神様……オプション盛りすぎです!
長い間お付き合い頂き、本当にありがとうございました。
これにてリフレシアの物語『神様……オプション盛りすぎです!』は完結とさせて頂きます。
『神様……オプション盛りすぎです!番外編』も投稿していましす。
疑問のままのあの人やこの人の事など本編に書ききれなかったエピソードを、短編で上げていくつもりです。
良かったら読んでみて下さい。
10/8(木)に『命短し、恋せよ悪役令嬢!〜悪役令嬢は転移攻略対象に攻略される?〜』の新連載も始めます。
どちらも皆様の暇潰しにでも読んで頂けたら幸いです。
馬車から降りた私にふわりとピンク色の何かが降ってきた。
この日の為に誂えた宵闇色のドレスの飾りに付いたそれは、桜の花びらでした。
はらはらと舞い散る花びら。
咲くにはまだ早いのに。
まるでいつかの日のように、緊張で強張った私の心を柔くする。
今も昔もずっと大好きな桜。
輝く月の光に彩られ、美しく幻想的な絵画のよう。
もう少し、この美しさを眺めていたいけれど。
私は名残惜しく思いながらもその場を後にした。
■■■■■■
「リフレシア遅い!」
会場の扉が開いてすぐにかけられた言葉はルーカスのもの。
でもまだ先程の桜の余韻が抜けない私は、ぼんやりしていました。
「桜が、馬車を降りたら桜の花びらが舞っていて……」
優しいムスクの香りがしたと思ったら、ダリルが私の頭に手を伸ばしていました。
「本当だ、リフレシアの頭に付いてる。でもまだ早いよね?」
ダリルの指には小さな桜の花びらがありました。
「リフレシア、桜大好きだから神様が今日のお祝いに咲かせてくれたんじゃない?」
優しげな笑顔で、あながち冗談とも言えないことを言ったのはフレデリック。
……本当にそうかもしれない。
「まあ、神様に愛されてるって言われても違和感ないからね、リフレシアは」
納得とばかりに頷くオルフェス。
愛されてるかどうかはわかりませんが、嫌われてはいないと思います。
「お前達、時間が無いのをわかった上での雑談か?リフレシア、そろそろなんだぞ。殿下は既に到着してる。早く壇上近くに行け」
そう言って、銀縁の眼鏡を押し上げ、背中を押すラティス。
「ご機嫌よう。ねえ、皆様。紳士としてのマナーがなっていませんわよ?」
正装で着飾った淑女に挨拶も、一つの褒め言葉もなく、いきなり伝達事項なんて。
「「「「「わかってるっ」」」」」
はい?
声を揃えて言うことではないですよ。
じっと皆を見詰めると、全員そっぽをむきます。
何なんですか、旧知の仲とは言え失礼すぎます。
でも。
「皆様、素敵ですね。正装のせいか、いつもと違って大人っぽくて……」
うん、間違いなく後で女の子達に囲まれる。
「リフレシア……もう全員、貴女も含め成人しているんですよ。大人っぽい、じゃなくて大人なんです」
「そうだよ。この卒業パーティーが終われば、学園の生徒でもなくなるんだから」
「見た目は儚げで落ち着いた淑女だけど、中身は昔と変わらないよね」
「というか、これそのままで大丈夫なの?すぐ食べられちゃうんじゃない?」
「それは心配ないだろう。恐ろしい番犬二匹が常に目を光らせてるからな。あの二匹に敵う奴がいるとは思えん」
……大体は正論ですが、何気にディスられている気がします。
そして、番犬って……。
聞こえても知りませんよ?
「リフレシア嬢、ご機嫌よう。今日はいつもにもまして美しいですね。今宵の月の輝く様が霞みそうです。それとも君が月の女神で、焦がれる私の元に舞い降りてきてくれたのですか?」
「「「「「………………」」」」」
「何ですか?おかしなことを言いましたか?皆目が点になっていますよ?」
近付いてきたのは正装が超絶イケメンぶりを倍増させたポアロ先生です。
5人組と違い、さらりと女性を褒めるスマートさ、これぞ紳士の鏡。
見習いなさい、若者達よ。
だ、だけど……あ、あま〜いっ!
だだ甘です!!
いや、嬉しいです、嬉しいですけれど、塩対応を受けたばかりの私には差が激しすぎて言葉が出ません。
そして、そこの若者5人組。
物凄い顔で固まってしまいましたが、大丈夫でしょうか?
