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楽園崩壊の鐘が鳴り始める

 この世に楽園はあるだろうか?

 もしかしたら、この世界のどこかに楽園はあるのかもしれない。


 しかし……。


「ピイイイ」

 日も、もうすぐ傾きかける頃、一匹の大鹿が森の中を駆け抜ける。その大鹿の後を二つの影が追っていた。

 

『そっちに逃げたぞ!』

『よし、任せろ!』

 逃げる鹿の横から影が飛び出る。その影が大鹿の首筋に喰らいついた。

「ピイイイイ」

 首に噛みつかれた大鹿が悲鳴を上げ倒れる。しかし、大鹿の首に食らいついた影は獲物に食らいついて離さない。

『良し!』

『そのまま離すなよ!』

 後ろから鹿を追っていた二つの影も合流し、大鹿を仕留めに掛かる。三匹の影に襲われた大鹿は断末魔を上げ、息絶えた。

『久しぶりの大物だな』

「ああ』

『ローエン殿や皆も喜んでくれるだろう』


 三匹の人狼は腕を突き合せ、喜びを分かち合った。


 ここはカンブリアの森。

 巨大な大木に覆われた森で、ここにしか住んでいない動物や魔物が多数生息しており、わずかながら人間も住んでいるとされている。


 超古代文明『アンバガロ』が残した莫大な財宝がある。

 何でも食べてしまう恐ろしい魔物『ムケーレ・モベンベ』がいる。


 など、様々な伝説が残されているが、その全容はいまだ解明されていない。その主な理由は、カンブリアの森に辿りつくまでの道のりにある。

 カンブリアの森に辿りつくには、ヒルナントと呼ばれる山脈を越える必要がある。ヒルナントの標高は九千メートル以上あり、さらに凶暴な魔物『イティ』も生息している。此処を超えることは人間にはほぼ不可能だ。

 

 それは、人狼達にとっても同じことだった。

 元々、カンブリアの森に人狼は生息していなかった。彼らは、ある魔物との競合に負け、オルトビス草原からやってきたのだ。

 此処に辿りつくまでの道のりは決して平坦なものではなかった。ヒルナント山脈を越えることは人間よりも遥かに身体能力に優れた人狼達にとっても過酷なものとなった。

 ある者は寒さに倒れ、ある者はイティの餌食となった。最終的にカンブリアの森に辿り着くことが出来たのは、最初に出発した時の約三分の一である二十二匹であった。


 多大な犠牲を乗り越えてカンブリアの森にやって来た人狼達。彼らを待っていたのは……楽園だった。


 豊富な獲物に温暖な気候。彼らが生きていくには最高の環境が整っていた。

 さらに嬉しいことに、カンブリアの森に来てから二匹の人狼が六匹ずつ。計、十二匹の子供を産んだ。数が少ない彼らにとって子供はまさに宝。その子供達のためにも多くの獲物が必要となる。

 

『よし早速、運……』

 人狼達が大鹿を運ぼうとした時、茂みの奥でガサガサと音がした。人狼達が一斉に警戒する。やがて、茂みの奥からその魔物は現れた。

「ウオオオオオオオオ!」

 顔を出すなり、その魔物は大きな声で吠えた。近くの木に止まっていた小鳥達が驚いて一斉に逃げ出す。

「ソロシグヨゴル(その鹿をよこせ)」

 茂みから現れた魔物は、人狼達が仕留めた鹿を渡せと迫ってきた。

 人狼達にとって楽園であるカンブリアの森であるが、それは他の魔物にとっても同じことだ。此処には人狼達を襲う『捕食者』はいない。しかし、残念ながら獲物を奪い合う『競合』相手はいた。


『人虎か』


 人虎。

 人間と虎が合わさったような魔物で、鋭い牙と爪を持つ。その体長は人狼よりも二回りほど大きく、力は人狼の三倍はある。

「ムイイロドイドゾ、ソロシグヨゴル(もう一度言うぞ、その鹿をよこせ)」

 人虎は再び獲物をよこせと迫る。それを聞いた人狼の一匹が前に出る。彼の名はウロー。若いが統率力があり、皆の信頼も高い。年老いたリーダーであるローエンの代わりに皆をまとめることも多い彼が、実質的にカンブリアの森にいる人狼の副リーダーである。

