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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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全体鑑定及び監査アドバイザー

 作者よりお知らせです。

 カクヨムの方でサポーター専用のSSS第7話目『りょうが ねたあとに こっそりと』を近況ノート更新しました!

 カクヨムの方ではストーリー進行が遅いですが、専用エピソードを近況ノートの方に掲載していますので、興味ありましたら是非のぞいてみてください(サポーターズパスポート加入などが必要になります)

 同じ頃、有明WEGセンターの会議室にも、別の資料が並んでいた。


 競技判定会議、と呼ぶには少し物々しい面々が顔を揃えていた。

 表向きの会議名は、災害区画救助競技における補助反応監査対応会議だった。


 出席者は、WEG東京の身内だけに絞られている。

 DOP、医療監査、装備監査、競技判定、法務、配信管理。

 そこに災害区画救助競技の運営担当者も加わっていた。


 現場に居合わせた水野も呼ばれており、別卓に座っていた。


 机の中央には、バルトリア代表13番の検査結果が置かれている。

 個人名は伏せられ、選手番号と競技名だけが残されていた。


 「検体確認は」


 DOPの主任が聞くと医療監査の担当者が答える。


 「一次検査では禁止薬物単体の基準値超過はありません。ただし、競技直前の補助薬投与記録と魔力ログを重ねると、真壁氏の指摘した時間帯に神経伝達促進系の反応が出ています」


 「ということはそれ単体ではセーフ、と?」


 「はい。その通りです」


 「だが、複数のバフを組み合わせるとアウトになる、と」


 「ええ。その疑いが濃厚です」


 会議室に、重い沈黙が落ちる。

 法務担当者が、眼鏡を押し上げた。


 「規定上、申請補助の範囲内に見えるものでも、競技動作に合わせて禁止効果を出す目的で調整されていた場合は明確な違反になります。ただこれには測定の面で問題があり、それを誰が、どの精度で、どの段階で認定するかです」


 「今までは、競技後ログと検体で見るしかありませんでした。いわゆる競技前と後、ですね」


 装備監査の担当者が言う。


 「魔道具、薬物、バフを別々に検査している限り、今回のようなものは取り逃がす。………正直言うと、こういうカクテル反応を利用した違反はいずれ出るとは思っていました」


 「思っていたなら、なぜ先に止められなかったんです」


 配信管理の担当者が、少しだけ強い声を出す。

 装備監査の担当者は、反論せずに視線を膝に向けたままだった。


 「見抜く方法がなかったからです」


 見かねたDOP主任が代わりに答えた。


 「検査機器を増やしても、項目ごとの反応しか出ない仕組みになっています。競技中の動作、バフの立ち上がり、補助薬の効き始め、装備の出力上昇。この四つを同じ時刻で重ねる監査画面が、そもそもありませんし、現実的なことを申し上げると、それは些か不可能な領域だと思っています」


 その言葉に水野は、あの時のことを思い出す。


 真壁は、タブレットの申請一覧を見てから気づいたわけではない。

 選手本人の動きや様子を見て引っかけた。


 その後で、申請済みの補助と照らし合わせている。

 通常の指摘手順とは順番が逆だった。


 「正直に言うと」


 競技判定の委員が口を開いた。


 「私は、真壁氏を魔道具鑑定のスペシャリストだと思っていました」


 何人かが頷く。

 放送連携魔道具やリンクプリズム、魔道具系などの装備監査など、WEG側が真壁に期待していたのは、主にそのあたりだった。


 「ですが、考えてみればダン博でもそうでした。ダンジョンコア、アンデッド・グランドドラゴンなど。魔道具だけではありません。対象が何に反応し、どこへ影響しているかまで拾っています」


 「今回も同じです」


 水野が言った。

 会議室の視線が、別卓の水野に向く。


 「真壁氏は、13番の筋力強化だけを見たわけではありません。呼吸安定薬だけでも、魔力循環安定薬だけでもない。動作の中で、申請補助と別の反応が相乗効果し合っているところを拾っています」


 「通常鑑定士が点で拾うものを、大きな面で見ている」


 DOP主任が、資料に目を落としたまま言った。


 「AIC側からも、近い報告が来ています。通常鑑定士の結果と、真壁氏の結果は見ている範囲が違う、と」


 配信管理の担当者が、椅子にもたれた。


 「では、どうします。毎回公式配信に出てもらって、何か見つけてもらいますか」


 「それは要らぬ事故を増やすだけです」


 水野が即答した。

 会議室の何人かが、苦笑する。

 笑いごとではないが、否定もしづらい。


 「配信ではなく、監査側に入ってもらうべきでしょう」


 法務担当者が言った。


 「ただし、正式な権限が必要です。今の真壁氏は公式鑑定解説員であり、大会安全鑑定チーム特別オブザーバーです。選手ドーピング関連の判定に直接関わるなら、世界競技連盟側にも筋を通す必要がありますし、別枠の委嘱が最低限必要になります」


