鑑定スキル(後編)
職員が持ってきたのは魔力水と魔石だった。
俺が管理局からもらっていたのはこの魔力水を薄めたものらしく、通常は薄めて与えるらしい。
「しかし…シオ、魔石なんて食べられるのか? いままで固形物食べなかったじゃないか」
シオは俺の方をみて手を伸ばし、魔石を手に取った。
『まえは まえ いまは たべたい』
「まえはまえ、か。それだけ成長したってことかねぇ」
シオは手にもった魔石を殻ではなく胴体部分に押し付けた。
するとそのまま、するっと体内に入っていき、すぐに消える。
『うすい こいあじ きぼう』
「えっ? 魔石に薄いも濃いもあるのか??」
「多分ですが、魔石のグレードのことを指していると思います。今のはグレードいくつ?」
「は、はい! ランク自体は『G』の最下級品です」
「じゃあ、もっと上のグレードを用意して」
「わ、わかりました!」
そう言うと職員は走って部屋を出る。
「御厨さん、すいません」
「…澪よ。もしかするとシオは魔力水も口に合わないかもしれません」
「そうなんですか? ってシオ、勝手に飲むなよ」
いつの間にかシオはボトルに入っていた魔力水を、器用に開けて飲んでいた。
『これも うすい こいやつ きぼう』
「……み、澪さん。シオが魔力水も薄いって言ってます」
「恐らく魔力水を作る過程で低グレードの魔石を基に作ったからだと思います」
「なるほど…」
澪はシオに視線を移す。
「シオ、魔力水は美味しいのに作り直すには時間がかかるわ。あとで出来たら持っていくので、この後にくる魔石で今日は勘弁してもらえないかしら」
シオは殻をふりふりさせた。
『かならず あとで もってきて』
「かならず後でもってきて、と。すいません。お手数かけますがお願いします」
「もちろんです。それでシオにお願いしたいんだけど、あなたのスキルをここで見せてほしいの」
「スキル、ですか」
俺はシオを見ると触手を出した。
手元に光が凝縮していき、あの指揮棒が再現された。
『えい』
円形の魔法陣が床に描かれると、あの時と同じようにその範囲内の人すべてに光の紋章が胸の前に現れた。
「おぉぉ!」
「これは動画と同じだっ!」
「すごいぞ、これは」
澪も自身に目を向けて確認を行っている。
「すごいですね…これは。私の鑑定でもハッキリとわかります。聖系統の加護です」
「……ウチのシオは随分と立派になったなぁ」
澪が引き連れて来た学者風の人々は、まるではしゃいでいるかのように各々が見解を述べあっていた。
「それはそうですよ。ここまでハッキリとしたスキルを行使するテイム系生物は、シオが初めてなのですから」
「そうなんですか?? いやでも、前に有名なテイマーの探索者がいたような…」
「狼系テイマーの諸星氏ですね。彼がテイムする『狼王シグマ』は世界で初の王種に覚醒した貴重なダンジョン由来生物ですが、そんな王種であってもスキルは持っていませんでした」
「そんな強そうな狼でも持ってなかったんですか」
「そもそもなんですが、ダンジョン由来生物、一般総称は魔物と言われていたり、テイムとかそういう呼び名が浸透していますが、そもそもがこの次元において生物の枠として曖昧な存在なんです。一方でスキルというのは地球由来生物の特権なので、我々人類はスキルを使うことが出来ます」
「え? じゃあなんでシオはスキルを使うことが出来るんですか?」
「そこが謎だったんですが、今回真壁さんの鑑定結果で解明が進みそうです」
「俺の鑑定結果がですか?」
「ええ。これまで我々の間では生物としてのグレードがあるのではないか、という説が昔から根強くありまして。そこにダンジョン由来生物も紐づいているのではないいのか、と言われていました。ですが、今日、真壁さんの鑑定結果にははっきりと『高位生命体』と出ていました。これが実際に何を示すのかはまだハッキリとはわかりませんが、間違いなく人類は謎の解明に一歩近づいたと断言できます」
「………そんな大変なことになってたんですね…」
「ふふふ。でも今回でまた謎は増えましたけど」
そう言うと澪はシオを見た。
「シオはあと2つスキルをもっているのですが、それも見せてもらうことは可能ですか?」
「そう言えばあと2つ謎スキルをもっていたな。シオ? 今それ見ることは可能か?」
シオは薄い魔力水を飲み干すと、機嫌よく殻をふりふりした。