 ウローは爪を伸ばすと、人虎を正面から睨みつけた。

「トヨラダトイドッヨラ?(嫌だと言ったら?)」

 ウローの後ろにいる二匹の人狼も鋭い爪を伸ばす。それを見た人虎は、ニヤリと笑い、人狼と同じように爪を伸ばした。


「キダノラモミクレネポエノチュウロコデレア!(貴様らも俺の腹の中に入ってもらう!)」

 人狼と人虎。両者の間の空気が一気に張り詰める。その時だ。茂みから高速で矢が飛んで来た。矢は、人狼三匹と人虎に向かって正確に飛んでくる。


 ウローは飛んで来た矢を掴み、二匹の人狼は矢を避け、人虎は飛んで来る矢を叩き落とした。

 

 人狼達と人虎は、矢が飛んで来た方向を睨む。


「ソロシグハ(その鹿は)」

「テコラデレア!(我らがもらう!)」

 矢が飛んで来た方向から魔物が現れる。魔物の数は十匹。全員が弓矢や槍などの武器を装備し、防具を身に着けていた。ウローは心の中で舌打ちをする。


『今度はゴブリンか』


 ゴブリン。

 人狼や人虎のように人間に近い形をしている魔物。

 力では人狼や人虎には及ばないが、それでもその力は人間を凌駕しており、並の人間がゴブリンを倒そうとすれば、武装した人間五人掛かりでやっと一匹倒す事ができる。

 さらにゴブリンは知能がとても高く、人間が使う物とほとんど変わらない武器や防具を自らの手で作り出すことが出来る。


 ウローはゴブリンが放った矢を見る。その先端からはポタポタと液体が垂れていた。

『毒か』

 匂いから察するに、ドクウマガエルの毒だろう。矢先にかすろうものなら即、あの世行きだ。おそらく弓矢だけでなく、槍の先にも塗ってあるに違いない。


「シクヲアバレイト、タッリャ(鹿を置いて、立ち去れ)」

「ソモイトエ、ノトエダケタレモチアポラ(そうすれば、命だけは助けてやる)」

 ゴブリンは人狼達と人虎に向けて弓矢を引き、槍を構える。

「グワハハハハハッハハ」

 それを見て、人虎が笑い出した。

「ジョポコレ!(笑止!)」

 人虎は鋭い牙をゴブリンに向ける。

「タッリャノハ、キダノラダ!ロイクトア……(立ち去るのは、貴様らだ!さもなくば……)」

 人狼は鋭い牙をゴブリンに見せる。

「エロプア、テラムゾ!(まとめて、喰うぞ!)」

 鋭い牙をゴブリンに見せながらも、人狼に対する注意も怠らない。人虎は人狼とゴブリン、まとめて相手にしようとしている。


『ウロー、どうする?』

 仲間の人狼が小声でウローに話し掛ける。ウローは力強く答えた。

『引くわけにはいかぬ』

『だな』

 ウローの答えに二匹の人狼達も力強く頷いた。仲間のため、家族のため、此処で獲物を横取りされるわけにはいかない。

 人狼達は鋭い爪を構えた。それを見た人虎とゴブリンは人狼達も引く気はないことを悟る。


 単独だが、凄まじい力を持つ人虎。

 単体の力は最も弱いが、数が最も多く、毒付きの武器を持つゴブリン。

 そして力では人虎に劣り、武器と数ではゴブリンに劣るが、強い統率力を持つ人狼。


 それぞれ違うスタイルを持つ三種の魔物は一つの獲物を巡って対峙する。




 だが、その一触即発の空気はあるものの出現によって破られることとなる。


 人狼達と人虎の背後に突然、巨大な黒い球体が現れた。

「「「!?」」」

 人狼、人虎が後ろを振り返る。ゴブリン達にとっては背を向けた人狼、人虎に攻撃するチャンスだったが、予想外の事態に呆然としていた。

 

 黒い球体はパンという音と共に弾ける。黒い球体が弾けると、そこには二匹の魔物がいた。一匹は黒いドレスを纏った人間の少女の姿をしている魔物。


 そして、もう一匹は全身が黒く二本足で立つ巨大なトカゲだった。


(なんだ?此奴ら?)

