時点で、少しおかしい気もする。


 「……なんでこうなった」


 『おしごと』


 「仕事の範囲が広いんだよ」


 シオは俺の肩で、いつもより静かに丸くなっていた。


 

 ◇



 14時に定刻開場すると、外で列を作っていた観客が、順番にスタジアムへ入ってくる。

 最初はまばらだった客席に、国旗の色と代表チームのユニフォームが増えていった。


 15時を過ぎる頃には、1F席がかなり埋まってくる。

 16時台になると、アッパーフロアにも人の流れが徐々に増えていった。


 俺はその間、公式関係者用の待機室とAICの臨時控室を行ったり来たりしていた。

 表向きは、公式配信の追加コメントが必要になった時の待機。

 それ以外は、スタッフに案内されるまで待つしかない。


 17時を過ぎると、スタジアムの空気がはっきり変わった。


 客席はかなり埋まり、上段までかなりの人が座っていた。

 照明も外からの日差し量に合わせて調整がされていき、フィールド中央の塔だけが淡く浮かび上がっていた。


 開会式開始まで、あと20分ほど。

 そのとき、待機室の扉がノックされた。

 入ってきたのは、WEG側の担当者だった。


 「真壁さん。ヴァイスマン会長が、開会式を一緒にご覧になりたいと」


 「会長が、ですか」


 「はい。会場全体を見渡せる特別ラウンジがございます。短時間で結構ですので、と」


 俺はスマホを伏せた。


 「分かりました」


 予定通りだった。

 予定通り、向こうから来た。


 俺は立ち上がり、シオを見た。

 

 『いく』


 「ああ。行こう」

読んでいただきありがとうございます。

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