悪辣な皇子芝居
俺はライラックさんと一緒に、首都・レーヴァトスへと帰ってきた。どちらもモンスターの返り血まみれだ。
「お~!凄いわね。 ライラックちゃんが仕留めたの」
「たいりょう~!」「しゅごぃしゅごぃ~!」
「リンドンボアの肉も……これなら、この村……ではなく、首都の皆さんにも食料が配給できますね」
「は、い……は、はい。 その通りです。 ユキナ妃様」
「妃様って……私って、まだ妃なのかしら?ねぇ?リンネ」
「そうですね~!お城の部屋は、多分無くなってるんじゃないでしょうか」
「そうよね……(モンスターの切られた後、ライラックちゃんって、剣術も嗜んでいるのね。ヨルに指導してくれたりしないかしら)」
食料確保、害獣駆除、行動範囲の拡大、周辺地域を把握しての地図作り。
赴任初日にしては、かなりの成果じゃないだろうか?
大量の戦利品は、ライラックさんの特殊な魔法を使って運んだことにして、俺の転移で一瞬で移動させた。
ライラックさんは、索敵も戦闘もできる魔女らしく。今後も、定期的にライラックさん、シルヴィアと共に『レーヴァトス・ホール』領地の未開拓地域の探索を続けていきたいと思う。
「…………探索って案外楽しいもんなんだな」
【どんどん、邪魔なモンスターを殺り……退治して、生活資源に還元させるのですわ!!】
(凶悪コンビ……なんで、ヨル君はユキナ妃様に、自分が強いことを隠してるんですか?……あんな恐ろしい4才児いてたまるもんですか)
「ママシショー、だいじょぶぅ?かぉへんだぉ」
「あ~!マイデシー・ティファニーちゃん……そうですよね。ティファニーちゃんが普通の4才児の脳内思考ですよ。心配してくれてありがとうございます」
「ママシショー?」
ライラックさんが、大泣きしながらティファに抱きついている。なにか悲しいことでもあったのだろうか?
「…………移民達や、市民達が俺達を見てる」
「手に入れた食料、分けてあげましょう。ヨル……領民を支えていくのも、皇族の務めですもの。いいかしら?」
母様が、両手を拝んだ状態で頼んでくる。勿論、断る理由もない。最初からそのつもりで、食料確保に行ったんだ。
「………はい、母様。あの人達にも分けてあげましょう」
「良い子。私の遺伝子が良すぎたのね~!」
自画自賛している…………この気配は。
…………レーヴァトス・ホール領地とヴァイオレット領地の辺りから、数千人規模で人が押し寄せて来てる?
◇◇◇
《ヴァイオレット領地》
とある貴族の兵団が集まっていた。そして、その兵団の先頭には、赤髪の少女が立っている。
「初陣ですなぁ、シエナお嬢様。血祭りに上げてやりましょう」
「任せなさい!お母様が、大切にされているお友達のためにも敵を凪払ってやるわよ」
「流石でございます。流石はヴァイオレット家のご淑女」
「まっかせなさいよ!」
名をシエナ・ヴァイオレット。この兵団の長である。
「…………馬鹿なガキだな。これから自分が無抵抗な奴等を皆殺しにするっていうのによ」
「アホ、聞こえるぞ。俺達はただ、ヴァイオレット領主様の命を遂行するだけだろう。余計なことは言うなよ。消されるぞ」
「わ~てるよ。まぁ、その報酬に世界一の美女の身体が手に入るなら。なんでもやるぜ」
「……そうだな」
皇歴2222年2月某日。レーヴァトス・ホール領主の隣。
ヴァイオレット領地を治めるヴァイオレット伯爵家は、領主ヨル・レーヴァトス・トルバトスに対し、私兵団2000人で構成された兵士を派遣。事前通達もないまま進行活動を開始した。
今回のヴァイオレット軍派遣の主な理由は2つ。領主ヨル及び、その家族の殺害。首都レーヴァトスの占領となっていた。
ヴァイオレット家からは、長女シエナ・ヴァイオレットを軍の総括として派遣。
その補佐に、ヴァイオレット領地の英雄ゲルディナを就かせる。
そして現在、ヴァイオレット軍はレーヴァトス・ホールの首都『レーヴァトス』へと向かうための準備を終え。シエナ・ヴァイオレットの号令を待つのみとなった。
「…………準備が整いましたな。指揮も上々……シエナお嬢様。初陣の号令をお願い致します」
「ふふん!任せなさい!どんどん倒して、レーヴァトス・ホールなんて簡単に落としてあげるわよ!」
「その通り。素晴らしい宣言ですな、シエナお嬢様。今回の戦いは、なにがあっても我々が勝てるでしょう」
