私達が『私』になる
後2、3話で完結となります。
最後までお付き合い頂ければ嬉しいです。
「……リーベルタースはどうなりますか?」
神の御使いであるのに、世界に関わり人間を争わせてしまったリーベルタース。
その事実は覆すことは出来ません。
でも、リーベルタースもまた被害者です。
人間が生み出してしまった負の感情の。
「最初に聞くことがそれか。前世であれだけの事をされたというのに」
「……許すとは言えません。それはリーベルタースにも伝えました。ですが私個人の事とは別で客観的に考えれば、リーベルタースだけが悪いとはどうしても思えないのです」
「うむ、確かにな。これもまた被害者とも言える」
「主よ。話の途中ですが少しよろしいでしょうか?」
「構わん、何だプールム」
「今回のことで私はとても疲弊しています。ですので是非休暇を頂きたいと思います」
何故今、神様の休暇申請が行われているのでしょう?
「ふっ、成る程?鎖はそなたが付けるのか?」
「はい。主と私の神力が元ですので一番馴染みやすいかと」
「良かろう。ではそなたの器も早急に用意しよう」
「ありがとうございます、主」
さくさくと進むプールム様の休暇申請ですが、意味のわからない言葉が幾つか混じっています。
鎖とか器とか。
「くすくす。リフレシア嬢、そんな小動物みたいにきょとんとしないで下さい。説明しますから」
「お前高位貴族の令嬢なんだから、もう少ししゃんとしろ。そんなんだとつけこまれて良いようにされるのがおちだぞ」
「まあ良いではないか。どうせおぬしらリフレシアの側を離れんだろうし、おぬしらが何とかすれば良い話だ。儂はリフレシアが望む生き方を出来るように、この世界を創ったのだ。プールムも増えたし、おぬしら励めよ?」
「は、はい?」
私のために創った世界?
リーベルタースとプールム様の事を解決するためじゃなくて?
プールム様が増えた?
…………もう理解不能です。
ああ、この感覚。覚えがあります。ポアロ先生と初めて会った時と似ています。
考えても無駄、ただ受け入れるしかないのです。
……相手は神様ですから。
「では僭越ながら私が今の会話の説明を致しますね」
うっ、後光が見えそうなプールム様の微笑み。
眩しいです、美しいです、流石神様!
創造神様に三神、プラス神の御使い。
全員が違う系統の恐ろしい程の美形様。
こんな時ではありますが、美しいものは美しいのです。
眼福です、ありがとうございます。
キラキラオーラも半端なく、真夜中だというのに我が家の庭は煌々と輝いています。
結界は張ってあるので大丈夫とは思いますが。
「くすくす。リフレシアがお尋ねのリーベルタースの処遇なのですが、元と同じく私のもとで働いてもらいます」
「プールム様のもとで働く」
「はい。ですがリーベルタースは人間を操り争わせてしまったので、罰として前とは違い私の神気に繋ぎ監視します。そして人間から生み出される負の感情を力に変え、この世界に還元してもらいます」
「えっ、でもそれって……」
「それを行使するために、私もこの世界で器を持つこととなります。まあ、私の器は主がお決めになりますが、皆様と近しい間柄になるでしょうね」
要約したら、プールム様の監視付きでこの世界で前と同じ役目を果たすということですよね?
しかも、私達と離れずに。
……罰という建前の無罪放免に近いです。
「おじさま、プールム様……ありがとうございます」
「何がだ?儂は神ぞ?悪さをした者にはきちんと罰を与えた。そして苦労した配下に褒美を与えただけだ。そうだな、プールム?」
「ええ、その通りです。私も皆様の様に現世での人生を体験してみたいと思いましたので、主にお願いしたのです。そのついでに部下の仕出かした事の後始末も引き受けただけのことですよ」
嬉しくなってリーベルタースを見ると、物凄くやりきれない顔をしています。
「……創造神よ、それでは私の罪は購えん。自分が仕出かした事の大きさは自覚してる」
「なら聞くが、そなたの一番の被害者は誰だ?」
「聞くまでもないだろう……」
「ではそのリフレシアを悲しませると?」
「…………」
「儂は言ったであろう?この世界はリフレシアのために創ったと。なのに悲しませると?否、それは許さぬ。ならばそなたは罪を償えぬという罰を甘んじて受けよ。そして役目とともに、リフレシアが幸せになれるよう励め」
「そうか、そうだな。私にはこの世界ですべきことがある。創造神、プールム、感謝する」
一瞬何かを耐えるように瞳を閉じたリーベルタースですが、再び開いた瞳には見たことないほど強い意志が宿っていました。
神の御使いから、人間の悪意に堕ちたリーベルタースの罪悪感は私が想像出来るものではないと思います。
でも、彼はそれから逃げずに役目を全うする覚悟を決めた。
「リーベルタース、私に出来ることがあれば何でも言って下さいね。私もルチアも喜んでお手伝いしますから」
「リフレシア、創造神の話を聞いていただろう?私がお前の手助けをするんだ」
「でもきっとルチアはリーベルタースから離れませんし、私もリーベルタースと一緒の時間は楽しいですから」
「っ、や、止めろリフレシア。金と黒のいるところで誤解を招くような事を言うな」
誤解も何も思ったことを言っただけです。
「……ふむ。リフレシアそなたいつまで見ない振りをするつもりだ?成人したのだから、そろそろ真面目に向き合え。ちなみに儂もポアロもクロードも器が寿命をむかえるまで現世に留まる。よりどりみどりだぞ、誰が良いのだ?」
えっ?
