入学式 1
桜大好きの作者。
入学式に桜は外せませんでした。
ご都合主義万歳!
この世界は前世と似て非なる世界なので、前世にあったものが結構あります。
科学の代わりに魔法があるのと、時代背景が中世ヨーロッパ風な事が大きく違う点で、植物などはほぼ同じです。
なので、入学式でお馴染みの桜並木も存在し、私はそれをぼんやりと眺めています。
何人もの記憶を持っていても、やはり最後の一葉の記憶が一番鮮明で、桜を見るとママとパパを思い出します。
桜が大好きだった二人に連れられ、散るまで何度も手を繋いで散歩をしました。
はらはら舞い散る花びらを掴もうとする私を抱き上げてくれたパパ。
持ち帰った花びらを押し花にして栞を作ってくれたママ。
近くて遠い優しい想い出は桜の花を見る度私の胸に、小さな痛みとともに満ちていく。
もう、泣いたりはしないけど愛しさと切なさと郷愁の念に駆られるのは変わらなくて。
ねえ、パパ、ママ。
私、こんなに大きくなれたよ。
学校に通えるくらい、大きくなれたよ。
心の中で呟いた。
■■■■■■
人、人、人。
沢山の同年代の男女が揃いの制服に身を包み、クラスが貼り出された掲示板に群がっています。
好奇心、興奮、期待、色々な感情が彼等から流れてきますが、社交の場とは違い気分が悪くなったりしません。
ですが、皆の熱量に押された私は掲示板に近付く事が出来ずにいました。
「リフレシア様?掲示板をご覧にならないのですか?」
「うん、え〜と……もう少ししてからにするわ」
私の言葉の歯切れの悪さにアリアは苦笑します。
「今までは殿下と2人きりでしたからね。ですが学園ではこれが普通です。慣れないとやっていけませんよ?」
「わ、わかってるわ。でも、これが普通なの?」
アリアが答えようとした時、耳をつんざく様な歓声が上がりました。
「「きゃあああ、クロード第一王子様〜!」」
少年と青年の境目の危うさが持てる美貌を彩り、艶やかな漆黒の髪、涼しげな黒い瞳の王子様。
貴族令嬢の熱い視線を集める王子様は、歓声に表情を変える事無く、自然と割れる人垣を悠々と歩いて来ます。
……そう、私の方へ歩いて来ているのです。
や〜め〜て〜
入学式早々、目立ちたくない。
しかもこの様子から察するに、クロード様と関われば面倒事が起こるのは明白で。
私は存在を認識しにくくなる魔法を素早く展開し、颯爽と逃げ出しました。
ごめんなさい、クロード様。
面倒事は御免なのです。
自分で何とかして下さい。
ちらりと振り返ると、狡いと拗ねた様子のクロード様が見えたけれど、令嬢避けに使おうとしたのはわかっていますからね。
嫌ですよ。
私は平凡な学園生活が送りたいのです。
ポアロ先生と3人の時は結界の中だから良かったけれど、これからは同じ様にはいきません。
第一王子様と一令嬢の然るべき距離感の、節度ある付き合いをして頂きたい。
何なら一切接触無しでも構いません。
それもこれも、クロード様自身が招いた事態なのですから!!
特別入学から少し経ったある日、ふと思い出した疑問をクロード様に聞きました。
「私が昏倒している間に、仕切り直しのお茶会があったのですよね。婚約者と側近は決まったのですか?」
「あ〜、うん、まあ」
「歯切れが悪いですね。どっちなんですか?」
「う〜ん。怒らないと約束してくれるなら教えてあげる」
「はい?何故クロード様の事で私が怒るのですか?」
「兎に角怒らないなら教えるよ」
胡散臭い笑顔を浮かべるクロード様に嫌な予感がします。
「内容によりますね。ですから約束は出来ません。クロード様が話してくれないのでしたら他の人に聞きます」
「……だよね。隠せる事では無いからなあ」
「なら、観念して教えて下さい」
「側近は決まった。ユリウス殿にもなって貰いたかったけど難しかったから諦めたよ。だけど婚約者は……」
「婚約者は?」
「決定はしなかった。その代わり婚約者候補を何人か選んだ」
「婚約者候補ですか?また、曖昧な感じですね。長い時間令嬢を縛れば選ばれなかった人の婚約が遅れますし、令嬢同士で諍いになりませんか?」
「決定後の婚約については王家が責任を持って紹介する事になった。……諍いは、まあ、起こるだろうね。そこはリフレシア嬢、頼んだよ」
「は?何故、私が頼まれるのですか?」
「それは、リフレシア嬢が婚約者候補筆頭だからだね?」
「はいっ?えっ、えええ〜!!!」
……私は昏倒している間に、クロード様に令嬢避けにされていたのです。
それから今日までの日々は、とんでもないものでした。
学園で学び、放課後は王宮で妃教育、休みの日は家庭教師。
丸一日のお休みなんて、月に一度か二度ほど。
ですが、その休みも年齢とともに欠席しにくくなったお茶会などで消えてしまうのです。
さらに……
それまでの私の『悪役令嬢』という噂はもう尾ひれと言えない様々なものが加えられ、何処に行こうとも陰口をたたかれる羽目になったのです。
一番の理由は当然、殿下の婚約者候補筆頭。
殿下を狙う令嬢及びその親御さんからは蛇蝎の如く嫌われました。
後、マリネラ様とカノン様を侍女として連れていたのもまずかったのです。
社交場での振る舞いなどは、その時々によって臨機応変さが求められ、やはり場数や経験が必要となります。ですので勉強の一環として同行するよう家庭教師の先生に言われ、連れて行ったのです。
ですがボードフォール家の醜聞を消さんとしたのか、件のお茶会や、殿下の婚約者選びに関して根も葉もない噂がばら蒔かれ、気が付けば私が我が儘を言って彼女達を無理矢理侍女見習いにし(これは当たらずとも遠からずですが)、殿下の婚約者候補筆頭に捩じ込んだ事になっていたのです。
真実が正式に、王家と2子爵家から発表されても、私の噂は消えませんでした。
真実よりも憶測や嘘の方が面白かったのもあるでしょう。
だって、面白い噂は貴族の大好物なのですから。
とまあ、そんなこんなで苦労を背負わされた私なので、学園生活は目立たないようにしようと心に決めているのです。
なので入学式に人の注目を集めるなんて言語道断、お断りです。
ご自分で何とかして下さい!
この婚約者候補にはサマーセット家やポアロ先生の猛反対がありましたが、ボードフォール家の策略が何処まで国内貴族を巻き込んでいるのかわからなかった事もあり、決定できなかったのです。時間稼ぎの為にと陛下直々に頼まれ断れなかったという裏事情があります。
クロード様自体はリフレシアをかなり気に入っているので令嬢避けではなく、側に居たいのですがリフレシアには全く伝わっていません。
……クロード様は過去も含め色々不憫です。