「「「きゃあああ〜!!!」」」
凄まじい黄色い声と共に本日の主役(?)が此方に移動してくるのがわかりました。
「ほらリフレシアが遅いから、向こうから来たではないですか?殿下は見掛けより、せっかちなんですから」
「うわあ、相変わらず凄いな。女の子嫌いじゃないけど、あんだけ獲物を狙う眼をした子は遠慮したいかも」
「それもまた女性の一部だよ。だから君は彼女が出来ないんだ」
「でも流石に殿下の取り巻きは僕でも引くよ。水面下のやり取りとか洒落にならないからさ」
「っていうか、この流れだと殿下此処でやる気だぞ。最悪だ。あいつ最初から俺らも巻き込むつもりだったんじゃないだろうな?」
黄色い歓声に動き出した5人は、口々に好きなことを言います。
ねえ、それ不敬ですから堂々と言わないで下さい。
「リフレシア嬢、ご機嫌よう。月の女神もかくやと言った艶姿ですね。此処にいるのは女神の美しさに囚われた哀れな者達かな?」
此方にやって来たクロード殿下の後ろには色とりどりのドレス姿の令嬢達と正装した子息達がいます。
最後の三ヶ月、私達から離れたことで出来た取り巻き。
今日の為とは言え、大変だったに違いありません。
クロード殿下の眼が此処ではない何処かを見ています。
あ、後で総出で労りますから、最後まで頑張って!すぐ終わりますから!
それにしても兄弟揃って例えが同じ……笑ってはいけません。もう殿下は始めているのですから。
「ご機嫌うるわしゅう、第一王子殿下。月の女神などとんでもございません。第一王子殿下こそ、夜を統べる神のごとき麗しさでございます。人も女神もその美麗さと尊さに頭を垂れるほかありません」
「ほう?ならば何故君は私の元に居ないのですか?君の言葉通りであれば婚約者筆頭である君こそ、私に頭を垂れ側にいるべきではないのですか?」
台本通りに進んでいます。
流石、クロード殿下。
「さあ何故でございましょう?わたくしはわたくしの心に問えばよろしいのでしょうか?それとも第一王子殿下の心に、でしょうか?」
悪役令嬢、どんと来いです!
伊達に何年もやっていませんからね。
「君のその態度、我が婚約者に相応しいとは思えませんね。サマーセット公爵家には申し訳ないですが、この場をもって、クロード・ヴェル・グラナードはリフレシア・サマーセットとの仮の婚約を解消します」
突然宣言されたクロード殿下からの(仮の)婚約解消。
騒がしかった会場が静まりかえります。
ちなみにこれ、おじさまから聞いた乙女ゲームの婚約破棄のシーンがベースになっています。
断罪はありませんが。
「そのお言葉、慎んで承ります」
「手続きなどは、おって知らせます」
「御意に」
やりました。
学園の卒業パーティーですが、公の場での(仮の)婚約解消。
殿下が正式な婚約者を作らず、私との仮の婚姻を解消するためのお芝居ですが、上手くいきました。
仲が良いままだと大人の圧力や策略で、解消しにくい状況を打破するためでしたが、内心はらはらしていました。
だってクロード殿下、取り巻きにうんざりして途中で何度も止めそうになったのです。
感無量です。
私は殿下の婚約者筆頭から解放されたのです!
ふふっ、これからは……
「後一つ、この場をかりて宣言したいことがあります」
えっ?
そんなこと聞いてません。
「私、クロード・ヴェル・グラナードはこの時をもって王位継承権を破棄します」
え、えええ〜!!!
蜂の巣をつついたように騒がしくなる会場。
学園の生徒とは言え、ほとんどが貴族子女。
今後の政治に関わる重大発表が二つもされて、報告に向かう人や慌てる人や、歓喜する人に呆然となる人など、それはもう無茶苦茶です。
「いつかやるだろうとは思ってたが、リフレシアとの婚約解消と同時にするか?あっ、だからか」
「ルーカス、そうは言いますが老害達の関与のない場なんてそうそうないんですよ。それに一つも二つも大差ないです。むしろ一回で済んで報告も楽になったでしょう?」
「楽にって……貴族が大きく動くよ?リフレシアとの婚約解消に殿下の王位継承権破棄。グラナード王国全ての貴族が関わることだもの」
「わかっていますよ。だからフレデリック、君を私の側近にしなかったのですから。君には兄上、アルフレッド殿下の側近になってもらいます。陛下と殿下の了承は得ています」
「殿下、いやもう殿下ではない?ああ、手続きが終わるまでは殿下なのか?」
「ラティス落ち着いて。クロード様でいいんじゃない?ねえ、それで良いよね?」
「ラティス、ダリル……。流石の僕も今聞くべきことはそれじゃないってわかる。どれだけ動揺してるのさ」
「いや、呼び名は大事だよ。もちろんクロードで良いよ。様もいらない。ちなみに今日中に全ての手続きは終わるから。爵位は賜るだろうけれど保留にしてもらっているしね」
