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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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御厨玄斎は引退したい②

 「なんか出口が騒がしくないっすか?」


 榊がそう言って出口の方に指を指した。

 護衛が頷くと、数人が出口に向かって走り出した。


 「皆さん、一旦こちらで待機してください。異常がないか確認します」


 それから数分して護衛が戻ってくる。

 そして俺の隣にいる護衛に耳打ちをすると、少しだけ表情に変化があった。


 「どうもマスコミが出口に集まっているようです。先ほどの配信が急に打ち切られたため、何かあったのではないか、と」


 管理局職員は横浜管理局職員へ視線を送る。


 「先に私が戻って規制をかけます。皆さんは少しだけ待っててください」


 そして10分後、横浜管理局職員から出口回りを整理したので出てください、と連絡があり、護衛を先頭に出口へと向かった。



 ◇


 

 『真壁さんが出てきました!』

 『シオちゃんもいます!…あれ?あんな色でした…?』

 『配信が打ち切られた理由をお願いします!』

 『横浜ダンジョンで何があったんですか!』

 『再閉鎖という話は事実ですか!』

 『管理局から発表はありますか!』


 シオは殻の中に閉じこもったままで、肩の上でおとなしくしていた。

 

 「シオ、そのまま殻の中にいなさい」


 殻の中の光が、ほんの少しだけ揺れる。

 だがほんの僅か動いただけで、光の屑が周辺に薄くまき散らされており、明らかに今まで以上に目立っていた。

 

 『シオちゃんの色もそうだけど、あれ? 周囲が光っている?』

 『真壁さん! シオちゃんの変化はどうしたんですか??』

 『横浜みなとみらいダンジョン内で母岩の件についてなにか説明を!』


「真壁さん、こちらへ」


 管理局職員がすぐ横に立つと、周囲には横浜管理局職員が大勢来ており、俺らの動線を体で張って止めていた。


 「報道各局の皆さんっ!! お下がりください!!

