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三つの弱点

『まず、最初に落とし穴を作る』


『落とし穴!?』

 ガリウムが声を上げる。

『それが、巨大トカゲを倒す方法なのか?』

『そうだ』

 ガリウムの問いにニクスは頷く。だが、ガリウムは落胆した様子で、首を横に振った。

『残念だが、その方法は既に試している者がいる。貴殿も知っているだろう?』

 以前、チープという冒険者が落とし穴を使って巨大トカゲを捕えようとした。しかし、巨大トカゲは落とし穴を難なく跳び越えて脱出した。

『無論知っている』

 巨大トカゲに関する情報は、ペルム国中央議会に逐一報告されていた。その報告書を当然、ニクスも読んでいる。


『だが、今回私が作ろうと言っているのは、ただの落とし穴ではない』




 巨大トカゲ落とし穴に落ちた瞬間、草むらや岩陰から魔法使い達が飛び出した。

 その数、三百人。彼らは素早く円状に開いた落とし穴を囲む。最初の百人は落とし穴の最も近くを囲み、次の百人はその後ろを囲む。そして、最後の百人は二百人の後を大きく囲む。

「よし、始めろ!」

 一人の指揮官の号令で、最前列の者達が地面に手を付いた。その瞬間、魔法が発動する。

 



『巨大トカゲには、三つの弱点がある』


『弱点!?』

 ガリウムは一瞬、自分の耳を疑った。あの巨大トカゲに弱点がある?それも三つも?