(一体、どこから?)

 人虎は目を丸くして突然現れた得体のしれない魔物を見ている。ゴブリン達も人狼と人虎に向けていた弓と槍を降ろした。そして、二匹の魔物を見た人狼達は……。



 捕えた獲物を置いて、全速力で逃げ出した。


 脱兎のごとく逃げ出した人狼を見て、人虎とゴブリンは呆気に捕らわれる。

 圧倒的な力を持つ人虎を前にしても、毒付きの武器を持つゴブリンを前にしても引く意思を見せなかった人狼達が獲物を捨ててあっさりと逃げ出した。

(人狼は、この魔物達を知っている?)

 ゴブリン達は戦いもせずに逃げ出した人狼を見て、そう結論を出した。そして、人虎も同じ結論を出す。

(俺を見ても逃げ出さなかった人狼達が此奴らを見た瞬間、獲物を捨てて逃げ出した。ということは、少なくとも人狼達は此奴らの方が俺よりも強いと思っているということか?)

 人虎とゴブリン達の目は、現れた少女の様な魔物と黒く巨大なトカゲにくぎ付けとなる。その時、黒く巨大な二本足のトカゲが一歩前に出た。

 人虎は牙と爪を動き出した黒く巨大なトカゲに向ける。ゴブリン達も弓と矢を黒く巨大なトカゲに向けた。

 だが、黒く巨大なトカゲは人虎とゴブリンを無視して進んでいく。そして、大鹿の死体の前で足を止めた。

『……』

 黒い巨大なトカゲは、大鹿の死体に顔を近づけ、匂いをクンクンと嗅ぎ出す。

「キダノ!(貴様!)」

 人虎が吠えた。自分を無視して獲物の匂いを嗅ぐという侮辱行為に、人虎の怒りが燃え上がる。黒く巨大なトカゲは、怒りを燃やす人虎を横目でチラリと見た。


 その目は、あまりにも黒く、あまりにも暗かった。


「ウッ!」

 その目に見られた瞬間、人虎は動けなくなる。

『目は口ほどに物を言う』という言葉がある。どんな生物であれ、生きているのであれば、その目に何かしらの感情を映し出すものだ。

 だが、このトカゲは違う。

 このトカゲの目には、何の感情も浮かんでいない。まるで、ガラス玉を黒く塗りつぶしてはめ込んでいるような不気味な目だ。

『……』

 一瞬、人虎を見た黒く巨大なトカゲだったが、直ぐに視線を大鹿の死体に戻す。

『アーーーーン』

 黒く巨大なトカゲは大鹿の死体に齧り付くと頭から丸ごと飲み込んだ。


 ゴキン、ゴキン、ゴクン。


 人虎にとっては五日分の、ゴブリンにとっては十人で分けても二日分にはなる大鹿を黒く巨大なトカゲは丸呑みにしてしまった。

「美味しかったかい?」

 大鹿を喰った黒く巨大なトカゲに、後ろにいた人間の少女の姿をした魔物が話し掛ける。少女の姿をした魔物は黒く巨大なトカゲをじっと見ると、ウンと頷いた。

「やはり、君の好みは僕と同じの様だ」

 少女の姿をした魔物は、ペロリと口の周りを舐める。


「僕と同じで、好き嫌いはないみたいだね」



(俺は、何故怒らない?)

 怒りが消えた自分自身に人虎は疑問を覚える。

 自分の獲物を目の前で喰った相手など、普段なら八つ裂きにしている。しかし、今の人虎は怒るどころか、黒く巨大なトカゲが獲物を喰った後も、ただ眺めているだけだ。

(ん?)

 何かに気付いた人虎は自分の足元に視線を落とす。今いる人虎の足の直ぐ前に足跡が二つあった。

(馬鹿な!?)

