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149話 ゴミども、殲滅してやる! in PARIS

【パリ・べリアス視点】

※旅行5日目。(午前中フランクフルト→パリ。着後車窓観光後フリータイム)


 私とルーシーは”列車”(ICE)という長い乗り物で、”華の都パリ”へ到着した。


 空は曇で覆われどんよりとしていた。

 だが私の心はウキウキと浮かれまくっていた。隣には()()()ルーシーが居て、到着後、華の都パリの観光スポットを一緒に巡る予定だ!


 昨夜は、二人で暗転するまでガイドブックなるものを読み、談笑しながらワインを楽しんだ。


 パリという街は、約2500年以上前にガリア人の小集落からはじまったとされる”フランス共和国”の首都。そのフランス共和国は世界有数の多人種国家とガイドブックに記載されていた。その首都はいわばその国の縮図。我がアレキサンドライト王国も多人種が共存する国家。国づくりの参考になればと訪れたが……。


 バスから見える街並みや建物は華麗で巨大で美しく、まさに”()()()”と呼ばれるにふさわしい街だった。


「ルーシー! 凄いな! なんなのだこの街は!?」

 

 我が王国の王都カルカソもあと1000年もすれば、パリのように発展した美しい都市になるのではないかと期待に胸を躍らせ観光を楽しんでいた。


 その矢先だった。

 その華の都のシンボルのような塔の近くへさしかかった時、車窓から見える景色に異様な気配を感じた。


 川にかかる大きな橋の上の歩道に、光を帯びた十字架で身体を貫かれた小さな子どもの悪魔が横たわっていた。十字架は、”聖なる矢”のような不気味な光を放っていた。その先に、同じような十字架が刺さった大人の悪魔が数体、……いや折り重なるように数十体の悪魔の無惨な姿が次々と目に飛び込んできた。


「なんだあれは!?」


 おぞましい光景に、声を震わせルーシーに尋ねた。


「べリアスなに?」

「あそこに十字の矢が刺さった子どもの悪魔が………」

「ええっ、どこ? 」 

「見えぬのか!? ほら、そこにも……なんと(むご)いことを……」


 ルーシーは不思議な顔で私を見つめ返したが、すぐに状況を理解したのか私の背をさすり、真面目な顔で聞いてきた。


「べリアス、ここで何かが起こっているの?」

「ああ、多くの悪魔が殺されてる」

「悪魔が!? 誰がやったの?」

「わからん! だが、イヤな気配がする。……あ、あいつらだ!」


 バスの窓から視線を空へ向けると、無数の白い翼の一群が下界を監視するかのように上空を飛び交っていた。そして、ひときわ高い塔の上に金色に輝く天使の姿が見えた。その天使は、趣味の悪い全身ギラギラとした黄金の鎧を身につけていた。



「ミカエル……」


「えっ! あの、ミカエル様!?」


 ルーシーが嬉しそうな顔をした。


「違う! あのポンコツじゃない。その上の、もっとヤバい奴だ!」

「もっと上?」


 恐らく天使やつらは、”傷ついた子どもの悪魔”を助けにきた悪魔たちを次々と仕留めているのだろう。子どもを使っておびき寄せるとは……天使の奴ら正義の名のもとに、えげつない事を平気でしやがる。むしろあっち(天使)が悪じゃないのか!?


 私はルーシーの影に隠れ、バスがその場所を通り過ぎるのを待った。

 その場所以外では天使は見かけなくなったが、身が凍り付くほどの震えはなかなか治まらなかった。私は過去に何度もミカエル(あいつ)に命を削られ、消滅させられかけた。


「じゃあ、エッフェル塔界隈は観光から外すね。べリアス、嫌な場所とかあったら遠慮なく言ってね」

「ゔん」


 もう泣きたい。

 ああ、ルーシー。お前はなんて場所に旅行に来ているんだ!


 バスは川沿いを走り、街の中心から少し離れた大きな公園の傍の建物の前に停車した。

 

「べリアス、ここが今日と明日泊まる宿だよ」


 見上げる程に高い建物にもう驚きはしなかった。



 だが、部屋が狭い♪


 シングルベッドが二つ並べられたダブルの部屋だが、ベッド同士の間隔はほぼ無く30cmあるかないか……。手を伸ばせばすぐにでも隣のルーシーに触れることができるほどの近さだ!


