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クロード・ヴェル・グラナード side 2



後少し、クロード殿下のターンが続きます。



それからの毎日は白黒だった以前とは違い色鮮やかな日々となった。


神気により魔を浄化された僕は、常に聞こえていた声からも解放された。その声が聞こえなくなると僕の心境は一変し、信じられる人も増えていく。当然、心から僕を愛してくれる両親は叔父上の次に信頼を寄せるに値する2人だった。誰かと温かい感情を与えあえる喜びを知った時、僕はそれを渇望していたのだと自覚した。勿論、僕は王族で貴族達と渡り合うには綺麗なものばかりでは無いとわかっても、以前の様に人と交流するのを嫌悪したりしなくなった。

まぁ、同年代の異性からの欲望には辟易して極力会わない様には手を回したけれど。


叔父上は頻繁に顔を出してくれ、持てる知識、魔法技術を惜しみ無く教えてくれた。更には実践出来る様にと、魔物討伐の日程、城の秘密通路、周辺の警備の穴など(叔父上なら独りでこの国がおとせるのでは?)詳細に伝授された。

魔物討伐のリーダーとなる人物は叔父上から何か聞かされているだろうが、仕方ない様子で心配しつつも僕の同行を受け入れてくれた。何度か共に討伐する内に、魔導師達とも友人とは違う絆が生まれ、僕の毎日は眠るのが惜しい位素晴らしいものになった。


だけど第一王子という立場で逃げる事の出来ないものもある。


婚約者と側近の選抜。

この国の未来をより良いものとする為には、欠かす事が出来ない。本人の資質・長所・可能性等は元より、貴族間のパワーバランスも考慮せねばならず、なかなかに難しい問題だ。だけど選抜の為のお茶会で側近はまだしも、婚約者選びは異性との接触を避けてきた事が仇となり、少女特有のかしましさに免疫の無い僕は早々に音を上げ会場の隅へと退散したのだ。

その時の僕の判断を褒めてやりたい。


そこで僕は出逢ったのだから。


僕の心を揺さぶる彼女に。


月の髪とアメジストの瞳の美しい少女。

リフレシア・サマーセットに。



会場の隅にはお茶会用の菓子が長いテーブルに並べられていた。だが、会場に居る大人も子供も菓子などに見向きもせず、其々の興味と欲を満たすべく喧騒を作り出していた。だから菓子の置かれたこの場所は、会場の熱気から切り離されていて閑散としていた為、銀髪の美しい3人の子供達の様子は少し離れた所からでも良く見えた。

菓子を選び皿にのせる少女を近くのテーブルで見守る兄弟。一番年長らしき少年には見覚えがある。以前何度か狩りで顔を合わせた事があるからだ。彼の名はユリウス・サマーセット、だから共に座る少し幼い少年はシリス・サマーセット、かなり似通っているから間違いない。そして此方からは顔は見えないが、菓子を選んでいる少女が貴族子女が噂するリフレシア・サマーセットだろう。


サマーセット公爵家は常に何かと貴族の関心の的になる。血筋・家柄・財力・魔力そして美貌。言えばきりのない程の貴族が求める全てを手中に収めながらも傲る事も無く飄々と生きる、王家が最も信を置く貴族の中の貴族。

そんな羨望と嫉妬の対象であるサマーセット家に近付く足掛かりとしてガードが緩い子供が狙われるのは当然の事だが、そんな大人の思惑以外にも同年代の貴族子女はサマーセット家の3人に群がった。他とは一線を画した類稀なる美しさ故に。


良く似た兄弟2人は幼いにもかかわらず美貌と巧みな話術で老若問わず人を魅了して貴族の思惑をかわしていく。けれど、サマーセット家唯一の娘であるリフレシア嬢は最低限の社交の場にしか姿を見せなかった為、その美しさは噂になれど人柄などはわからなかった。


だが、ある時を境に貴族子女の間でリフレシア嬢の噂が飛び交うようになる。……それも悪い噂だけが。

少し考えれば意図して流されたものだとわかる噂は日々大きくなっていく。背後に高位貴族が絡んでいるのは明白だ。面白可笑しく誇張され拡散された噂にサマーセット家は何の対処もせず放置する。そんな噂の渦中にいても涼しげな顔で動じない事は逆にサマーセット家の評価を上げていったのだ。


実際のところ、リフレシア嬢が公の場に出る時は必ず、2人の美しい兄弟が強固にガードするので言葉を交わした者はほとんどいないに違いない。現実今もそうなのだから。


巷の小説に描かれた主人公をいじめる『悪役令嬢』だと噂されるリフレシア嬢。噂は所詮噂だとわかっていたけれど、何時になく興味がひかれ、観察する事にしたのだ。


彼女は菓子を皿に載せ、兄弟の元に行って食べてを何度も繰り返す。良く見れば一口食べては兄弟に渡しており、次々と違う菓子を皿に載せる。……どうやら全種類を食べたいようだ。更に注意深く観察すると、焼き菓子を避けて選んでいる。ちまちまと菓子とテーブルを往復する様子は愛らしく、冷たい高飛車な悪役令嬢とは程遠くて、つい声を掛けてしまった。


「焼き菓子は嫌いなの?」


僕の言葉に頬を紅潮させ、心外だとばかりに振り返った彼女に息をのむ。


先程から遠目で見ていた月色の髪は近くで見ると艶々と輝いていて、肌は抜ける程白く、頬は桃の様に淡く色付いていた。そしてきらきらと輝くアメジストの大きな瞳。紫という色がこれ程優しく見えたのは初めてだ。熟練の匠が完璧な配置で作ったビスクドールでも彼女にはきっと敵わない。この生命の輝きを封じ込め、慈愛をたたえる瞳は作り出せはしないだろう。

そんな神掛かった美しさをリフレシア嬢は持っていた。


だけど僕が驚いたのはその美しさではない。


リフレシア嬢が『彼女』と同じ輝きを纏っていたから。


何時の生でも護る事が出来なかった『彼女』の魂を持っていたから。



パリンと言う音と共に、抜け落ちていた記憶がパズルのピースの様にはまっていった。







次回の投稿は明後日の8/4(火)です。

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