侵略
―――セキタン国、首都要塞前―――
「一番隊から至急の援軍要請!」
「二番隊を回せ!」
「二番隊、敵の猛攻激しく身動きが取れません!」
「三番隊は!?」
「三番隊も同じく身動きが取れません!」
「くそっ!」
「エダフォ様!如何いたしましょう!?」
「……六番隊と九番隊を回せ!」
「で、ですが、王子。そうすると第一部隊が……」
「構わん!今は、防衛ラインを死守することだけを考えろ。防衛ラインを突破されたら、そのまま首都まで侵攻されかねん!」
「……了解しました。『六番隊と九番隊は至急一番隊の援護に迎え!』」
「ニアン国からの援軍はまだか?」
「まだ、時間が掛かるとのことです」
「………分かった。ニアン国からの援軍が来るまで必ず持ち応えるぞ!皆にも伝えよ!」
「了解!!」
(ニアン国からの援軍が来れば、まだ……ん?上から何かが……なんだこれは?涎?)
「ケケケケケケケッ」
(な、なんだ此奴?いつの間に……)
「ケケッ」
「ぎゃあああ!」
「ケケッケケケ!」
「や、やめ……ぎゃあああああああ!」
「ん?あっ!」
「王子!?」
「た、たすけ……があああああ!」
「エダフォ様!!」
「襲撃!襲撃!」
「エダフォ様が襲われている!」
「ケケケケケケエエエエ!」
「此奴!エダフォ様を離せ!」
「ケケケケケケ!」
「だ、駄目だ!武器が効かない!」
「どうする!?」
「魔物はどこだ!?」
「やった!魔法使い達だ!早くこっちに!エダフォ様が!」
「エダフォ様!」
「おのれ、化物!エダフォ様から離れろ!『フレイム・ゴル……』」
「ケケケケケ」
「ぐあ!」
「なっ!」
「もう一匹!?」
「ケケケケケッ」
「また!?くそっ!一体何匹いるんだ?」
「『レイル・バスター!』っ!駄目だ効かない!なんて耐久……があ!」
「ケケケッケケケケケ!」
「そんな、魔法使い達でも歯が立たないなんて……」
「こうなったら、俺達だけででもエダフォ様を!」
「やめろ!」
「なんでだ?なんで止める!」
「……もう間に合わん」
グチャ、グチャ、グチャ、ズルズル、ゴクン。グチャ、グチャ……。
「うっ!」
「逃げるぞ!」
「逃げる!馬鹿を言うな!俺は最後まで戦……」
「おい!」
「なんだ!?止めても無駄……」
「……上、見てみろ」
「上?」
「ケケケケケ」、「ケケッッケケケ」、「クケケケケケ」、「ケケケッケケ」、「ケケケケケ」、「ケケケケケ」、「ミケケケケ」、「ケケケケケ」、「ケケケケ」、「ケケケケケ」、「ケケケケケ」、「ケケケケケ」、「モケケケケ」、「ケケッケケケ」、「ケケケケケ」、「コケケ」「ケケケケケ」、「ケケケケケ」、「クケケケケ」、「ケケケケケ」、「ケケケケケ」……。
「おい、何だよ。アレ……」
「雲じゃないな……動いている」
「ま、まさか……あれ、全部……」
「ケケッ!」
「うわっ!降って来た!!」
「退却!全員に逃げろ!退却!退却うううううう!」
「ケケケケケケッ!」
「「「「「ぎゃあああああああああ!」」」」」
―――セキタン国軍、第一部隊―――
「『エダフォ様、エダフォ様。応答してください!エダフォ様、エダフォ様、指示を!』……駄目です。応答、ありません」
「どうした?なんで、応答がない!」
「分かりません!」
「くっ!援軍は!?」
「六番隊と九番隊を回すとのことでしたが……」
「何時になったら来るんだ!」
―――セキタン国軍、第六部隊―――
「ケケケッ」
「ケケケケケ」
グジュリ、グジュ、バキ、グチャ、グチャ、グチャ、ズルズル、ゴキ、バキ、バキ、ゴクン。グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴクン。
―――セキタン国軍、第九部隊―――
「ケケケコココッ!」
「カケケケケケケ!」
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、ゴクン。
―――セキタン国軍、第一部隊―――
「と、とにかく、通信を続けよ」
「はい!」
「ん、ヘヴィーテレパシーか……『どうした?』」
「『伝……令、伝……令!し……司令!大……変で……す。防衛……ライン……突破され……ま……た!』」
「『何いい!?』」
「『そ……ち……らに敵……は……は……や……』」
「『おい、どうした?おい!』」
「司令、敵を多数視認!こ、こちらに向かってきます!」
「なんだとおおお!」
「おおおおおおおおおおおお!」
「おおおおおおおおおおおお!」
「なんだ?あの数……!」
「こちらの五倍……いや、それ以上いるぞ」
「……し、司令どうしますか?司令!!」
「エ、エダフォ様との通信は?」
