骨は拾ってあげますからね?
……誠に申し訳ありません。
今回も物語が進みませんでした。
すべては砂糖を吐く(残念)イケメン神様のせいです!
雲ひとつない晴れ渡った空に小鳥の囀りが愛らしい。
……只今絶賛現実逃避中の私です。
今朝早くに先触れがあり、先程我が家に到着した神様もといポアロ様はサマーセット公爵家で一番立派な客間のお高いソファーに居心地悪そうに座っています。
出されたお茶は王家御用達のもの、添えられた茶菓子は料理長自慢の一品ですがポアロ様は一口も手をつけていません。
……それもそのはずです。
冷気駄々もれの8つの瞳に凝視されたら、優雅にお茶を飲めるわけありません。
時を遡る事少し、臣籍降下したとはいえ王弟の公爵様で魔導師長なポアロ様をお迎えする為にと、朝早くから素晴らしい働きぶりを見せた使用人達の努力の結果、いつも以上にピカピカに磨きあげられた我が家。
程無く到着したポアロ様を総出で玄関に迎えました。
そこで交わされた会話がこの事態の引き金となったのです。
「ようこそお越し下さいました、王弟殿下」
「ふふっ、もう殿下ではありません。堅苦しいのは無しにしませんか、昔の様にポアロと呼んで下さい、アルヴィス殿」
「そうでしたね、ではお言葉に甘えさせて頂きます、ポアロ様」
始まりは至って和やかな雰囲気で、『昔って、子供の頃の神様知ってるの父様!』なんて場違いな事をのほほんと考えていたくらいでした。
「レティシア様もお変わりなく。相変わらずいつ見ても宝石さながらの美しさですね」
「ご機嫌よう、ポアロ様。お誉め頂き光栄です。ですが、ポアロ様の素晴らしい美丈夫ぶりにわたくしは霞んでしまいますわ」
そう!そうなのです!
昨日ホールで会った時は魔導庁の制服である 銀糸で刺繍が施された臙脂色の長めのローブを纏っていたのですが、今日は銀にも見える薄いグレーの三つ揃えに真っ白なシャツ、紺色のタイと貴公子然とした装いです。
装飾品は小振りなサファイアのタイピン(見る人が見ればわかる透明度の高い一級品)に、後は胸のポケットにさした薄桃色の蕾の薔薇が一輪だけ。
余計な装飾品はなくても日に輝く金髪とタイピンのサファイアよりも美しい瞳がポアロ様を引き立てています。
何より髪を撫で上げた事で普段は余り感じない色気が倍増したのです。
顔にかかる一筋ほどの髪がまた何とも言えない艶を醸し出しています。
中性的な顔立ちですがピタリとしたスーツから窺える身体は決して貧弱ではなく、程好い筋肉が付いています。
美しいかんばせに、細身ではありますが男性的な体つき、さらには柔和な物腰……思わず溜息が溢れました。
多分、顔もだらしなく緩んでいたに違いありません。
だって、女の子なら一度は憧れる王子様そのものなんですよ?
うっとりした私は悪くないはずです。
「ユリウス君、シリス君こんにちは。昨日は色々と大変だったけれどゆっくり休めたかな?」
「ポアロ様、お越し頂きありがとうございます。十分に休息し、体調は万全です。お気遣い頂き恐縮です」
お兄様が昨日よりも何だか他人行儀です。
笑顔もそこはかとなく冷たいような……気のせいかな?
「こんにちは、ポアロ様。昨日は役に立てず申し訳ありませんでした。僕もよく休んだので元気になりました」
いつも愛らしい笑顔のシリスですが、今はお兄様と同じく冷気漂う笑顔です。
……何故でしょう?
「リフレシア嬢、ご機嫌よう。顔色は悪くないですね、良かったです。これを貴女に」
蕩けるような笑顔で側に控えていた従僕から、胸の薔薇と同じ薄桃色の薔薇の花束を受け取り私に差し出しました。
「薔薇はお好きですか?今朝うちの庭に咲いた朝摘みのものです。リフレシア嬢の可愛らしさには敵いませんがどうぞ受け取って下さい」
背の低い私に合わせて、片膝をつきなから渡された花束はとても可愛らしくひとめで気に入った私は満面の笑顔で答えました。
「ご機嫌よう、ポアロ様。お気遣いありがとうございます。この花束とても素敵ですわ、嬉しいです」
「それは良かった。この薔薇も貴女に愛でられるなら咲いた甲斐があったでしょう」
……流れる様に出てくる美辞麗句に、慣れない私は真っ赤になって固まります。
だって、神様ですよ?
本当に超絶イケメンなんですよ?
なのに……
「リフレシア嬢に喜んでもらえるなら毎日でも贈りたいくらいです。いっそ我が家の庭園を全て薔薇に植え替えようか?ああ、でも薔薇のない季節はどうしよう。リフレシア嬢、他にお好きな花はありますか?」
などと誰も口を挟めない勢いで言うのです。
9歳の小娘に淑女を口説くような甘い台詞を蕩ける笑顔で宣う美貌の青年。
聞いていた人の頭に浮かんだ文字は『ロリコン』の4文字に違いない。
みるみる内に和やかな雰囲気は消え去って、笑顔のままに冷気を纏う家族に弁明も出来ぬまま、あれよあれよと客間に連れられ今に至ったというわけです。
……神様、私には助けられません。
骨は拾ってあげますからね?
神様は今までずっと見守る事しかできませんでした。
どれだけ助けたくとも何も出来ず見守るだけを繰り返してきました。
やっと彼女の鎖を絶ちきれる機会を掴み、制限はあっても生きて動いている彼女に手助け出来るこの世界でしてあげたい事は山程あるのです。
神様としてではなく、同じ時を生きる人として自分に出来る限りの事をしてあげたい。
拗れた神様の願いは形を歪ませてしまいます。
端から見たら『ロリコン(変態)』と言われてしまう形へと……
本人に自覚はありません。
(歪んでしまった)願望をただ実現してるつもりなのです。
……果たしてそこにあるのは慈愛だけなのでしょうか?




