無限落下
七月一日、早朝。
中央円卓議会議員、ガリウム及びニクス率いる衛兵がペルム国中央円卓議会を制圧。ガリウム、ペルム国中央円卓議会を解散することを宣言。
同日、同時刻。
ガリウム及びニクス直属の衛兵が中央憲兵局及び新聞社を襲撃、これを制圧。ガリウム、ニクスの両議員が政権を奪取したとの号外が作られ、国中に配布される。
同日、午後十二時。
ペルム国中央全体にクーデターの発生が知れ渡る。その六時間後には国中に、それから八時間後には、ペルム国周辺の大国にクーデター発生が知る所となる。
同日、午後一時過ぎ。
クーデター鎮圧のため、国中の軍がペルム国中央に軍隊が集結。クーデター軍とクーデター鎮圧部隊が睨み合う。
同日、午後七時。
ガリウムとニクスによるクーデター発生を知った民衆達が暴動を起こし始める。軍はこれを鎮圧しようとするが、ペルム国中央に人手を割いていたこともあり、鎮圧には至らず、暴動は拡大。役所などの政府機関が次々と市民に占拠される。
同日、午後十一時時。
暴動はさらに拡大を続け、遂にペルム国中央まで暴動が広がる。民衆はクーデター軍を支持し、クーデター鎮圧部隊を襲撃。クーデター鎮圧部隊と民衆が衝突する。
明けて、七月二日午前零時。
クーデター鎮圧部隊優勢。暴動を鎮圧し始める。
同日、午前一時。
それまで静観していたクーデター軍の一部が、突如として議会を飛び出しクーデター鎮圧部隊を襲撃し始める。これにより、形勢が逆転。クーデター軍と民衆に挟み撃ちされるという形になったクーデター鎮圧部隊が劣勢となる。
同日、午前二時。
クーデター鎮圧部隊、苦戦。多くの軍人が拘束される。
同日、午前三時。
クーデター鎮圧部隊の三分の一が拘束される。指揮官も拘束され、クーデター鎮圧部隊の指揮系統が崩壊。
同日、午前三時時三十二分。
クーデター鎮圧部隊が全面降伏。
同日、四時二十五分。
ペルム国中央でクーデター鎮圧部隊が降伏したことが、各所で暴動の鎮圧に当たっていた軍人達にも伝わる。同時に各所の軍人達も次々と降伏。
同日、午前五時五十五分。
クーデター軍が全面勝利を宣言。同時にガリウム、ニクスが暫定政権樹立を発表する。これにより数百年間、ペルム国を支配していたペルム国中央円卓議会は完全に崩壊した。
暫定政権は、これまでの議員達が行っていた不正を全て明らかにした。
その結果、旧政権が行ってきた不正が芋づる式に発覚する。ガリウム、ニクス以外の元ペルム国中央円卓議会議員は横領など様々な嫌疑で全員拘束され、私財は全て没収となった。
同時に、これまでの法律の見直し、及び民主化に向けての新しい法律の作成が行われた。
選挙による議員の選出、税制度の大幅な見直し(市民への税の軽減、関税の撤廃、一部の特権階級に与えられていた税の免除を廃止など)、教育制度の充実、医療節度の充実、地方格差の是正などの施行が決定していく。
この時、制定されていた『特別災害生物指定法』も廃案となった。
次に行われたのは魔物対策だ。
今までは、ペルム国中央にしか設置されていなかった魔物除けの魔法を辺境の地にも設置することが決定。さらに、魔物討伐のための補助金も支給されることとなった。この補助金は高レベルの冒険者を雇ったり、魔物討伐のための武器を購入することを目的としたもので、これまで高レベルの冒険者を雇ったり、武器を買うことができなかった辺境の村に支給される予定だ。
次々とペルム国の改革を進めていく暫定政権に対して、市民は支持を深めていった。
市民の信頼を十分に得たタイミングで、暫定政権は『巨大トカゲ討伐』を正式に宣言。巨大トカゲ討伐の資金を集めるため、個人や企業から寄付を募った。
寄付金は当初の予定の三倍以上集まり、国債の発行は見送られることとなった。