「フフッ……グフッ」


 ベッドを見つめて笑っていると、スーツケースを置いたルーシーが「よし!」と声をあげた。


「行くよ! べリアス!」

「は?」

「観光! パリを満喫するって言ったでしょ!」


 リュックを背負ったルーシーが笑顔で手を差し出した。


「えええーーーーっ! 怖い天使がウヨウヨしてるのにーーー!?」

「フフフッ。たぶん、大丈夫よ。だって考えてみたら、この世界でべリアスの姿が見えているのは()()()なんだから」 

「……あ、そうか。そうだったな。なーんだ、(おび)えて損した」


 そうだ、ここはルーシーの夢の中で、本体はアンフェール城にある。消滅の危険も無い!


「それに、この街に天使がいっぱいいるんなら、私が悪魔に憑かれる心配もないでしょ」

「それもそうだな……」



 納得はしたが、先ほどの橋の上の光景が目に焼き付いて離れなかった。

 天使ども、この美しい街であのような残酷な真似をするとは許せん。なんとかして、さっきの子どもだけでも助けてやりたかったと考えたが……そんなこと私にできるのか? 

 

 建物の外へ出たタイミングで、試しに人間から悪魔の姿へ戻り黒い翼を広げ羽ばたくと、ルーシーが驚きの声をあげた。


「急に、どうしたの!?」

「この世界で魔力がどれだけ使えるのか試しただけだ。いざとなったらお前を守らなければならぬからな」


 通りを歩いていた数名の男が、声をあげたルーシーを振り返り見つめていた。

 ルーシーが言っていたとおり他の者には私の姿が見えぬようで、悪魔の姿で飛び回る私に目もくれず平然と街を行き交っている。

 

「……」


 気がつけばルーシーは、悪魔の姿に戻り低空を旋回する私を瞳を煌めかせ、うっとりとした表情で見上げていた。


「どうした?」


「綺麗すぎて、べリアス天使みたい。……もしかして、私を抱いて空を飛ぶこともできる?」


 ()()()!? 

 いま、”()()()()()”って言った?


 まさか、私の”悪魔の姿”の美しさに一瞬で陥落したというのか!? 

 ルーシーが、()()()……()()()()!? 


 もっと早くにこの姿で迫るべきだったーーーっ!!!

 よっしゃぁぁぁーーーーっ!!!


 落ち着け! 落ち着くんだ! 

 前回の教訓を踏まえ、興奮して怖がらせぬよう、湧き上がる衝動を抑えに抑え顔を近づけ(ささや)いた。


「では、その対価を……」


 頬をやや高揚させ甘えるように見上げるルーシーの眼差しを捉え、頬に触れ、その唇に狙いを定めたその時だった。


 パチン!


「ダメ! やっぱいい、歩く!」


 クルリと背を向けルーシーはスタスタと歩いて行ってしまった。

 

「え、あ……」


 頬を叩かれ愕然としている私にルーシーが振り返り叫んだ。


「べリアス、何してるのー! 置いてっちゃうよーー!」




 ***** *****

【パリ・大天使ミカエル視点】

 ※エッフェル塔前。



「ゴミども! 殲滅してやる!」



 ”上位の悪魔が多数巣食っている”との情報で、街の掃除にきてみれば……湧き出てくるのは雑魚ばかり。手ごたえもクソも造作もない。


 ”華の都パリ”という下界の人間の街は、300年ほど前に比べたらだいぶきれいになった。

 だが、道には犬のフンだらけで汚いし、空気も淀んでしばらく吸っていると鼻の穴が黒くなる。これも悪魔の仕業なのか!? しかも、人が多いわりに、この私の美しい姿が見えぬものばかりで、実につまらん。

 ミカエルさまー!と、女子たちにもて囃されたいのに。

 ここ数百年。人間どもからの総ガン無視に加え、人間の姿で現れ正体を明かすと”頭打ったか?”とか、いわゆる不思議ちゃん認定される。バカにされるのはまだいい、”こいつマジか……”と無言で嫌悪されるのは正直けっこう(こた)えた。


 人間なんてすぐに下劣な悪魔に(ほだ)され流される、愚かで下等な種族だから仕方ないのだろう……。


 帰り道は、私に捧げられた聖なる島モン・サン・ミッシェルを経由して帰ろ!



