開幕一か月前になりました
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興味のある方はぜひ、見てみてください。
内閣府の会議室には、また見慣れない顔が増えていた。
ダンジョン庁、警察庁、警視庁。
そこまでは、ここ数日の流れから考えれば分かる。
問題は、外務省の関係者と、AICの調整担当、それからWEG東京組織委員会の上層部が、同じテーブルに並んでいることだった。
会議室の前方にある大型モニターには、WEG有明オフィスで検出された本人情報偽装反応候補の整理結果が表示されている。
・検挙数103件
・WB系統、確定または高可能性、11件前後
・各国情報機関関連、複数件有
・国内別部局関連、複数件有
・企業系情報取得目的、複数件有
・その他判定保留、複数件有
報告役の職員がそこまで読み上げたところで、警察庁側の一人が短く息を吐いた。
「真壁氏は、また1日で会議を3つ増やしたな」
警察庁側の数人が、資料へ逃げるかのように視線を落とした。
冗談として受け取る余裕は、もう残っていない。
「まず、WB系統の対象については、確保できたこと自体を成果と見ます」
ダンジョン庁側の上層部が、資料から顔を上げて言った。
「前島竜二だけではありませんでした。同系統の魂魄術式反応を持つ対象が複数います。開幕直前、あるいは本番中まで残していた場合、何を仕込まれていたか分かりません」
「真壁氏の鑑定がなければ判明することはなかった、という評価でよろしいか」
「少なくとも、通常の入館認証とAIC標準検査では判明していません」
WEG東京側の責任者が、かなり苦い顔で頷いた。
WEG東京側の責任者の手元には、「世界最高水準のセキュリティ」と書かれた説明資料が残っている。
そしてその隣に、比較するかのように103件の一覧が置いてあった。
単純な警備ミスと書くには、比較情報が悪すぎた。
敵と、味方と、味方のふりをした敵が、同じ一覧に並んでいた。
「次に、アメリカ側からの要請です」
外務省の担当者が資料を切り替えた。
大型モニターに、数名分の対象者情報が表示される。
名前は伏せられているが、照会番号と分類、接触履歴が出たところで、外務省側の担当者が口を閉じた。
「アメリカ政府から、一部対象者について身柄の引き渡し、もしくは優先的な事情聴取の要請が入っています」
「随分と早いな」
「向こうもWBには煮え湯を飲まされています。今回の捕獲者の中に、過去の関連事件で実行犯、または実行支援者と見られる人物が含まれていました」
「……日本国内での潜入行為を処理する方が先だ。簡単には渡せない」
警察庁側が即座に言う。
外務省の担当者も同様に頷いた。
「そこは承知しています。ただし、情報共有だけで済ませるには難しい事情もあります。WEG開幕前に外交的な摩擦を表に出すのは避けたいところです」
「なんにしても国内捜査を優先という方針は変わらない。ただし、WB関連情報は同盟国と共有し、身柄については段階的に捜査が進んだ段階で検討、といったところでしょうか。」
内閣府の危機管理担当が、短くまとめる。
「それはいいとして、表向きはどう説明する?」
「登録確認上の不備と、関係者登録の再精査です」
「大部分は説明が付くとは思いますが、むしろ問題はWB以外です」
WEG東京側の担当者が、別の資料を出した。
「アメリカ、イギリスなど、友好国側の情報関係者と見られる対象も含まれています。目的は一様ではありません。警備導線、VIP動線、配信設備、各国選手団との接触情報。少なくとも、WBとは明らかに目的自体が違っています」
「味方だから無罪放免、とはいきませんね」
「一方で、全員を犯罪者扱いすれば外交問題になります」
「敵と味方と、味方のふりをした敵が混ざっているわけか」
会議室の何人かが、同じタイミングで資料を見た。
誰も否定しない。
否定できない。
さらに、国内の話もあった。
「国内別部局関連についてですが」
警察庁側の担当者が、少しだけ言いづらそうに口を開いた。
「公安関係、またはそれに近い別部局が独自に入れていた人間が含まれている可能性があります。WEG東京側への正式共有は確認できていません。ダンジョン庁側にも連絡はありません」
