リーベルタースともう一人の神様
リフレシアは何人の名付け親になるのでしょうか。
深夜0時。
私リフレシアが15歳の誕生日を迎えたと同時に、サマーセット家の庭園が今まで感じたことのない厳かな神気に包まれました。
現れたのは見知ったお三方。
そう、おじさま、ポアロ先生、クロード殿下の三神です。
「リフレシア」
私を呼んだのはおじさま。
「……成人おめでとう」
「あ、ありがとうございます?」
へ?
開口一番はそれですか?
「いや、かなり深刻な雰囲気なところ悪いが、多分そなたの思うようなことは何一つならないと思う」
「は?」
「もう達成したので構わんだろう。ぶっちゃければ、そなたに与えられた宿命はすでに成された。そなたは宿命を背負っていたのだ」
「宿命、ですか?」
「そうだ。全ての人間が背負うものではないがな。そなたを儂が選んだ。『闇』を救う宿命を背負う者として」
おじさまはそう言うと、私の持つ封印の珠に指先で触れました。
珠は音もなく粉々に砕け散り、銀色の光を放ちます。
強い光に目を瞑った私を、低く艶やかな声が呼びました。
「リフレシア、悪い。もう目を開けても大丈夫だ」
目を開けた私の前には、緩く波打ったくせのある黒髪で、少し垂れた銀色の瞳に目尻の黒子が艶かしい美丈夫がいました。
え?この方誰ですか?
「相変わらず鈍いな。私だ、リーベルタースだ」
くすりと瞳を細めて微笑む様にも、腰がくだけそうな色気が滲んでいます。
えええ〜!?
これ、本当にリーベルタース?
自分は醜いとか言ってませんでしたか?
もの凄く格好良いのですが!
「リフレシア、落ち着け。私も含め、此処にいる神々には心の声が駄々漏れだぞ」
目尻をほんのり赤く染めた、照れた顔のリーベルタースに注意された私。
「はっ!大変失礼致しました!」
「儂は良いが、愚息どもがすごいことになっているぞ?」
おじさまの言葉にお二人を見ると、私の側にいるリーベルタースを射殺しそうな眼で睨んでいます。
何故?
「リフレシア、お前は……。もういい、先にあいつを解放する。良いか、全てを統べる神よ?」
「構わん。リフレシアの願いであろう。先に叶えてやるが良い」
おじさまの許しを得たリーベルタースは、目を閉じました。
するとリーベルタースから白い靄のようなものが出てきます。
そしてその白い靄は人の形になりました。
腰まである真っ直ぐな髪は私の髪と似た銀色です。
優し気な金の瞳と透けるような白い肌。
線が細い体型に美しいお顔、男性だと思うのですが正直どちらともとれる中性的な美貌。
この方がリーベルタースに取り込まれていた神様。
「はじめまして、リフレシア。彼の中でずっと君を見ていたから、正直はじめましてとは思えないのですがね」
「はじめまして。えっと……」
「神に名前はないのです。良ければ君が名付けて下さい。呼び名がないと現世では不便ですから」
えっ?
神様の名付け!?
待って、待ってください!
そんな恐れ多いこと出来るわけないじゃないですか!
「リフレシア、付けてやると良い。くくっ、誰も彼も皆そなたになつきおる。人も神も闇も。そういえば動物もなついておったな、はははっ」
「お、おじさま。笑い事ではありません!神様の名付けなんて!」
「儂が良いと言ったのだ。ポチでもタマでも何でも良い」
良いわけないでしょう!