 「ですが、本人は嫌がりませんか?」


 配信管理担当が、ぼそりと言う。

 水野は、少し考えた。

 真壁の露骨に嫌がる顔が浮かぶ。


 「嫌がると思います。でも、安全に関わると言われたら、たぶんあの人は断れません」


 「ひとまず、事務総長経由で打診しましょう。DOP、医療監査、装備監査、競技判定の合同アドバイザー。判定権は持たせない。あくまで鑑定協力と異常反応の抽出」


 「配信には出さない、これは外せないですよ?」


 「……もちろん、必要な時だけ非公開で見てもらいます」


 「競技前の抜き打ち確認はどうしましょうか」


 「真壁氏を帯同させるのなら、それは各国への説明は必要でしょう」


 「そんなこと言っても、仮にこの真壁氏を合同アドバイザーに選任したと外部に出せば、説明している間に各国が勝手に自粛するのでは?」


 それは確かにあり得る。

 会議室に、妙な沈黙が生まれる。


 いやむしろ、もう始まっているかもしれない。


 DOP主任は、この状況を見て軽く息を吐いた。


 「では、なおさら早く正式化しましょう。噂だけが先に走ると、変なことをしでかす国が現れるかもしれません」


 会議が行われていた同時刻頃。

 海外代表チームの連絡網には、いくつかの噂が流れ始めていた。


 『アメリカが、補助運用を安全策に切り替えたらしい』

 『ノーススター・アーク社が、一部パッケージを外したらしい』

 『理由は、日本の鑑定士だ』

 『公式配信でバルトリア代表の未申請反応を拾った、あの真壁遼だ』


 欧州系の強豪チームが入るホテルのラウンジで、コーチがスマホを見ながら顔をしかめる。


 「アメリカが引いた?」


 「あくまで噂ですが、そういう話が流れています」


 「噂だけで補助計画は変えられない」


 「ですが、バルトリアは実際に引っかかってます」


 「バルトリアは運が悪かっただけだ。偶然、あの鑑定士が出演していた公式配信に当たった。毎回練習場にいるわけじゃないだろう?」


 別のスタッフが、低い声で言う。


 「アメリカも、同じことを考えたはずです」


 コーチは難しい表情を見せるも、返事をしなかった。

 その頃、別の代表チームの作戦室でも、同じ話が出ている。


 「真壁は魔道具鑑定士ではなかったのか?」


 「日本側の資料では、公式鑑定解説員です」


 「どういうことだ? 解説員が選手を見るのか? それはあり得んだろう」


 「そうなんですが鑑定を通じた結果として、バルトリアの指摘された選手は仮処分が下されてます」


 「……ちょっと笑えないぞ、それは」


 その言葉は、いくつもの部屋で繰り返された。

 だが、多くのチームはまだ様子見だった。


 真壁が偶然見つけただけ。

 バルトリアの処理が甘かっただけ。

 WEG東京も、ここから全チームを非公開鑑定するような強硬策には出ないし、慣例からしてそれは有り得ないだろう。


 そう考えたい理由は、どこのチームにもあった。


 合法補助と禁止補助の境目は、国によって解釈が違う。

 スポンサー企業も絡みそれは選手の記録にも直結する。

 これまで水面下でどこの国も行ってきた行為を、今さら全部を白紙には戻せない。


 だから、噂は噂のまま扱われた。

 少なくとも、その日の夕方までは。


 同日の午後六時。

 WEG東京組織委員会の公式サイトが更新された。


 同時に、各国代表チームの連絡窓口へ通知が飛ぶ。

 件名は短い。


 『大会安全鑑定協力範囲の拡充について』


 本文には、こう書かれていた。


 『世界探索者競技大会・東京組織委員会は、補助効果、魔道具、補助薬、魔力ログを横断する安全鑑定手順を拡充する。これに伴い、真壁遼をDOP、医療監査、装備監査、競技判定の合同鑑定アドバイザーとして正式に委嘱する』


 『対象は、選手ドーピング関連の違反疑義を含む』


 同時にニュース速報が各国で流れ始める。


 《日本の鑑定士、WEGドーピング監査アドバイザーに》

 《歩く事故配信者、今度は非公開監査へ》

 《各国代表、補助運用見直し必至か》


 米国代表チームのオフィスで、ローガンはその速報を見ていた。

 隣でマーカスが、コーヒーを飲み干した。

 少しだけ間を置いたローガンは、スマホを伏せた。


 「な?」


 「その顔をするな」


 「俺の勘、当たっただろ」


 「だから、その顔をするな」


 マーカスは、紙コップを指で潰し、深いため息をついた。


 その頃、別のホテルでは、補助計画のファイルが次々と開かれる。

 別の国の作戦室では、医療スタッフが夜の再検査予定を組み直している。

 さらに別のチームでは、スポンサー企業の担当者が国際電話で早口になっている。


 そして有明WEGセンターでは、公表数時間前に事務総長の名義で一通の連絡が送られていた。


 宛先は、真壁遼。

 件名は、いつものように丁寧だった。


 『追加の鑑定協力についてのご相談』


 真壁本人がそのメールを見て、どんな顔をするか。

 それは皆が予想通りの顔を浮かべたのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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