巨大トカゲ討伐のための資金が集まると、早速準備が進められた。準備は昼夜を問わず行われ、七日後に巨大トカゲを討伐するための罠が完成した。
「いよいよだな」
「ああ」
完成した罠を見て、ガリウムは笑う。
所々見て回り、欠陥がないか確認したが完璧な仕上がりだった。最初は途方もない計画に思われたが、皆の協力で何とか完成させることが出来た。後は、ここに巨大トカゲをおびき寄せるだけだ。
罠が完成してから、一週間後。巨大トカゲ討伐隊が編成された。その数、およそ三万。ガリウムは討伐隊の前に立つと、高らかに叫んだ。
「まずは、此処にいる全ての者に感謝の言葉を送る」
そう言うと、ガリウムは深く頭を下げた。
「特に、正規軍でない者達に感謝の言葉を贈る。よくぞ、こんなに集まってくれた!」
正規軍の数は約二万。それに対して、冒険者など正規軍でない者達の数は約一万。ガリウムもこれだけ多くの者達が馳せ参じるとは思わなかった。
「巨大トカゲは多くの冒険者を殺し、人々を混乱に陥れ、自然の生態系を狂わせた。絶対に生かしてはならない魔物だ!」
ガリウムの言葉に何人かの冒険者は、グッと拳を握る。彼らは仲間を巨大トカゲに殺された者達や間接的に巨大トカゲによって被害を受けた者達だ。
「今から行う作戦は、長期戦になる。何日掛かるか、何週間掛かるか、何か月掛かるか、正直分からぬ。誰もやったことがない、前例のない狩りだからだ」
兵や冒険者達がじっとガリウムを見る。
「もし、私の話を聞いて此処から去りたくなった者は、去ってもよい。約束しよう、去ったからと言って、その者を処罰することはない。去りたいと思う者は手を上げて、その意思を示して欲しい」
ガリウムは、かつて自分の屋敷でやったのと同じようなことを兵や冒険者達の前でやった。ガリウムはゆっくりと皆を見渡す。
「……」
しばらく待ったが、誰一人として手を上げる者はいなかった。ガリウムは深く頷く。
「皆、ありがとう」
ガリウムは、拳を上げる高く!高く!
「では、今より巨大トカゲ討伐を開始する!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
兵や冒険者達が雄叫びを上げる。こうして『巨大トカゲ討伐作戦』は開始された。
巨大トカゲ討伐隊は、規則正しく行進していく。
その中に、数台の馬車がある。馬車が引く荷台の上には檻があり、その中には牛や豚、ユニコーンなど、魔法を掛けられて大人しくなった生物が入っている。
「なぁ、なぁ」
「なんだ?」
巨大トカゲ討伐への道中は、規律を正すため、私語は禁止されている。しかし、長い行軍の間、全くの無言というのは、どんな人間だろうと辛い。沈黙に耐えかねた冒険者の一人が隣を歩く別の冒険者に小声で話し掛ける。
「あんた、巨大トカゲって実際に見たことあるか?」
行軍中は、例え相手に話し掛けられても応えてはならない。だが、話し掛けられた冒険者も沈黙の行軍に耐えかねていたのだろう。こちらも小声で返す。
「いや、話には聞いているが、見たことはないな……お前は?」
「俺も実際に見たことはないな……」
ザッ、ザッと討伐隊の足音は乱れずに進んでいく。
「巨大トカゲには、どんな攻撃も通用しないらしいぞ」
「そうらしいな、最初は信じられなかったが……」
巨大トカゲに関する話は冒険者の間にも広まっている。物理攻撃、魔法攻撃を問わずにどんな攻撃も通用しない。逆に巨大トカゲからの攻撃は、どんな攻撃であろうとも即死級の破壊力があるのだという。
「俺も最初は信じられなかった。どんな攻撃も通用しない魔物なんている訳がないって思っていた。でも『心臓潰し』と『眼球潰し』が返り討ちに遭ったって聞いて考えが変わった……」
