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レティシア・サマーセット side 2



親の勘は神様達の想定外です。


レティシアさんは柔軟な考え方が出来る女性でした。



息子達を自室へ送り、2人きりになった寝室で我が家であるにもかかわらず消音の結界を張った旦那様。

屋敷にいる使用人は信頼の出来る者ばかりですし、息子達には知られて困る事などありません。


なのに、何故?


疑問が顔に出ていたのか旦那様は苦笑しながら答えてくれました。


「リフレシアに……あの娘に聞かせたくないんだ」

「…………」


旦那様は今『あの娘』と言い直しました。

リフレシアと、目覚めたリフレシアは違う娘と確信している口振りです。


「リフレシア、である事には違いないが私には人格が入れ替わったように感じるんだ」

「……ええ、わたくしもそう感じましたわ」

「レティシア、リフレシアに魔星は無かったんだね?」

「魔落ちして、魔に操られていると?あり得ません。あの娘は目覚めた瞬間から清らかな光を放っていましたわ。それにリフレシアの身体に魔星はございません。それはわたくし自身が確認しましたから」

リフレシアが瞳を開けた瞬間に部屋が清涼な空気に満たされました。旦那様もそれはわかっているはずです。

「そう。……でも我々に想像出来るのはそれ位しかない」

「……もし……」

「もし?」

「わたくし達の想像など及びつかない現象が起こったとしたら?」

「…………」

「確証はございません。ですが身体は間違いなくリフレシアのものです。そして魔ではありません。……暫く様子を見てはどうでしょう?」

「何も出来ないのは歯痒いが、そうするしかないだろう。ただ……」

「ただ?」

「……あの娘から目を離さないでくれ」

「……はい、心得ておりますわ」


旦那様が言い淀んだのは我が子を疑わなければならないからでしょう。

ですがわたくしも同じ。


「旦那様、独りで背負わないで下さいね。わたくしも気持ちは同じ、重く辛い荷物程2人で分かち合うのが夫婦だと以前仰ったのは旦那様でしてよ?」

「レティシア……君と出会えて本当に良かった。愛しているよ」


わたくしの名を弱々しく呟き、そっと抱き締める旦那様。


筆頭公爵や宰相という肩書ゆえに常に冷静であり、時には冷酷な判断もしなければならない旦那様。

元来はわたくしよりずっと優しく繊細な方です。

けれども、貴族社会で生き抜く為にはつけた仮面は外す事は出来ません。

外したが最後、ハイエナのような者達の格好の餌食となり、たちまち全てを奪われてしまいます。

ですから旦那様は滅多な事では弱音など誰にも吐きません。

わたくしと2人きりの時以外には……


旦那様の背中を抱き締め返したわたくしは静かに覚悟を決めました。

どんな事が起ころうとも家族を守り抜く覚悟を。




リフレシアが目覚めてから半月程経ちました。

思った通り、わたくし達が感じた違和感は決して間違いではありませんでした。


ですが結論から言いますと、わたくし達は目覚めた後のリフレシアもリフレシアとして受け入れる事にしたのです。



決定的な違いは表情でした。


それまでのリフレシアは大人しいうえに表情の乏しい子供でした。

たまに何かの拍子に綻ぶような微笑みを見せる事もありましたが基本は無表情で、表情を浮かべてもぎこちなく、周囲を見て真似たものという感じだったのです。



ですが今のリフレシアは……


喜びを輝くばかりの笑顔に、

怒りを貫く視線にのせ、

哀しみを宝石の様な涙とともに、

楽しさを小さな身体全てで表して、


感情を溢れんばかりに表現したのです。



今までのリフレシアとは違うとわかっていても見目形は愛しい我が子そのもので、愛さずにはいられなかったのです。


……ただ、この娘が今までのリフレシアではないのなら、本当のリフレシアは何処に行ったのか?


……天に召されてしまったのか。


それだけが気掛かりでした。


ですが、それも曖昧ではありますが払拭されました。


目覚めたリフレシアの専属侍女のアリア。

わたくしも旦那様も雇った記憶やリフレシアの専属侍女にした経緯も覚えているのですが、目覚めたリフレシアに感じたような微かな違和感が拭えませんでした。

ですが、アリアを観察していくうちにある事に気付いたのです。


アリアは基本的に無表情です。

高位貴族の使用人は感情を出す事はあまりしないので問題ありません。

……ですが、極稀にリフレシアに対してだけですが綻ぶように微笑むのです。


その微笑み方はかつてのリフレシアを彷彿させるものでした。



何処かに消えてしまったリフレシア。

新たに我が家にやって来たリフレシア。

雇った覚えはあるが違和感があり、かつてのリフレシアを彷彿させるアリア。



きっとわたくし達の想像の域を越えた何かによって成ったのだと、わたくしは思うのです。





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