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素直(?)な闇



一番成長してないのはポアロ先生です。



『これはこれは、清く正しくお美しいリフレシア様、はじめまして。汚泥にまみれ罪深さを友とし、見るに耐えないおぞましき私に寛大な心で憐れみと慈悲でも与えようとでも思ったか、お綺麗なリフレシア様よ』


開口一番、中々辛辣ですね。


はじめまして、になりますね。

こうして言葉を交わすのは。


折角褒めて頂いたところ申し訳ないのですが、貴方の仰るようなお綺麗な私はこの世に存在致しません。

妬み嫉み、足元のすくい合い、虚言妄言……その他色々と、貴方が私に教えて下さったのですよ?

隙あらば仕掛けられる数々の策略もほとんど貴方は関与されていましたよね?

それらを蹴散らす為には、知らねば出来ませんでしたので、十二分に勉強させて頂きました。

目には目を歯には歯を、私の前世のことわざ通り、同じように仕返しもさせてもらいましたわ。

そんな私が清く正しく美しい?

冗談も休み休みにして下さいませ。


『………………』


先程の勢いはどうなさいましたか?

ふふっ、都合が悪くなったら今度は黙りですか?


『っ、貴様っ』


あらあら、たかだか12歳の小娘に口喧嘩で敗北なさいますの?

負の塊?闇?そんな大層な名称は止めたら如何です?名前負けでしてよ。


「リ、リフレシア嬢?」


闇との舌戦を遮り、恐る恐ると言った感じでポアロ先生が私を呼びます。

「はい?」

「その、だね。ええと、いつもより饒舌だね?」

「そうでしょうか?」

「えっ、自覚無いのかい?」


何なのでしょう?

ポアロ先生のそのお顔は。


『ほ、ほら見ろ。神ですらドン引きしているぞ。お前がそんなだと知れば、皆そっぽを向くに違いない!』


失礼ですね。

そんな、とは何ですか?

どんな私も私ですわ。

それに隠したりもしてません。


『そんな事ある訳ない。周りのもの全てに愛され甘やかされるお前は、常日頃その本性をひた隠し、お綺麗な慈悲深さを振り撒いて欺いているのだ。人を魅了する容姿すら上手く利用してな』


……先程から貴方の仰る私は、随分と美化されていますのね。

周りから愛され甘やかされているのには同意しますが、それ以外は到底私とは思えません。

私の何処を見て、何を知ってそう思うのでしょう。

それとも人とは感覚が違うのかしら。


『何だとっ!?お前は常に周りがそう思うように振る舞っているではないか!』


そもそも、前提が間違っていますわ。

私は私を善人と思っていませんし、善人になりたいとも思っていません。

ですから、周りの人にもそう思われたいと考えた事もないのです。

むしろ過度の期待を抱かれる方が面倒ですわ。


『っっ、だがお前は神にすら愛されているではないか。清廉でなければ愛されたりはしない』


神様に愛されている?

それも貴方の勝手な思い込みでは?

百歩譲って懇意にして下さっていたとしても、それは清廉だからではないと断言出来ます。

私の本性などいくら取り繕っても、神様はお見通しですもの。


『……清廉でなくても、正しくなくても、お前は神から愛されているというのか?』

(この方、思ったより単純なのかもしれません)


貴方……ご自分が神様から愛されないのは清廉ではないからだと、愛されたいと思っていますのね。


『ち、違うっ!違う違う違うっ!私は愛されたいなどと思っていないっっ』


あら、そうですの?

貴方の言い方ですと、愛される私が腹立たしいと、何故自分は愛されないのかと、そう聞こえますわ。

前世で私に執着したのもそれ故、と言われると納得出来ますし。


『ふざけた事をぬかすなっ!!……許さん、許さんぞリフレシア!!』


(う〜ん、今回はこれ位にしておいた方が良さそうですね)


神様との念話と同じ要領で会話しているので、意識を遮断すれば私の声は聞こえなく出来るはずです。


「ポアロ先生、これで遮断出来ましたか?」

「…………」


呆然とした顔で私を凝視しているポアロ先生。


「ポアロ先生?」

「っ、ああ、はい。何でしょう?」


そんなに違いました?

貴族女性の嫌味の言い合い(おはなし)だと、もっと激しいのも日常茶飯事なのですが、ポアロ先生は聞いた事無かったのかもしれません。

隠すつもりはないですが、ある意味ポアロ先生は純粋培養された方ですから、刺激が強かったかも?


「念話を遮断するやり方で、こちらの声は聞こえなくなるのですね?今、してみたのですが出来ているのか教えて頂こうと思いまして……」

「ああ。ちゃんと出来ていますよ。……しかし、リフレシア嬢、意外でした」

「……幻滅しましたか?」


ポアロ先生もかなり過度な評価をしがちなので。


「いえ、そんなことはありません。当たり前の事ですが、成長したのだと実感したのです。現実では子供扱いから女性への扱いへと変えているのに関わらず、私の中のリフレシア嬢は小さな女の子のままだったようです。でも先程の会話を聞いて、もうすでに立派な貴族女性なんだと実感したのです。幻滅などするわけがありません。むしろ頼もしく感じました」


ポアロ先生にとって私は、庇護すべき幼子のままだという事は理解しています。

過去に繰り返した前世も、全て幼少期に消滅していましたし仕方のない事です。


「ふふっ、女の子は成長が早いと母様が言ってました。後三年程で成人ですから。成人と同時に結婚する方もいますし、いつまでも子供のままではいられません」

「……結婚」

「ええ。私はクロード様が本当の婚約者を選定するまでは出来ないですが、知り合いにはいますよ」

「………………」


既に婚約者がいる令嬢など、学園の卒業と同時に結婚するのはよくあることです。

ただ、私はクロード様の仮の婚約者ですので、その役割を終えるまでは婚約者を持つことも、結婚することもありません。


……婚約も結婚も、したい人とは出来ない私には都合が良いのですけれど、サマーセット公爵令嬢として、いずれは誰かに嫁がなければならないのもわかっています。


「……リフレシア嬢は想う相手はいないのですか?」

「………………」


こ、答えにくい質問が直球で来ました。

何て答えれば良いのか、咄嗟に思いつきません。


「いえ、答えなくて大丈夫です。……聞いたとしても認めることも、諦めることも出来そうにないですからね」

「えっ?すみません。最後の方、お声が小さすぎて聞こえませんでした。もう一度お願いします」


目を伏せ首を振るポアロ先生。


「いえ、大したことではないので。それより、妙に煽っていましたが、何か掴めましたか?」

「そうですか。闇については、突起りになりそうな事は聞けました。……思っていたより単純と言いますか素直で驚きました。これも罠でしたら、相当演技上手ですね」

「くくっ、素直……。あれの評価が……。流石リフレシア嬢です。ですが、くれぐれも油断はしないで下さい。私達にも予想のつかない相手ですので」

「……はい」


そんなに笑うことを言ったでしょうか?


肩を震わせ忍び笑うポアロ先生と、興味津々にペンダントを見るルチア、そして私を優しい微笑みで見るアリアを見ていると、今まで私の胸に重くのし掛かっていたものが軽くなっているのに気付きます。


簡単に解決するようなことでないのは重々わかっていますが、皆がいれば上手くいくような気がする私の方が単純なのかもしれないと思うのでした。









次回の投稿は9/20(日)です。

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