ロザリア様と私 2
次回から学園生活へと突入します。
ルーカス達も出てきます。
……覚えていますでしょうか?
「ロザリア様、今日はお願いがあって来ました」
「……お願いですか?私に出来る事でしたら何なりと。この命はリフレシア様に捧げると決めておりますので」
「即答してくれるのは嬉しいのですが、内容を聞いてからの方が良いのでは?」
「いえ、リフレシア様が仰るのであれば私に否の答えはありませんから」
「私が言えば命さえくれると?」
「ええ、覚悟はございます」
「……その言葉に二言はありませんか?」
「お疑いでしたら、魔法誓約をして頂いても結構です」
「…………」
私的には問題有りの回答ですが、今回ばかりは言質として使わせて貰いましょう。
後々に意識改革は必要ですが……
「では、ロザリア様。貴女には死んで頂きます」
学園の入学式まで後一週間。
私は今、ベルフォード公爵領にあるスノーフロート伯爵家の応接室でスノーフロート伯爵夫妻とお茶を飲んでいます。
伯爵夫妻は私の両親の友人で、ポアロ先生の信頼も厚い方達です。
夫妻と私の両親は学園時代から付き合いで、私も幼い時から可愛がってもらっています。
それにスノーフロート伯爵は魔導庁のポアロ先生の補佐の一人なのです。その事は私が魔物討伐に行く様になって知りました。
ノックとともに開かれた扉からローズピンクの髪をハーフアップに結い、薄紅色のシフォンを重ねたドレスがよく似合う真紅の瞳の美少女が現れます。
「ロ、カテリナ様、お久しぶりです。ご機嫌如何ですか?」
「……リフレシア様、お越し頂き光栄ですわ」
略式の礼とともに返された歓迎の言葉とは裏腹に拗ねた様子の彼女を苦笑しながら伯爵夫妻が手招きし、夫妻の間に座らせます。
夫人は彼女の肩を緩く抱き、柔らかに微笑みます。
伯爵も優しい笑みを浮かべ彼女の頭を撫でます。
うん、素晴らしい溺愛ぶりです!
流石、父様と母様の友達です。
我が家に負けず劣らずの溺愛ぶりに、私も顔が緩みます。
カテリナ様は夫妻の愛情表現に慣れないのか、紅く頬を染めてされるがままでしたが、私の視線に気付き、綺麗な真紅の瞳を潤ませて睨みます。
……可愛すぎるっっ!!
持って帰りたいっ!
お家で私もカテリナ様を撫でて愛でたいです。
「カテリナ、可愛い瞳を潤ませてどうしたの?母様に教えて頂戴」
「父様にも教えておくれ。仲間外れは嫌だよ?」
「ひっ、い、いえ、何でもありませんわ。ご心配を掛けて申し訳ありません」
「まあ、何て他人行儀な。母様悲しい……」
うるっと瞳を潤ませて、悲しげに呟くスノーフロート夫人にカテリナ様が慌てて言います。
「あ、あっ、ごめんなさい。な、慣れなくて。か、母様を悲しませるつもりは無かったのです」
「じゃあ他人行儀な言葉は無しよ?約束ね?」
「はい、約束します!……あら?」
ふふっっ、流石母様の友達です。
この調子で上手にカテリナ様の自らかけた戒めを解いて下さるでしょう。
そう、私の目の前にいるカテリナ・スノーフロート様はロザリア様なのです。
3週間前、トルティナ修道院を訪れたあの日。
私はロザリア様に酷い決断を迫ったのです。
伯爵が処刑され、夫人が行方不明となり家が断絶し、ロザリア様は頼れる人が居なくなってしまいました。
ロザリア様には2人のお兄様がおられますが、ボードフォール家の没落の際に平民となりました。彼等は全ての事情を知った後、どんな処罰も受け入れると言ったそうですが、成人前だったのと情状酌量の余地があるとして、貴族位の剥奪のみとなったのです。
平民となった後の事はポアロ先生が責任を持って然るべき処遇を約束してくれたのですが、流石にロザリア様を引き取る事は無理です。
それに、ボードフォール家の内情が全て明らかになった時、陛下を含めた国の重鎮は自分達がわざと放置していた事で未来ある若者を傷付けた事を悔やみ、出来るだけの事をとポアロ先生に託したそうです。
ですが、ボードフォールの名は地に落ち、悪い意味で広く知られてしまいました。
ロザリア様もそのお兄様達も以前の名を使えば、あらぬ事を言われ迫害される可能性が高い。
そこで3人には名を捨てて貰う事になったのです。
名を捨てる事は、それまで生きてきた軌跡を消す様な事です。ですが、それによってこれからの未来を護れる事の方が大事だと大人達は判断したのです。
ロザリア様のお兄様達はそれを受け入れ、名を変え新しい人生を歩んでいるとポアロ先生から聞きました。
後はロザリア様だけでした。
本当は伯爵が処刑され、ボードフォール家が取り潰しになった時点でこの養子縁組は行われるはずでした。
トルティナ修道院の院長をはじめ、シスターの皆様もロザリア様の還俗に賛成で、すぐに打診されたのです。厳しい事で有名なトルティナ修道院が此処まで短期間で還俗を認めたのは、修道院が建立されて以来初めての事だったそうです。
それ程にロザリア様の日々は己を律したものだったのです。
ですが、当の本人が還俗を、養子縁組を拒否したのです。
ロザリア様は魔星があって負の感情に引き摺られながらも、意識をつよく保っており、記憶もほぼ全てあります。
自分がした悪意ある言動の根底にあるものが、自身が持っていたものだという事も理解していました。
本来のロザリア様は、自分自身を赦せなかったのです。
だから、課せられた奉仕だけでなく、自ら率先して出来る限りの事をしていたそうです。
その姿はまるで自分を傷付けている様だったとシスター様は話してくれました。
それに多分……
ロザリア様は絶望したのだと思います。
ロザリア様の望みは令嬢の頂点に立つ事ではなく、ただ愛される事だったから。
それを望んだ二人は欠片の愛情も示す事無く居なくなりました。
残ったのは自分が背負った罪だけで、その罪を償う事だけが生きる理由だったのでしょう。
常に自分を戒め、苛める様に過ごす事を生きる理由にするなんて。
誰が認めても、私は絶対認めません。
人は幸せになる為に産まれてくるのです。
そして、幸せになる為に苦悩し、挫折し、進んでいく。
それは全ての人に平等に与えられたもの。
でも……諦めたら、そこで終わってしまう。
だから、諦めさせません。
私の独りよがりだとしても、私の手が届く限り、手を伸ばし続けます。
邪険にされようが、嫌われようが、知った事ではありません。
だから、ロザリア様。
観念して、幸せになって下さいね?
抵抗するならどうぞご自由に。
貴女が根負けするまで付き合いますから。
貴女が私に罪を犯し償うと言うのなら、今この時私の願いを、酷い願いを聞いて下さいませ。
「では、ロザリア様。貴女には死んで頂きます」
スノーフロート伯爵夫妻はサマーセット公爵夫妻の親友です。
……そしてスノーフロート伯爵夫人はレティシアママの信奉者。
ロザリアちゃ、もといカテリナちゃん御愁傷様です。