 塔の下の広場で悪魔を片づけさっさと戻ろうとしていると、動けなくなった悪魔を浄化しながら”例の子ども”が私の方へ駆け寄って来た。


 ”シャルル・ローラン”


 本当かどうか定かではないが、古代の英雄の生まれ変わりと現ローマ教皇より極秘に認定された、パリ在住の人間の子どもだ。触れるだけで悪魔を浄化する、神の力に似た能力を持っている。そして、私の姿が見え会話もできる希少な人材だ。

 

(※浄化とは=欲望や邪悪なものを取り除き神聖なものに変える。いわゆる輪廻。浄化された悪魔の魂は、天界へ返される。だが、上位悪魔の浄化は邪悪なものを()()()取り除くことができぬゆえ難しいとされている。)


 

「大天使ミカエル様」

 

 金髪で水色の瞳をしたきれいな顔立ちの少年が、私の前で跪き敬礼した。


 白いシャツに紺と緑のストライプ柄のタイを締め、その上に紺色のベストを身につけ、ズボンは濃いグレンチェック柄で足元は黒のローファー。そして、お洒落なグレーのフードの付いたチェスターコートを羽織っている。その背後には、彼の付き添いの黒いローブ姿のやや年老いたシスターが困惑した表情で佇んでいた。


 確かまだ10歳ぐらいと聞いたな……その割には、礼儀正しく服装もかっちりとしていて、めちゃくちゃしっかりした雰囲気だ。下ネタとか言ったら嫌われそう。


「どうした?」

「お、恐れながら、先ほど下校途中。女性を誘惑していた悪魔をスクールバスの中から目撃いたしました!」


 両手の拳を握りしめ興奮し頬をピンク色に染めながら、少年は私を見上げ精一杯声を張り上げた。この一生懸命さ……かわいいなー。


「女性を!?」

「はいっ! 黒い髪の外国人の女性を、黒い翼の悪魔が空から、キ、キスを」

「悪魔め、手あたりしだい見境なく手を出しおって……それで? その女性はどうなった?」

「それなんです! なんとその女性が、悪魔を、()()()()()()()()

「は!? マジで? え!? な、なに!? そ、そ、その、み、み、見え」


「はいっ! 見えているようです」

「悪魔を? 人間に化けていない悪魔を?」

「はいっ!」


 悪魔が見えてるってことは、我々、天使も見えるはずだ!


「ど、どこで!? どこ? それもだけど、ま、ま、まず、そ、そ、その女性は、ど、どんな、風貌だった?」


 悪魔を引っ叩いた、見える”女性”と聞き、抑えきれない興奮で言動がおかしくなった。だが、そんなことを気にしている場合ではない!


「……若くて。肩ぐらいの長さの黒い髪で。目が大きくてキラキラしていて、黒いコートに赤いマフラー……で、す、ステキというか、き、きれいな……」


 シャルル少年は、もじもじと照れたようなそぶりで言葉を濁らせた。ちょっと、おませさんなの?


「つ、つまり、び、び、()()なのか?」

「は、はいっ!」 


 顔を真っ赤にしたシャルル少年は、穢れのない綺麗な水色の瞳を大きく見開き即答した。


「どこで見た?」

「ここから西にある、ベルシー駅の近くです」

「案内せよ」

「はいっ!」


 我々(天使と悪魔)が見える女性。

 しかも、()()! 


 悪魔の誘惑を跳ね除けるとは、天使としての才もありそうだな、天界へのスカウトも視野に入れておこう。


「それにしても、その服かっこいいな」

「制服です」

「”せいふく”というファッションか……世界征服するの?」

「いえ、学校で指定された服装で……」


 街全体に灰色のベールを被せたような曇り空の下、シャルル少年の付添のシスターが運転する車の案内で、我が大天使ミカエル軍はベルシーへ向け移動を開始した。


 悪魔ゴミどもの殲滅ついでに訪れた街で、思いもよらない逸材の発見の報告に、私の心は華やぎ期待に胸をときめかせていた。



 ***** *****

 (おまけ)

 夢ループ前までの、シャルル&ミカエルは……。


 巴 (ルーシー)は、リューデスハイムからアスモデウスに纏わりつかれる→アスモデウスがパリ観光に出かけるルーシーに近づく→それをバスの中から目撃したシャルルが「ベルシーに上位の悪魔出現!」と報告しミカエルと向かう。


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