「念のためで潜らせた、ということか」
「その可能性があります」
「念のためで、真壁氏の鑑定に引っかかったと」
「その通りです」
警察庁側の担当者が、そこで一度資料を閉じた。
国外の工作員なら、外務省を通す手続きがある。
国内の別部局となると、まず誰をこの部屋に呼ぶかから決め直しになる。
「国内向けの会議も増えますね」
「増えたのではなく、増やされたんです」
結論は、すぐに出せるものではない。
ただ、手を止めるわけにもいかない。
「WB系統は、今日中に優先順位を確定してください」
内閣府の担当者が言うと、警察庁側が頷いた。
「アメリカ側には、身柄ではなく情報共有を先に返します。外務省で文面を」
「わかりました。しかし…納得するかどうかは別問題ですよ?」
「それは分かっています。なのでまず照会だけに留めてください。抗議にするか、それとも別の一件を絡めて折衝するかどうかは、向こうの返答を見てからでも遅くはありません」
「では国内別部局の方は、こちらで別枠を作ります」
誰が何をするのか分掌担当欄が、次々と埋まっていく。
最後に、AICの欄が赤く表示された。
追加鑑定依頼。
「真壁氏の能力に頼りきるわけにはいかないのでは?」
「それは分かりますが、真壁氏が見つけた鑑定結果を、通常鑑定士側でどこまで理解して、そして照合できるか。そこを確認しないと、再発防止策にすらなりません」
「問題は、真壁氏をどこまで関わらせるかです」
内閣府の担当者が言った。
それに対して、警察庁側の1人が口を挟んだ。
「すでにどっぷりと関わっているのでは?」
会議室が黙った。
それはその通りだった。
◇
7月は、あっという間に過ぎていった。
俺は全部を知らされていたわけではない。
というより、たぶん知らされていないことのほうが多い。
ニュースでは、WEG東京の準備は順調だと流れていた。
会場整備、警備訓練、各国選手団の事前登録、配信設備の調整。
表向きは、どれも予定通り。
ただ、俺が呼ばれる回数は明らかに増えた。
最近はWEG有明とホテルの行き来を繰り返していた。
AICからの依頼は、最初こそ魔道具の再鑑定だった。
登録魔道具と実物の照合や、競技設備に仕込まれた痕跡の確認。
それから中継用魔道具の再点検。
そして各国選手団が持ち込む装備の例外確認。
そこに、俺が見つけた本人情報偽装反応の照合作業まで加わった。
俺の鑑定結果を、他の鑑定士が見ても追える形にできるか。
普通の鑑定士の視界では、どこまで見えて、どこから見えないのか。
前島のような魂魄術式系の偽装層と、ただの登録情報のずれを分けられるか。
AICの人たちは、それをかなり真面目にやっていた。
俺としても、毎回呼ばれるより、他の人でも見られるようになったほうがいい。
そう思っていたのだが、その確認作業にも俺は呼ばれた。
結局、AICに来る回数は減っていない。
その日も、AICの鑑定室で中継用魔道具の再確認をしていた。
長机の上には、直径20センチほどの円盤型魔道具が3点並んでいる。
WEG東京の国際配信用に使う同期補助装置らしい。
通常鑑定では異常なし。
AICの上位鑑定士2名も、構造上の不備はないと見ている。
ただ、俺には端の一点だけ、少し引っかかった。
汚染ではない。
もちろん改ざんでもない。
使用者を害するものでもない。
ただ、円盤の外側に沿って、同期補助とは別の術式が走っている。
鑑定結果には、調整用の余剰回路と出ている。
でも、その線だけ外側へ向いていた。
「この一点だけ、通信補助の外側に余分な通り道があります」
俺がそう言うと、AICの職員が補助魔道具を起動させる。
「…危険度は?」
「低いです。壊したり、映像を止めたりするものではありません。ただ、外から同期の位置を拾う目印にはなると思います」
「………封印します」
AICの職員は、そこで迷わなかった。
俺が説明を足す前に、鑑定用補助魔道具の表示が「隔離」に切り替わる。
その横から、別の声がした。
「真壁さんって、どこを見てるんですか?」
振り向くと、20代前半くらいの女性が立っていた。
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