表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/107

どうか私の心が伝わります様に……



目を見て、偽りない自分の気持ちを伝えるのはとっても勇気が要ります。


でもその勇気の分だけ、相手に伝わると思います。



きらきらと優しい日射しが、窓の近くの樹の葉の隙間から溢れる爽やかな朝、私は部屋のソファーで父様と対峙しています。


「父様……いい加減此方を向いて頂けませんか?」

「…………」

対面に座った父様は頑なに目線を合わせようとしません。

因みにこの会話は既に片手では足りない回数を繰り返しています。

察しがいいのだと思いますが、多分内容は明後日の方向に捉えているのでしょう。

……私としては大事な話を目を合わせず話すのは嫌なのです。

目を合わせないくせに、此方の気配を伺う父様。

どうしたものやら……


今日も今日とて私の部屋で家族が朝食をとり、それぞれの用事の為退出しようとした時に私は父様を呼び止めました。

「父様、今日のご予定は?」

「うん?今日は休みだから屋敷で領地の書類を片付けようかと思っているけれど、どうかしたのかい?」

父様が今日休みで王宮に行かない事は、事前に母様から聞いてました。

「なら、もう少しお話していきませんか?」

「リフレシアが望むなら幾らでも!領地の事は緊急の案件は無いから心配しなくてもいいよ」

これも事前に調査済み。

今の父様は私を優先する余り、仕事を疎かにしかねないので。

アリアにお茶の用意をしてもらい、向かいに座る父様に何て切り出そうかと見つめた瞬間、父様がびくりと身構えました。

……目を合わせただけで何か感じるなんて、察しが良すぎます。

けれど、躊躇ってもいても解決しないので腹を括り口を開こうとした途端、父様は顔を背けたのです。

「父様?」

「……なんだい?」

「えっと、此方を向いて頂けませんか?」

「…………。今日は清々しい天気だねぇ」

何ですか?

そのベタ過ぎる逃げ口上は。

「父様」

「ああ、そろそろリフレシアの大好きなさくらんぼの季節だね。収穫したらケーキやタルト、シロップ漬けも沢山作って貰おう。領民達もリフレシアの好物だと知って、さくらんぼの加工を試行錯誤してくれているんだ。今年は違うレシピも出来そうだと聞いているよ。今から楽しみだね?」

「えっ?ええ。それはとても嬉しいです。領地に行った時お礼を言わないといけないですね。それより、父……」

「ああ、そうだ!!昨日話した後すぐにルーカス君に手紙を送っておいたんだ。今朝返事が来て、近い内にいつものメンバーで遊びに来てくれるそうだよ」

「は、はあ。ルーカス達に会うのも久しぶりなので嬉しいです。それで話を戻し……」

「リフレシア、知っているかい?今日のお茶菓子は料理長の新作らしいよ?」

「い、いえ、それは初耳です。だから、父……」

「あっ、庭師のトムにお孫さんが産まれたそうだよ。可愛らしい女の子で…………」


と、延々と話を遮られる事小一時間。

とうとう、ネタが尽きた父様は目線を逸らしてだんまりを決め込んだのです。



「父様。私は顔を見てお話したいです。……父様が教えてくれたんですよ。大切な事は伝わるように相手の目を見て、心を込めて話しなさいと」

私から目をそらしていた父様がぴくりと肩を揺らします。膝の上の手をぎゅっと握りしめた後、綺麗な、でも怯えを含んだ紫紺の瞳に私を映してくれました。


「……父様、私はずっと怖かったんです」

「怖い?」

「はい。ずっとずっと……父様に家族に嫌われるのが、見捨てられるのが怖くて。そうなっても自分が傷付かない様に本当の心を押し込めて皆が愛する『リフレシア』を演じるみたいに過ごしてきたんです」

「嫌うなどっっ!そんな事天が堕ちようとも有り得ない!それはレティシアもユリウスもシリスもだ!」


優しい父様。

私が我が子ではない可能性を思いながらも尚、私を慈しみ護ろうと心を砕いてくれる。

優しい優しい父様……


私は目の前の父様を家族を失うのが怖かった。

一葉の想い出に引き摺られ、受け入れがたかったのはほんの僅かな時間。

……抗えるはずがありませんでした。

惜しみ無く与えられる愛情は一片の嘘も打算も無く、柔らかく優しく私を包んでくれました。

それは一葉が、今までの何人もの私が求め守ろうとしたものだから。


……だけど切望したのと同じだけ、失う恐怖に苛まれたのです。


神様は言っていました。

アリアが生きたリフレシアは、一葉の性格を元に想定した『リフレシア』で、そこに入れ替わった私は偽物ではない。

それまでも、これからも私自身が『リフレシア』だと。


それを聞いても私の恐怖は無くならず、家族に『お前は誰だ、リフレシアを返せ』と冷たい瞳で告げられる夢に何度も魘されました。

その夢がいつか本当になってしまうかもしれない。

そしたら、私はどうしたらいいのでしょう。

知ってしまった極上の温もりを私は手放せるのか、全く自信がありませんでした。


だから……


自ら家族に一線を引きました。

何時知られてもいいように。

その時傷付かずに済むように。


けれど……


とうの昔に知られていたなんて。

知っていて尚、変わらず惜しみ無く溢れんばかりの愛情を注いでくれていたなんて。


なのに私は恐れるばかりで、胸の中にある本当の気持ちを伝えませんでした。

言ってしまえば、全てをさらけ出してしまえば、失う痛みが増すと思い込んで。


……馬鹿らしい。

なんて滑稽なんでしょう。

父様がこんなにも傷付く事に比べたら、未だ起こってもいない想像に怯えるなんて、私は本当に馬鹿です。

一片の曇りもなく心から与えてくれる愛情に、真摯に返さない私はなんて不実な人間なんでしょう。

過去の過ちは後でしっかり反省します。

でも、それに振り回されて『今』を疎かにしては意味がないです。

だから……


綺麗な父様の紫紺の瞳を見つめます。


「父様。私は父様と母様の子供に産まれて良かった。リフレシアは……私は皆が大好きです」



……伝わります様に。

どうか私の心が伝わります様に。





次回の投稿は7/22です。


その次の投稿は7/24で、何事もなければその後は毎日投稿にする予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