 それを見た人虎は愕然とする。足の直ぐ前にある二つの足跡、それは紛れもなく人虎のものだ。つまり、人虎は自分でも気づかぬ内に後ろに下がっていたということになる。それも二歩も。

(怯えたというのか?この俺が?)

 この人虎に生まれてからこの方、敵はいなかった。草を食う魔物や動物はもちろん、肉を喰う動物や魔物でさえも喰ってきた。

 同種との争いでも同じだ。メスを巡る争いには一度も負けたことがない。その証拠に、この森には彼の子供が大勢いる。自分に挑んできた身の程知らずの若いオスの人虎を喰ってやったこともある。

(その俺が、怯えただと!?)

 人虎の全身の毛が逆立つ。人虎は黒く巨大なトカゲと少女の姿をした魔物を殺気に満ちた目で睨んだ。

「この森には、昔来たことがあるんだけど……あの頃と何も変わらないね」

 少女の姿をした魔物は、人虎を無視して黒く巨大なトカゲに話し続ける。それを見た人虎から、先程とは比べ物にならない怒りがあふれ出た。


「キダノラ!(貴様ら!)」


 人虎が二匹の魔物に向かって叫ぶ。

 少女の姿をした魔物は「何か用?」という風に人虎を見る。黒く巨大なトカゲは人虎を見ようともしない。

 その態度が、ますます人虎を苛立たせた。

「ワカボトミクネレモトエヲテラムジョポイト!ノエオラ!(よくも俺の獲物を喰いやがったな!許さんぞ!)」

 激しく怒鳴る人虎。その迫力に後ろで様子を見ていたゴブリン達も息を飲む。だが、相変わらず黒い巨大なトカゲは人虎を見ようともしない。対して、少女の姿をした魔物はじっと人虎を見ていた。

(メスの方は、ビビったか?)

 人虎は僅かにプライドを取り戻しかける。だが、少女の姿をした魔物が発した次の言葉で、そのプライドは粉々に砕かれた。


「ごめん、何言っているのか分からない」


 少女の姿をした魔物はニヘラと笑い、首を傾げた。

 

 人虎の頭の中で、何かがプチンと音を立てて切れた。

 少女の姿をした魔物は、人間の言葉で何かを言った。人虎は人間の言葉が分からない。だが、少女の姿をした魔物の態度と表情から、何を言ったのかは大体想像がつく。

「ウガーーーーーーーーーー!」

 人虎の怒りが頂点に達する。人虎は咆哮を上げると、呪文を唱えた。

「コピリエルロ!(肉体強化!)」

 肉体強化、自らの肉体を一時的に強化する魔法。人虎の筋肉が盛り上がり、パワーとスピードが大幅に上がる。

「グガアアアア」

 人虎は鋭い爪を伸ばし、黒く巨大なトカゲに襲い掛かった。


 少女の姿をした魔物が人虎に冷ややかな視線を送る。そして、ボソリと呟いた。


「頭が高いよ?」


「ガッ!?」

 気が付くと人虎は、地面に倒れていた。

(しまった!)

 何かにつまずいたのかと思った。だとすれば、何たる不覚。怒り狂っていたとはいえ、敵を目の前にして転ぶなど、殺してくれと言っているようなものだ。

 人虎は顔を上げ、黒く巨大なトカゲを見る。

 すると、黒く巨大なトカゲの胴体から、さっきまでなかったはずの触手が一本伸びているのが見えた。

(いつの間にあんなものが?)

 人虎は黒く巨大なトカゲから一瞬たりとも目を離していない。もし、黒く巨大なトカゲから触手が出れば、直ぐに分かるはずだ。だが、いつ黒く巨大なトカゲから触手が伸びたのか、人虎には分からなかった。

(一体、いつ……ん?)

 人虎は、黒く巨大なトカゲから伸びている触手が何かを持っていることに気付いた。

 よく見ると、黒く巨大なトカゲから伸びている触手は、黄色い棒のような物を二本掴んでいる。その棒のような物の先からは、赤い液体がポタポタと垂れていた。

(あれは、何だ?)

