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138話 ディス・コード (スチュワート視点)

今回は2話更新。

【アレキサンドライト王国南西の都テーベ、キャージュ城・スチュワート視点】

 ※”氷の魔女”急襲の翌日。騎士見習合宿終了まであと6日。


 夕刻。

『ジェダイド帝国元女王・氷の魔女”ヴィティ”急襲』との一報を受けた王国幹部(国王べリアス、ノール帝国アレクセイ王子、イフリート殿下、アスモデウス殿下、バルベリス殿下、天使軍総大将ロン・バルディ様、イナリ国将軍マサムネ様)は、キャージュ城・アクアリオ離宮で今後の対策協議を開始いたしました。


 キャージュ城は、オアシス全体を取り囲むように建てられており、その東の高台のベガ庭園の中に”アクアリオ離宮”はございます。

 (いにしえ)の国王のハレムだったというアクアリオ離宮は、バルベリス殿下によって改装されており。会議室は、星座の描かれた丸天井。パステルカラーの内装。家具や調度品も全て丸みを帯びた可愛らしいメルヘンチックなもので統一されておりました。スマイルマークが描かれた白い円卓。白い毛皮のようなフワフワとした素材の、背もたれにミルククラウンを模した装飾が施された椅子。その椅子に腰かけた陛下たちは、僅かながら戸惑いの表情を見せておりました。


 +++


 協議は”ジェダイド帝国女王・氷の魔女ヴィティ”の急襲の詳しい状況と、今後の対策について話し合われておりました。


「氷の魔女”ヴィティ”は、今は『女王』ではないと、アレクセイ様はお聞きなさったのですね」

「はい」


 私の質問にアレクセイ王子は、力強く返事をなさいました。

 あの魔女の冷気に当てられ、「一時倒れ。寝込むほど衰弱なさっていた」とカール殿よりお聞きしました時は心配致しましたが、目の前にしっかりとした表情で佇む王子の姿に、私は安堵いたしました。 


「少し、いいか?」


 独特な”大鎧”と呼ばれる全身黒の装束の”イナリ国将軍イナリ・マサムネ様”が手をあげられました。

 長い黒髪を一つに束ね、凛々しく太い眉に切れ長の鋭い目。スッと通った鼻筋にキリリとした口元を固く一文字に結び、私に発言を求められました。


「我々イナリ国は、半年前まで海賊の仲介によりジェダイドの信頼できる商人と、極秘にある特殊な鉱石の取引をしていた」


 その場にいた一同の顔つきが変わりました。


「その商人から知り得た、ここ最近、半年前までのジェダイドの情報を皆に話したく、ここへ参った」

「はぁ!? なぜ今まで黙っておった!?」(イフリート殿下)

「敵国の内通者と疑われるのを避けるためだ」


 マサムネ様は、イフリート殿下の怒号に対し眉ひとつ動かさず答え、話を続けられました。


「……ジェダイド帝国との交易の禁止は重々承知している。だが、その鉱石は、我がイナリ国では遥か昔より薬として用いられている貴重なもの。重ね重ね述べるが、その商人は先の戦争以前から代々取引していた信頼できる者たちだ。その者たちが半年前より音信不通になり憂慮していた。 

 今回の報を受け女王復活の核心に至り、我がイナリ国軍は、”打倒・氷の魔女”と、商人たちの救出を図ろうと考えている」


「勝手な!」


 傷だらけのスキンヘッドに隻眼。大柄で翼は無く、一見悪魔のような風貌の天使軍総大将ロン・バルディ様は、呆れた顔でマサムネ様を睨まれました。 


「”打倒・氷の魔女”という目的は同じはずだが」

「はぁ!」


 鬼のような形相でロン・バルディ様は、マサムネ様に射抜くようなまなざしを向けられました。


「ストーーーップ! そこで揉めるな!……マサムネ将軍、その情報とやら話してみよ」


 陛下の言葉に、マサムネ様は一礼すると、皆を鋭い眼差しで見渡し再び話し始めた。


「あの魔女が”女王”ではないというのは事実だ。ジェダイド帝国では、先の侵略戦争後、非人道的に暴れまわった”女王”が排除された。現在、政治は”グレイヴス”というものが、実権を握っている。だが、政治不信で何度もクーデターが勃発し、そのたびに帝国内は反逆者をせん滅するため武力弾圧を行い、血で血を洗う惨々たる状況になっているらしい。女王ではないことは周知の事……アレクセイ殿。あの魔女は、他に何か言わなかったのか?」


 マサムネ様から鋭い視線を向けられたアレクセイ様は目を大きく見開き表情を歪められました。


「……その、”勇者ルーシー”のことを……知っていた」


 陛下の手前言い出し難かったのでしょうか、アレクセイ様は肩を落とし辛そうに仰りました。


()()()()()!? 王子、それは本当なのか!?」


 陛下は椅子から立ち上がり、隣に座るアレクセイ様を問い詰めました。


「はい」

「それで魔女は何と言っていた!」

「それが……特に、なにも……」

 

 アレクセイ様は顔を蒼白にされ身を強張らせた。


「そんな訳がなかろう! 」

「そ、その。本当に、そ、それだけで……」


 王子アレクセイ様は、精悍さを失い血の気の引いた顔を引きつらせ、震える声で小さく仰いました。

 

 海軍の指揮を率先して取り仕切っていた勇猛果敢なアレクセイ王子の恐怖で憔悴しきった姿に、強い不安を感じました。王子が恐怖のあまり、軍事協定を破棄しかねない場合も想定しなければなりません。それだけは回避しないと。