『こうせいの まどうしょ』
シオのすぐ横にまた光が集まっていく。
そしてその光は本の形を成して、やがてキラキラと光る本が具現化した。
「……本、だな。これ何に使うんだ? 何か書いてるのか?」
『わかんない でも いまは なにもできない』
「えぇ。シオも分からないのか? それは」
俺は光る本に向けて、鑑定が自動的に走った。
――――――――――――――――――――
光聖の魔導書
分類:固有スキル具現/光聖系補助媒体
希少度:SSS
所有者:潮晶殻獣(成長期)/個体名:シオ
状態:未展開/第1段階
効果:光聖属性の術式を記録・補助する媒体。
現時点では所有者単独での使用不可。
発動条件:光聖の指揮棒、または光聖の宝珠との連動により一部機能解放。
備考:現在は白紙状態。
加護・浄化・防護系効果を術式として記録、再現できる可能性がある。
未成熟状態のため、継続観察を推奨。
――――――――――――――――――――
「あ、スキルも鑑定が通りましたね」
澪が勢いよく俺の方を振り向いた。
「真壁さん! これ!!」
差し出されたのは紙とボールペンだった。
要するに鑑定結果を記述せよ、ということなのだろう。
俺は恐る恐る受け取り、無言で鑑定結果を書き写した。
「………魔法系のスキルブックとは系統自体が違う?」
「いや、これはまったく別種だぞ…」
「そもそも光聖属性ってなんだ…」
「3つのスキルが連動して機能解放と書いてあるが…」
澪も含めて鑑定結果についてあれこれ議論している横目では、新たに持ってきたグレードの高い魔石を嬉しそうに食べているシオがいた。
『あじがこい おいしい』
「……シオは味が濃いと美味しいって感じなのか。これも種族差ってやつかねぇ」
その後シオは続けて最後のスキルを発動するも、シオの周囲に光の珠が浮かんでるだけで何も効果はなかった。
「真壁さん!!」
「はいはい。鑑定っと」
――――――――――――――――――――
光聖の宝珠(第1段階)
分類:固有スキル具現/光聖系中核媒体
希少度:SSS
所有者:潮晶殻獣(成長期)/個体名:シオ
状態:未覚醒/第1段階
効果:光聖属性の魔力を蓄積・循環させる中核。
現時点では単独効果なし。
発動条件:光聖の指揮棒、光聖の魔導書との連動により一部機能解放。
備考:光聖属性の加護・浄化・防護系効果を安定化させるための媒体。
現在は所有者の成長に合わせて内部構造を形成中。
完全展開時の効果は不明。継続観察を推奨。
――――――――――――――――――――
渡された紙にボールペンで書くも、先ほどと似たような結果がそこに記されていた。
「鍵はこの解放、ですね」
周囲にいた学者風の人々は頷く。
「…ですが解放、というのが気になります。解放の仕方を間違えると大惨事になることだってありえますよ?」
「……そうですね。ここでの検証はこれ以上難しいでしょう」
どうもシオの検証も終わりそうであった。
「なあ、シオ。3つの連動ってどういうことかわかるか?」
シオは殻をふりふりしてこちらを見た。
『わからない でも いまは たぶん むり』
「そうか。まぁいきなり解放されてもこっちも困るしなぁ」
「真壁さん、シオはなんと?」
「わからない、だそうです。多分今は無理だろうと」
「そう、ですか。わかりました。本日はここまでにしたいと思います。検証協力ありがとうございました。また後日伺うことになるとは思いますが、引き続き協力をお願いします」
澪が頭を下げると、慌てて周囲の学者風の人々も頭を下げた。
「あ、いえ。協力できる部分は協力しますので」
その後、俺らは護衛に守られてホテルに戻った。
◇
「本日はお疲れ様でした」
俺は専属支援チームのみんなに声をかけた。
「いえ、こちらこそ検証に付き合っていただいてありがとうございました」
「あんなんでよければ、今後も協力できる部分は協力させていただきます」
管理局職員はその言葉に笑みで応える。
「ありがとうございます。そして大事なことなのですが、今回も配信についてじっくりと話させてください」
「……あれ? なんか最近似たようなこと言われた記憶が…」
俺の夜は今日もやっぱり長そうだ、そう思った。
読んでいただきありがとうございます。
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