第六話 退屈な桃太郎
桃太郎は、鬼ヶ島から持ち帰った宝を積み、村へ帰ってきました。
犬と猿とキジも一緒です。
村の入り口まで来ると、村人たちが集まってきました。
「桃さん!」
「桃さんが帰ってきたぞ!」
「すげえ! 宝だ!」
「お前ら、調べ物は終わったのか?」
村人たちの声が止まりました。
「え?」
「鬼が何したのか調べるって言っただろ」
「あ……」
「す、すみません。まだ……」
桃太郎はため息をつきました。
「やっぱり愚図だな」
「すみません!」
「もういい。終わった」
「終わった?」
「ああ。鬼は俺の家来になった」
「……退治したんじゃなくて?」
「家来にした」
「そうですか……」
村人たちは、それ以上聞きませんでした。
桃太郎が家へ帰ると、おじいさんとおばあさんが待っていました。
「帰ったか、桃太郎」
「ああ」
「おかえりなさい、桃太郎♡♡」
桃太郎は鬼ヶ島から持ち帰った宝を置きました。
おじいさんは目を丸くしました。
「ずいぶん持って帰ってきたのう」
「ああ」
「鬼から取り返したのか?」
「いや、交換した」
「交換?」
「ばあさんのきびだんごと交換した」
「これ全部とか?」
「ああ」
「きびだんご何個とじゃ?」
「残ってた分全部だ」
おじいさんは少し考えました。
「鬼は納得したのかのう」
「何も言わなかったぞ」
「言える状態だったのかのう」
桃太郎は答えませんでした。
「まあ♡♡ こんなにたくさん♡♡」
おばあさんは嬉しそうに笑いました。
「全部出させたんですか♡♡」
「宝をじゃろう。省略するでない」
「嫌だわ、おじいさんったら♡♡」
「久しぶりに聞いたのう」
桃太郎は犬と猿とキジを家の前へ連れてきました。
「ところで桃の字、なんで犬や猿やキジを仲間に加えたんじゃ?」
「仲間?」
三匹は桃太郎から目を逸らしました。
「家畜を飼うのに理由なんかいるか?」
「家畜なんて言うでない。こんなに可愛らしいではないか」
「……可愛い?」
桃太郎は犬に目を向けました。
犬は震えました。
次は猿。
猿も震えました。
最後にキジ。
キジも震えました。
犬が小さく鳴きました。
「ワン……」
「お前、俺が許可してないのに鳴いたな?」
犬は固まりました。
「返事は?」
「ワン!」
「俺が許可してないのに鳴いたな?」
犬は黙りました。
桃太郎が眉をひそめました。
「返事もできねえのか?」
「ワン!」
「だから許可してねえだろ」
犬は震えました。
「桃の字」
「あ?」
「その犬はどうすれば正解なんじゃ?」
「じいさん」
「なんじゃ?」
「俺がいつ、正解があると言った?」
おじいさんは犬の頭を撫でました。
「苦労したのう」
犬は静かに尻尾を振りました。
「ところでのう、桃の字」
「なんだ?」
「鬼はどんな悪さをしとったんじゃ?」
「悪さ?」
「ああ。鬼退治に行ったんじゃろう?」
桃太郎は少し考えました。
「知らねえな」
「知らんのか」
「ああ」
「では、なぜ退治したんじゃ?」
「退治はしてねえ。家来にした」
「そういう話ではないんじゃがのう」
おじいさんは少し考えました。
「鬼は何か悪いことをしておったのか?」
「してねえって言ってたな」
「本人たちが?」
「ああ」
「それでも戦ったのか?」
「ああ」
「なぜじゃ?」
桃太郎は少し考えました。
「鬼を名乗ってたからな」
「鬼なんじゃろう?」
「ああ」
「では、鬼を名乗るじゃろう」
「誰の許可で?」
おじいさんは空を仰ぎました。
「鬼も大変じゃのう」
「あ?」
「なんでもない」
その時、宝を見に来ていた村人の一人が言いました。
「でも、これで鬼はいないなら、もう安心ですね」
「鬼はな」
「……え?」
「気にするな」
「は、はい……」
村人は、それ以上聞きませんでした。
犬と猿とキジは、桃太郎の前に座ったまま微動だにしていませんでした。
「この子たちはどうするんじゃ? 遊んでくればいいじゃろう?」
「あ? こいつらの勝手だろ」
「桃の字が主なんじゃろう?」
「知らねーよ」
おじいさんは三匹のそばへ行きました。
「まったく桃の字は……ほれほれ、動物らしく遊んでくるのじゃ」
三匹は動きませんでした。
「お前ら、良かったな。遊んできていいぞ」
その瞬間、犬と猿とキジは走り出しました。
「ほっほっほっ。動物は和むのう」
おじいさんは嬉しそうに三匹を眺めました。
「良かったなお前ら。じいさんがいる間は」
「ん? 何か言ったかの?」
「いや、平和っていいことだよなぁ」
「そうじゃのう」
桃太郎は縁側に座りました。
キセルに火をつけ、ゆっくりと煙を吐きました。
「はぁ、つまんねーな」
しばらく空を眺めたあと、ぽつりと言いました。
「次は何で遊ぶかなぁ」
シン・桃太郎
~完~
「意味深じゃのう」
意味深じゃのう