『それは、真か?』

『ああ、奴には三つ弱点がある』

 とても信じられないが、ニクスが嘘や冗談を言っている様子はない。

『教えてくれ、どんな弱点だ?』

『まず一つ目……』

 ニクスは人差し指を立てる。


『巨大トカゲは空を飛ぶことが出来ない』


 巨大トカゲには翼がない。さらに浮遊魔法も使えないので空を飛ぶことが出来ない。

『それは、私も分かっている。しかし、奴には凄まじい跳躍力がある』

 巨大トカゲの跳躍力。それは、天に届く程凄まじいものだ。いくら、巨大トカゲが空を飛べないからといって、ただ単に落とし穴に落とすだけでは簡単に跳び越えられてしまう。

『だがら、巨大トカゲが落とし穴から抜け出せない仕掛けを作る』

『なんだ?落とし穴に蓋でもするのか?』

『いや、違う。そもそも蓋をしても奴の相手では無意味だろう』

 例え、どんなに強固な蓋で落とし穴を塞いだとしても巨大トカゲは蓋を破壊して跳び出してくるに違いない。

『だから、別の方法を使う』

『どんな、方法だ?』

『ある魔法を使う』

 ニクスは人差し指と中指を立てる。


『その魔法こそが、巨大トカゲの二番目の弱点だ』




 落ち続けるティラノサウルスは考える。やはり、何かがおかしい。確かに地面に足が触れた感覚があるのに、体は下に落ち続ける。

『よいしょっと』

 ティラノサウルスは落ちる体をグニッと捻じり、体を仰向けにして視線を上に向ける。視線の先には、円状の青空が見える。落とし穴の入り口から見える青空だ。

 その穴がどんどん縮んでいく。下に落ちているのだから当然のことだ。

『もうすぐだな』

 ティラノサウルスの背中が地面に当たる。その瞬間、背中から地面の感触が消えた。


 同時に、視線の先にある落とし穴の入り口が、突如として大きくなった。


 そしてまた、落とし穴の入り口が縮んでいく。ティラノサウルスの背中が地面の底に触れる。その瞬間、背中に触れた地面の感触が消えた。


 同時に、縮んでいた落とし穴の入り口が大きくなった。


『そういうことか』

 ティラノサウルスは、何が起きているのか理解した。消えていたのは落とし穴の底ではい。


 消えていたのは、ティラノサウルスの体の方だったのだ。




『魔法?しかし、奴に魔法は……』

 巨大トカゲにはどんな魔法も通用しない。それは、最早ティラノサウルスを知る者の間では常識となっている。だが、ニクスは首を横に振った。


『もし、巨大トカゲに通用する魔法があるとしたら?』


 ガリウムは大きく目を見開く。

『あるのか?奴に通用する魔法が?』

『実際に試したわけではない。だが、かなり高い確率で奴に効くと思う魔法がある』

 ガリウムは一瞬考える。実際に試したわけではないが、高確率で巨大トカゲに効く魔法……。ガリウムの脳内に一つの魔法の名が浮かぶ。

『もしや、その魔法とは……』

『そう……』

 ニクスはコクリと頷き、その魔法の名を口にした。


『転移魔法だ』




『なるほど、そういうことか』

 ティラノサウルスは確信する。消えていたのは地面ではなく、自分の体の方だったのだと。


 そして、縮んだり、大きくなったりする穴の入り口から考えて、どうやら自分の体は落とし穴の入り口を半分落ちた所から、一番底までの間を行ったり来たりしているようだということも理解した。




『転移魔法……』

 ニクスにそう言われて、ガリウムは口に手を当てる。

『貴殿は、巨大トカゲは転移魔法によって転移されて来たと?』

『私は、そう考えている』


 巨大トカゲが最初に現れたデボン村。今は既に滅んでしまったが、滅ぶ前に村人から巨大トカゲの話を聞くことが出来た。村人からの話によると、ゴブリンに襲われた時、何もない空間に突如として黒い球が現れた。黒い球は次第に膨張し始め、弾けた。すると、さっきまで黒い球があった場所に巨大トカゲが立っていたというのだ。


『ガリウム殿は、いかが考える?』

 考えを尋ねられたガリウムは直ぐに答える。

『私も、巨大トカゲは何らかの転移魔法で転移して来たと考えている』

 巨大トカゲがどこからやって来たのかは、これまでにも調査されてきた。しかし、未だに巨大トカゲが何処からやって来たのかを突き止めることは出来ていない。

 だが、巨大トカゲが現れた状況を考えると、巨大トカゲは何らかの転移魔法によって現れた可能性は高いとガリウムも考えていた。


 しかし、仮に巨大トカゲに転移魔法が効いたとしてもガリウムは転移魔法を巨大トカゲに向かって使うという案を出すことはなかった。


 理由は二つある。


 一つは、本当に巨大トカゲに転移魔法が効くのは分からない。転移魔法には十人以上の魔法使いが必要となる。もし、失敗すれば彼らの命を危険に晒すことになる。


 二つ目は、巨大トカゲに転移魔法が効いたとして、何処に飛ばすのか?という問題だ。

 巨大トカゲはどこに、飛ばしたとしてもそこにいる人間や動物に危害を加えるだろう。海などに転移させればいいのかもしれないが、今の魔法技術では大海原の真ん中に物を転移させることは出来ない。

 別の国の領地に転移させることは可能だ。それならば確かに国内の害は減らせる。しかし、それは結局の所、他の国に危険を擦りつけているに過ぎず、何の解決にもなっていない。それに、巨大トカゲを国外に飛ばしたことがバレでもしたら、巨大トカゲを飛ばした国との外交は極めて悪くだろう。最悪、戦争に発展するかもしれない。


 だが、ニクスは転移魔法を落とし穴に使用するという。少なくとも、国外に巨大トカゲを飛ばすといったことはしないだろう。

 ガリウムは、ニクスを真っ直ぐ見る。

『もし、巨大トカゲに転移魔法が通用するとして、それを落とし穴にどう使うのだ?』

『まずは、これを見て欲しい』

 ニクスは懐から一枚の紙を取り出す。そこには落とし穴の設計図が描かれていた。一見すると、普通の落とし穴に見える。だが、その落とし穴には通常の落とし穴とは大きく違う特徴があった。

 壁面や底に魔方陣が描かれていたのだ。

『これは……』

 ガリウムはその魔方陣を知っている。これは、転移魔法に使う魔方陣だ。

『そういうことか!』

 そして、ガリウムはニクスの作戦を全て理解した。




「上手くいったな」

「ああ」

 ガリウムとニクスはガッシリと握手を交わす。

巨大トカゲが落とし穴に落ち、そして巨大トカゲに対して転移魔法が発動した。これで、今回の巨大トカゲ討伐作戦は、七割方成功したも同然だ。


「よし、全員山を下りる。我に続け!」

「おお!」

 ガリウムが小山を降りると、数万の大群が後に続いた。


『うりゃ』

 地面に落ちる直前、ティラノサウルスは体を大きく捻る。そして、太く長い尾を地面に叩きつけた。

 だが、気付くとティラノサウルスはまた、転移されていた。

 ティラノサウルスが転移される場所は決まって、落とし穴の入り口から、一番底までの高さの半分の位置に転移されていた。

『駄目か……』

 ティラノサウルスの体は落とし穴の底に体が触れた瞬間、転移さてしまう。ならば、地面に強い衝撃を与えてみたらどうなるかと思い試してみた。しかし、勢いよく尾を地面に叩きつけても尾が地面に触れた瞬間、決まった位置に転移されてしまう。