 「道をあけて!!」


 護衛が複数俺の周囲に張り付くように来て、なるべくカメラの露出を避けようとしていた。

 入ってくるときはまるでセレモニーのようだったのに、出るときはパニックになるとは。


 「なぜこんなことに…」


 「真壁さん……絶対に大きな星のもとに生まれてきてますよね…」


 榊は俺を横目にぶっそうなことを呟く。

 そして俺らは半ば強引にダンジョンから出て、管理局の方へ向かった。


 この後、横浜みなとみらいダンジョンは正式オープン初日を迎えた後に一時閉鎖されることが正式決定された。



 ◇



 一方その頃、内閣府特命チームでは、全員頭を抱えていた。

 会議室に緊急招集されたメンバーは、横浜管理局から上がってきた報告資料を見て何も言えない。


 『横浜みなとみらいダンジョン母岩環境反応、およびシオについて』


 この報告書を読んだメンバーの1人が、長い沈黙のあとで額を押さえた。


 「……あの人は、動けばどこかで騒ぎを起こす、そういう運命のもとに生まれているんですか」


 誰も笑わなかった。

 いや、笑えなかった。


 「本人は、横浜で配信しただけなんでしょうけどね…」


 「その結果、シオが母岩から何らかの継承を受け、鑑定上は属性変化とランク上昇を示した、と」


 「言葉にすると、余計に意味が分からないな」


 「…分からないから、ここに回ってきています」


 特命チームの室長は、資料をめくる手を止めた。


 現地から送られてきた映像には、母岩周辺の光の脈動が映っている。

 シオが母岩に近づき、天井に集まった光が水珠となって落ちる。

 それを受け取ったシオが、強い光を放つ。


 そして、真壁遼の鑑定結果。


 力の継承、光聖属性、生物としてのランクの上昇。

 極めつけは万物に加護を与えることができるようになった。


 「日本ダンジョン学会へ緊急照会。横浜は一時閉鎖。一般入場は停止」


 室長は続ける。


 「横浜管理局には、母岩周辺の封鎖強化を指示。映像データ、真壁氏の鑑定ログ、シオの個体登録情報を一式まとめて学会へ回せ」


 「鑑定士の派遣は?」


 「必要だ。だが、通常の鑑定士では無理だろう」


 室長は、少しだけ迷ってから続けた。


 「御厨家に連絡を入れろ」


 その名前が出た瞬間、会議室の何人かが顔を上げた。


 御厨家。


 ダンジョンが日本に現れた黎明期から、鑑定士を輩出してきた名門。

 そして、その頂点にいるのが御厨家現当主、御厨玄斎だった。


 もっとも、今回動いたのは玄斎本人ではない。


 連絡後、日本ダンジョン学会の緊急調査班に合流したのは、ひとりの若い女性だった。


 白衣ではなく、動きやすい黒のパンツスーツスタイル。

 髪は肩の少し上で切りそろえられ、表情は淡々としているが、目だけは妙に鋭い。


 その若い女性が横浜みなとみらいダンジョンの管理局棟へ入ると、出迎えた職員が慌てて頭を下げた。


 「御厨先生、急な要請にもかかわらずありがとうございます」


 「先生はやめてください。まだそんな年でもないですし、それに現場でそれをやられると、何も進まなくなります」


 横目で出迎えた職員を見て、若い女性は続けて短く言葉を放つ。


 「御厨澪です。日本ダンジョン学会所属、特殊環境生態部会。あと、鑑定士登録は特級です」


 御厨澪。


 御厨玄斎の孫。

 AIC鑑定統括を務める御厨宗一郎の長女。


 学生時代から神童と呼ばれ、日本ダンジョン学会の論文誌に在学中から名前を載せていた才女である。

 御厨家の中でも、学問寄りに振り切れた変わり種。

 鑑定士業界の権威や格式より、現物とデータを好み、何かあれば現地に率先して赴く動きの軽さも持ち合わせていた。


 そして、国内では数少ない特級鑑定士のひとりでもある。


 「映像は見ました。真壁遼氏の鑑定ログも、暫定版だけ確認しています」


 澪は歩きながら言った。


 「とても、面白いです」


 横浜管理局職員の顔が引きつる。


 「面白い、ですか」


 「学術的に、です。現場運用上は面倒でしょうね。正式オープン初日に一時閉鎖ですから」


 澪はふふっと笑う。


 「はい……」


 「ですが、母岩由来の環境反応と、幼体の相互作用が映像で残っている。しかも、真壁氏の鑑定ログ付き。普通なら100年待っても掴むことはできないネタです」


 澪はそこで少しだけ口元を緩めた。


 「とても、最高です」


 誰も返事をしなかった。

 返事のしようがなかった。


 案内された会議室には、横浜管理局、ダンジョン学会、ダンジョン庁からの担当者がそろっていた。


 テーブルの中央には、母岩周辺の平面図。

 横には配信映像の切り出し写真がプリントしてある。

 さらに、真壁の鑑定結果が時系列で並べられてあった。


 澪は席につく前に、その資料を一通り見た。


 そして、最初に言った。


 「まず認識を合わせましょう。これは事故ではありません」


 室内の視線が集まる。


 「少なくとも映像を見る限り、攻撃反応でも暴走でもない。母岩側がシオ個体を認識し、シオ個体がそれに応じた。分類するなら、帰巣反応、継承反応、あるいは環境適応です」


 「危険性は?」


 「今の段階で断定はしません。ただ、真壁氏の鑑定に汚染反応、呪詛反応、攻撃性の記載はない。そこはかなり重要です」


 澪は資料を指先で指し示す。


 「問題は、これを誰が再鑑定できるかです」


 室内が静かになる。


 そんな中で横浜管理局の職員が、恐る恐る聞いた。


 「御厨先生なら、可能でしょうか」


 「澪でいいです」


 そして、少しだけ目を細める。


 「可能かどうかは現物を見てからです。私は祖父ほど経験もありませんし、父ほどの知識もありません」


 そこで澪は、当然のように続けた。


 「ただ、学問としては逃げる理由がありません」


 会議室の隅にいた職員が、小さく息を吐いた。

 その顔には、安堵と疲労が混ざっていた。



 ◇



 横浜みなとみらいダンジョンは、正式オープン初日に再び閉じられた。


 報道各局は、その事実を大きく報じる。

 探索者たちは残念がりながらも、シオの里帰りならまぁ、仕方ないかと妙に納得していた。


 そして、政府と学会と御厨家は、真壁遼がまたひとつ持ち込んだ未知を前に、動き始める。


 同じ頃、御厨玄斎は自宅でその報告を受けていた。

 湯呑みを手にしたまま、しばらく黙り、そして深く息を吐いた。


 「澪まで引っ張り出されたか」


 報告役の声が、通話越しに小さく返る。


 『はい。横浜の母岩反応について、内閣府から学会側への要請です』


 「そうか」


 玄斎は目を閉じる。


 平穏な日常から、また激動の時代がやってくる。


 心の底から、そう思った。

 それを裏付けるかのように、真壁遼という若い鑑定士が動くたび、御厨家の誰かが引っ張り出される。


 宗一郎。

 澪。

 そして、おそらく自分も。


 玄斎は湯呑みを置き、低く呟いた。


 「まったく。あの小僧は、儂をいつ引退させてくれるんじゃ」

読んでいただきありがとうございます。

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