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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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特別番組に呼ばれました

 WEG東京の開幕まで、残り1週間になった。


 駅の構内には、各国代表の巨大ポスターが並んでいる。

 有名クランのエースが剣を構えている広告。

 魔法職の選手が、空中に展開した術式を片手で制御している広告。

 救助競技の選手たちが、崩落したビルの模型を背に走っている広告。


 その横を、会社員や学生や観光客が普通に歩いていく。

 東京の街が、いつもの東京のまま、少しずつ大会会場に塗り替わっていく。


 テレビでも、朝からWEG東京の特集が流れている。

 海外のスター探索者が来日したとか、どこのホテルに各国代表が入ったとか、注目競技のチケット倍率がどうなっているとか。


 普段ダンジョンに興味がない層まで巻き込むこの世界的なお祭りは、開催目前とあって国内でも高い注目を集めていた。


 世界探索者競技大会は、探索者の世界大会だ。

 言ってしまえばそれだけなのだが、実際に街がそれ専用にドレスアップされていくと、かなり印象が変わっていくのも確かだ。


 そして俺は、願うならば自宅のテレビで見ていたかった。

 なのに今いるのは、有明WEGセンター内の公式配信スタジオである。


 「真壁さん、こちらが本日の台本になります」


 WEG東京の配信担当者が、分厚い紙束ではなくタブレットを差し出してきた。

 画面には、大きな文字で番組名が表示されている。


 『真壁と見るWEG東京 開幕直前スペシャル』


 俺は、そのタイトルを見てから、配信担当者を見た。


 「これ、まだやるんですか?」


 「はい。そうですね」


 「前回、その…途中で止まりましたよね」


 「まぁ、そうですね」


 「張本人である自分が言うのもなんですが、そのタイトルで続けるんですか?」


 「視聴者認知がとても高いので」


 「……それ、いい意味で、ですか?」


 配信担当者は、にこっと笑った。

 答えなかった。


 横にいた支援チームのWEG調整担当者が、小さく咳払いをする。


 「真壁さん、本日はあくまで開幕直前の競技紹介番組です。監査やDOP関連の詳細には一切触れません」


 「それは助かります」


 「ただし、真壁さんが合同鑑定アドバイザーに就任した件は、すでに公式発表されています。番組冒頭で軽く触れます」


 「軽く?」


 「そう、軽くです」


 最近、その手の軽い説明が軽く済んだ例がない。

 前回の公式配信も、競技紹介のはずだった。

 災害区画救助競技とはこういう競技です。

 選手の動きがすごいですね、魔道具も進歩していますね、という話をする予定だった。


 それが、バルトリア代表13番の未申請反応を拾って、公式配信中に止まった。

 止めたのは俺ではない。


 ただ、きっかけを作ったのは間違いなく俺だった。


 「一応確認なんですけど、今日は練習場には行かないんですよね」


 「行きません。スタジオ番組です」


 「選手の実物も見ない?」


 「基本的には、事前に許諾を得た映像資料と公式データだけを扱います」


 「基本的には、というと逆を言えば変わる可能性はある?」


 「本番中に予定が変わる可能性は、どの番組にもありますので」


 「……俺、目隠しで出た方がいいのかな」


 「ははは。真壁さんなら目隠ししても鑑定通しそうですよね」


 配信担当者は、また笑った。

 スタジオの端では、スタッフがモニターを確認している。

 壁には各競技のロゴが並び、中央の大型モニターにはWEG東京のメインビジュアルが映っていた。


 スタジオセット自体は、TVでみるようなしっかりとしたセットが組まれている。

 余計な装飾は少ないものの、一つ一つが丁寧に作りこまれており、競技映像と資料を見せるための画面が中心になっている。


 解説席は3つあり、司会、WEG東京の競技解説担当、そして俺が座ることになっていた。

 番組開始10分前になると、公式チャンネルの待機画面が開いた。


 配信担当者が、俺の前に置かれたモニターを指す。


 「コメントは遅延とフィルターが入っています。危ないものは流れません」


 「今更なんですけど、生中継配信はもうやめたほうが…」


 「………今回はさらに強めにフィルターかけてますので」


 「前回より荒れる前提じゃないですか」


 「とても注目度が高いので仕方ないでしょう?」


 お前のせいだろうが、という視線を浴びつつ、コメント欄に視点を移す。

 待機画面にはかなり多くの人数と、それに応じてコメント欄はかなり書き込まれていた。


 『開幕直前きた』

 『真壁と見るシリーズ続行で草』

