表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/300

134話 丸腰サンダルか弱い天使

【アクアラグーン樹海付近・サミュエル視点】

 ※132話の始まりの少し前。


 夜中に宿場町にある”飲み屋”から連絡が入り、酔いつぶれたジュード団長補佐を店まで迎えに行った。

 白のTシャツに支給品のベージュのハーフパンツで、もう寝ようと思っていたので髪は下ろしたままだった。酒の匂いをプンプンさせ泥酔状態でおねーさんの名前を叫びつづけるジュード団長補佐を背負いながら、俺は空を見上げた。

 満月か……


「月が綺麗だな……」


 王国騎士専用宿泊所へジュード団長補佐を送り届けた後。そういえば、いつだったかイムが思いつめた顔で、俺に”話がある”と言っていたことを思い出した。

 あいつは今夜も妖精王の第一王子の監視と、ルーシーの護衛で樹海の入り口にいる。

 すっかり目が覚めちまったし、顔見るついでに、話でもしてくるか。合宿もあと1週間で終わっちまうからな。 


 宿泊所の正面入り口から外に出ると……


 スタン!


 突然、真上からハントが目の前に飛び降りてきた。


「うわぁぁぁっ! ビックリした!」(ハント)

 

 俺に驚いたハントはバランスを崩し尻餅を付いたが、すぐにヒョイと立ち上がった。黒いTシャツにベージュのハーフパンツにブーツ。トレーニングの帰りだったのか、額に大粒の汗をかき、息が上がっている。


「こっちの台詞だ。どうした?」


「なんか、ハァ……変なんだハァ……ハァ」


「ん?」


「ハァ……ハァ……ここに来るまでに、おかしな虫が飛んでて……これ」


 ハントの掌の中には何匹もの綺麗なエメラルドグリーンの羽の大きな蚊のような蝶のような虫が、ひくひく足を動かしていた。


「うっわ、気持ちわりーな」


「ちょっと気になるんで樹海の東の入り口を経由して、神殿の丘の方まで見まわってくる。サミュエルさんは?」


「俺は、イムにちょっとな」


 ハントは、サンダル履きの俺の足元をチラっと見て「じゃ、俺、先に行ってます」と、樹海の方へ音もなく消えて行った。


 +++


 宿泊所裏手の森を抜け草原に出ると湖が見えてきた。

 心地のいい夜風が水面を揺らし、月明かりを反射してキラキラと輝いた。

 右手に行けばルーシーの泊っている宿、ホーリーウッドがある。



「ここんとこ大変だったから、あいつはもう寝ちまってんだろうな」


 見習用の半袖短パンで大の字で眠る、全く色気のないルーシーの姿を想像した。

 

「フッ……合宿も、もうすぐ終わりか」


 誰に話すわけでもなく、口をついて出てしまった独り言。それに返事をしてくれているかのように、サヤサヤと風が吹き抜け、湖の畔に咲いた赤い花たちが静かに揺れた。

 



「離れろ! ルーシー!」



 ルーシー!?



 遥か遠くの前方から聞こえたハントの声に、反射的に俺は走り出した。


 何が起きた!?


 月明かりの下。ハントと、ルーシーともう一人、髪の長い女の子の影が見え、ハントの怒声とルーシーの声が聞こえた。


 遠目だが、ハントがルーシーを転ばせ、その女の子から引き離そうとしているのが見てとれた。

 あの女の子が、ルーシーに何かしたのか!?

 長い緑色の綺麗な髪に、ゆったりとした白いブラウス、濃い青のキュロットのようなズボンを穿いた小さな子だ。




 何が起こってる!?




「違う!」


 女の子が泣き叫んだ。


「だったらこいつに、正体を見せてやったらどうなんだ、本当の姿を」

「うっ……ううグシュ……うわぁぁぁ………やめてよ……ハント」


 ハントの知り合い!? 


「見せられるわけねぇーか、見せたら終わりだもんな。そうだよな、()()!」



 ”王子”って……

 


 俺が駆け付けた時には、明らかに戦意のない”王子”と呼ばれる少女を執拗に追い詰めるハントに、ルーシーが怒り、ハントに掴みかかった直後だった。



()()()()()()()()()()()!」


()()()()()()()()!」


 ハントがルーシーに幻術をかけた。

 青い瞳が黒く染まり、ふらりとルーシーはその場に倒れた。


()()()()!」


 王子と呼ばれる、その少女の叫び声が響いた。




()()()! ()()()()()()()()()()()()()()!」


 俺はすぐにルーシーを抱き起こすと、光を失った半開きの青い瞳で虚空を見つめたまま固まっていた。


「ルーシー、ルーシー! ハント、お前、何をやったか分かってんのか!?」


「仕方なかった。命令を聞かなかったから。サミュエルさん、あいつは妖精王の第一王子。さっさとルーシーを連れて、宿に戻って下さい」


 俺たちに背を向け、少女を睨みつけた。


 妖精王の第一王子!? あの女の子が!? 嘘だろ!?



「は……ハント、だからって、ルーシーに幻術をかけるなんて!」


「大丈夫、2・3時間で覚めるから。勇者って言ったって、ただの見習……


 ビシュッ!


