ロザリア様と私 1
リフレシアは最初から、何を言われても、どんな事をされても、怒りはしてもロザリア様を嫌いになれませんでした。
リフレシアにしかわからない彼女が見えているのかもしれないですね。
「リフレシア様。遠路遥々お越し頂きありがとうございます」
「……やり直しです。ロザリア様」
「…………ですがわた……」
「やりっ、やり直しです。してくれないなら、口をききませんっっ」
眉を下げて困惑するロザリア様とくすくすと笑うマリネラ様とカノン様に、一歩離れた所で苦笑するアリア。
わかっています!
わかってますよ、小さな子供みたいな脅しだって。
でも、それしか思い付かなかったんです。
ここはトルティナ修道院の面会室で、今は正規の入学式の1ヶ月前。今日はロザリアに大切な話をしにやって来ました。
以前は転移が使えずポアロ先生に同行してもらっていましたが、今では此処に居る4人を難なく転移出来る様になりました。
話が逸れましたが、今日はロザリア様に私のお願いを、是非とも了承して貰わねばならないのです。若干言動が可笑しいのは、見逃して欲しいです。だって昨日はほとんど寝れなかった位に緊張しているのですから。
「んんっ、私達は友人ですよね。ですから、あの様な挨拶は不要です。これに対しての否は認めません。それでもすると言うのでしたら……私にも考えがあります」
「……リフレシア様。友人と言って頂けるのはとても嬉しいのですが、今の私はただの平民です。しかも、貴女様に害を為した罪人でもあります。その様な者が対等に言葉を交わすなどあってはならない事と存じます」
固いっ、固いです、ロザリア様。
あれから今まで3年と少し、長くはないかもしれないですが、決して短くない時間を彼女は日々懸命に努力してきました。
高位貴族の令嬢が突然身の回りの事から全てを自身でこなし、華やかさと贅沢に慣れた感覚を捨てて、奉仕する毎日に慣れるのは並大抵の事ではなかったでしょう。
ですが、ロザリア様は文句の一つも溢さず、諾々と全てを受け入れ、慎ましい日々の僅かな余暇を、今後の為に勉学に勤しむと言う凄まじい程に律した毎日を送ってきたのです。
もう、充分過ぎる程に償ったと思います。
確かにあの頃、ロザリア様は国に係わる事件の渦中に居ました。ですが、彼女にその事は知らされていなかった。ただ同じ公爵位の令嬢である私を蹴散らし、頂点に立つ事だけが彼女の望みだったそうです。
同じ爵位、同じ年齢の私の存在はかつてのボードフォール公爵にとってかなり目障りだったらしく、どんな手を使ってでも陥れる様にきつく言われていて、あろう事か時には酷い折檻までされていたのです。
言葉と体罰、もはやそれは洗脳です。
ロザリア様のお母様は残念な事に、夫にも子供にも興味が無く、同世代の正妃様、側妃様、我が家の母様に強烈な嫉妬を抱き、対抗するべく宝飾品やドレスなどを買い漁り、美容の為なら幾らかかろうとも散財するという毎日を送り、ボードフォール公爵家の実情や夫の不正、子供達に日常的に行われていた虐待の数々を全く知りませんでした。
罪が暴かれ、ロザリア様が修道院に行く時も見送りにさえ来ず、自分は無関係だ、無実だと招待もされていないお茶会や夜会で声高に訴えては、放り出されていたそうです。
勿論、彼女が湯水の如く宝飾品やドレスや美容品に使ったお金は、ボードフォール公爵が不正に得たもので、彼女も罪に問われました。降爵された時も、取り潰しになった時も、没収される高価な品々を抱え込み、自分の物だと叫んでいたそうです。
ボードフォール伯爵も夫人も、一度としてロザリア様の事を聞いたりする事は無かったそうです。
伯爵が処刑されボードフォール家が取り潰しになった時、彼女の生家が引き取るのを拒否した後、彼女の行方はわかりません。ロザリア様は事の顛末を聞いた時、ただ静かに涙を流しこう言ったそうです。
「わたくしには最初から父も母も居なかったのですね。何の為にわたくしは産まれてきたのでしょうか……」
この言葉に詳細を伝えに来た役人の方や、同席していた院長様、シスター様は皆胸が痛かったそうです。
ボードフォール公爵は自分の兄への嫉妬や羨望を闇につけ込まれ操られた可能性は高いです。でも公爵に魔星が現れた時、それを知り秘密裏に聖水を手に入れた執事を拒んだと聞いた私は公爵の中にあった負の感情は想像よりも深かったのだと思ったのです。
……魔星は人を魔に堕とすと同時に、魔力を増幅させます。ボードフォール公爵は元々の魔力が少なかった為、脅威にはなりませんでしたが器によっては多くの人を巻き込む厄災になるのです。過去に数は少ないですが、魔星で魔力を底上げしそれを利用した事件があります。だからこそ、この世界に住むものは幼子の時から魔について言い聞かされるのです。
だからそれを知りながらボードフォール公爵が行った数々の出来事は、公爵自身の望んだ事だったのだろうと思います。
人は弱い生き物です。
容易く負の感情に引き摺られます。
誰しもが抱える負の甘い誘いに一度も惑わされない人なんていないはずです。
だけど惑わされた時、誰かの悲しみや犠牲を生んではいけないのです。
誰かの犠牲の上に成り立つ幸せはあってはならないのです。
それを許してしまえば、人の世は呆気なく崩れ去り、秩序は蹂躙され力を持つ者が全てを支配してしまう。
だからこそ、人は皆誘惑と闘いながら生きている。
それに、誘惑に負けて得た幸せよりも、努力して得た幸せは比べ様もない程素晴らしいのです。
今、ロザリア様が日々感じる幸せはきっと過去に得たものより素晴らしいでしょう。
でも、家族を慕う気持ちは何とも代えられない。
……彼女は家族の愛を渇望していた、いえ今も尚、求めています。
余計なお世話かもしれません。
私は恵まれ過ぎる環境に居るから、本当ならこの役目はしない方が良かったのかもと何度も考え悩みました。
でも、そんな私が伝える事で憎まれたとしても彼女の本当の気持ちが聞けるのではという結論に至ったのです。
ロザリア様、そんなに良い子でなくていいんです。
私は、此処にいる人は本当の貴女を嫌ったりしないから。
100話までに完結出来れば良いなと思っています。
ただ書き始めた時の構想から、かなりかけ離れてしまったので、私自身予想が出来ません。
何とか最後まで書き上げたいと思っていますので、お付き合い頂ければ幸いです。




