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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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開幕一か月を切りました

 声をかけてきた女性は、いつのまにかすぐ側にいた。


 AICの鑑定室では、まだ中継用魔道具の確認が続いている。

 三台のうち一台だけ、鑑定用補助魔道具の表示が「隔離」に切り替わったばかりだ。


 俺が補足しようとしたところで、その女性が先に口を開いた。


 小柄で、じっとしている時間が短そうな人だった。

 こちらが反応するより先に、にこっと笑っていた。


 AICの職員が、少し困った顔をした。


 「小森さん。今は確認中です」


 「見てるだけです。邪魔は決してしません!」


 「……では、距離を少しだけ取りましょうか」


 「離れます」


 彼女は半歩だけ下がった。


 「小森千尋さんです。協力鑑定士としてAICに出入りしている方で、若いですが上位鑑定士です」


 「小森です。クランには所属していません。個人で鑑定を受けています」


 「あ、真壁です」


 名乗ると、小森はすぐに魔道具へ視線を戻した。


 「それで、どこを見てるんですか」


 距離がいつの間にか戻っている。


 俺は円盤型魔道具と、その横に置かれていた登録資料を見比べた。


 「この魔道具だけを見ると、調整用の余剰回路です。でも、配信設備の同期補助装置として見ると、余計な通り道に見えます」


 「魔道具だけじゃなくて、配信設備として見るんですか?」


 「はい。これ単体なら異常なしでいいと思います。でも、どこに置く予定で、何と繋ぐのかまで見ると、接続先を拾う目印になりそうです」


 小森は、円盤型魔道具から登録資料へ視線を移した。

 資料には、設置予定区画、接続先、配信用の同期番号が並んでいる。


 「……一個だけで見てないんですね」


 「一個だけ?」


 「私たちは、鑑定対象を一つずつ区切ります。この魔道具なら、術式や機能面、他は…そうですね…使用している材質とか対象になりますか。ケースに入っていたなら別に見ます。登録ログは登録ログでこれも別に見ます」


 AICの職員が、少し気まずそうに頷いた。


 「実際、通常鑑定はそうですね。対象ごとに区切ります」


 小森は、資料の接続先の欄を指した。


 「でも真壁さんはこの魔道具と、使用背景、配信設備と接続先を並べて、一つの対象として見てます」


 「一緒に、というか。繋がっているのでそれは、まぁそうなりますよね」


 「そこです」


 小森は、ぱっと顔を上げた。


 「普通は、そこを繋げません。少なくとも鑑定中は。魔道具の鑑定って色んな術式が絡み合っているので、それだとノイズを拾いまくるので通常はある程度範囲や箇所を区切って別々に見て行きます」


 「へぇ。そうなんですね」


 「普通というか鑑定士としての常識の話になるんですけど、こんな鑑定しちゃうと余計な情報まで拾って鑑定結果が雑っていうか結果として濁ったものになります」


 AICの職員が、そこで口を挟んだ。


 「小森さん…」


 「すみません。でも、もう一回見たいです」


 「見たい??」


 「はい。どこからどこまでを一つの鑑定として見ているのか、見たいです」


 AICの職員が、今度ははっきり困った顔をした。


 「小森さんは優秀なんですが、興味を持つと、その、こうなります」


 「こう、とは」


 「しつこくついて回ります」


 小森は否定しなかった。


 「同じ魔道具を3人の優秀な鑑定士が見て、3人ともこの結果が出ました。でも真壁さんだけが総合的に設置場所や接続先まで一緒に見たので」


 「そこを見たい、と」


 「はい。どこで鑑定対象を広げたのか、見たいです」


 初めて言われた。

 AICの職員が、小森を見て俺の方に視線を向けた。


 「あの、真壁さんって実際どこまで見えるんですか?」


 「どこまで…うーん。見たい物をどこまでも…ですかね? 上手く説明になってないかもですけど」


 「………さて、仕事にもどりましょうか」


 AICの職員は、これ以上聞いても恐らく無駄な話になるな、そう思って話を打ち切る。

 小森も何となくだが言いたいことは伝わったのか、頬を少しだけ膨らました。


 そして小森は何気なくシオを見た。


 「………この子、鑑定しないほうがいいですね」


 AICの職員が手を止めてシオを見る。


 「……これはこのAICの先輩としての忠告になるんですけど、シオちゃんを鑑定しない方がいいですよ」


 「……早く言って欲しかったです。……思わず鑑定しかけました…」


 俺は何の話をしているのか理解ができなかった。


 「……何の話してるんです?」


 俺の言葉に小森とAICの職員は顔を見合わせた。


 「まぁ、だからシオちゃんは真壁さんと一緒にいれるんですよ」


 「それには同意です」


 「……えっ?」


 何故だかシオは俺の肩の上でドヤポーズをしていた。



 ◇



 WEG開幕1か月前は、もう過ぎていた。


 海外の探索者チームが、事前合宿や装備確認のために続々と来日している。


 テレビをつければ、空港の到着ロビーが映っていた。

 大型スーツケースに統一されたジャケットを着用して、まるで花道になったかのような出迎えに手を振っている。

 

