第三話 鬼ヶ島へ
ある日のことです。
桃太郎が村を歩いていると、村人たちが集まって話をしていました。
「なんでも、海の向こうに鬼が住んでいるらしいぞ」
「鬼?」
桃太郎が足を止めました。
「あ、桃さん!」
村人たちは桃太郎に気づくと、背筋を正しました。
「今、鬼って言ったな」
「はい。なんでも鬼ヶ島という島があって、そこに鬼たちが住んでいるらしいです」
「へえ。それで?」
「それで?」
「鬼は何したんだ?」
「悪いことをしているとは聞いたんですが……」
「具体的に何をしてるのかは……」
「何をしてるのかわからない、だと?」
「は、はい……」
「気になるな」
「えっと……」
「俺は気になると言った」
村人たちは背筋を伸ばしました。
「は、はい! 調べておきます!」
桃太郎は笑いました。
「わかってるじゃねえか」
「は、はい!」
桃太郎はその場をあとにしました。
その日の夕方。
桃太郎は、おじいさんとおばあさんの前に座りました。
「じいさん、ばあさん。俺は鬼ヶ島へ行く」
おじいさんはお茶をすすりました。
「何をしに行くんじゃ?」
「暇つぶしにはちょうどいいだろ」
おじいさんは湯呑みを置きました。
「ところで桃太郎。鬼が何をしたか知っておるのかのう」
「知らねえな。あいつらが調べるって言ってたが……いつになるかわからねえな」
「それなら、待ってから行けばいいのではないか?」
「愚図どもがそんなすぐに調べられるわけねえだろ」
「調べさせておいて、それはないんじゃないかのう」
「あいつらは成人しても何も変わっちゃいねえんだ」
「桃太郎……友達は大切にしなさい」
「友達?」
桃太郎は首をかしげました。
「俺に友達なんていたか?」
おじいさんは答えられませんでした。
「桃太郎ったら、大きくなって♡♡」
「ばあさんはどこを見て言っておるのかのう」
「嫌だわ、おじいさんったら♡♡」
「聞いておるだけじゃ」
「とにかく、明日の朝には出る」
「もう決めておるのか」
「ああ」
「鬼が悪いことをしたかどうかもわからんのじゃろう?」
「鬼なんだから何かしただろ」
「ずいぶん雑じゃのう」
「退治してから聞けばいい」
「退治したあとでは聞けんのではないかのう」
桃太郎は寝る準備を始めました。
翌朝。
おばあさんは早くから台所に立ち、桃太郎のために日本一のきびだんごを作りました。
「桃太郎、できましたよ♡♡」
おばあさんは、きびだんごの入った袋を桃太郎へ渡しました。
「たくさん作りましたからね♡♡」
「ああ。ありがとな」
「桃太郎のように、大きくてご立派なの♡♡」
「ご立派なきびだんごと言わんのかのう。省略するでないと、あれほど言っておるのに」
「嫌だわ、おじいさんったら♡♡」
「何も嫌なことは言っておらん」
桃太郎はきびだんごの入った袋を腰につけました。
「しかし、一人で平気かのう」
「道中で使えそうなのがいたら拾う」
おばあさんはにっこり笑い、両手で胸を支えました。
「私の大きくてご立派なのを口に入れたら、みんな仲良くなれますよ♡♡」
「きびだんごをじゃろう。あと、胸を支えて言うではない」
「嫌だわ、おじいさんったら♡♡」
「だから何も嫌なことは言っておらん」
「ああ。ばあさんの……使えるな」
「使えるとはなんじゃ。桃太郎も省略するでない。それに、ばあさんはわしのじゃ」
「嫌だわ、おじいさんったら♡♡」
「ばあさんは少し黙っておりなさい」
桃太郎は腰のきびだんごを確かめました。
「ああ、わかってる。俺に考えがある」
「意味深じゃのう」
桃太郎は二人に背を向けました。
「行ってくるぞ」
「気をつけるんじゃぞ」
「いってらっしゃい♡♡」
桃太郎はそのまま家を出ました。
こうして桃太郎は、鬼が何をしたのかもわからないまま、鬼ヶ島へ向けて旅立ちました。
おばあさん「嫌だわおじいさんったら♡♡」
おじいさん「意味深じゃのう」