「ちょっ、ちょっと待って!私何も聞いてませんっ!ねえ、ポアロ先生知ってたんですか?知らなかったの私だけ?何で皆普通に受け止めているのですか!」
隣にいたポアロ先生が宥めるように頭を撫でます。
「落ち着いて、リフレシア嬢。私は事前に聞いていましたが、5人は知らなかったと思います。ですが友人だった彼等は薄々こうなることはわかっていたのでしょう。だから君よりも、若干冷静なのです」
「淑女の仮面が剥がれてるぞ?ポアロ先生の言った通り、クロードがこうすることは予想してた。それが今だった、それだけだ」
ルーカスの言葉に頷く皆。
「それに、リフレシアとの……」
「それは言わなくていいことです。ルーカス、領主になるのだから、もう少し呑み込むことも覚えた方が良いよ」
「……だが、いずれ気がつくぞ?今は動揺してるが人一倍聡いんだから」
「それでもですよ」
「お前も大概甘いよな。お前がそう言うならそれでいいさ」
学園最後の卒業パーティー。
それは普通、学園生活を振り返りつつ、明日から始まる未来を夢見、親しい友人達と別れを惜しみながら楽しむものです。
が、私達のものは普通とは大きくかけ離れた学園史上初で最後となる、あらゆる意味で皆の記憶に残るパーティーとなったのです。
■■■■■■
「まだ怒っているの、リフレシア」
「当たり前です!」
「クロードを庇うわけではありませんが、あの場が最も都合が良かったのは間違いありません」
「それでもですっ!事前に教えておいてくれても良かったではないですか」
私の怒りに苦笑する二人。
卒業パーティーでの出来事は全て事前に周到な用意がなされたもので、私と殿下の婚約解消も殿下の王位継承権破棄もその日のうちに手続きは完了しました。
私との婚約解消にあたり不仲を装うことで、きな臭い貴族を炙り出すことにも成功し、離れていた間に出来た取り巻きの半分近くは秘密裏に王家のブラックリスト入りしました。
ですが正妃様の御子であるクロード様が、王位継承権を破棄する必要はありません。
「クロード様、何故ですか?」
「ん?王位継承権のこと?」
「はい。側妃様とアルフレッド殿下ともわだかまりなどないですよね?わたくしからは王家の関係はすこぶる良好に見えたのですが、何か問題があったのですか?」
「いや、全く問題ないよ。リフレシアの言う通り母上達も僕達もとても仲が良いしね」
「っ!なら何故王位継承権を破棄などされたのですか?」
クロード様とポアロ先生が顔を見合せ溜息をつきました。
「リフレシア、君がそれを言う?」
「……私が言うのはおかしいと?」
これでも心配しているのに……。
クロード様は私の顔を真っ直ぐ見ました。
意思の強そうな漆黒のオニキスが、視線を逸らすことを許しません。
「これまでは曖昧にしてきたけれど、それも終わりにしよう。リフレシア、覚悟を決めて欲しい」
「そうですね。成人し、学園を卒業し、進学するとは言え油断すればたちまち奪おうとする者達が溢れているこの状況で、濁していて鳶に浚われては洒落にならない」
……二人の雰囲気が変わり、二人の瞳には今まで見たことのない熱がありました。
突然のことに何も言えなくなった私に、二人は現実を突きつける手を緩めてはくれません。
「リフレシア嬢、これから先の人生を、いえこの器が死を迎え魂となっても、私は君の側にいたいと思います。ですが、その他と同じは嫌なのです。私は君の唯一になりたい、そして君を私の唯一したい。リフレシア嬢、私に君の全てをくれませんか?」
膝をつき、手を私に乞い願うように向けるポアロ先生。
「リフレシア、僕はもうただのクロードだ。君を愛するただ一人の男として見て欲しい。そして願わくは、君の身も心も僕のものになって欲しい、僕だけの君に」
クロード様もポアロ先生と同じように私に手を伸ばしました。
随分前から、私の成人の日から、お二人は誤魔化すことなく私に伝わるように恋情を向けてくれました。
最初は戸惑うこともありましたが、根気よく私を怖がらせないように、少しずつ気持ちを見せてくれたのです。
恋愛偏差値が底辺な私が気づかなかっただけで、二人は随分前から私を想っていてくれたのも理解しました。
私も二人が好き、大好きです。
でも……。
卒業の少し前、ルーカスに「好きだった」と言われました。
ですがルーカスの告白は過去形でした。
その意味を聞いたら苦い顔をして、でもきちんと答えてくれました。
「あの二人に勝てるとは思えないし、お前が俺を男として見ていないのはわかってたから。俺のこの想いは言う前に終わってた。だけどな、お前の中に少しでも俺を刻みたかったんだ。お前を愛したルーカスという男をな。これは俺の自己満足、だから過去形なんだよ」
ルーカスも、クロード様もポアロ先生も私へ向けるものはとても熱い。
火傷しそうなほどに。
それに触れた私は自分の気持ちがわからなくなってしまったのです。
彼等と同じだけの気持ちを私は持っているのだろうか?