 ニュース番組のテロップには、こう出ている。


 『米国代表チーム、来日!』

 『世界最強クラン【Stars and Stripes】、羽田国際空港に到着』


 「……探索者の来日で、空港中継ってやるんですね」


 ホテルの一室で俺が言うと、WEG東京の調整担当者が普通に頷いた。


 「やりますよ。今回は特にアメリカですから」


 「アメリカだと、そんなに違うんですか」


 「メダル候補の数が違います。個人戦、チーム戦、攻略速度、救助支援など。どこを見ても表彰台候補がいます」


 画面の中では、濃い青を基調にしたジャケットの一団が、手を振りながらロビーを進んでいた。

 先頭の男がサングラスを外すだけで、歓声が一段大きくなる。


 空港で探索者に歓声。

 俺の感覚だと、まだそこがうまく繋がらない。


 「有名人なんですか?」


 俺が聞くと、WEG東京の調整担当者が一瞬だけこちらを見た。


 「真壁さん、本気で言っています?」


 「………すいません、知らなくて」


 調整担当者は、手元の資料を一枚めくった。


 「【Stars and Stripes】は、探索者競技を見ない人でも知っています。世界大会で毎回メダルを取るクランですし、装備メーカーの広告にも出ますし、映画にも協力しています」


 「映画? 探索者じゃないんですか??」


 「……真壁さんって本当に興味ないことは一切情報として頭に入れないんですね。ダンジョン映画の監修とか、実演とか。子ども用の訓練用カードにも載ってます。」


 別の職員も補足するかのように会話に入ってくる。


 「扱いとしては、世界的なスポーツ選手やトップアーティストが来日した時に近いです。空港にファンが集まるのも別に珍しくありません」


 俺はもう一度、テレビを見た。


 画面の端には、到着便の時刻表ではなく、米国代表チームの主な出場種目が並んでいる。

 その横に、過去大会のメダル数。

 さらにその横に、スポンサー企業のロゴ。


 「今回も、かなりメダル取るんですか?」


 「間違いなく取るでしょうね。最低でも表彰台でしょう」


 調整担当者は、そう言えば、と言ってデータを立ち上げた。


 「米国探索者チーム全体が今回も【Stars and Stripes】を軸に構成されています。戦闘職だけではありません。魔導工学、索敵、救助、支援、装備運用まで全て揃っています」


 調整担当者が、別の資料を机に置いた。


 「持ち込み装備の確認リストです。見ますか?」


 「…見てみません」


 調整担当者が置いたタブレットには、俺が想像していたよりページ数が遥かに多かった。


 「……え? これ…装備だけでこの数?」


 「装備、補助具、予備魔道具、競技用ガジェット、医療班の持ち込み品、専属鑑定士の器材。あとスポンサー展示用のデモ機材」


 「スポンサー展示用?? そんなものまで…」


 「世界一級のクランが来るって、そういうことです」


 空港にはファンが集まり、駅や街頭にはWEG東京の広告が出る。

 山手線を中心に、シティドレッシングが進んでいるのか、WEG東京のデコレーションがあちこちに飾られている。


 それに比例するかのようにAICでは装備確認リストが厚くなる。

 来日、という言葉ひとつで、俺の前に置かれる資料まで増える。


 調整担当者は、笑わなかった。

 かわりに、さらに別の資料を俺の前に置いた。


 表紙には、こう書かれている。


 米国代表チーム持ち込み装備確認。

 【Stars and Stripes】関連分。


 「真壁さんにも、一部確認をお願いする予定です」


 「……これ一部、ですか」


 「一部です」


 追加で置かれた資料のページ数はとてもじゃないが、一部には見えなかった。


 WEG開幕まで、あと1か月を切った。


 少なくとも、準備は順調らしい。

 少なくとも、ニュースの中では。

読んでいただきありがとうございます。

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