『これなら、どうだ?』

 ティラノサウルスは次の考えを試す。体をまっすぐに伸ばし、体を蛇のようにクネクネと素早く蛇行させて前に進んだ。落下しながらも、ティラノサウルスは落とし穴の側面まで辿り付く。


 落とし穴の側面にティラノサウルが触れる。次の瞬間、ティラノサウルスの体は転移されてしまった。


『壁も駄目か……』

 落とし穴の底に触れれば、転移される。ならば、落とし穴の側面はどうかと考えたが、結果は落とし穴の一番底に触れた時と、同じものとなった。

その後、何度か試したが、何処の側面に触れてもティラノサウルスは転移されてしまう。

『困ったなぁ』

 ティラノサウルスは落下しながら、次の手を考え続けた。




 落とし穴の近くまで降りてきたガリウムは、魔法使いの一人に巨大トカゲの様子を尋ねる。

「どうだ?奴の様子は?」

「作戦通り、落下と転移を繰り返しています。尾で地面や壁面を叩いていますが問題ありません」

「よし、引き続き作戦を続行しろ」

「はっ!」

 作戦が上手くいっているとの報告を受け、ガリウムはほっと胸を撫で下ろす。


 転移魔法を発動させるには転移魔法専用の魔法陣が必要となる。

 落とし穴の底や壁面には、転移魔法専用が隙間なくビッシリと描かれていた。この魔法陣に触れた者は、落とし穴の入り口から底までの距離の半分の位置に転移するように計算されて描かれている。つまり、落とし穴の底に触れようが、壁面に触れようが必ず、決まった位置に転移されることになる。


 しかし、魔法陣だけでは転移魔法は発動しない。転移魔法を発動させるには魔法陣に魔力を注がなければならない。通常の物なら転移魔法ならば発動させるのに魔法使いが十人程度必要となるが、今回の魔法陣は通常よりも桁違いに大きいため、転移魔法を発動させるのに通常の十倍、百人の魔法使いを必要とした。


「補給班は位置につけ、周囲の見張りも怠るな!」

 ガリウムは周辺の兵に指示を出す。テキパキと忙しく動く兵達。だが、今回の作戦でもっとも辛いのは魔法使い達だ。

 通常の転移魔法なら数秒から、数十秒の魔力注入発動で済む。だが、今回は何千倍もの時間、魔力を注入し続けなければならない。



『大食。巨大トカゲの三番目の弱点だ』


 そして、おそらくそれが巨大トカゲ最大の弱点だと、ニクスは言った。

『巨大トカゲは現れてから、多くの魔物や動物を捕食している。あの巨体を維持するためには、大量の食料が必要なのだろう』

 

 その考えは当たっていた。

 ティラノサウルスがこの世界に飛ばされた直後のことだ。彼は一週間の間、川の水を飲んだだけで一週間何も口にしなかったことがある。その時、彼は空腹で動けなくなった。

 その直後、ドラゴンを捕食して彼は命を繋げることが出来たが、もし、あのまま何も口にしなければ、彼の命は危なかったかもしれない。


 落とし穴の設計図を見ながら、ガリウムはニクスに問い掛ける。

『巨大トカゲを落とし穴に落とし、落下をループさせるというのだな?』

『そうだ。落下し続ける間、奴は何も食べることも出来ず、何も飲むことが出来ない』

 もし、雨が降ったとしても落とし穴の中に落ちないように魔法で遮断する。

『それを巨大トカゲが死ぬまで続けるというのだな?』

『そうだ』


 ニクスがガリウムに提案した巨大トカゲ討伐作戦。それは、巨大トカゲを餓死させることを目的としたものだったのだ。


 ガリウムはふぅと息を吐く。

 まず、巨大トカゲを落とす落とし穴。落とし穴自体を掘る事ならば、魔法を使えばそう難しくはないだろう。だが、落とし穴に魔法陣を描く作業は困難を極めるに違いない。

 転移魔法の魔法陣は緻密な計算で作らなければならない。そうしないと、思った場所に飛ばすことが出来ないからだ。そんな精巧な魔法陣を巨大な落とし穴の地面や全ての壁面に描くとなると、大変な労力だ。