 突如地面から飛び出した荊棘(いばら)(つる)がハントの身体に一瞬で巻き付き、ギリギリと絞め上げた。



「ゔゔ……クソっ! ……放せ…レグルス!」


()()()()()()()()()……」


 草原一帯からウネウネと這い出した何百本もの太い荊棘(いばら)の蔓が、月の光を遮るほどの高さまで一気に伸び、俺たちを取り囲んだ。その中央に、長いエメラルドグリーンの髪を逆立て、怒りの形相で俺たちを見つめる、白いブラウスに青のハーツパンツ姿の大柄の美しい青年が立っていた。


 これが、妖精王の第一王子の本当の姿!?

 あれ? こいつどこかで……


「サミュエル……さん……はや……く、逃げて!……」

 荊棘(いばら)の蔓で身体を拘束されたハントが、表情を歪めながら叫んだ。


「ぁ……ぁあ……って、どこに!?」


 もはや俺たちは何百本もの太い荊棘(いばら)の蔓の檻に閉じ込められた状態だった。



 パシッィッ!



 突如伸びてきた荊棘(いばら)の蔓がルーシーを引き剥がすように絡みつき、俺を弾き飛ばした。ルーシーに傷をつけないようにするためか棘は無く、そんなに痛くもなかった。


 だが、無理だ! 


 こんな化け物相手にルーシーを連れて逃げられるわけがない。

 今夜の俺は、丸腰サンダルのか弱い片羽の天使だぞ!



 イムは、なにやってる!?



「ゔああああああああっ」


 ハントが血だらけになりながらアーミーナイフを振り回し、絡みつく荊棘(いばら)を切り、脱出しようと足掻いている。

 

 

 その横をスッと妖精王の第一王子がルーシーに痛まし気な表情で駆け寄り、彼女を愛し気に見つめ大切そうにそっと抱きしめた。


 俺は身体が強張り動くことができず、その光景を黙って見ていることしかできなかった。



 ”()()()()()()()()()()()!”


 必死に叫ぶルーシーを、どうしてハントは信じてやれなかったんだろう。

 きっとこの王子は、ルーシーの友達で、それ以上の事は望んでなかったのかもしれない。

 それを証拠に俺たちを取り囲む荊棘(いばら)も、ジッとしている俺に対しては、一切攻撃してこない。

 


 こいつは、本当は、悪い奴じゃないのかもしれない。



「レグルス! やめろ!」


 ハントの怒声に、王子は金色の瞳を涙で輝かせ怒りの形相で睨み返した。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 その声に聞き覚えがあった。

 まさか……やっぱり、あいつなのか!?



 荊棘(いばら)の中から蔓でできた大きな熊が唸り声をあげて飛び出し、王子はルーシーを抱き上げると、その熊の背に乗って樹海の森へ消えて行った。


 冷静になって考えてみたが、信じられない。

 あいつがそんなわけ……

 なぜ、こんなことに。


 心に沸き上がる疑惑を確かめるべく俺は気持ちを奮い立たせた。



「ハント! ルーシーを追うぞ! こんな時に、()()()()()()()()()()()!」


「クソっ、クソ! クソーーーーーっ!」


 荊棘(いばら)の蔓から解放されたハントは、悔し気地面にナイフを何度も突き刺し叫び声をあげている。俺はとにかく樹海へ走った。


 俺のすぐ後ろから、ついてくるハントの気配を感じながら樹海の入り口まで来ると、イムの姿が見えない。辺りを探すと、イムは気持ちよさそうに巨木の根元にぽっかり空いた”うろ”で小さくなって眠っていた。その周りには、さっきハントが捕まえた虫が数匹羽をパタつかせていた。


「なにやってんだ!?」(サミュエル)

 

 ”うろ”に入ったハントが表情を変えた。


「サミュエルさん、ここの空気吸わない方がいいです」


「え?」


「多分、眠り……粉か、なんか……」


 パチン!


 目が虚ろになったハントに、一発、平手打ちした。


「あ、危なかった! ありがとうございます」

「息止めろ、イムをこっから引っ張り出すぞ」


 +++


 ”うろ”から引っ張り出したイムを叩き起こし、状況を説明すると。


「は、何だって!? 兄貴レグルスが!? ルーシーを!?……ゔあああああああああっ! 俺のせいだ!!! 俺と婚約なんてしたばかりに……兄貴に……あいつ!!! ……ゔゔあああああ!!!!! ぶっ殺してやる!!!」


 鬼神のごとく怒りまくり、すぐにでも樹海へ駆け出そうとするイムを引き留め、”魔力(マジカル)レター緊急用(エクスプレス)”をスチュワート様に飛ばした。

 


「冷静になれ。まずは、ルーシーの確保だ」


 

 俺たちはルーシー救出のため、闇夜の樹海へ足を踏み入れた。


お付き合いいただきありがとうございますm(__)m

ブクマ★感謝感激です(^_-)/☆彡

次回、木曜日更新予定。


ブクマ★いただけましたら励みになります!応援よろしくお願いしますm(__)m


※訂正しました。134→132話でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