『心臓潰し』のサンセン、『眼球潰し』カクマ。どちらも彼等しか使うことが出来ない『固有魔法』使いだったが、巨大トカゲには全く通じず、返り討ちに遭ってしまった。
「巨大トカゲは、火を吐くって話もあるが……」
「その話は、デマらしいぞ」
「そうなのか?」
「ああ、巨大トカゲは魔法を使わないらしい」
火を吐いたり、氷を出したり、雷を出したり……そういった魔法を巨大トカゲが使ったという報告はない。
「つまり、巨大トカゲの強さは、完全に生身の強さってことだよな」
「そうなるな……」
「恐ろしいな……」
強力な攻撃魔法や防御魔法を使っている方が、まだマシだ。攻撃魔法や防御魔法を使っているのなら、魔法無効化魔法などで対策も出来るが、相手が生身だとすると、魔法無効化魔法を使っても意味がない。純粋に、相手の攻撃力を上回る防御力がなければ攻撃を防げないし、相手にダメージを与えるためには、相手の防御力を上回る攻撃を仕掛けなければならない。
「……」
冒険者二人の間に沈黙が流れる。やがて、片方の冒険者が話題を変えるため口を開いた。
「なあ、ところであの連中……」
「ああ、『変わりゆく時代』の連中だ」
冒険者二人は、自分達冒険者の前方を歩く集団に視線を向ける。
『変わりゆく時代』は、最近急激に勢力を伸ばしている新興宗教だ。
光りを神として崇めており、白を絶対的な正義としている。そのため、信者は全員、白い格好をしている。袴の様な白い服に白い頭巾、そして顔は目の部分だけを残し、白い布で覆っている。
「あの連中も一緒か……正直気味が悪いな」
「まぁ、仕方がない。『変わりゆく時代』の信者の中には、魔法使いが大勢いる。今回の作戦のために『変わりゆく時代』は五百人、信者の魔法使いを派遣したらしい」
今から行う巨大トカゲ討伐作戦には、一人でも多くの魔法使いが必要だ。五百人の魔法使いは、とても大きな戦力となる。
「よく、五百人も魔法使いを派遣したな」
「まぁ、無償でという訳はないだろうから、暫定政権と何らかの取引があったと考えるべきだろうな。例えば今後、自分達に有利となる法律を制定する。とかな」
「おい、そこの二人!私語は禁止だぞ!」
会話に気付いた一人の兵が冒険者二人を注意する。冒険者二人は「すみません」と謝罪して、会話は終わりとなった。
数時間後、巨大トカゲ討伐隊は、ある場所に到着する。そこは、見渡す限り草が生えているだけの草原。此処に罠を張る。
「始めろ!」
討伐隊は歩みを止め、準備に取り掛かる。牛や豚などを入れた檻を馬車からゆっくりと降ろすと、歩兵達は檻の鍵を開けた。中から牛と豚、ユニコーンを外に出す。
「よし、やれ!」
歩兵のリーダーの合図で、歩兵達は一斉にその首を刎ねた。
ドシ、ドシとティラノサウルスは草原を進む。最近の彼は、機嫌が良い。たくさん美味しい獲物を食べているからだ。今日もまた、とある養鶏場を襲い、たらふく鶏を食べてきた所だ。量は少し物足りないが、まずまずの美味しさだったので良しとする。
『ふぁあ』
ティラノサウルスは大きな欠伸をする。なんだか眠くなってきた。彼はその場でゴロンと寝転がる。太陽がポカポカで気持ちがいい。
ティラノサウルスが寝転がると、彼の隣にいたエルフがニコリと笑う。エルフの名はナノ。彼女はティラノサウルスを王と仰ぎ、いつも傍に居る。
ナノはティラノサウルスのように眠ることはない。
エルフは片目を閉じることで脳の半分を眠らせる『半球睡眠』という睡眠方法をとることが出来る。片目を閉じれば脳の片側だけを眠らせ、逆の目を閉じれば逆側の脳だけを眠らせることが出来る。
両目を閉じて、脳全体を眠らせる睡眠をとることも出来るが、ナノはティラノサウルスと出会ってからは、『半球睡眠』しかしていない。
いつ敵が襲ってきても、主を守れるようにするためだ。