「そうよねっ!それじゃあ、皆!手柄をあげなさい!進軍開……」
シエナ・ヴァイオレットの号令と共に、2000人の兵団が進行を開始しようとした瞬間………《《それ等》》は突如として現れた。
【貴様等………無断で我が主の領地へと、何故侵入している?………〈金色尾〉】
「え?」
突如として、夕暮れから夜へと変わる空からそれは現れた。巨大なる大きさをした、九つの尾を持つ大厄災・金色神楽が空より降臨した。
「「「ぎゃああああ!?」」」
極大なる身体により。押し潰された兵達は、軽く60人は越えていた。それだけではない……金色神楽の無差別攻撃により、更に300人を越える絶命者を生んだ。
ヴァイオレット軍。残り1600人弱。
開戦寸前に起きた悲劇であった。
「え?……は?……何?」
「シエナお嬢様!お逃げ下さい!あの化物はおそらく、七大厄災の1つ……」
「うるさいぞ、侵略者達。喋るな!!〈六道の振り子〉」
「……い……ぎぃ!?ぎゃああああ!!」
ヴァイオレット領地の英雄ゲルディナ戦死……及び、ゲルディナの側近100名も、その近くで血飛沫を静かに上げる。生死は不明。
同時進行で、金色神楽による無差別攻撃は継続。300人強が絶命。ヴァイオレット軍残り1100名強。
「………なに?いきなり。周りが暗く……」
「応えよ。アルティミス皇国の第二皇子ヨル・レーヴァトス・トルバトスの立場として、問おう。この軍のリーダーは君か?何故、開戦の予告もなしに攻め入ろうとした?」
「………え?あの……大鎌の皇族様?」
突然の第二皇子の登場。威風堂々とした姿に圧倒され、進行内容の話を……上手く喋れなくなってしまった。シエナ・ヴァイオレット。
「シエナ・ヴァイオレットよ。応えることができないならば。これより、レーヴァトス・ホールとヴァイオレットは、内戦へと移行するが良いのだな!?貴様達が始めたことだが。此度の進行理由に理由があるならば耳を傾けよう」
「ひぃっ!」
ヨルの怒りに満ちた表情と眼力により。失禁し、意識を失いかけるシエナ。
【オオオオオォオオオッ!!】
「ぎゃあああ!?」「待ってくれ!俺達は、ヴァイオレット家のご命令でぇぇ!!」「こ、殺さないでくれええ!!がぁ!?」
夕暮れは終わり辺りは暗がりになり始める。そんな中でも、金色神楽の無差別攻撃は継続され、逃げようとする者は、追尾され呆気なく殺されていく。
シエナによるレーヴァトス・ホール領地への、進行作戦宣言失敗から3分が経過……新たにヴァイオレット軍の死傷者と負傷者が200人強の犠牲が発生。残り兵団の人数800弱となる。
「応えることができないのならば、ヴァイオレット家は、第二皇子ヨルへと宣戦布告し。我が治める領地への侵略を開始しよう……これより内戦へと移行することを、了承するんだな?」
「……へ?……あ………わたしは……ただ、お母様に言われて……初陣だったから……」
「お母様?………あぁ、第一妃派の……了解した」
「………そう。なら、もう許して……」
「ヴァイオレット伯爵家が、我へと宣戦布告……内戦の移行を確認した。今宵より、レーヴァトス・ホール領地からの反撃を開始しよう」
「………え?」
「よくも俺の家族を標的にしたな…………覚悟しろよ。虚弱と侮って侵攻したことを後悔させよう。やれっ!シルヴィア!!〈六道の太刀〉」
【ニイィィ……畏まりましたわ。〈黄金殺戮〉】
「「「―――――!!」」」
ヨルとシルヴィアの容赦のない一撃。これにより、あちらこちらの暗闇から、断末魔の声が連鎖して聞こえ始めた。
「へ?…………皆。死んじゃった?……なんで?」
「ヴァイオレット家長女。シエナ……捕虜として、貴様を首都へと連行する。来い」
「首都…………ゲルディナは?皆は?」
「殺した。殺意を持って進行してきたんだ。当然の結果だろう。貴様達は、我……俺の母様や大切な人達をなんだと思っている。報いは受けろ」
ヴァイオレット軍800弱……ヨルの攻撃及び、シルヴィアの加減のない無差別攻撃により絶命。
これにより、ヴァイオレット軍は、指揮官シエナ1人を除き壊滅する。進軍開始失敗から、たったの7分程度の出来事であった。
「いや……皆……いや……わたしの初陣……いや、いや……いやあああああ!!!ああああああぁぁ!!」
「〈テレポート〉」
ヴァイオレット家令嬢。シエナ・ヴァイオレット捕虜として捕まった。




