レティシア・サマーセット side 1
レティシアさん視点です。
今までほぼ出てきていなかったのでかなり長いです。
だから区切る事になってしまいました。
溜まりに溜まったお母様の心情にお付き合い頂けたらと思います。
わたくしには3人の子供がいます。
2人の息子と娘。
3人とも旦那様によく似ていて、それぞれ比べる事など出来ない程愛しい存在。
……とは思っていますが、娘だけは少し特別なのかもしれません。
わたくしの娘リフレシアは産まれおちた時から美しい子供でした。
愛する旦那様は見目麗しい方ですから、其の血を濃く受け継いだのもあったでしょう。
見た目に関しては2人の息子も同様なので特別な事ではありません。
ただ同じ年齢の子供よりは少し感情の起伏が少なく、顔に浮かべる表情に僅かな違和感はありました。
ですが、その事以外は極々普通の子供でした。
……ある日までは。
リフレシアが5歳の誕生日を迎えた後に参加した王家主催の園遊会での事です。
成人前の子供も参加する年に二度の園遊会は、社交に忙しい大人達のせいで子供達は放置されがちです。
王宮の侍女や従僕が子供達を見ていますが、貴族の子女に諌める事も難しかったのでしょう、それは起こってしまいました。
歓談する大人達の声を上回る、突然起こった悲鳴は子供のものでした。
わたくしと旦那様は我が子達がいるであろう人垣へと駆けつけます。
そこでわたくし達が目にしたのは、宙に浮かび悲鳴を上げる5人の少年と、その下に佇むリフレシアでした。
リフレシアはアメジストの瞳に強い怒りをのせ、浮かぶ少年達をじっと見詰めています。
そして、リフレシアは怒りを瞳に宿しているのに反して冷たく言い放ちました。
「わたくしの家族はとても強く美しい家族ですのよ。先程の言葉を取り消して頂けますか?」
リフレシアのこの言葉で何が起こったのか大体は察する事が出来ました。
子供としては大人しい部類に入り、大抵の事は言い返しもしないリフレシアですが、こと家族が関わると人が変わるのです。
無表情に一番相手の痛い所を容赦なく攻撃します。
……それも大人相手に。
今回は相手が子供なだけに、若干感情的になったらしく魔法を使ったみたいです。
けれどリフレシアからすればほんの少し脅した程度。
サマーセット公爵家とわたくしの実家であるリルベリー侯爵家は両家ともに魔法大家であり、その血を色濃く受け継いだ我が子達は幼くしてその才能を開花させていました。ですからこの位の魔法は我が子達にとって攻撃と言えるものではなかったからです。
リフレシアから少し離れた所に2人の息子の無事も確認できたわたくしは安堵の胸を撫で下ろします。
リフレシアが魔法を解き、少年達は地面へと降りて来ました。
さて、この少年達をどうしましょうかと視線を向けた時、旦那様と息子達が叫んだのです。
「「「リフレシア(姉様)!」」」
その声に慌てて見るとリフレシアが地面に力なく倒れています。
「リフレシア!!!」
駆け寄り名を呼んでも全く反応しません。
旦那様が王宮の侍医を連れてきましたが、一通り鑑定した後首を横に振ります。
「……ただ眠っているとしか。それ以外に異常はないのです」
何も出来る事は無いと言われ、わたくし達は我が家へとリフレシアを連れ帰りました。
ベッドで眠るリフレシアは顔色こそ普段より悪いですが、呼吸も規則正しく異常らしい異常は見当たりません。
……ただ目覚めないだけで。
リフレシアが昏睡してから5日めの事でした。
目覚めないリフレシアの枕元にわたくし達家族は時間の許す限り居ました。
手を握り、声を掛けて、リフレシアが無事目覚めてくれるのを祈っていたのです。
その時、眠りについてからぴくりとも動かなかった瞼が震えました。
皆が息をのみ見守る中、リフレシアが目を覚まします。
家族は安堵し涙したのですが、リフレシアの様子がおかしい事に気付きました。
最初は長らく眠っていた事でぼんやりしているのだと思っていたのですがリフレシアの言葉でそうではないと理解したのです。
「私何だか混乱しているみたいです。記憶が曖昧で……お父さんですよね?」
旦那様に『お父さん』と確かにリフレシアは言いました。
……それも疑問形で。
長い眠りは記憶が曖昧になる事もあると聞いていました。
ですが生粋の公爵令嬢であるリフレシアが父親に対して『お父さん』と呼ぶ事などあり得ないのです。
湧き上がる疑問と不安にわたくしは声をかける事すらできませんでした。
リフレシアが目覚めた事は本当に喜ばしい。
ですがリフレシアは……本当にわたくしのリフレシアなのでしょうか?
混乱し頭痛がするから独りで休みたいというリフレシアの願いを聞き、部屋から出たわたくしは旦那様のお顔を見ました。
旦那様はとても厳しい表情をされており、わたくしと同じくリフレシアに疑問を抱いたのだと確信しました。
わたくしの視線に気付いた旦那様は2人の息子にわからぬよう小さく頷いたのでした。