ティラノサウルスは片目を開けて、ナノを見る。その姿が一瞬、過去の自分に重なった。
元の世界で、彼は仲間と共に群れで生活していた。しかし、その群れの中で彼の順位は最下位だった。
大人になれば、ほぼ敵がいないティラノサウルスでも、子供の時は別だ。小型、中型の恐竜でさえ、子供のティラノサウルスには脅威となる。
夜になると、子供達を他の肉食恐竜から守るため、群れの中の一頭が周囲を見張っていた。見張りは群れの大人全員が交代で行っていたが、順位が最下位である彼が一番見張りの時間が長かった。彼は、仲間が眠っている間も起きて見張りをしなければならなかった。
この世界に来てから、彼の睡眠時間は大幅に伸びた。守るべき子供達はおらず、敵もいないため、周囲を見張る必要がなくなったからだ。ティラノサウルスは周囲を見張るナノを見て思う。
『見張りなんてしないで、眠ればいいのに……』
そう思ったが、見張りをする、しないはそれぞれの自由だ。見張りをしたければすればいいし、したくなければしなくていい。
ティラノサウルスは二度目の欠伸をすると、今度こそ眠りについた。
二時間後、ティラノサウルスが目を覚ます。
「マルス?」
いつもよりも短い昼寝にナノは首を傾げる。ティラノサウルスはゆっくり立ち上がり、北の方角を見て鼻をクンクンと動かした。間違いない。北の方角から、とても美味しそうな匂いがする。それも強く、濃い匂いだ。きっと、あの方角に美味い獲物がたくさんにいるに違いない。
『わぁい!』
まるで、お菓子に飛びつく子供の様にティラノサウルスは北に向かって、駆け出した。
『巨大トカゲが動き出しました!す、凄まじい速さでそちらに向かっています!このまま行けば、あと数分でそちらに到着します!』
『了解、各員ただちに配置に付け!』
ヘビィーテレパシーによる報告を受けたガリウムが、皆に指示を出す。
「まさか、本当にあの距離から気が付くとは……」
ガリウムの横にいる男が驚きの声を上げる。この男の名はホリエス。ガリウムのかつての仲間で、魔法使いだ。
ホリエスは、サポート魔法を得意とする魔法使いで、治療魔法や強化魔法を得意としている。さらに、何百キロと離れた場所にいる者と通信できる「ヘビィーテレパシー」を長時間使用できる数少ない魔法使いだ。
「ヘビィーテレパシー」は魔力の消費が激しいというデメリットがあるため、普通の魔法使いは短時間しか使うことが出来ない。しかし、ホリエスは違う。体内の魔力量が多いホリエスは「ヘビィーテレパシー」を長時間使うことが出来る。さらに、彼に触れれば、触れている者もその間だけ、彼の「ヘビィーテレパシー」を使って何百キロも離れた相手と通信することが出来る。
「あいつの嗅覚は並大抵ではない。何十キロ離れていようと気が付くさ」
ガリウム達は、周辺に巨大トカゲの好物の好物である豚や牛、さらにユニコーンの血を何十頭分も周辺に巻いていた。どれも巨大トカゲの好物だ。
どれだけ、距離が離れていようと必ず気が付くはずだ。
「それにしても、もっと離れた方が良いのではないか?この距離だと確実に気付かれるぞ」
ガリウム達は現在、草原を見渡せる小山の上に陣取っている。小山には数万の人間がひしめいているため、下からは丸見えだ。
「問題ない、大丈夫だ」
「何故、そう思う?」
ガリウムは、「はっ」と笑う。
「奴にとって、人間などいないのと同じだからだ」
『此処か!』
匂いを感じとって数分後、ティラノサウルスはその場に現れた。彼はキョロキョロと辺りを見舞わす。
『あれ?』
ティラノサウルスは首を傾げた。辺りに血が飛び散っているので間違いなく匂いの元は此処に違いない。しかし、肝心の獲物がいない。辺りに巻き散らかされている血の量から考えると、相当大きな獲物か、相当な数の獲物がいるはずなのに。
『おかしいな?』