「アレクセイ様。とにかくご無事で何よりです。

 陛下、恐らくこれは”氷の魔女”の戦略です。悪戯にルーシー様の名を出し、こちらにに揺さぶりをかけ、その動向を伺っているのかもしれません」


「よりによって”私のルーシー”に目を付けるとは……あの魔女。何を企んでやがる」


 陛下は椅子に座り直し足を組み、手を顎につけながら考え込まれました。


「あの魔女は”赤い髪”の女を憎んでおった。今度は、我が娘ルーシーを……」(イフリート)


 憤りを隠せないイフリート殿下からは熱が放射され、アスモデウス殿下は腕を組み真っ黒な魔力を放出させ目を閉じ考え込んでおられました。


 天使軍総大将ロン・バルディ様が、手を挙げられました。


「先週、ジェダイドから戻ってきた斥候からの情報によると、クーデターを目論む勢力が帝都へ侵攻を始めたらしく、帝国内は今混乱を極めているらしい。その混乱の中、ノールの王子に接触を試みるとは……ノールを寝返らせ、王国に奇襲でもかけるつもりと判断すれば合点がいく」


「その可能性はでかいな……アレクセイ、よく耐えたな」


 アスモデウス殿下がアレクセイ王子に笑いかけると、王子は「はい」と小さく答え、涙ぐまれました。



「なんにせよ、あの魔女が動きだしたことには変わらん。スチュワート、お前はどう考える?」(陛下)


「はい……”氷の魔女”は国を乗っ取った勢いそのままに我が王国へ侵攻してくる可能性もございます。もはや時間の問題です。何もかも前倒しで準備を進めていきたいと考えておりますが、みなさま宜しいでしょうか?」


 私は、その一報を受けてから事前に、陛下とバルベリス殿下を交え、大まかな対策案をたてておりました。

 このような提案を急遽、この場で受け入れがたいのは必至。本来ならば一度、各城へ持ち帰り協議したうえで決定すべきところ。


 ……案の定、私の提案にその場が静まり返りました。

 

「よし、わかった!」

 

 天使軍総大将ロン・バルディ様の声が響き渡った。

 その声に、各代表者様たちは渋い表情で頷かれました。


 私が提案した内容に各部隊・担当ごとに修正を加える形で、協議は無事に(……渋々といったところでしょうが)まとまりました。



 この度、変更いたしました計画は以下の項目。


 ①天使軍は防衛拠点の増設。

 ②イナリ国は、船の強化と前倒しで物資の調達。戦闘・救出部隊の派遣。

 ③アレクセイ王子は前線から撤退し、態勢を拡充するまで沿岸の監視。及び、合宿終了後のルーシー様と海上での戦闘訓練の実施。

 ④妖精王様には、薬草・食料の量産を再度打診。戦闘人員の派遣。

 ⑤アレキサンドライト王国からは、経費と人員。

  強化合宿が終了した騎士見習は、インターン期間を設けず第五部隊(補給・設営・医療)へ配属。後方支援に当たる。王国の勇者ルーシー様はイフリート殿下とキャージュ城に滞在し、各軍との連携を図るため訓練を行い、今後の事態に備える。以上。


 +++


 協議終了後、前もって変更案を了承なさっておりましたバルベリス殿下は、飛び跳ねながらイフリート殿下に今後の住まいの希望とルーシー様の好みを伺っておられました。


 陛下は、不満もあるようでしたが”氷の魔女”からルーシー様を守るためと了承。今週末に行われるアスモデウス殿下の王女ホムラ様の婚礼で、ルーシー様をエスコートしたいとアスモデウス殿下に頼み込んでおられました。

 ロン・バルディ様は、アレクセイ王子に流れ着いた遺体に天使族がいたら遺体を回収してほしいと依頼しておりました。

 マサムネ様は、私にルーシー様の兄オスカー様について尋ねられました。もちろん、王国の勇者の護衛として同行なさる旨をお伝えしましたところ、不敵な笑みを浮かべられ「お会いするのを心待ちにしておる」と伝えてくれと仰られました。オスカー様は以前、バンディ城でマサムネ様のご息女ムラサキ様と手合わせをなさっておりました。嫌な予感が致します。


 次から次へと……これ以上問題事が起こらなければ宜しいのですが。


【王都アンフェール城・スチュワート視点】


 その深夜の事でした。

 やっと連絡のついた妖精王様に、協議の変更内容をアンフェール城でお伝えしておりました折。アクアラグーンでルーシー様の護衛任務中のイム様より緊急の連絡が入りました。


 ”勇者ルーシーが兄レグルスに連れ去られた。

  これから自分と、サミュエル副隊長、ハント副隊長とともに救出へ向かう”


「なんだと!? まさか……()()()()()!?」


 私の傍らにいた妖精王様が、怒鳴り声をあげられました。


「スチュワート、リングを貸せ! 俺が止めに行く。お前はあの天使族の(おさ)を呼べ。怪我人が……いや、死人が出るかもしれない」


 移動用魔法陣を展開させ妖精王様は、アクアラグーンへ向かわれました。


 妖精王様の焦り様から、事態はとてつもなく悪い方へ向かっているかのように感じられました。私も急ぎ王宮の自室で休まれている陛下の元へ駆け付けましたが、



「陛下……陛下!?」


 陛下の姿がどこにも見当たりませんでした。

 気付けば陛下の気配が城から消えておりました。


 こんなときに、陛下はいったいどちらに行かれたのでしょうか。陛下の召喚リングを使えば、ルーシー様を取り戻すことは容易であるのに……どうすれば……私は、どうすれば……。


 まずはミカエル様を……。


 緊迫感で押しつぶされそうになりながら、予備の移動用リングで天使界デウスへ向かった。



 氷の魔女の急襲。ルーシー様の誘拐。そして、陛下の不在。

 王国の未来が、音もなく静かに暗雲に覆われていく状況に身震いが止まりませんでした。


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