19
二人は手を繋いで、海岸を歩いた。波の音を聞きながら、他愛のない話をして。疲れたら砂浜に座り込んで。これから次に会えるまで空白になる時間の分、めいっぱいの言葉を交わした。
「蛍の一番好きな食べ物って何?」
「お米かな」
「……男らしいね」
「ねぇヒカルはこの海の向こう側に何があると思う?」
「グアムとかじゃない?」
「答えが現実的すぎ」
「じゃあ蛍は何だと思うのさ」
「宝島かな」
「海賊王か」
そうして、太陽はゆっくり二人の頭の上を通りすぎて海に沈もうとしていた。
「きれいだね、夕陽」
「……」
「ヒカル?」
「花火、やりたいな」
「じゃあ買ってこようか」
近くにあったコンビニへ二人で足を運び、花火を選ぶ。季節柄様々な花火が店に並んでいる。
「ヒカルはどういう花火が好きなんだっけ」
「こう、枝下桜みたいにしゅわーと……」
「手持ち花火じゃそれないでしょ」
「じゃあ線香花火?」
二人はいろいろな種類の詰め込まれた大きな花火セットを購入して浜辺に戻った。
「僕、花火持てないから蛍がやってるの見てるね」
「あ、そっか」
蛍は花火の先端に火をつけた。シュワアアと音を立てて火花が吹き出す。くるりと花火で輪を描くように回し、蛍がはにかみ笑いを浮かべる。
「魔法使いみたいでしょ」
「うん、きれい」
火花に照らされたヒカルの笑顔は、花火なんかよりもずっときれいで、すぐに消えてしまいそうだった。その笑顔が消えてしまわないように、蛍は次々と花火に火をつけていく。つけてもつけても、すぐに消えてしまう花火は本当に一瞬の魔法のようだった。
「あとは線香花火だけだね」
寂しそうに言うヒカルの声に答えず、そっと線香花火に火をつけた。パチパチという音と共に小さな火花が散る。
「僕、線香花火って好きだなぁ。この控え目な感じとか」
「私も好き」
蛍は線香花火の火が落ちないよう言葉少なに答える。
「今日、すごく楽しかったね」
「うん」
ぽと。火が落ちる。もう一本、火をつける。
「僕がいなくなった後、蛍はどんな人生を生きるのかなぁ」
「んー……」
「まずは高校受験でしょ」
「ヒカルと同じとこ行きたいな」
「え! 高望み!」
「私の成績どれぐらいか知らないでしょ!」
ぽと。また火が落ちる。咳払いをしながら、もう一本火をつける。
「蛍って将来なりたいものとかあるの?」
「あるよ」
「何になりたいの?」
「素敵なお母さん」
「あぁ、蛍ならなれるね」
「そうかな?」
「蛍がお母さんだったら絶対幸せ」
「……絶対幸せにするよ」
「え?」
ぽと。蛍は無言でもう一本火をつける。
「残り何本?」
「……あと一本」
「じゃあさ、その最後の一本は僕が生まれ変わる時まで取っておいて」
「え……」
「もう、時間みたい」
しゅわしゅわと言う音と共に線香花火の僅かな光がヒカルの顔をほのかに照らす。柔らかいオレンジ色に染まったヒカルの顔は穏やかな笑顔だった。線香花火は徐々に火花を弱め、小さな火の玉が今にも落ちそうにじわじわと音を立てる。魔法が、終わる。この火が落ちたら、終わってしまう。蛍は考えあぐねた。最後に言うべき言葉は、何が正解なのか――。
線香花火を持つ蛍の右手にひんやりとした手の感覚。
「またね、蛍」
そう、これはお別れではない。いつか『また』会える日まで。
「うん、またね。ヒカル」
ぽと。
魔法が。
消えた。