リーベルタースのことが片付いたのに、皆様この世界に残るのですか?
「この世界はそなたの前世にあった『乙女ゲーム』が元になっておる。『ヒロイン』『攻略対象』『悪役令嬢』がいて、『学園』で様々な『イベント』がある。だが、あくまでベースにしただけだ。そなたが『魔法』を使える世界であれば良かったのだ。ルチアと出会い、リーベルタースの心に触れられればな。先程言った『宿命』はそなたの魂に与えたものだ。それはそなた自身が成さぬ限り、誰の手出しもかなわぬもの。だが儂の予想外の事が幾つも起き、事態は複雑かつ困難になってしまった。それを出来うる限り元に戻すために、魔法があるこの世界を創り、そなたを転生させた。リーベルタースはそなたの魂の一部に絡みついていたから、儂が何もせずともこの世界にもやって来るのはわかっておったしな」
穏やかな顔で説明をして下さるおじさま。
大体の経緯はポアロ先生から聞いていましたが『宿命』に関しては初めてです。
「元々のリフレシア嬢の『宿命』、リーベルタースの心を救うのはそれほど難しいことではありませんでした。貴女が健やかに育ち、そのままの貴女がリーベルタースの心と触れ合えば、囚われた負の感情から解放されるはずだったのです。……ですが人の心の闇は神の予想を上回り、際限なく生み出された負の感情は憎しみに囚われたリーベルタースの力となりました。それは神が地上でふるえる力を超えてしまったのです」
「成長したそなたであれば、リーベルタースの力に対抗出来るはずだった。だが、不幸にもリーベルタースはまだ幼いそなたに気付いてしまった。闇に囚われながらもリーベルタースの本質がそなたに惹かれたのだろう。だがそれをリーベルタースは正しく認識出来ず、異様な執着へと変換してしまったのだ。そして悲劇は繰り返された。ポアロに言われ見たそなたの魂はリーベルタース、プールム、クロードに複雑に絡みつかれた状態であった。無理に剥がせば癒すことが出来ない程の傷を負うのは必至。だからこの世界を創り、転生させる過程で絡みついたものを緩やかにし、そなたが自身で身を守れるだけの力を与え、成長したそなたとリーベルタースの出逢いを果たさせることにしたのだ。その出逢いまで守護者をおいてな」
その守護者がポアロ先生とアリアだった。
「後はリフレシア嬢が知っている通りです」
私はたしかに今まで悲劇的な最期を迎えてきたと思います。
大きくなれず、大好きな家族と引き離され、その家族の記憶にも残ることすらありませんでした。
受け継いだ前世の記憶は、狂おしいほどに家族を求め愛していました。
ですが……。
「おじさま」
「……何だ、リフレシア。思うままに話せば良い。そなたは儂らに言う権利がある」
「…………」
勘違いされていますね、これは。
珍しくおじさまが緊張しています。
「ふふっ、おかしい。おじさま、いえ創造神様、そしてポアロ先生、クロード殿下、プールム様、リーベルタース。ありがとうございます」
「「「「「は?」」」」」
うわあ、凄い。
5人の声がぴったり揃ってます。
何だか気が抜けました。
「あのですね、リーベルタースにも言ったのですが、過去は戻りません。だけど未来は変えることが出来るでしょう?私は今この世界にリフレシアとして生きています。サマーセット公爵家で皆を愛し、愛され……とても満たされています。両親、兄弟、家人、友人……そして未来。過去の私が欲しかったものをこの手に掴みました。そして何より、私は生きています。この命は私だけのものではありません。過去の私、今の私、そして私を愛してくれる人達のもの。それを守ってくれて、この世界まで繋いでくれて、皆に出逢わせてくれて……」
言葉が、胸が詰まる。
脳裏に浮かぶ過去の私。
悲しかった。
つらかった。
切なかった。
だけど、私は自分より大切な人達を守れた。
一番したかったことは、出来ました。
そのやり方は周りを悲しませてしまったけれど、後悔はありません。
過去の私は短くてもちゃんと『生きた』のです。
その事はどの私もそう思っています。
「だから、ありがとうございます」
ああ、全部の私が今、私と一つになった。
次回の投稿は9/28(月)です。