「未だありません!」
「くううう!」
「もう、駄目だ!お、俺は逃げる!」
「お、俺も!」
「ばっ、ま、待て!逃げるな!」
「司令!兵士の中に逃亡する者が続出!も、最早戦線を維持できません!」
「うう……ええい、ニアン国の援軍はまだか?」
「はっ、そちらも未だ連絡なく……」
「ニアン国は何をしているのだ?このままでは……ううう、エダフォ様、エダフォ様、どうか御指示を!」
―――ニアン国―――
「セキタン国に送り出した兵より連絡」
「報告せよ」
「『セキタン国軍、敵と交戦中。敵はペルム国の兵。さらにそれとは別に黒い魔物』」
「黒い魔物?」
「はっ、なんでも、ペルム国の兵とは別に黒い魔物が襲い掛かって来るそうです」
「魔物を使役しているということか?」
「詳細は不明ですが、黒い魔物はセキタン国の兵にのみ襲い掛かっているようなので、その可能性はあります」
「ふうむ……詳しく調べる必要があるな。それで、戦況は?」
「セキタン国の明らかな劣勢。セキタン国軍は既に戦線を維持できておらず、逃げ出す兵も続出しております。首都陥落も時間の問題かと。一刻も早く援護を!」
「我が軍は今どこにいる?」
「遠くから戦況を見ております。御指示があれば直ぐにでもセキタン国軍の援護を……」
「撤退させよ」
「はっ?」
「撤退させよ。と言った」
「セキタン国を見捨てるのですか?」
「こうなってしまえば、例え我が軍が加勢しても戦況は変わらないだろう。兵士達を無駄死にさせる訳には行かぬ。撤退させよ」
「……しょ、承知いたしました!」
―――五時間後、セキタン国王宮―――
「き、貴様ら……ワシが誰か分かっているのか?ワシはセキタン国王……ト」
「うるさい!」
「ぐあああああ!」
「やったぞ!王を討った!」
「首を取れ!」
「王を討ち取ったぞ!!!!!」
「うおおおおおおおお!」
「やったぞ!」
「これで……これで」
「家族が助かる!」
―――ニアン国―――
「兵より報告。『セキタン国王宮が制圧された』とのことです」
「そうか、これでセキタン国は事実上、敵の手に渡ったか」
「はい。ですが、私には未だに信じられません。ペルム国がセキタン国に攻め込むなど……それも、何の宣戦布告もなく」
「私とて信じられぬよ。しかし、事実だ。セキタン国もまさか、宣戦布告もなく攻められるとは夢にも思っていなかっただろう。不意打ちを受けたセキタン国は体勢を立て直す暇もなかったな」
「一体、今のペルム国は何を考えているのでしょうか?」
「さぁな。『ブルーゲージ』で国中を覆い、国民を閉じ込め、国交を断絶した国の考えることなど分からん。その影響で、世界は今や未曾有の大恐慌だ」
「ガリウム殿が生きていてくだされば……あの方であれば、そんなこと」
「そうだな。だが、仕方なかろう。ガリウム殿はもういないのだ」
「魔物にやられたとのことですが……」
「ああ、密偵の報告によると、『二本足で歩く巨大なトカゲ』にやられたそうだ」
「……ドラゴンですか?」
「ドラゴンの様に羽はないらしい。……もしかしたら、ドラゴンの新種かもしれん」
「……ドラゴンの新種ですか」
「可能性の話だ。詳しいことは、もう少し調査してみないと分からん……だが、今は『巨大なトカゲ』の話はどうでも良い。それよりも、これからペルム国がどう動くかを考えなければならん」
「我が国にも攻めてくるでしょうか?」
「その可能性は非常に高い。しかし、ペルム国の兵はセキタン国攻めで、疲弊しきっている。直ぐに攻めてくることはない。我が国は、その間に出来うる限りの防衛の強化とペルム国が使役している黒い魔物の調査を……待て、へヴィーテレパシーだ。『どうした?』」
「『緊急、緊急!ペッ、ペルム……』」
「『落ち着け、一体どうしたというのだ?』」
「『セキタン国を占領していたペルム国軍の一部が我が国に進軍を開始しました!』」
「『何だと!?』」
―――セキタン国王宮、制圧直後―――
『ご報告!ご報告!セキタン国の王を討ち取りました!!!!』
『そうですか、ご苦労様です。そのまま、ニアン国に進軍してください』
『え?』
『ニアン国に進軍してください』
『え?しかし、今、我が軍は疲弊しきっています。このまま攻めても返り討ちに遭うだけです』
『進軍してください』
『ですが……』
『家族が……』
『……っ!わ、分かりました』
『よろしくお願いします。ああ、そんなに心配しなくとも大丈夫ですよ』
『え?』
『今なら、簡単に落せます』
―――ニアン国―――
「まさか、セキタン国を陥落させたその日に攻めてくるとは……」
「い、如何なさいますか?」