 人虎は、目を凝らしてそれが何か確かめようとする。その時、人虎の足に猛烈な痛みが走った。

「ガアア……アアアアアア!!」

 あまりの痛みに、人虎は悶絶する。

(くそ、どうしたんだ?)

 人虎は、痛みによって閉じた目を無理やりこじ開け、自分の足に視線を向ける。



 人虎の足は、膝から下を境に消失していた。


(な……ん……だと!?)

 人虎は驚き、目を大きく見開く。消失している箇所からは真っ赤な血がドクドクと流れ出ていた。

「ミ、ミクレネレッフガアアアアア(お、俺の足があああああ!)」

 人虎は、痛みとショックで再び悶絶する。

(なんで?どうして?俺の足が?)

 何故、自分の足がないのか?人虎は必死に、その理由を考える。そして、先程黒く巨大なトカゲが持っていた二本の棒のようなものを思い出した。

 人虎は、再び顔を上げ、黒く巨大なトカゲを見る。黒く巨大なトカゲが持っていた二本の棒状の物。


 それは、間違いなく人虎の両脚だった。


「ア、アア……」

 ほんの少し前まで自分に付いていた二本の足に、人虎は絶望の眼差しを向ける。黒く巨大なトカゲは触手を動かし、人虎の両足を自分の顔の前に移動させた。

 黒く巨大なトカゲは、人虎の両足の匂いをクンクンと嗅ぐと、大きく口を開ける。

(ま、まさか!!)

 黒く巨大なトカゲが、何をしようとしているのかを察した人虎の顔が一気に蒼ざめる。

「ス、ストレウウウウウ!(や、やめろおおおおお!)」

 悲痛な叫びと共に、人虎は黒く巨大なトカゲに手を伸ばす。だが、黒く巨大なトカゲは人虎の叫びを無視して、まるで菓子を放り込むかのように、人虎の両足を口に投げ入れた。


 ゴクン。


 黒く巨大なトカゲの喉が動く。人虎の両足は黒く巨大なトカゲの喉を通り、体内に送られた。

「アア、アアアアアア!!!」

 目の前で自分の両足を喰われた人虎は顔を歪め、泣き叫ぶ。それを見ていた少女の姿をした魔物が人虎の傍に近寄って来た。

「駄目だよ」

 少女の姿をした魔物は泣き叫ぶ人虎にニコリとほほ笑むと、人虎の耳元に顔を寄せた。


「王を前にしたら、まず頭を下げなくてはね」

 両足を失い、地面に這いつくばる人虎の姿はまるで黒く巨大なトカゲにひれ伏しているように見えた。

「そして、王に非礼を働いた無礼者は……」

 黒く巨大なトカゲから生えている触手の先端が、刃のように変化する。次の瞬間、人虎の首と胴体が分かれた。


「首を刎ねられる」


 地面に落ちて転がる人虎の首は、ゴブリンの足に当たり止まった。黒く巨大なトカゲと少女の姿をした魔物はゆっくりと視線をゴブリン達に向ける。

「ヒッ……!」

 ゴブリンの一匹が短い悲鳴を上げた。

(なんだ?こいつらは!?)

(人虎を一瞬で……)

(何をしたのか全く分からなかった)

(強過ぎる……)

 突然現れた見たこともない二匹の魔物を前にゴブリン達の体は硬直していた。

 二匹の魔物の正体は分からない。だが、人虎が瞬殺されるところを間近で見たゴブリン達はあることを直ぐに理解した。


 目の前にいる相手は、人狼や人虎のように自分達と獲物を奪い合う『競合』の相手ではない。今、自分達の目の前にいる相手は『捕食者』だ。


(く……)

(喰われる!)


 そして、その『捕食者』は今、自分達を『獲物』として見ている。




 この世に楽園はあるだろうか?

 もしかしたら、この世界のどこかに楽園はあるのかもしれない。


 しかし、永遠に続く楽園はない。


 楽園崩壊の鐘は今、鳴り始めた。



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