ティラノサウルスはキョロキョロと周りを探す。しかし、獲物の姿はどこにもない。彼はふと、前方の小山に視線を向けた。
『あれは……なぁんだ。違うな』
小山には、二本足の動物が大量にひしめいていた。だが、二本足の動物などに興味はない。ティラノサウルスは再び、キョロキョロと獲物を探し始める。
『あっ!』
草むらの中に獲物が一頭いた。彼が大好物の角の生えた四本足の動物だ。
ティラノサウルスは大喜びで獲物に駆け寄る。角の生えた四本足の動物は逃げない。まるで、寝ているかのように呆然とその場に立っている。
ティラノサウルスの牙が、角の生えた四本足の動物に深々と突き刺さる。
「今だ!」
小山から二本足の動物が叫んだ。次の瞬間、足元の地面が崩れ、大きな穴が開く。ティラノサウルスは、そのまま深い穴の中に真っ逆さまに落ちていった。
『また、これか……』
落下しながら、ティラノサウルスは心の中で溜息を吐く。地面に開いた穴に落ちるのはこれで三度目だ。
一度目は、これと全く同じ状況だった。角の生えた四本足の動物に噛みついた瞬間、地面に穴が開いて下に落ちたのだ。
『そういえば、あの時も二本足の動物がいたな』
ティラノサウルスは以前、穴の中に落ちた時のことを思い出す。穴の底に落ちたティラノサウルスだったが、一っ跳びで、なんなく外に脱出した。確か、その時も穴の近くに二本足の動物がいた。
ティラノサウルスが外に飛び出ると、二本足の動物はとても驚いていた。
それは、穴の中から跳び出したティラノサウルスに驚いたというより、穴の中に落ちたティラノサウルスが出てきたことに驚いているようだった。
その様子から、ティラノサウルスは自分を落としたのは二本足の動物に間違いないと思った。
『その後、どうしたんだっけ?ええっと……ああ、思い出した!』
あの時は、自分に付いて来る空を飛ぶ二本足の動物が、自分を落とした二本足の動物を皆殺しにしたんだった。
そうだった、そうだったとティラノサウルスは落下しながら、心の中でウンウンと過去を懐かしむ。その空を飛ぶ二本足の動物は、彼のスピードに付いて来ることが出来ず、此処にはいない。まぁ、どうせ直ぐに追いついて来るだろう。
そんなことを考えていると、穴の一番底にもうすぐ到着しそうな気配がした。ティラノサウルスは着地の体勢をとる。
『さて、外に出たらまた、獲物を探さそうっと』
穴に落ちる直前に口に咥えたユニコーンをゴクリと飲み込みながら、ティラノサウルスはのんびりと考える。やがて、ティラノサウルスの足が、穴の一番奥底に触れた。
その瞬間、穴の奥底が消えた感覚がした。
そして、穴の一番底まで落ちたはずのティラノサウルスの体は、未だに落下を続けていた。
『あれ?』
ティラノサウルスは首を捻る。確かに、地面に触れた感覚があった。だが、彼の体はまだ落下を続けている。
『気のせいだったかな?』
穴の底まで落ちたというのは、自分の勘違いだったのか?ティラノサウルスがそう思っていると、再び地面が迫ってくる感覚がした。ティラノサウルスは再び、着地の体勢をとる。
ティラノサウルスの足が穴の奥底に触れた。
その瞬間、また穴の奥底が消えた感覚がした。
穴の一番底まで落ちたはずのティラノサウルスの体は、まだ落下し続けている。
『おかしい……』
やはり、勘違いではない。確かに、穴の奥底に足が触れたのに未だに落下を続けている。ティラノサウルスは、もう一度着地の体勢をとった。
ティラノサウルスの足が穴の奥底に触れる。
その瞬間、穴の奥底が消えた感覚がした。
気付くと、ティラノサウルスは、まだ落下し続けている。
『どういうことだ?』
考えるが、何が起きているのかさっぱり分からない。
その間にも、ティラノサウルスの体は暗い穴の中に落ち続けていた。