 他にも魔法陣に魔力を注入するために、大勢の魔法使いがいる。また、魔力を注入し続ける間、魔法使い達は動けない。そのため、魔法使い達を護衛する者達も必要となる。


 さらに、もし上手く巨大トカゲを落とし穴に落とし、転移魔法が上手く発動したとしても、巨大トカゲがいつ飢え死にするのかは分からない。

 数日か、数週間か、数か月か……確率はかなり低いが、数年掛かりになる可能性もゼロではない。

 落とし穴の建設、そして巨大トカゲが死ぬまでに掛かる莫大な費用を考え、ガリウムはもう一度息を吐く。そして、ボソリと呟く様に口を開いた。

 

『何とも、ぶっ飛んだ方法だな』



 今回の作戦で、集まった魔法使いの数は正規軍、冒険者含めて約六千二百五十人。ガリウム達は、その中の六千人を落とし穴に魔力を注ぐ役として任命し、三百人の単位の二十の班に分けた。


 まず、最初の班の三百人が落とし穴を百人ずつ三重に囲む。

 前列の百人が落とし穴の魔法陣に魔力を注ぎ続け、二列目の魔法使いは前列の魔法使いの体力を回復し続ける。そして、三列目の魔法使いは防御魔法を張り、前列をガードする。

 最初の班の体力、魔力が尽きてきたら、次の班と交代して同じことを繰り返す。最初の班は次の番が回って来るまで十分な休息と補給を取り、次に備える。


 仮に最初の三百人の体力が尽きるのが一時間だとしても、次の番が回ってくるまで、十九時間休息を取ることが出来る。転移魔法には多くの魔力と体力が必要となるが、これなら次の番が回って来るまでに回復できるだろう。


 これなら長期間、巨大トカゲを落下のループに捕えることが出来る。


 魔法使いでない剣士達や残りの二百五十人の魔法使い達は周囲を見張り、落とし穴から離れられない魔法使い達を守る。食事の用意やその他の雑務、ペルム国中央と連絡を取り合う役は、戦闘能力が低い者が担当する。


 現在、ガリウム達の作戦は上手くいっている。

(いくら強大な力を持っていたとしても、空を飛ぶことも出来ず、魔法も飛び道具も持っていない巨大トカゲがこの罠を自力で突破するのは不可能だ)

 後は、巨大トカゲが飢え死にするのをゆっくり待てばいい。


 だが、この作戦には一つだけ懸念がある。


 確かに、巨大トカゲが自力で落とし穴から抜け出せる可能性は、ほぼないと言っていいだろう。しかし、それを邪魔する者がいれば話は別だ。

 もし、魔法陣に魔力を注ぎ続ける魔法使い達が倒されでもしたら、転移魔法は解除される。そうなれば、巨大トカゲが落ちた穴は、ただの落とし穴になってしまう。

(それだけは、絶対に避けなければならない)

 ガリウムと周囲の兵は落とし穴の周辺を見張る。通常の魔物も勿論、十分に警戒しなければならない。しかし、ガリウム達が最も警戒していたのはある魔物だ。

 その時、ホリエスが叫んだ。

「ガリウム!連絡が入った。もうすぐ、此処に来るぞ!」

 ホリエスの言葉を聞くや否や、ガリウムは叫んだ。

「総員、警戒せよ!」

 ガリウムの言葉に全員が兵士や冒険者達が戦闘態勢を取る。


 やがて、巨大トカゲがやって来た方角から、何かが猛スピードで飛んで来るのが視認できた。それは、まるで矢のように真っ直ぐこちらに向かってくる。


 やがて、それは空中でピタリと制止した。上空から巨大な落とし穴を見下ろし、魔物は叫ぶ。


「マルス!」


 主を心配する声が、草原に広がる。


「攻撃開始!」

 ガリウムが兵士や冒険者達に攻撃命令を下す。凄まじい数の攻撃魔法と弓矢が空中で制止するエルフに向けて放たれた。

 

 



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