132話 電撃ハグ!
【樹海→ホテルホーリーウッド・レグルス(男の子)視点】
※128話後。
樹海の泉に浮かぶ小島に建つ白い石でできた円柱型のフォリー(庭園などの装飾用の東屋のような建物)の床でボクは寝転がり悩んでいた。何本もの円柱に囲まれた優雅でロマンチックなフォリーには蔓バラが絡まり小さくかわいいピンク色の花を咲かせている。
ルーシーに「別れ」を直接伝えることを諦め、ボクはサミュエルさんに言われた通り手紙で伝える決心をした。
でも手紙なんて、今まで書いたことなかった……。
どこからか小人たちが見つけてきてくれたレターセットやペンやインク瓶をフォリーの床に広げ、何を書こうかボクは悩んだ。それに文字を書くのはものすごく久しぶりだったから、何度も失敗し書き直した。
失敗しグシャグシャニ丸めた紙を放り投げると、小人たちが楽しそうにそれを拾って綺麗に広げて持って帰ってくる。可愛らしくて笑ってしまいなかなか手紙を書くことができない。ルーシーもこの光景を見たら、きっと喜ぶだろうな。
一番ちゃんと書けた手紙を自分で読み返してみた。
”親愛なる王国の勇者ルーシーへ
素敵なヘアピンと手紙ありがとう。
短い間だったけどルーシーと過ごすことができてボクは幸せでした。
実は、家の事情で旅に出ることになりました。
面と向かって伝えることができなくて、ごめんなさい。
ボクのことは心配しないでください。
勇者ルーシーの活躍をボクは遠くからずっと見守っているからね。
元気でね。
さようなら、ルーシー
Regulusより”
嘘っぽい他人行儀な言葉を並べただけの、素っ気ない遺書みたいな手紙だと思った。
これで、ルーシーは納得してくれるのだろうか?
それでも、わかってもらわなければ。
女の子のレグルスは、もう君の前に現れないと……。
妖精王の第一王子として君に再び会うためにボクは、女の子のレグルスとしての人生を終わりにする!
+++
※合宿終了まであと6日。
月が輝く夜空に、いつもより多めに小人たちに集めてもらった虫を盛大に放った。
温かい風に乗って虫たちは美しい光粉をまき散らしながら一斉に飛び立っていった。
しばらくすると、町の喧騒が徐々にゆるやかに消えていき、アクアラグーン中が静かに眠りに就いた。
樹海の東の入り口では、木の上で落っこちそうになりながら弟アークトゥルスが眠っていた。
「この前は、ごめんね」と謝り。迷彩服姿の弟を木から降ろし、巨木の根元に開いたうろに寝かせ眠り虫を放した。
今夜ボクはきっと泣いてしまうから、念入りに眠ってもらわないと……。
もう既に泣きそうになりながらボクは女の子の姿になり、ルーシーの部屋を目指し駆け出した。
満月で明るく照らされた赤いアキレアが揺れる草原を横切り、そして、窓に射しこむ月光を浴びて輝く”勇者の剣”が立てかけられた窓辺へ辿り着いた。
キィ…
鍵はかかっておらず窓を開け、斜めに立てかけられた”勇者の剣”の鞘を持ち窓辺の脇によせ、そっと床に降り立った。
ルーシーはいつもの半そで短パン姿で、今日は仰向けで大の字で眠っていて、被ったであろうタオルケットがお腹のところでクシャクシャになって丸まっていた。
相変わらずだなぁと、タオルケットを広げルーシーに掛け足元に畳まれていた毛布も広げかぶせた。
寝顔を見つめ、ルーシーの好きな花”ヤグルマギク”をそっと枕元に飾った。
花に囲まれたルーシーのあまりの可愛らしさに、
「かっ……」
かわいいーーーーーーーっ! 叫びたくなる衝動を抑えた。
「(小声)ダメだ、行かないと」
胸の奥がギュッと苦しくなった。
ルーシーの手にキスをして離れ、書き物机の上に手紙を置いたそのときだった。
バチッ、バチ、バチッ、バリバリバリバリバリバリバリ!!!!!
「えっ!?うわあぁぁぁぁぁっ!!!」(レグルス)
稲妻のような音に驚き身を屈めた。
振り向くとルーシーのベッドから青白い火花が飛び散っている!?
雷!?
ルーシー!?
「ゔっ…ぐわあああああああああああああっ!!! レグルス!!!」(ルーシー)
一瞬だった。
絶叫し、”勇者の剣”を握りしめ飛び起きたルーシーが、剣を投げ捨てベッドからダイブしてボクに抱きついた。
「レグルス……やっと会えた」
安堵し息を吐きながら発する優しい声が耳元で響いた。
気がつくとボクは、ルーシーの胸に顔を埋め、温かい柔らかな腕でギュッと抱きしめられていた。
「ルーシー……」
「レグルス、無事でよかった」
抱きしめながらルーシーはボクの頭を撫でると、信じられないことを言った。
「もう放さない!」
「え!?」
「レグルスちゃん、私は何があってもレグルスの味方で、友達で、そしてずーっと一緒だよ!」
喉の奥から熱いものがこみ上げ、鼓動が早くなるのが分かった。
そして同じようにルーシーの胸もドキドキしていることに気が付いて、慌てて胸から顔を離した。見上げたルーシーの瞳は涙で濡れていて、赤い髪がさっきのバリバリ(電撃)でボサボサになっていた。
「……ルー…シー…」
ルーシーの言葉に全身をめぐる血液が熱く沸き立ち、ボクの心は無上の喜びで満たされていた。
でも、それを声に出したらお別れできなくなる。
ボクは妖精王の第一王子として、君を迎えに行かなければならないのに!
ダメだ。ここにいたら……ダメだ。
行かないと!
「……ルーシー」
輝く深い青い瞳を見上げた。
「なあに、レグルス」
ルーシーが微笑み優しく聞き返す。
その声も笑顔もなにもかも全部がボクの胸を締め付けた。
頬に伝う涙も、髪から溢れる花も、涸れるまでここに居られたらいいのに。
……偽りだらけのこのボクが、ここにこうしてルーシーと一緒に居ていいわけがない。
「ルーシーごめん! ありがとう、さようなら!」
ルーシーの手を払い、窓から飛び出した。
「レグルス!!!」
ボクを呼ぶルーシーの悲鳴のような声が響き渡る。
「ごめんルーシー、ごめん……うっ……ううっ……うわぁぁ…」
涙で視界が歪む中、赤い花畑を走った。
月はもうやめてと叫びたくなるほど明るく輝き、ルーシーの髪の色に似た花が彼女との思い出を生々しく蘇らせた。
「……うううっ……ズッ…うっ……うわぁぁぁ………ヒック……ううっ……うわぁぁ…」
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次回、木曜日更新予定。
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