 『公式、前回を忘れていないか?』

 『忘れてたらこのタイトルにしないだろ』

 『安全鑑定アドバイザー就任おめ』

 『もう公式事故調査員だろ』

 『最近のシオちゃんは尊すぎ…』

 『今日はスタジオだから大丈夫』

 『その大丈夫を信じて何回裏切られたと思ってる』

 『事故配信待機』

 『競技紹介もちゃんと見たい』


 コメントの流れは速い。

 今回のこの配信は前回のような、いきなり現場を映している緊張感はない。

 それでも、視聴者の期待が変な方向に温まっているのは分かった。


 競技を見たい人、真面目に大会情報を追っている人、そして俺が何かやらかすと思っている人が、同じコメント欄で混ざっている。


 そろそろ本番だな、そう気持ちを入れ直した時に肩の上のいつもの重さが無いことに気付く。


 「あれ? シオ??」


 『ここ』


 声の向きに顔を向けると、セットの上にぶら下がっていた。

 

 「こら。危ないからこっちに来なさい。もうすぐ配信始まるから」


 『はーい』


 シオは触手を伸ばして俺の肩の上に着地する。

 最近シオはじっとして無くて、目を離すとすぐどこかに行ってしまうようになっていた。

 これも成長が故なのだろうが、俺としてはとてもハラハラしてしまう。


 スタジオの照明が少し落ち、カメラのランプが点灯した。


 司会の女性アナウンサーが姿勢を正す。

 WEG東京の競技解説担当者は、資料を一度閉じてから、こちらに軽く会釈した。


 「真壁さん、本日はよろしくお願いします」


 「よろしくお願いします。あの、変なことを言ったら止めてください」


 「ははは。フリですか?」


 「……違います」


 解説担当者は苦笑した。


 カウントが入る。


 3、2、1。


 画面が切り替わった。


 「WEG東京公式チャンネルをご覧の皆さま、こんばんは。開幕まで残り一週間となりました。本日は特別番組、『真壁と見るWEG東京 開幕直前スペシャル』をお送りします」


 司会が台本通りの台詞を開始して番組は始まった。


 「本日のゲストは、ダンジョン鑑定士の真壁遼さん。そしてWEG東京競技解説チームの篠原さんです」


 篠原が軽く頭を下げる。

 今回の特番で競技解説を担当する、WEG東京側の職員だ。


 「真壁です。よろしくお願いします」


 『本人きた』

 『事故配信者きた』

 『公式鑑定アドバイザーだぞ』

 『歩いてないから今日はセーフ』

 『座る事故配信者』

 『あれ?シオちゃんは??』

 『やめろ』


 俺はコメントを見なかったことにした。

 司会は、当然のように続ける。


 「真壁さんは先日、WEG東京の合同鑑定アドバイザーに就任されました。まずはそちらについて、簡単にお聞かせください」


 「ええと、競技の判定を自分がするわけではありません。DOPや医療監査、装備監査、競技判定の専門の方がいて、お…私は必要な場合に鑑定で協力する立場です」


 「審判ではない、ということですね」


 「はい。そこはかなり大事です。私が見て、私が決めるわけではないです」


 「前回の件については?」


 「関係部署が確認中の内容もあるので、私から詳しくは言えません」


 俺がそう言うと、スタッフ席の空気が少しだけ緩んだ。

 今のは正解だったらしい。


 だが、辛口コメント欄は、正解扱いしてくれなかった。


 『言えないやつ』

 『関係部署が確認中』

 『俺って言いそうになったな』

 『つまり何かあった』

 『何かあったのは全員知ってる』

 『シオちゃん??』


 司会は、にこやかに話題を変える。


 「では、ここからは競技紹介に移りましょう。まずは開幕から注目度の高い災害区画救助競技です」


 大型モニターに、倒壊した建物を模した競技区画が映る。

 煙、熱、魔力ノイズ、足場の崩落、救助対象者のダミー。

 その中を、4人1組のチームが進んでいく。


 篠原が説明する。


 「災害区画救助競技は、探索者の戦闘能力だけでなく、索敵、搬送、魔力制御、判断速度を総合的に見る競技です。魔物を倒す速さを競うものではありません」


 「前回の配信でも見ましたけど、重機に代わって人が様々な障害物を取り除いたりする姿って、物凄く迫力がありますよね」


 俺がそう返したところで、肩の上の重さが消えていることに気づいた。

 さっき戻したはずのシオがいない。


 今日は生放送なので、念のため保護ケースに入れる案も出ていた。

 ただ、シオの定位置は俺の肩だ。


 ダンジョン庁の調整担当者とも相談して、他者との接触禁止、能力使用禁止、カメラ前に飛び出さない、という条件で同行している。


 その条件をシオと確認したばかりなのに、やけに肩が軽い。

 俺は表情を変えないまま、顔を動かさずに視線を変えて机の周りを探した。

読んでいただきありがとうございます。

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