「狼狽えるな。もう少し、防衛を固めておきたかったが、セキタン国が攻められたとの報告を受けた時、ある程度の備えはしてある。それに、これはチャンスでもある。こちらの裏をかいたつもりだろうが、これは悪手だ。敵は今疲弊している。人間の兵士は使い物にならないだろう。黒い化物だけに注意していれば、人間の相手は容易いはず。そして、人間を排除できれば、使役している黒い魔物も引き上げるだろう」
「な、なるほど」
「流石です。ネアン様!」
「すぐに、迎撃の準備にかかれ!」
「はっ!ですが、その前にネアン様……」
「なんだ?」
「……申し訳ございません」
「……?何を……ぐっ、お前達、何をする!?離せ!」
「申し訳ございません」
「申し訳ございません」
「お、お前達!……ぐわっ!」
「申し訳ございません。申し訳ございません」
「な……ぜ……うらぎ……ぐふっ!」
『……ご、ご命令通り、ネアン様を殺しました』
『ご苦労様です。死体を始末した後、貴方達はそのまま兵と国民に伝えてください。ネアン様が逃げた……と、そして、モス大将とベル少将が裏切ったと』
『分……かりま……した。あ、あの……わ、私達の家族は?』
『心配せずとも元気ですよ。今後も元気でいられるかは貴方達次第ですが……』
『か、必ずやり遂げます!では』
『はい、健闘をお祈りします』
―――マオウ国―――
「ひいいいい、お、お助けを!」
グシュ、バキ、ゴクン。
「ミマルカガム……レイモア。フロテミチュウフロテミ(魔王様……失礼、お食事中でしたか)」
「ブイカ、アイダハカワモウマウゲンテ(ブイカ、人間を喰うなら若い女に限るな)」
「ハッ(はい)」
「ル?ミシノエボダ?(で?何の用だ?)」
「セキタンクモ、ニアンクモガオポピキシマ(セキタン国、ニアン国が陥落しました)」
「……ペルムクモカ?(ペルム国か?)」
「ハッ(はい)」
「……ペルムクモカニシクシャオトロ(ペルム国に使者を送れ)」
「ハッ、ナイトモイトトジョモレンベ?(はい、内容は如何いたしますか?)」
「ソコロトア、ホトラトココダロ?(そんなもの、決まっているだろう?)」
―――マーストリ国(旧ペルム国)国境前―――
「警備ってのは、暇だな」
「……まぁな」
「あんた、兵士か」
「いや、ただの農民だ。あんたは?」
「俺は、牧場を経営していた」
「あんたも家族を人質に?」
「ああ、妻と娘を人質にとられている」
「俺は父と母、弟だ」
「なんだって、俺達が見張りなんて……」
「使える兵士や魔法使い達を全員、侵略に使っているからだろう」
「ちくしょう。国に入りたいな」
「ああ……」
「突然、『魔法の壁の外で見張りをしろ』って言われて、国の外に追いやられて……家族に会いたい」
「俺もだよ」
「……その割には、あんた、淡々としているな」
「初めは辛かったさ、だけど、前向きに考えることにした。俺達はマシな方かもしれないってな」
「マシ?」
「兵士達は、他国の侵略に行かされている。死ぬ危険性は高い。だが、俺達はただ此処で見張りをしていればいいんだ。生きていればいずれ、家族にも会える」
「でも、もし敵が来たら……」
「なぁに、此処は攻めるには道が入り組み過ぎている。敵だってそんなこと知っているから、此処から攻めてくる敵はいないはずだ。それにこの辺りには、危険な魔物も……」
「お、おい!あれ!」
「ん?あっ!何か飛んで来る!」
「ど、どうする。逃げ……」
「に、逃げられるわけないだろう。そんなことをすれば家族が……」
「だな」
「グルルルルルルル!」
(ひ、ひいい遂に来た!)
(犬の体に蛇の尾。で、でかい。三メートル以上ある)
「グルルウルルル」」
「あ、あっち行け!」
「此処には何もないぞ!」
「グルルルルル……チュウリョコモラ!」
「えっ?」
「なんだ?魔物語か?」
「チュウリョコモラ!テコ、イクダイミマルカガムシクシャナエ!チュウリョコモラ!」
「な、なんだ?何を言っているんだ?どうする?」
「い、異常があれば直ぐに知らせろと言われているから、とりあえず言われた通り報告を……」
グシュ。
「ぐああああ!」
「なっ!」
「チュウリョコモラ!」
「や、やめ!く、来るなああああ!」
「チュウリョコモラ!」
グシュ。
「チュウリョコモラ!テコ、イクダイミマルカガムシクシャナエ!チュウリョコモラ!(中に入れよ!我は、偉大なる魔王様の使者なり!中に入れよ!)」
―――マーストリ国、王宮―――
「『ブルーゲージ』一部解除。ヘヴィーテレパシー発動。『ようこそ、お出で下さいました。使者殿。使者殿の前にあるブルーゲージに穴を開けました。どうぞ、そのままお進みください』」
ニヤァァ。
「『マーストリ国は貴方を歓迎します』」