「リフレシア、そんなに嫌ですか?」
しゅんとしたお顔になる神様。
ないはずの耳と尻尾の幻が見えます。
「いえ、嫌とかではなくてですね……ああ、もうっ!わかりました、わかりました!考えるので少し待って下さい!気に入らなくても文句は受け付けませんからねっ」
やややけくそ気味に考えること暫し。
……何でしょう、皆の視線が痛いのですが。
「プールム、はいかがですか?」
「純粋?リフレシア、この人見た目とちが……」
「ええ、素敵な名前です。大変気に入りました」
クロード殿下の言葉を遮り、柔和な微笑みを向けるもう一人の神様。
「くくっ、良い名前を貰ったな。プールムよ?名前負けにならんよう励め」
「主よ……。はい、粉骨砕身励みます」
ふぅ、何とかなって良かったです。
………………?
「ええと、この状況は一体どういうことなのでしょうか?ただの人間の私には理解出来ないのですが?」
「「「「「……ただの人間……」」」」」
何故、全員でハモるのですか?
私以外は人外ですよね?
「はははっ!あ〜腹が痛い。リフレシア、そなた流石だな。儂を含めた四神と神に準じるものをここまで呆けさせるとは。くくっ、たまらんな」
はい?
「……リフレシア、お前やっぱりポンコツだな」
「リフレシア嬢はそこが愛らしいのです」
「リフレシア……父上をここまで笑わすなんて」
「くすくす。リーベルタースの中から見ていましが、実際に見ると感慨深いですね」
むぅ、皆好き勝手なことを言って!
後で覚えておいて下さいね。
私だってサマーセット家の一員です。
相手が神と神に準じるものでも……。
……神に準じる?
「えええ〜!リーベルタース、貴方って神の御使いなの?」
「そうだったようだ。私も全てを統べる神に会うまでは忘れてた」
「本来リーベルタースは私の補佐をするために生まれた存在だったのです」
落ち着いた優しい声でプールム様が説明してくれます。
「ですが予想以上の負の感情を取り込んだリーベルタースも私も許容量を超えてしまい、制御不能になってしまったのです」
「元々の役目はプールムの浄化の補佐だ。負の感情から生まれた私は、負の感情を力に変換出来る。変換した力はプールムへと還り、浄化の力となる。そうして世界のバランスを崩さないように、溢れた負の感情を制御するはずだった」
「ええ。ですが制御不能となったリーベルタースはそれ以前の記憶すら失い、取り込んだ負の感情を糧として、負の感情に支配されたまま世界に関わってしまいました。私すら呑み込んで……。世界を正しく回す歯車が暴走してしまったのです」
「私は人間を憎んだ。それ故人間の持つ負の感情を操り、自身の欲望のまま人間を葬ろうとした」
「リーベルタースの力は儂の予想外であった」
おじさまが説明に加わります。
「そのままだと世界は滅びてしまう。だが儂が直接世界に関わることは出来ない。儂が世界に関わるのは、世界を壊す時のみだからな。だから儂はプールムとリーベルタースを救う宿命をそなたに与えたのだ」
「ですが主が思っていたよりも事態は複雑化しました。私やリーベルタースを狂わせた人間の負の感情は増え続け、それはリーベルタースに神と匹敵する力を与えてしまったのです」
「兄さんに頼まれ、リフレシア、いや前世の君の様子を見に行った僕もリーベルタースに取り込まれてしまったんだ」
「神として黙って見ている範囲を超えたと判断した私が父上に奏上し、今に至ります」
と、クロード殿下とポアロ先生が先を続けました。
「すまなかった、リフレシア。儂が少しそなたに与えた宿命のことを忘れていた故に、そなたはあまりにも哀しい人生を繰り返させてしまった」
「「「「少し???」」」」
おじさま以外の4人が物凄く冷ややかな眼でおじさまを見ます。
私に向けられたものではないのに、悪寒が半端ない。
お、おじさま頑張って。
「わ、わかっておる。とにかくリフレシア、そなたの宿命は成された。もう二度とあのような哀しいことは起こらぬ。私の名に誓ってな」
「ええと、それはとても嬉しいです。ありがとうございます。ですが、お聞きしたいことが幾つかあるのですが」
「世の理に触れぬことなら何でも答えよう」
次回の投稿は9/26(土)です。




