第五話 蹂躙と物々交換
桃太郎は犬と猿とキジを連れ、ついに鬼ヶ島へたどり着きました。
島へ上がると、大きな門がありました。
その向こうでは、何匹もの鬼たちが暮らしています。
桃太郎は門の前に立ちました。
「おい」
門の近くにいた鬼が振り返りました。
「なんだ、人間か?」
「お前ら、誰の許可で鬼を名乗ってんだ?」
鬼は首をかしげました。
「……誰の許可って、俺たち鬼なんだけど」
「あ?」
「いや、だから。生まれた時から鬼だ」
「それがどうした」
「どうしたって……」
鬼は困ったように言いました。
「鬼が鬼を名乗って何が悪いんだ?」
「気に入らねえな」
「何が!?」
騒ぎを聞きつけ、島の奥から鬼たちが集まってきました。
その中から、ひときわ大きな鬼が前へ出ました。
「何の騒ぎだ」
「頭領! 人間が来て、誰の許可で鬼を名乗ってるんだって!」
頭領は桃太郎に尋ねました。
「人間。何者だ?」
「桃太郎だ」
「知らん」
桃太郎の眉が動きました。
「もう一回言ってみろ」
「知らん」
犬と猿とキジが震え始めました。
頭領は三匹に気づきました。
「なんだ。お供が怯えておるではないか」
犬の足元が濡れました。
猿の足元も濡れました。
キジの足元も濡れました。
三匹は仲良く地面を濡らしていました。
どうやら場所は関係ないようです。
頭領は少し得意そうに笑いました。
「我々がそんなに恐ろしいか」
三匹は一斉に桃太郎の方を向きました。
「……わしらではないのか?」
「お前ら、またか」
三匹は震えました。
「まあいい」
頭領は桃太郎に話を戻しました。
「それで、桃太郎とやら。何のためにここへ来た」
「暇だったからな」
「……暇?」
「ああ」
頭領は呆れました。
「暇だから鬼ヶ島まで来たのか?」
「他に理由がいるか?」
「帰れ」
「嫌だね」
「なぜだ!」
「せっかく来たんだ。遊んでいく」
桃太郎は刀へ手をかけました。
鬼たちも身構えました。
頭領が声を上げます。
「待て!」
桃太郎の手が止まりました。
「なんだ?」
「我々がお前に何をした!」
「知らねえ」
「知らんのか!」
「ああ」
「俺たちは何もしてねえ! なのになんで俺たちを攻撃するんだ!」
「お前ら、鬼なんだろ?」
「そうだ!」
桃太郎は笑いました。
「俺より鬼畜なんて気に入らねえな」
「何の話だ!?」
桃太郎は刀を抜きました。
「行くぞ、お前ら」
犬と猿とキジは動きませんでした。
「聞こえなかったか?」
三匹は慌てて前へ出ました。
「返事は?」
「ワン!」
「ウキ!」
「ケーン!」
「あ? 何鳴いてんだ」
三匹は固まりました。
「誰の許可で鳴いた?」
頭領が叫びました。
「いや、お前が返事をしろと言ったんだろ!」
「お前、よく喋るな」
「お前がおかしいからだ!」
桃太郎は笑いました。
「気に入った」
「こっちは気に入ってない!」
桃太郎は刀を構えました。
こうして、桃太郎の一方的な因縁からの蹂躙が始まりました。
鬼たちは必死に抵抗しました。
しかし、桃太郎には敵いません。
犬と猿とキジも、桃太郎に言われるがまま戦いました。
しばらくすると、立っている鬼はいなくなりました。
鬼ヶ島には、倒れた鬼たちがあちこちに転がっています。
桃太郎は刀を肩に担ぎました。
「安心しろ。全員峰打ちだ」
鬼たちは死んでいません。
瀕死なだけでした。
「峰打ちだが……痛そうだな」
桃太郎は手にした刀を確かめました。
「初めて本気で刀を使ったが……危険だな」
刀を鞘へ戻します。
「次は素手でやるか」
「ま、待て……」
倒れていた頭領が、かすかに声を上げました。
「あ?」
「や、やめろ……ここには鬼の秘宝が……」
頭領は震える手で、島の奥を指さしました。
そこには、鬼たちが大切にしていた金銀財宝が山のように積まれていました。
「鬼のくせに溜め込んでんじゃねえか。没収な」
「え……」
桃太郎は腰につけていた、きびだんごの袋を外しました。
「ほら。これやるよ」
残っていたきびだんごを、袋ごと頭領の前へ置きました。
「特製のきびだんごだ」
そして、鬼の秘宝を指さしました。
「こいつと交換な?」
頭領は、きびだんごの袋と山のような秘宝を交互に見ました。
「……交換?」
「ああ」
桃太郎は笑いました。
「これなら略奪じゃねえだろ?」
犬と猿とキジは、安心したような顔をしました。
きびだんごは、もうありません。
「帰ったらまだあるから安心しろ」
三匹の身体が固まりました。
三匹は、旅だけで終わらないことを知りました。
そして盛大に鬼ヶ島を濡らしました。
「おいおい。ここも俺たちの縄張りか?」
三匹は動きませんでした。
「いいだろう。お前ら、よくやった」
犬と猿とキジは褒められました。
誰も縄張りにしたつもりはありませんでした。
「おい、鬼」
「……なんだ」
桃太郎は笑いました。
「これでお前らは俺の家来だ」
「なんでだよ……」
こうして桃太郎は、鬼たちを家来にして村へ帰りました。
おばあさん「桃太郎は元気にやってますかねえ」
おじいさん「不穏じゃのう」