胸を張って『愛しています』と告げられるだけのものを……。
「リフレシア嬢、今すぐ答えが欲しいわけではないのです」
「そうだよ。これから先、厭きるほどの時間、僕達はリフレシアと共に生きる。その中で答えを見つけてくれればいいんだ」
「……そんな曖昧な関係で良いのでしょうか」
二人を私に縛り付けてしまう。
「良いのではないか?愚息どもが望んでおるのだから。そなたが気に病むことなど何もない」
「お、おじさま!突然現れないで下さいませ。未来を生きる前に私の心臓が止まってしまいます!」
「ははは!人の心臓はそう簡単に止まったりせん」
何の予兆もなく現れたおじさま。
いや、本当に心臓がばくばくしています。
「一つ大事なことを言い忘れておったことに気付いたんでな。リフレシアよ」
真剣な面持ちになったおじさま。
「は、はい」
「そなたの魂は既に神格化が始まっておる。繰り返された数多の前世、今世の徳により、そなたはこの世界での生の後、天界へと昇ることとなった」
「はい?」
「よって、愚息どもの言う『これから』とはここでの生だけでなく、天界でのことも含めた『これから』だ」
「は、はい?えっ?」
「もちろん、この世界での人生の伴侶でもありたいと思っていますよ、リフレシア嬢」
「それは僕も同じだよ?何の為に王位継承権の破棄をしたと思ってるの。リフレシアと婚姻出来るようにだからね」
「まあ、どちらを伴侶にするしないにせよ、与えたその能力があれば何にでもなれるし、何処へでも行ける。リフレシアが望むままに生きると良い。そしてこの世界で終わりを迎えたら、その後は天界で儂達と楽しく過ごせば良い。うむ、素晴らしい結末となったな。はははっ!」
朗らかな笑い声をあげる創造神様。
ねえ、皆様。一言、よろしいでしょうか。
神様……オプション盛りすぎです!
この物語を書き始めて早4ヶ月。
106話、20万文字越えの長編になるとは思ってもいませんでした。
本当に長い間、拙い物語を読んで頂いたことに深く感謝致します。
書ききれなかったお話は短編のスピンオフとして、投稿出来ればと思っています。
投稿予定は私の筆の進み具合によりますが。
最後に一つだけ、後書きではありますが『プールムのその後』という小話を。
「プールムよ、おぬしの器が決まった」
「はい。して、どのような器でしょうか?」
「……うむ」
「何ですか、勿体振らず教えて下さい」
「怒らぬと誓うなら言う」
「いや、言ってもらわなくては困ります。……って、怒るような器だと?」
「リフレシアの近くではある。うむ、かなり近しいな。だが……」
「早く言いなさい、このぼんくら親父」
「……創造神たる儂にぼんくら親父などと言うのはおぬしぐらいだぞ?」
「喧しい、早く言いなさい」
「わかった、わかったから殺しそうな眼で睨むのは止めろ。リフレシアの母親のお腹に宿る生命が、おぬしの器だ」
「……クロード様とポアロ様の入れ知恵ですね。成る程、抜かりない。良いでしょう、この喧嘩受けて立ちます」
「プ、プールムよ。何をする気かわからんが、リフレシアを悲しませるのは無しだぞ?」
「当然です。あの娘の前世を一番知っているのは私です。悲しませるなど言語道断。なので、弟として出来うる限りの邪魔をさせて頂くだけですよ」
「ほ、程々にな。あんまり揉めるな。おぬしとポアロの争いなどこの世界が崩壊しかねん」
「そこは重々承知しております。リフレシアは家族に心からの愛情を注ぎます。弟として産まれる私にもね。それはそれは愛してくれることでしょう」
「……だから止めておけと言ったのだ。儂では止められん、プールムは」
「何ですか、言いたいことがあるのでしたら、はっきり聞こえるように言って下さい」
「いや、良い。とにかくそういうことだ」
「ふふふ、楽しみです」
と言う会話がされたのは、リフレシアの誕生日のすぐ後だったとか。
以上、『プールムのその後』でした。
今世の中は困難に見舞われ、悲しいニュースも飛び込んできます。
鬱屈していくものを発散することもままならず、まるで檻に閉じ込められたような窮屈な日々は、心を少しずつ暗く染めていくように感じます。
ですが明けない夜はありません。
現状に折れることなく生きてさえいれば、未来は誰にも等しく訪れます。
生きている、それだけでも価値があると私は思うのです。
全てが今に至る為のものだったと思える日がやって来ると信じて、私は頑張ろうと思います。
皆様の心に、この物語が少しでも癒しとなれば幸いです。
十六夜




